地下牢から
赤竜帝との話が終わった後、私は槍を持った竜人に連れられ、地下へと連れて行かれた。
地下牢の手前の詰め所から、見知らぬ竜人が出てくる。
その竜人が、槍の竜人と何やら話していると、牢の内側からもう一人、今度は見知った竜人が出てきた。
近づいてきたのは、金石様だ。
私は、
「お久しぶりです。」
と挨拶をすると、金石様から、
「久しぶりも何もあるか。
また、このような所に来て。」
と叱るような口調で返事をした。
私は、
「申し訳ありません。」
と謝った。横では、手前の詰め所の竜人が鍵と閂を外し、扉を開けている。
槍の竜人からも、
「申し訳ありませんではない。
そもそも、竜の巫女様の側の人間が、このような所に捕えられるなど、巫女様の面目が立つまい。
今度は、一体何を仕出かしたと言うのだ。」
と怒られてしまった。私は、
「申し訳ありません。
ですが、私もまだ、仔細は知らされておりません。
どうしてもお聞きになりたいようでしたら、お手数ですが不知火様にでもお聞き下さい。」
とお茶を濁した。槍の竜人が、
「不知火様だと?」
と文句を言う。だが、ここで金石様から、
「仲本。
取り調べ以外で、無闇に聞くものではない。」
と一言。この槍の竜人は、仲本様と言うらしい。
仲本様は、
「それはそうなのだが!」
とまだ怒っているようだが、ひと呼吸して、
「決まりであったな。
すまぬ。」
とまだ物を言いたげではあったが、落ち着いてくれたようだった。
金石様が、
「うむ。」
と軽く頷いた。
金石様が、
「では、山上。
こちらに入って来るがよい。」
と言って、牢の中に入るように促す。
私は言われ通り牢の中に入り、身柄が金石様に引き継がれた。
仲本様は、
「では、拙者はこれにて。」
と言うと、この場を立ち去った。
私の頭を、一つの疑問が過る。
地下牢まで来たが、ここからどうやって、竜の里の外まで行くのだろうか?
そんな事を考えていると、金石様から、
「着いて来るが良い。」
と言って、私を牢内の詰め所まで連れて行った。
そして、詰め所の奥にある扉の前まで連れて行かれた。
私が、
「この扉の奥に、外に出られる何かがあるのでしょうか?」
と聞くと、金石様は、
「うむ。
この奥は、仕掛部屋と呼んばれておってな。
この地下牢の、様々な所が動かせるようになっておるのだ。
今日は、その仕掛けの一つを使い、外に出る事となる。」
と説明し、扉を開けた。
仕掛部屋に入ると、ガラガラと大きな音が鳴っている。
見ると、何やら紐がぶら下がっていたり、大八車の車のようなものが沢山くっついて回っていたりした。
私がその様子を、繁々と見ていると、金石様から、
「からくりには、触るでないぞ。」
と一言、注意された。私は、
「からくりと言いますと?」
と聞くと、金石様は、
「ん?
あぁ、山上は知らなかんだか。」
と前置きをし、指を差しながら、
「ここに見える歯車や錘、振り子等を組み合わせて出来た仕掛けがそうだ。」
と説明してくれた。
私は、よく分からなかったが、
「何やら、凄いという事だけは、分かりました。」
と感想を言うと、金石様は、
「まぁ、中身を見てもちんぷんかんぷんなのは、拙者にもよく判る。」
と苦笑いした。私も仲間だったかと思い、
「はい。
さっぱりです。」
と同意した。
金石様が、
「それはさて置き、先ずはこの板の上に立つがよい。
これから、その床をせり上がらせるからな。」
と言った。せり上がると言われてもピンとこなかったが、一先ず言われた通り、板の上に移動する。
金石様もその板の上に乗ると、近くに垂れ下がっていた紐を引っ張った。そして、
「動くぞ。」
と言うと、ガタガタという大きな音と共に、見えている部屋の様子が、下に下にと下がり始めた。
私はの口から思わず、
「おぉ?」
と声が漏れてしまう。
すると金石様は、
「始めは皆、声が出るものだ。」
と楽しそうに笑った。
天井に近づくと、その板が止まる。
金石様は、
「止まったか。」
と言うと、天井の戸板を外し、
「ここから上に登るぞ。
山上も、ついて参れ。」
と言って、そこから上によじ登った。私も、それに続く。
真っ暗な空間。
地下室の上ならば、ここは床下か?
頭をぶつけないように、立ち上がらず、床に這いつくばって様子を窺う事にする。
スキルを使い、温度で見ると微かに周りの様子が見えてくる。
私の予想に反し、ここの天井までは、6尺くらいの高さがあるようだった。
これならば、私も余裕で立つことが出来そうだ。
一方、金石様は背が高い。そのまま立つと頭が当たるらしく、少し中腰になっていた。
私は普通に立ち上がると、
「ここは?」
と質問をした。金石様が小声だが厳し目の声色で、
「上に声が響く!
ここからは静かにするように。」
と注意を促した。そして、
「ここは、竜帝城の床下である。」
と説明した。私は予想が当たっていたので、
「やはり、床下でしたか。
ですが、天井まで、やけに高いですね。」
と聞くと、金石様は、
「確か、城が腐らぬようにだったか。」
と自信はなさげだが、答えてくれた。
一拍置き、金石様が、
「それは良い。
これからの行動を、手短に伝えるぞ。」
と話し始めた。私が、
「はい。」
と返事をすると、金石様は、
「うむ。
では、まずこれから、茶室に移動をする。」
と行った。私が、
「茶室ですか?」
と聞き返すと、金石様は、
「うむ。
その茶室には隠し通路があるのだ。
そこを行くと、抜け穴があってな。」
と答えた。私が、
「抜け穴ですか。」
と合いの手を入れると、金石様は、
「そうだ。
その抜け穴を通れば、竜の里の外まで出られるように出来ておる。
拙者は、その抜け穴の入り口までは案内致すが、なに。
そこは一本道ゆえ、迷うこともあるまい。」
と言った。私は、
「一人で行くのですか?
私は、向こうの竜の里の場所は知らないのですが、どうやって行けばよいのでしょうか。」
と軽く途方に暮れると、金石様は、
「抜け穴の出口では、別の者が待つ事になっておる。
その者が、向こうの竜の里まで案内してくれる手筈である。」
と教えてくれた。
監視役がいないのに、里の外に出てもよいのだろうか?
そう思った私は小声で、
「外に出て、大丈夫なのでしょうか?」
と確認した所、金石様は、
「茶室か?
今は使っておらぬから、安心せよ。」
と私の意図とは違う回答が返ってきた。私が、
「いえ、佳央様とかがいないのに、里の外に出てしまっても良いものかと思いまして。」
と質問の意図を伝えると、金石様から、
「その心配か。
そもそもこれは、赤竜帝の指示なのだ。
そのような事、気にせずとも良かろうが。」
と言われてしまった。確かに、その通りだ。
私は、
「それも、そうですね。」
と苦笑いで返したのだった。
複雑に入り組んだ通路を進む。
金石様は、天井に出っ張りのある所を見つけると、小声で、
「ここだな。」
と言った。私も小声で、
「茶室の下に着いたという事でしょうか。
ですが、どうやって上に?」
と確認すると、金石様は、
「まぁ、見ているが良い。」
と言って、先ずは、近くにあった紐を引いた。
すると、小さいがガラガラと仕掛部屋で聞いたような音が聞こえた。
だが、床がせり上がるような事はない。
私は心配になって、
「何も起きませんが。」
と確認したのだが、金石様は、
「いや、これで良い。
掛け軸の裏の仕掛けを動かしたのだ。」
と説明してくれた。私は、
「また、床がせり上がったりはしないのですね。」
と言うと、金石様は、
「あのような大掛かりな仕掛け、そうそう仕込めるわけがなかろうが。」
と少し呆れたようだった。
金石様が出っ張りの下に移動し、
「よし。」
と気合を入れる。
そして、両手を上げたかと思うと、その天井の出っ張りを上に押し込み始めた。
私が、
「何をしているのですか?」
と聞くと、金石様は、
「今は、話しかけるな。
地味に重いのだ。」
と言った。そのまま、その出っ張りが天井の上まで持ち上げられていく。
更に持ち上げ、金石様が完全に立ち上がった所で、上から光が射し込み始めた。
金石様は、その箱を横にずらして上に置くと、
「ここから登るぞ。」
と指示を出した。上の端に手を掛け、金石様がそのまま茶室によじ登る。
続いて、私もよじ登った。
緑の土壁の、小さな4畳半ほどの部屋。
壁の一方に大きな丸い穴があり、そこには飾りなのだろうか。斜めに出た竹の柱が数本と、障子が張られていた。障子から、柔らかな光が入ってきている。
床の間もあるのだが、ここだけは木板の壁になっており、そこには大きめの掛け軸が掛けられていた。
躙口も、ちゃんとある。
城内の筈なのに、躙口。
いったい、どういった構造になっているのだろうか?
足元を見てみる。
すると、先程金石様が持ち上げた出っ張りが、小さな囲炉裏のような物が入った箱だと判った。
私は小声で、
「なるほど、これは重そうですね。」
と言うと、金石様も、
「うむ。」
と頷いた。そして、その箱を元の位置に戻しながら、
「そこの床の間に、掛け軸が掛かっているであろう?
その裏に、隠し通路がある。」
と教えてくれた。
金石様が掛け軸の前に移動し、その掛け軸をめくると、木板が一部、外れていた。
恐らく、先程動かした仕掛けが動いて外れたのだろう。
金石様が、
「抜け穴には、ここの通路から行けるのだ。」
と説明した。
私が、
「凄い仕掛けですね。
ですが、外からも入ってきたりしないのですか?」
と感心しつつも疑問を口にすると、金石様は、
「そこは、対策もされておる。」
と苦笑いし、
「行くぞ、山上。」
と言って掛け軸の裏の通路に入った。
私も、
「はい。」
と返事をし、掛け軸の裏の通路に入る。
金石様が、近くにぶら下がっていた紐を引っ張ると、下から板がせり上がってきた。
あっという間に、さっきまであった入り口が塞がり、暗闇になる。
私は驚きながら、
「はやり、凄い仕掛けですね。」
と言いながらスキルで温度を見始めると、金石様も、
「うむ。
だが、失伝している仕掛けもあると聞いておる。
拙者は、これが悪用されぬか心配でな。」
と思わぬ事を言い出した。私は驚いて、
「そうなのですか?」
と聞き返すと、金石様は、
「うむ。
古い文献から、たまに知られておらぬ仕掛けを動かしたと思われる話が出てくるのだ。
本来であれば、全て調べ上げるか、建て替えるべきなのだが、拙者の一存ではな。」
と苦笑いながら答えながら、奥へと歩き始めた。
私は、黒竜帝であればその全貌を知っているのではないかなどと考えながら、金石様についていったのだった。
作中、からくりが出てきますが、ゼンマイや歯車などを使って決まった動きをさせる仕掛けの事を言います。西洋から伝わってきた時計が、ベースとなっているのだそうです。
江戸時代の有名なからくりとしては、『茶運び人形』や『弓曳き童子』が有名ですが、その他にもカラクリで動く人形を祭りの山車に乗せたりもしたそうです。
おっさんは実物を見たことはありませんが、動画とかで見ると江戸時代の電子部品がない頃によくこれだけの動きをサせたものだと感心します。(^^)
後、地下牢は、「魔法の修練をしたら」の後書きに見取り図があります。
「内詰め所」の奥の扉も、ちゃんとそこに載っていたりします。(^^;)
・からくり
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%8F%E3%82%8A&oldid=88787141




