葛町近くの河原にて
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この場を借りて、御礼申し上げます。
(^^)/
私は横山さんに連れられて、鑑定のために葛町近くの河原に来ている。
他に、田中先輩、更科さんとムーちゃん、『一応、組合も把握しておきたい』と言って、野辺山さんも来ていた。
横山さんは、
「後からもう一人、私の研究室の安塚が来る予定よ。
彼女は黒竜について調べているのだけどね、山上くんが黒竜と魂の融合をしたという話をする機会があって、そのうち顔合せをする約束をしていたの。
実演して貰える機会も少ないだろうから、一石二鳥ね。」
と笑顔で言った。横山さんは、冒険者組合を出る前に里見さんに何か話していたのだが、おそらく、河原にいることを言付けたのだろう。
野辺山さんは横山さんに、
「その、冒険者組合を通しての依頼は、いくら同じ研究室の人でも秘密にしてもらわないと困ります。
一応、守秘義務契約していますよね。」
と軽く注意していた。横山さんは、
「すみません。
安塚が研究課題を黒竜にする所までは決めていたようなのだけど、何に絞るのか決めあぐねていたので、相談に乗っていてつい・・・。」
と言っていた。野辺山さんは、
「本当は守秘義務の事、忘れていたんじゃないでしょうね。
本当に頼みますよ?」
と、呆れ顔で話した。私が思うに、横山さんは会う度に何かやらかしているので、そろそろ『横山さんだから』では済まされない事件が起きる気がしてならない。
ふと更科さんの方を見ると二人の話に飽きたのか、首をひねったり、指を眉間に当てたり、かと思うと左右のこめかみに拳を当てたりして何か考えているようだった。
そして、はっとした表情をしたかと思うと、突然、私の袖を掴み、
「何だか、嫌な予感がするの。」
と言ってきた。私は、
「横山さんのことですか?
それともお弟子さんのことですか?」
と聞いた。すると更科さんは、
「お弟子さんの方よ。
さっきから、この辺りがムズムズするの。」
と言って、左右のこめかみの辺りを指差した。私は、
「まだ会ってもいないのに嫌な予感って、どういうことでしょうか?」
と聞いた。すると更科さんは、
「その・・・、お弟子さん、横山さんが彼女って言っていたから女性よね?
で、あの横山さんのお弟子さんよ?
多分、何かやらかす気がするの。」
と答えた。私は、
「なんか、漠然とした話だね。」
というと、更科さんも、
「私もそう思うんだけどね、予感ってそういうものよ?
さすがに、自分でも失礼だと思うわ。」
と言った。
横山さんは野辺山さんとの話も一区切り付いたのか、
「はい、山上くん。
それでは始めるわよ。
まずは、重さ魔法をお願い。
そうね、・・・出したら、そこにある流木に当ててみて。」
と言ってきた。どうやら、これから調査を始めるらしい。私は更科さんに、
「もうちょっと、離れてもらってもいいでしょうか。」
とお願いした。更科さんもにこにこしながら、
「うん、分かった。
ちょっと待っててね。」
と言って私から3間ほど離れた。私はそれを見届けてから、
「ありがとう。
そのくらいでいいですよ。」
と言ってから、自分から漏れ出る黒い重さ魔法を集め始めた。更科さんは、
「うん。」
と言って止まった。私は、重さ魔法を更に集めて球に仕上げた。私は、
「それでは行きますよ!」
と言って、その球を近くの流木に向かって飛ばした。すると、重さ魔法は流木の真ん中ではなかったが、端の方に当たった。当たったところが予想よりも大きく丸く削れている。私は今まで、重さ魔法をこの様な使い方はしたことがなかったので、存外の威力があり自分でも驚いた。
しかし、横山さんは、
「流木が削れるくらいの威力で、下の地面は影響なしっと。
まだ慣れてないからかしらね。」
と言いながら、帳面に淡々と何かを記載していた。そして、
「山上くん、次、身体強化お願い。
この小石を握り潰してみて。
もし、潰れなかったとしても問題ないからね。」
と指示を出した。私は、
「はい。
では始めます。」
と言って、黄色い身体強化の魔法を手から腕にかけて集めたのだが、河原だからか、魔法の集まりが悪い。集まった量に不安はあったが、ひとまず渡された石を思い切り握ってみた。
「いよっと。」
すると、思いのほか簡単に砕けたので、これまた自分でも驚いた。田中先輩は、
「なんだ、そのへなちょこな掛け声は。」
と言って少し笑われてしまった。横山さんは、
「そういうのは人それぞれよ。」
と私を弁護してから、
「本来使えないはずの魔法でも、それなりに使えているっと。」
と言いながら手を動かしていた。そして、まわりをきょろきょろと見渡し、ちょうどいい物を見つけたと言わんばかりに、笑顔で対岸を指差して、
「じゃぁ、次に、向こうにいるはぐれ狼に威嚇をしてみて。」
と指示を出した。私は、
「かなり距離がありますよ。
あれ、1町くらいありませんか?」
と言ったところ、横山さんは、
「大丈夫よ。
とりあえず、更科さんを狙っていると思って、思いっきりやってみなさい?」
と言ってきた。私は更科さんに、
「すみません。
もう少し離れてもらってもいいですか?」
とお願いした。更科さんは、
「うん。」
と言って、数尺ほど下がってから、
「これでいい?」
と聞いてきたので、私も
「はい。
おそらく大丈夫だと思いますよ。
では、いきます。」
と言った後、更科さんが狙われていると思い込むようにして、思いっきり威嚇した。後ろから横山さんの
「ひっ!」
という声が聞こえてきた。私は、
「すみません。
横山さん、大丈夫ですか?」
と聞いたのだが、横山さんは、
「大丈夫よ。
それよりあっち!
はぐれ狼が逃げて言っているわよ!」
と言って、私の威嚇を感じ取ってか慌てて逃げ始めたはぐれ狼を指差して喜んでいた。私にはこれが自分の威嚇が原因かは判らなかったが、横山さんは、
「それになに、さっきのあれ!
空気が震えて、普通じゃなかったわよねっ?ねっ?
あれは確かに、一般人が受けたら心臓麻痺してもおかしくないわ。」
と言った。とその言葉が終わるかどうかという所で、少し橙に近い黒髪の見知らぬ女性が私に駆け寄りながら、
「何、今の!
君が山上くんね!」
と突然私に呼びかけてきた。そして横山さんに向かって、
「あれこそ、普通の人は習得し得ない『黒竜の威嚇』じゃないかしら。
きっと、超レアスキルよ!」
と言い放った。更に、私の目の前まで来たかと思うと、間髪入れずに私の手を両手で取り、彼女の胸の1寸先のところまで引き寄せてブンブンと振り始めた。私は何事が起きたかと思って慌てていたが、彼女に握られた手元を見るつもりが、はしゃぐたびに揺れる大きな胸に視線が行ってしまった。一瞬、あの胸を鷲掴みにしたらと考えてしまい、恥ずかしさから目を逸らした。直後、握られた手の指先に柔らかい布地の感触がして、驚いて反射的に手を振りほどき、1間ほど飛びのいた。更科さんも、
「近い、近い、近い、近い、近い、近い!」
と言いながら駆け寄ってきて、私と女性の間に割って入ってきた。
更科さんもこの女性も凄く興奮していて、私は二人に気圧されるばかりだった。
野辺山さん:本当は守秘義務の事、忘れていたんじゃないでしょうね。本当に頼みますよ?
横山さん:(率先して話したなんて言えないわ・・・。)
山上くん:(会う度に何かやらかしているけど、そろそろ『横山さんだから』じゃ済まされない事件が起きるような・・・。)
更科さん:(そういえば葛町に来る道すがらでも、秘密の話を聞いたような・・・。)
田中先輩:(冒険者組合の仕事も続けて欲しいが、そろそろ人事か・・・。)