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あの時の竜人の気配

 蒼竜様と私は、分厚い雲の下、脇道(わきみち)ですらない森の細道を歩いていた。

 目的地は、雫様の生まれ故郷の竜の里だ。


 森を抜ける風は冷たく、若干、雪も積もっている。そして、雪の下には落ち葉が隠れているものだから、()(かく)、足場が悪い。

 気を抜くと、足元が(すべ)ったり、ズボッと雪に()もれる事もある。



 (しばら)く歩いていると、ついに、空から雪が降り始めた。

 時折(ときおり)、遠くから雷の音まで聞こえてくる。

 蒼竜様が、


「ついに、降り始めたか。」


(つぶや)いた。

 私が、


「そうですね。」


と返すと、蒼竜様は、


「今日は、春高山近くの温泉まで進まねばならぬ。

 まだ、距離があるというのに、どうしたものか。」


とこれからの日程を教えてくれた。

 春高山近くの温泉は、雫様と初めて会った場所だ。

 私はその時の事の様子を思い出しながら、


「夕飯とかは、どのようにするのですか?」


と確認した。すると、蒼竜様は、


「気が早いな。」


と少し笑いながら、


勿論(もちろん)、そこで食べるつもりだ。」


と答えた。だが、これからそこまで移動して準備となると、どう考えても食べるのは日が暮れた後となる。

 それに、蒼竜様の振り分け荷物には、二人が満足するだけの食材が入っているとは思えない。


──ちゃんと、段取りを考えているのだろうか?


 私は少し心配になってきたが、蒼竜様の事だから大丈夫だろうと思い直し、


「分かりました。

 では、急いで温泉に(まい)りましょうか。

 夕食を作る時間もありますし。」


と言った。だが、蒼竜様は、


「言葉足らずであったな。

 先に、雫に行ってもらっておる。

 料理も作ってくれるとの事ゆえ、心配せずとも良いぞ。」


と笑顔で話した。


──雫様が作るのか。


 私は不安になって、


「・・・大丈夫ですか?」


と顔色を(うかが)うように聞くと、蒼竜様は、


「何か、懸念でもあるか?」


と眉を(ひそ)めた。

 蒼竜様からしてみれば、自分の妻は料理が出来ないと言われたも同然だ。

 不快(ふかい)になっても仕方がないだろう。

 そう考えはしたが、私は、


「はい。」


と素直に伝え、


「雫様が色々と料理の知識を持っているのは、知っています。

 ですが、春高山で鍋に穴を開けていましたので・・・。」


と理由を説明した。すると蒼竜様は、


「そのような事もあったな。」


と苦笑いし、


「だが、人は成長するのだ。

 今は、問題ないゆえ、安心して良いぞ。」


と説明した。私は、


「なるほど、成長ですか。

 出過ぎた事を言って、申し訳ありませんでした。」


と納得した旨を伝えた。



 また暫く森の中を歩いていると、蒼竜様が、


「この先、誰かいるな。」


(つぶや)いた。

 だが、私には気配が感じられなかったので、


「まだ、遠くなのですか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「いや、割と近くだ。

 ただ、拙者(せっしゃ)も先程まで判らなかったぐらいだ。

 山上が気づけずとも、仕方はあるまい。」


と答え、


「無駄とは思うが、少し回避するか。」


と言って、少しだけ、進む向きを変えた。

 私が、


「これから、戦う事になるのでしょうか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「どうであろうな。

 まだ、判らぬ。」


と答えた。

 私が、


「まだ、敵か味方かも判らないのですね。」


と確認すると、蒼竜様も、


「うむ。」


(うなづ)いた。



 蒼竜様が、


「つけてきておるな。」


と一言。私には判らなかったので、


「そうなのですか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「うむ。」


と頷いた。私は、


「蒼竜様は、気配の(あるじ)が誰だか、ご存じありませんか?」


と聞いたのだが、蒼竜様は、


「知っておれば、ここまで困惑(こんわく)はせぬ。」


と苦笑いされた。確かに、その通りだ。

 私は、


「それもそうですね。」


と返したのだった。



 私にも、気配が感じられるようになる。

 何となく、(おぼ)えのある気配のような気がした。


 私が、


「ようやく、私にも気配が感じられました。

 これは、判らないですね。」


と言うと、蒼竜様も、


「うむ。」


と同意した。私が、


「ただ、この気配なのですが、最近、何処(どこ)かで似たようなものを感じた気がするのです。」


と付け加えると、蒼竜様は、身を乗り出すようにすて、


「最近とは、何時頃(いつごろ)だ?」


と聞いてきた。私は少し考え、そうだと思い出し、


「今朝です。

 白石様の地下牢の所で、火山(かやま)様と3人で歩いてきた内の一人だったと思います。」


と伝えた。蒼竜様が、


「まさか!」


と明らかに動揺(どうよう)している模様。

 だが、さすがは蒼竜様。

 ひと呼吸した後、先程までの声に戻り、


「漏らさぬよう、徹底して情報を隠蔽(いんぺい)していたのだ。

 そのような事、あろう筈がない。」


と断じた。だが、現実問題、そこに気配があるのだ。

 私は蒼竜様に、


「ですが、確かにこれは、あの時の竜人の気配だと思うのです。」


と主張した。蒼竜様が、


「・・・相分(あいわ)かった。

 その可能性も、考慮するとしよう。」


と言って、立ち止まった。念話を始めたようだ。

 蒼竜様はすぐに目を開けると、


「少し、寄り道をするぞ。」


と私に伝え、又、進路を変えて歩き始めた。

 私は蒼竜様の後を追いながら、


「どちらに行くのですか?」


と確認した所、蒼竜様から、


「うむ。

 これから我々は、雪熊の調査を(よそお)う事となった。

 山上は、(ばつ)の一種として同行させている事とするゆえ、そのつもりでな。」


と説明した。私は、


「分かりました。

 それで、雪熊が出ましたら、狩るという事でよいでしょうか?」


と確認した所、蒼竜様は、


「うむ。」


(うなづ)き、


(ぬし)でなければな。」


と付け加えたのだった。

 前科(ぜんか)があるだけに、私は耳が(いた)いと思った。



 暫く歩き、私でも雪熊の気配を感じる距離(きょり)まで近づく。

 例の気配は、私達に付かず離れずだ。


──監視(かんし)されている?


 そう思ったのだが、蒼竜様も当然気がついている筈。

 私は、余計な事を言わなくてもいいだろうと思い、小声で蒼竜様に、


「近いですね。

 どのように戦いますか?」


と確認した。蒼竜様は、


「確か、先日、新しい魔法を身に着けたそうだな。

 少し見てみたいが、良いか?」


と暗にその魔法で対処するよう指示を出す。私は、


「分かりました。」


と了承すると、蒼竜様は、


「うむ。」


(うなづ)いた。

 赤魔法(火魔法)緑魔法(風魔法)、雷魔法を、重さ魔法で(まと)めながら集めていく。

 ここでも赤魔法(火魔法)の集まりは悪いが、たまに雷の音が聞こえるだけあって、雷魔法はかなり沢山、集まってきた。


──温泉に近づけば、もっと赤魔法(火魔法)も集まるのだろうか?


 私はそんな事を考えならが、蒼竜様の後ろを歩いた。



 雪熊の気配が、より強く感じられるようになる。

 一塊(ひとかたまり)だった気配が、細かい所まで判るようになり、実は3つだった事に気がつく

 私が、


「3頭ですか。」


と確認すると、蒼竜様も、


「うむ。」


と一度肯定(こうてい)。だが、


「それと、巣穴の中にも何頭かいるようであるな。」


と付け加えた。気配の近くに、洞穴(どうくつ)か何かがあるのかも知れない。

 念の為、私は、


「巣穴ですか?」


と確認すると、蒼竜様は、


「うむ。」


と頷き、


「山上は、気づいておらなんだか。」


と気まずそうに笑った。そして、


遮蔽物(しゃへいぶつ)があれば、判りにくいのも事実。

 だが、徐々に()れた方がよいぞ。」


と言ったのだった。



 雪熊が視認(しにん)できる場所まで、移動する。

 突如、蒼竜様が私の背中を叩き、


「行ってこい!」


と言って突き飛ばした。普段の蒼竜様であれば、このような事はしない。

 私は訳が解らず、


「何をするのですか!」


と文句を言ったのだが、蒼竜様は、


「後ろから来ておるぞ!」


と相手にするつもりはない様子。

 私は雪熊に向き返り、


「分かりました!」


と返事をしたものの、少し胸糞が悪かった。

 3頭が、我先にとこちらに向かってやって来る。


 近づいてくる雪熊に、魔法を撃ち込む。

 前に使った時よりも早い速度で、魔法が飛んでいく。

 先頭の雪熊に着弾したのと同時に、私は2発目の魔法を集め始めた。

 命中した雪熊を中心に、周りに大きな稲妻が飛び交った。そして、その稲妻が残りの雪熊にまで飛んでいく。瞬間だけ遅れて、バリバリッと凄い音が響いた。申し訳程度に、水が蒸発するようなジュワッという音もする。

 3頭仲良く、雪の上に崩れ落ちた。

 私は振り返り、


(とど)めも()した方が良いですか?」


と聞くと、蒼竜様は思いの外、青い顔をして、


「うむ。」


と頷いた。私が、


「巣穴は、如何(いかが)致しましょうか?」


と確認すると、蒼竜様は、


「暫くは驚いて出てこぬであろうからな。

 まぁ、そのままでよい。」


と答えた。

 私は、


「分かりました。」


と返事をして、3頭の雪熊に止めを刺したのだった。


 作中の(少々強引に話に出てくる)脇道(わきみち)は、街道ではないものの、各藩等が整備した主要な道となります。

 江戸時代、小さな脇道も含めると1.2万Kmとも、1.5万Kmとも言われるほどの道路網があったのだそうで、経済や文化に影響を与えたのだとか。


脇往還(わきおうかん)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%84%87%E5%BE%80%E9%82%84&oldid=89908145

街道(かいどう)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%A1%97%E9%81%93&oldid=88908229

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