屋敷に戻って
山で狩りを終えて竜の里に帰ってきた私達は、里の門で、不知火様との話が続いていた。
みぞれが降っている中、ここまで急いできたので、着物がかなり濡れている。
このため、私は寒さに震えながら、話を聞いていた。
なお、清川様や佳央様も濡れているのだが、竜人は寒さに強いので、寒そうにしている様子はない。羨ましい限りだ。
不知火様が、
「それと、山上にもう一つ話がある。」
と話しかけてきた。私は、
「何でしょうか?」
と聞くと、不知火様は、
「赤竜帝が『狩りには戸赤を連れて行っても良い』と仰っていたぞ。」
と伝言を伝えてくれた。
私は、
「焔太様をですか?」
と聞くと、不知火様は、
「戸赤には、冬場の山を見て回る役目を与えてあるが、一人では対応が難しいこともある筈だ。
それと、山上は里の外に出るには、もう一人必要だった筈だ。
ならば、二人で出掛ければ一石二鳥とお考えなのだろう。」
と答えた。焔太様が、
「俺は、一人でも・・・。」
と言いかけ、佳央様からのジト目に気が付いたのか、口を閉じた。
焔太様が雪熊と1対3で戦って苦戦していた所に、佳央様と私で助太刀に入ったばかりだ。
不知火様が、
「気づいたか?
今の季節で、既に3頭が纏まっていたのだ。
最盛期には、どれだけの数が纏まるかも判らぬからな。」
と説明すると、焔太様は、
「ならば、もう少し人手が欲しいのですが・・・。」
と真面目な顔で要求した。不知火様は、
「それは、解かっている。
他にも、何組かで回る予定だ。」
と説明すると、焔太様は、
「いざという時の、援軍の呼び方はどのようにすれば?」
と疑問点を確認する。不知火様は、
「時期が来たら、合図を出す道具を渡す予定だ。」
と答えた。更に焔太様は、
「渡される前の対応方法は?」
と確認すると、不知火様は、
「その場合は、無理に対処せず、報告だけ上げればよい。
改めて、討伐隊を編成する。」
と答えた。そして、
「下手な意地を張って、大怪我をして情報を持ち帰れなくなる方が問題だからな。」
と付け加えた。焔太様は、
「分かりました。」
と了承したようだ。
佳央様が、
「それで、こっちはこれからどうすればいい?」
と質問すると、不知火様は、
「先ずは、今日の成果はどうだったのだ?」
と逆に質問した。佳央様が、
「大き目の雪熊が1頭、普通の雪熊が戸赤のと併せて3頭。」
と答えた。不知火様が、
「他は?」
と質問し、佳央様が、
「黒い狼が1頭と、灰色の狼が12頭、後は闇猪が1頭ね。
他は筍くらいよ。」
と答えた。不知火様が首を傾げながら、
「筍?」
と確認する。今は春ではないので、その反応にも納得だ。
佳央様が、
「あっちの山にある社の竹林よ。」
と採れた場所を説明したのだが、不知火様は、
「季節が違うではないか。」
と質問の趣旨が違うことを告げる。私が、
「青魔法で育ちを早めまして。」
と説明すると、不知火様は、
「なるほど。
が、それは余談として。」
と一息つき、
「今日、狩った物をどうするかであったな。」
と話を戻した。そして、
「雪熊と黒い狼、後、闇猪の3頭については、一旦、こちらで預かる。
灰色の狼は好きにしろ。」
と言った。佳央様が、
「いつ、引き取るの?」
と確認すると、不知火様は、
「この時間だ。
明日、竜帝城まで持ってきてくれ。」
と指示を出し、佳央様も、
「分かったわ。」
と承知した。
不知火様との話も終わり、今度こそ、お屋敷に向けて移動する。
冷たいみぞれが降っている事もあり、里の中の割には、あまり人がいない。
佳央様から、
「謹慎、どうするの?」
と心配された。私が、
「最近は、道場で修行をしているだけです。
狩には行けなくなりますが、年末年始も、恐らく今日ので足りているのではないでしょうか。
だとすれば、私は普段どおりに生活していれば良いだけとなりませんか?」
と答えると、佳央様も納得したようで、
「確かに、屋敷から出ないだけなら、それで問題なさそうね。」
と納得した様子。清川様から、
「元は、巫女様が仰った事じゃ。
悪いようにはならぬじゃろう。」
と言った後、
「一応、私は神社に寄って報告してから、屋敷に行くとするかの。
晩飯は、取っておくようにな。」
と付け加えた。佳央様が、
「分かったわ。」
と返事をすると、清川様は、
「うむ。
では、また後での。」
と言って、神社の方に歩いて行った。
佳央様と私、雪道の中歩いてお屋敷に戻ると、珍しく玄関先で紅野が待っていた。
佳央様が、
「ただ今、戻りました。」
と挨拶したので、私も慌てて会釈をした。
すると、紅野様も、
「うむ。」
と挨拶を返し、私に顔を向けると、
「不知火が行ったそうだな。」
と話を切り出した。すると佳央様が、
「ええ。
向こうの山で、大き目の雪熊を倒してきたのよ。
そしたら不知火様から、『謹慎くらいはしろよ』だって。」
と状況を説明する。紅野様が、
「そうじゃったか。
じゃが、それが主だったかも知れぬじゃろ?
あまり、不用意に狩るでないぞ?
主を狩ったら、山が荒れるでの。」
と急に好々爺の口調となる。相変わらず、佳央様には甘いようだ。
佳央様が、
「ええ。
でも、大き目の雪熊と会った時、あの一頭だけしかいなかったの。
主なら、配下を従えてるものじゃない?
だから、問題ないって考えたんだけど。」
とあの時、反対しなかった理由を説明した。
私はと言うと・・・、そんな事は一切考えておらず、少し恥ずかしかった。
紅野様が、
「そうか、そうか。
ならば、問題なさそうじゃの。
主でないと判れば、山上も変な目で見られまい。」
とニコニコ顔だ。そして、
「二人共、着替えたら座敷に来るのじゃぞ。
すぐに、晩飯を持って来させるでの。」
と付け加える。
佳央様は、
「分かったわ。」
と返事をした。そして、
「じゃあ、和人。
行くわよ。」
と言って、私を連れて佳央様の部屋に移動した。
佳央様の部屋に入ると、すぐに更科さんが気がついて、
「大丈夫だった?
何か、下女の人達が変な噂してたけど。」
と心配そうに質問しながら私の側に来た。
私は、更科さんがどこまで話を聞いているのか判らなかったが、安心してもらう為に、
「一応、大丈夫ですよ。」
と伝え、
「それよりも、外がみぞれだったので、すぐに着替えたいのですが。」
と言うと、更科さんは、
「あっ、ごめんなさい!
すぐに準備するわね。」
と言って、すぐに長持の前に移動した。
私も長持の側まで移動する。
更科さんが、
「また主を狩って、今度は謹慎になったって聞いた時は驚いたけど、大丈夫なら良かったわ。
謹慎はしなくていいのね。」
と嬉しそうに言った。私は、大丈夫と言った手前、恐縮しながら、
「・・・その、不知火様からは、『謹慎くらいはしろよ』と言われておりまして・・・。」
と小声になりつつ言うと、佳央様が、
「和人は巫女様の側だから、自発的にやれって事みたいだけどね。
でも、任意だからやらなくてもいいみたい。」
と補足する。
更科さんは、
「そうなんだ。」
と呟くと、私に、
「それって、やっぱり大事じゃない。」
と言ってきた。私は、
「ですが、前みたいに地下牢に入れられる訳でもありませんし。」
と説明したのだが、更科さんは、
「それはそうだけど・・・。」
と心配な様子。私は、
「別に、今回は佳織と離れ離れになるわけでもありませんし、毎日話せます。
謹慎しても、気にする程でもないと思いますよ。」
と説明を加えると、佳央様から、
「仲が良いのは分かったから、早く着替えなさい。」
と怒られた。更科さんと私は、
「ごめんなさい。」
「すぐに着替えます。」
と謝ったのだった。
着替えが終わり、座敷に移動すると、既に紅野様と清川様が座布団に座っていた。
佳央様が、
「遅れてご免なさい。」
と謝った後、私の方を見て、
「この二人が、仲が良すぎて。」
と付け加えた。紅野様が、
「よい、よい。」
と朗らかに言った後、更科さんと私の方を見て、
「程々にの。」
と釘を差してきた。表情は柔らかいままだが、目つきだけ違う。
私は、
「申し訳ありません。」
と謝り軽く頭を下げると、これに合わせて更科さんも頭を下げた。
紅野様が、
「まぁ、座れ。」
とお許しが出たので、座布団に座る。
紅野様は、
「山上よ。
よほど、巫女様に好かれておるようじゃな。」
と言ってきた。私は、
「好かれておると言いますと?」
とそう発言した意図を聞くと、紅野様は、
「確か、前に牢に入る事になった山の主を狩った時も、巫女様から言われてと聞いたが?」
と確認してきた。私は、
「はい。
ですが、今回は名前は伏せた状態で、清川様が『とある魔獣を狩らせよ』とだけ指示を受けたのだそうでして。」
と答えると、紅野様は白い髭に手をあてると、
「聞いていた話と、少々ずれがあるようじゃな。
その辺り、後で不知火に話しておくのじゃぞ。」
と私に指示を出し、佳央様の顔を見た後、
「この話は、ここまでじゃ。」
と言うと、手を叩き、
「持ってまいれ。」
と下女の人に夕餉を運び込むように指示を出したのだった。
作中、不知火様から山上くんに謹慎が言い渡されましたが、過去の後書きに出していなかったようなので軽く説明しておきます。
この謹慎ですが、江戸時代の刑の一つで、当人の外出と日中の人の出入りが制限、と言うか禁止となりました。現在で言う『謹慎』とは、ちょっと重さが違うようです。
・謹慎
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%AC%B9%E6%85%8E&oldid=85724209
・慎み




