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着いた先で

 屋敷から連れ出された私は、両手を後ろに縄で縛られ、人気の少ない道を選ぶかのように裏道を歩いていた。

 空は昨日と同じでどんよりと厚く、冷たい風が吹いている。

 ほんの少し、雪も混じっている。


 大通りに差し掛かる。私は、竜帝城に行くと考えていたので、当然、そっちの方に曲がると思っていた。

 だが、何故(なぜ)かその竜人は、


「そのまま、大通りを()()ぐだ。」


と指示された。

 不審に思った私は、


「行き先は、竜帝城ではないのですか?」


と聞いたのだが、私を(しば)った竜人は、


「全ての取り調べが、竜帝城で行われるわけではない。」


と説明をした。確かにその通りだ。

 だがこの竜人、少し機嫌を(そこ)ねたか、私の縄をぐいっと引張(ひっぱ)り、


「無駄口を(たた)かず、キビキビ歩け。」


(きび)しい口調(くちょう)(しか)りつけた。


 大通りを超え、何度か角を曲がると、背の低い石垣とその上に土壁が(きず)かれた、長い(へい)が続く所に出た。その塀の途中、小ぢんまりとした門が見えてくる。

 私を連れた竜人は、その門の前に移動すると一旦立ち止まった。縄を掛けられている私は、竜人の前に立たされている。


──ここで取り調べるのか?


 そんな事を考えていると、門の向こう側に何者かが近づいてきて、通用門を開いた。

 門を開いた竜人は私を見るや、


「おいっ!

 目隠しはどうした!」


と私を連れてきた竜人に文句を言った。すると、私を連れてきた竜人は、


「どうせ、気配で誰かは判る。

 場所もな。

 ならば、目隠しするだけ無駄ではないか。」


と反論、門を開いた竜人は少し考え、


「まぁ、よい。」


と納得した様子だ。

 私は、


「こんにちは。

 これから取り調べ、宜しくお願いします。」


と挨拶をした。

 門を開いた竜人は、私を軽く(にら)むと、


「良いから来い。」


と言ってずんずんと歩き始めた。

 私を連れてきた竜人が、背中を小突(こづ)く。私は、門を開けた竜人の後を追って歩き始めた。


 屋敷の中に入ると、小さな林と言ってよいほどの木が並んでいた。だが、普通の林とは違い、どの木もしっかりと手入れが行き届いているのが判る。

 その林を抜けると、大きな池があり、何箇所かに大きな岩も置いてあった。

 私は庄屋様(しょうやさま)の所で見聞きした庭やその薀蓄(うんちく)を思い出し、


「こちらの庭は、山河(さんが)を表現しているのですか?」


(たず)ねると、前を歩く門を開けた竜人が、


「分かるか?

 ここの庭は、」


と庭の説明を始めようとした。だが、後ろにいる私を連れてきた竜人が、


(しゃべ)るな。」


と会話を切断。前の竜人が、


「そうであった。」


と言って、私に、


「黙って歩け。」


と厳しい口調で(しか)りつけたのだった。



 屋敷の裏口から中に入れられた私は、地下への階段を降りるように指示された。

 竜帝城でも、地下牢で一度揚屋に入れて取り調べをしていたので、ここでも似たような感じなのだろう。

 そう思ったのだが、目の前にある牢屋は土間に茣蓙(ござ)()いているだけ。

 (かわや)の代わりも、(ふた)の付いた(つぼ)と待遇が悪い。


 私は牢に入れられる直前、牢の(ばん)と思われる竜人に、


「これから、どのくらいこちらに入るのでしょうか?」


と聞いた所、その竜人は、


「さてな。」


と一言。続けて、


無駄口(むだぐち)を叩かず、静かに入れ。」


と言って、私を牢に押し込め、(じょう)を閉じてしまった。

 牢の番と思われた竜人が、私を連れてきた竜人や、門を開けてくれた竜人と供に、地上に上がっていく。

 

 人がいなくなり、地下牢に続く扉が閉じられ、暗闇だけとなる。

 若干の(かび)(にお)いと、どこからともなく聞こえるうめき声のような音。

 私は、あまりの待遇の悪さに、後で文句を言ってやろうと思った。


 やる事もないので、瞑想(めいそう)を行う事にする。

 題材は、昨日の事だ。


 先ず、午前中、黒竜帝の魂を巫女様の手で佳央様にわたした後、弁当を食べて山に向かた。

 次に、(やしろ)で筍を()やし、帰りに採って帰る事になったのだが、ここまでは、山の(ぬし)とは別の話。今回は話さなくても良いに違いない。


 それから山に入り、大きな気配を見つけた。

 これが、後で出てくる大き目の雪熊なのだが、この時点では、私には何の気配か、検討も付かなかった。

 私達はこの気配を目指し、山深くまで歩いていった。


 一山目の尾根(おね)を超え、山深く入っていった所、沢山(たくさん)の狼に囲まれた。

 この時、1頭だけ黒い狼がいた。この狼、魂を渡して弱体化したせいもあって、なかなか倒せなかった。

 この戦いでは、いつ大怪我をしても不思議ではなかったように思う。無傷で、本当に良かった。

 黒い狼以外は、普通の灰色の狼だった。その数は10頭以上だった筈だが、私ははっきりと覚えていない。

 だが、今朝、佳央様が竜帝城で証言している筈だ。それに、今回は主かどうかを知りたいだけの筈なので、詳細の数は無視しても良いに違いない。


 この後、急に気配が出てきたのでその気配を追った所、雪熊を目撃した。だが、この雪熊、清川様や佳央様の力に()()()いたのか、すぐに逃げてしまった。


 更に一つ尾根を超え、山を下って行ったところで、洞穴を見つけた。

 ここでは、闇猪を倒すこととなった。

 そこにいると思って拳骨で殴ったのに空振りとなる、厄介(やっかい)な相手だった。


 それから移動し、温泉の出る沢で、ようやく例の大きな気配の魔獣と対面する。

 魔法で一撃、予想に反し、あっけなく倒すことが出来た。


 その後、竜の里に急いで引き返していると、焔太様が3頭の雪熊と戦っている所に遭遇(そうぐう)した。

 佳央様と私も加勢し、その3頭を倒したのだが、ここでも、雪熊は魔法で1撃だった。

 それから焔太様と合流し、尾根で分かれた後、また元の社に戻ることが出来た。

 そこで、改めて筍を()やしたのだが、ここで疲れが出て、尻餅をついてしまった。

 それから少し休み、竜の里まで戻ったところ、不知火様から、今日、取り調べを行うと言い渡された。


 細かい所や、他にも寄り道はあったはずだが、概ね、こんな感じだったはずだ。


 こうして考えると、昨日は、今までで一番と言ってよいほど、沢山の(けもの)と戦っている。

 私は今朝、かなりの時間をかけて更科さんから回復魔法を掛けてもらったのだが、これも、昨日の事を思い返せば当然だなと思ったのだった。


 それから、どのくらい時間が経ったのだろうか。

 陽の光がないので、今が何時(なんどき)なのか判らない。

 私は、徐々(じょじょ)に、自分が忘れ去られたのではないかと不安になっていったのだった。



 お腹が鳴り、そろそろ夕刻ではないかと思われる頃、階段を降りてくる気配があるのが感じられた。

 行灯の光が近づいてくる。弱々しい筈のその光が、明るくすら感じる。

 その行灯を持った竜人が私の前を通過しようとしたので、私は、


「お待ち下さい。

 私の取り調べはいつからでしょうか?」


と尋ねたのだが、その竜人は少し立ち止まってこちらを見た後、


「ふんっ。」


鼻息(はないき)だけで返事をし、そのまま奥まで歩いていってしまった。

 行ったからには、戻ってくる筈だ。

 そう思った私は、この竜人が戻ってきたら、しつこいと思われても、もう一度質問しようと考えた。


 足音が消え、代わりに叫び声が聞こえ始める。


──一体、奥で何が行われているのだろうか?


 ふと、嫌な想像が働く。

 私は以前、竜帝城の拷問部屋で、色々な機材を見ている。

 あれらの使い方は私には分からないのだが、ああいった物を使い、奥の罪人を締め上げているのかもしれない。

 屋敷の玄関で、私を下手人と呼んでいたのを思い出し、背中に嫌な汗が流れる。

 暫くして、叫び声が消え、うめき声のような音がするだけとなった。


 また、足音がし始め、先程の竜人が戻ってきた。

 この竜人、来た時にはない()()(まと)っている。

 この匂いで、私はもう一度質問をするつもりだったのだが、そのような気も失せる。


 私はここでようやく、一体どういった所に連れ込まれたのかと、不安になったのだった。


 作中、山上くんが連れ込まれたお屋敷にあった小ぢんまりとした門は、埋門(うずみもん)っぽい外観のものを想定しています。

 埋門というのは、お城等で石垣や塀の途中、下の方をくり抜いたようにして人が通れるように作った門となります。このような門なので、裏門(うらもん)として利用されていました。


・門

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%96%80&oldid=87946247

・龍野城

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%BE%8D%E9%87%8E%E5%9F%8E&oldid=88984678

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