一晩明けて
引き続き不快な表現がありますので、苦手な人はご免なさい。m(__)m
暗闇の中、空きっ腹のせいで、私は目を覚ました。
私は昨日の昼から、何も飲み食い出来ていない。体もだるい。
何でもいいから、胃に納めたい。
だが、食べるものは何もない。
なにせここは、地下牢だ。
誰か来ないかと、階段の方に意識を遣る。
たが、上から誰か来るような気配はない。
──今頃お屋敷では、朝餉の支度が行われているのだろうか。
そんな事を考えていると、お腹が鳴った。
早く取り調べを行って、お屋敷に返して欲しい。
そう思うと同時に、斬られた首だけが帰る事になるのはないかという、不安も込み上げてくる。
これから、私はどうなってしまうのだろうか。
少しだけ、夢の中での出来事を思い出す。
確か、妖狐から魔法を使って牢を壊すように言われた筈だ。
──そもそも、ここで魔法は使えるのか?
一先ず、魔法を使ってみることにする。
両手を前に出し、試しに重さ魔法で緑魔法を集めてみた。
普通に、魔法が集まって来る。
──この牢、見掛け倒しなのではないか?
そう思ったのだが、昔、次兄からだったか、脱獄すると罪が重くなると聞いたのを思い出した。
先程から、喉が渇いているのだが、水がない。
唾を出そう舌を軽く噛んでみるが、ほとんど出てこない。
魔法で水が出せないかと、重さ魔法で集めてみる。
相変わらず、上手くいかない。
普通の竜人であれば、水くらいは出せるのだろうが、私には辛い。
ふと、例の壺が目に着く。
あの中には、昨日、出したものが入っている。
一瞬よからぬ事を考えたが、人としてやっていはいけないと踏み留まる。
暫くすると、上から3人の竜人が降りてくる気配がした。
私は腹に力を入れ、大きな声で、
「申し訳ありません!
食べ物はありませんか!
何でも良いのです!
お願いします!」
と訴えかけてみた。その竜人達が、こちらにやってくる。
私はスキルを使い、魔法や温度で竜人を確認したのだが、三人共知らない竜人だった。
前方に一人、後方に二人並んで歩いている。
その竜人達が私の牢に差し掛かる。
私はもう一度、
「水と食べ物はありませんか!
昨日の昼から、何も食べておりません!
お願いします!」
と声を掛けた。すると、後方を歩く竜人の一人が立ち止まり、私の顔を見るや、
「・・・踊りの・・・か?」
と半信半疑のようだが聞いてきた。
──しめた!
私には聞き覚えのない声だが、向こうの方は、どうやら私の事を知っているらしい。
そう考えた私は、
「はいっ!
すみませんが、お願いします!」
と答えると、その竜人は、
「ここに捕えられてるって事は、白石家の者の誰かに、何か無礼を働いたという事じゃないのか。
今度は、何を仕出かしたんだ。」
と少し呆れ気味に、少し笑いが入りながら聞いてきた。
向こうにとっては笑い事でも、捕まっているこちらからすれば、笑い事ではない。
ムッとする。
──それにしても、どこの白石様なのだろうか?
私は不思議に思い、確認しようと考えた。
だが、その前に先頭を歩いていた竜人から、
「火山様、その者は別件です。
それよりも、奥へ参りましょう。
そちらに、例の者を捕えております。」
と動揺した声で言ってきた。
だが、その火山様という竜人は先頭の竜人に、
「まぁ、待て。
ちょっと知り合いでな。」
と話したかと思うと、私に向き返り、
「察するに、何か悪さをして私邸の牢に打ち込まれたんだろう>
しかも、飯抜きで。
一体、何を仕出かしたんだ?」
と聞いてきた。
私は、濡れ衣なので、
「いえ、白石家の者がどなたかは存じませんが、人に悪さをして捕まった訳ではありません。
不知火様の指示で、十手持ちの竜人に、こちらに連れてこられただけです。」
と弁明すると、その竜人は、
「不知火様が?」
と不思議そうに首を捻った。
私は、火山様は直接この件に触れていないので、説明が必要なのだろうと思い、
「はい。
私は一昨日、山で狩りをしたのですが、その中に山の主が含まれていたのではないかと疑われていまして。
それで事情を話す為に、こちらに連れて来られた次第です。」
と説明すると、火山様は、
「あぁ、あの件か。
が、そのような取り調べであれば、番屋か・・・。」
と言いかけた後、思い直し、
「いや、待てよ。
今回は、竜帝城に連れて行かれるのが筋か。
何れにせよ、白石家の私邸の、それも地下牢に入れられるという事は無い筈だが。」
と首を捻った。そして少し考え、
「まぁ、ここに入っているくらいだ。
白石様がご存知ない筈はないのだから、何か事情があるんだろうよ。」
と自分で結論付け、
「それにしても、昨日の昼から飲まず食わずは少々やり過ぎだな。
食べ物については話を通してやるから、少し、待っていろ。」
と笑いながら言ってくれた。私は、
「ありがとうございます。
恩に着ります。」
とお礼を言った後、気になったので、
「それで、こちらには?」
と聞くと、その竜人は、
「なに。
ここの奥にいる罪人を、引き取りに来たんだ。」
と答えた。私は、
「昨日、叫び声を上げていた人ですね。」
と言うと、先頭の竜人が私に向け、殺気を込めた視線を送ってきた。
火山様が、先頭の竜人方を見る。
先頭の竜人が、
「こちらでも、話を聞く必要がありました。
口を開いてもらう為に、少々、手荒な事も致しております。」
と説明すると、火山様は、
「そういう事もあるだろう。」
と言った。そして、
「踊りのにも、事情を聞きたい。
また後で参るから、そのつもりでな。」
と付け加えた。
先頭の竜人は、少々熱を上げながら、
「分かりました。」
と答えた。
三人の竜人が奥に去り、暫くしてまた私の前を通過する。
この時、火山様は、
「では、また後でな。」
と声を掛けてくれたので、私は、
「はい。
宜しくお願いします。」
と伝えたのだった。
暫くして、先程、先頭にいた竜人がやってきた。
私は待望のご飯が貰えるのだろうと思ったのだが、その竜人はドスの利いた声で、
「厄介な事をしてくれたな。」
と話しかけてきた。
私が、
「厄介と言いますと?」
と聞くと、その竜人は、
「知らずとも良い。」
と乱暴に言い捨て、牢の錠を外した。そして、
「出ろ。」
と一言。私はあまりにお腹が空いて、普通に動き辛かったので、ゆっくりと牢の外に出た。
竜人から苛ついた声で、
「もっと、キビキビ歩け。」
と怒られる。
私は慌てて、
「申し訳ありません。
お腹が空いているものですので・・・。」
と言い訳をすると、その竜人は、
「そのような事情など知らぬ。」
と言った。そして、また私の両手に縄を掛け、さらに目隠しまでしてきた。
私は思わず、
「どうして、目隠しを?」
と文句をつけたのだが、その竜人から、不意打ちで腹を殴られた。
私の口から、
「グフッ!」
と声が漏れる。
空腹に不意打ちなので、今までに経験したことのない痛さ。
私は思わず蹲ると、その竜人は、
「立て。」
と言って私の襟元を掴み、吊り上げるようにして無理やり立たせた。
そして、襟元を掴んだまま、もう一発。そしてまた、もう一発。腹を殴られた。
意識が、急速に遠のく。
<<早う、目を覚まさぬか!>>
誰かに、そう怒られたような気がした。
ハッとすると同時にゾクリとし、寒さと空腹が襲ってくる。
体が冷え切っている事を知覚し、ぎゅっと自分の体を抱きしめるように丸まった。
無意識に、体が小刻みに震える。
目を開けると、そこには森の景色があった。但し、辺りは一面の雪。
唇に着いた雪が解け、口に入る。
腹の足しになるかと、周りの雪を口の中に入れた。
お腹が膨れるどころか、体の震えがひどくなり、後悔する。
場所もわからず、寒さで凍えそう。
手足の指先も痒くなってきた。これは、霜焼けだ。
お腹も空いた。
──これは、凍死する一択ではないか?
不安が押し寄せてくる。
兎に角、私は上半身を起こすと、辺りを見回した。
緑の代わりに、白い雪の葉が付いた木々が立っている。
遠くを見てみる。
どの方角にも、高くそびえる山が見える。
火山様の話が真実ならば、私はついさっきまで、白石様という人の私邸の地下牢にいた筈だ。
なのに何故、私は今、このような所にいるのだろうか。さっぱり、理解が追いつかない。
解かるのは、このままここにいても、凍死するという事実だけだ。
空腹で、お腹がギュルッと鳴る。
そういえば、私は一昨日、山で冬苺を見つけた。
仮に、ここが竜の里近くの山なのであれば、同じ様に何か食べられる物が見つかるかも知れない。
そう考えた私は、冬苺か枸杞の実でもないかと、探し歩く事にした。
先ずは、寒さに対抗する必要がある。
重さ魔法で黄色魔法を集め、なるべく体中に纏わせるようにする。
ほんの少しだけ、寒さが和らぐ。
霜焼けが少しでもましになるよう、両手も少し揉みほぐしておく。
足元を確認しながら、歩き始める。
藪の上に積もった雪は、概ね3寸と言った所だろうか。
雪で隠れていたせいもあり、ズボッと雪に足が埋もれる。
思わず、
「おわっ!」
と声が出て、尻餅を付いてしまう。
私は、赤い実だけではなく足元にも注意を払いながら、前に進もうと思ったのだった。
今回は江戸ネタは仕込んでいないのですが、何も書かないのもあれなので、その他で2つほど。
作中、枸杞の実が出てきます。杏仁豆腐とかに乗っている乾燥した赤い実として食べたこともあるかも知れません。
この枸杞の実ですが、血圧を下げる、脂肪肝対策になる、視力減退にも効く等と言った具合に、色々な薬効があると言われているようです。
スーパーでよく探すと、乾燥した枸杞の実を売っていたりします。
もう一つ、作中、山上くんは水分補給の為に、雪を食べています。
ですが、雪のまま口にするのは、体温が低下するので好ましくありません。
凍傷になる可能性もありますが、手で溶かしてから飲んだほうが、まだましなのだそうです。
間違いだらけの山上くん。皆様は、真似しないようにしましょう。(^^;)
・クコ
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・サバイバル
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