表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
374/681

10回近く

 修行が終わり、座敷行くと、佳央様と更科さんが何やら絵の書かれた紙の前に座っていた。

 骰子(さいころ)も1つ置いてある。

 私は、


「おや、何をしているのですか?」


と聞くと、更科さんが、


道中双六(どうちゅうすごろく)よ。

 王都から、咲花(さくはな)温泉までの道のりでね。

 王都に行った人が、お土産(みやげ)にって買ってきたんだって。」


と説明してくれた。私は、


「双六ですか?」


と聞くと、更科さんは、ちゃんと私が双六を知らない事に気がついたようで、


「うん。

 こうやって骰子を振って、出た升目(ますめ)だけ進めるのよ。」


と説明を始めた。骰子の出目は四。

 更科さんは、


「今回は四が出たから、4(ます)進めるわよ。」


と言った。最初のお城の描いてある升目を指で押さえ、そこから順に四まで数えていく。

 そして、


「大宮ね。」


と苦笑いする。佳央様が、


「大宮、杉崎、大杉の上に(とま)るって書いてあるでしょ?

 ここに止まったら、一回お休みよ。」


と説明した。更科さんの止まった升目に書いてある文字が、他の2箇所にも書いてある事を確認する。

 私は、


「これとこれですか?」


と残りの2箇所を指で差すと、更科さんは、


「うん。

 そこよ。」


と言った。更科さんが、


「それでね。

 外から内側に順にぐるっと中に入っていってね。

 最後、真ん中の咲花温泉に辿(たど)り着いたら、上がりって言うの。」


と言って、指で紙の升目をぐるっとなぞりながら、最後、中心を指差した。

 大きな升目に、温泉の絵が書いてある。

 佳央様が、


「お土産用だから、短いけどね。」


と補足した。私は、


「そうなのですか?

 でも、面白そうですね。」


と言うと、佳央様が、


「食事の後、やってみる?」


と誘ってくれた。私は、


「やります。」


と同意し、


(みんな)はどうしますか?」


と聞くと、清川様は、


「私は、明後日の連絡もある。

 ()めておこうかの。」


と言った。古川様も、


「私も、・・・そうする・・・わ。」


と清川様に従うようだ。

 更科さんが、


「じゃぁ、3人でね。」


と確認する。私が


「はい。」


と返事をすると、清川様から、


「明日も修行じゃ。

 あまり、夜更けまでせぬようにの。」


と、先に釘を刺されてしまった。

 わざわざ、このように言うのだ。余程、面白いのだろう。

 私は期待しつつ、


「そのようにします。」


と答えたのだった。



 話の区切りが付いたと見てか、下女の人が(ぜん)を運んでくる。

 膳の上には、細長い身の焼き魚、()でた(ねぎ)を味噌で()えたぬた、白菜のお漬物。ご飯の方にも工夫がしてあり、豆腐の上にゆるく炊いたご飯が乗っている。お味噌汁は、(ねぎ)と油揚げが入っていた。

 佳央様が、


「この魚も、お土産よ。」


と説明した。私は、


「どのような方なので?」


と聞いたのだが、佳央様は、


「さぁ。

 紅野(こうの)様の知り合いだから。」


と一言。知らないようだ。

 私は、


「そうでしたか。」


と返した。

 清川様がご飯を食べ、


「ゆるいし、味も薄いの。」


と眉をひそめる。

 下女の人が、


「こちらのご飯は、底の方に田楽味噌(でんがくみそ)が入れてあります。

 お好みで()いて、お召し上がり下さい。」


と説明した。清川様が、


「最初に言わぬか。」


と言って、ご飯の底の味噌を溶きながら食べ始めた。

 私達も、それに習って食べてみる。

 清川様は、


「少々、甘みが強いようじゃが。」


と不満を口にした。下女の人が、


「申し訳ありません。」


と謝る。だが、佳央様は、


「そう?

 私は美味しいけど。」


と満足している模様。更科さんも一口食べると、


「甘い料理が得意な人と、そうでない人がいるものね。

 でも、豆腐のお味噌汁にご飯を入れて食べているみたいで、なんだかお行儀の悪い料理に感じるわね。

 多分、私の実家で出したら怒られるわ。」


と言いながら、せっせと口に運び始めた。実は更科さんも、この料理を気に入ったようだ。

 私も食べてみたのだが、これは意見が別れると納得する。

 私は、


「なるほど、これは少し甘めですね。」


と感想を言うと、清川様が、


「そうじゃろう。」


と同意し、


「古川は、どちらの味方じゃ?」


とまだ感想を言っていない古川様に問いかけた。古川様の目が泳ぐ。

 味については人の好みというのに、味方かどうかと問われても困るというものだ。

 その様子を見た清川様は、


「なるほどの。

 古川も、あちら側か。」


とまた眉根を寄せて言った。古川様が、


「私は、・・・どちらでも・・・。

 あれば食べるけど、・・・それだけ・・・よ。」


と、清川様に配慮した模様。清川様は、


「気を使わずとも良い。」


とピシャリと言った。

 何となく気まずい。

 私は魚の方を食べ、


「これも、美味しいですね。

 お土産という話しでしたが、こちらは何という魚ですか?」


と質問をした。

 下女の人が、


「こちらは、『さより』という魚です。

 今回は塩焼きに致しましたが、王都でしたら、鮮度の良いものが手に入ります。

 今の季節の大きい物でしたら、お刺し身にしていただけば、絶品だと聞いております。」


と説明した。私は、


「そうでしたか。

 ならば、王都に行く機会がありましたら、食べてみなくてはですね。」


と感想を言うと、更科さんも、


「そうね。

 私も王都に住んだ事はあるけど、短かったから食べていないし。」


と一緒に行く気の様子。佳央様も、


「その時は、私も行くわ。」


と同じく、一緒に行きたいようだ。

 清川様が、


「仲が良いの。」


微笑(ほほえ)ましそうに言ってきた。



 食事が終わり、双六の時間となる。

 清川様は、


「ほどほどにの。」


と言って座敷を後にし、古川様も後に続いて退出した。

 佳央様が、


「それじゃ、始めるわよ。」


と言って、早速骰子(さいころ)を振った。三が出る。

 更科さんが、


「次は私ね。」


と言って骰子を(ひろ)ってすぐに振る。五が出る。

 更科さんは、また骰子を拾うと、


「次、和人も振って。

 数の大きい人から順番に始めるから。」


と、骰子を渡してきた。

 骰子を受け取り、振ってみる。一だ。

 佳央様が、


「佳織、私、和人の順ね。」


と順番を言った。

 更科さんが、


「うん。

 じゃぁ、振るわね。」


と言って骰子を手に取り、骰子を振る。三。

 お城の絵の升目から順に、指で押さえて進める。

 佳央様が、


「大宮の手前ね。」


と言うと、更科さんも、


「うん。」


(うなづ)いた。

 佳央様が骰子を手に取り、次を振る。四。

 佳央様は、


「大宮ね。」


と言うと、更科さんが、


「1回お休みね。」


とニッコリした。佳央様が、直接、大宮の升目を指で押さえる。

 私も骰子を振ると、1が出た。

 更科さんは、


「えっと、・・・まだ、始まったばかりだし。」


と言うと、佳央様も、


「私よりましよ。」


と言った。1升進め、畑に止まる。

 更科さんが骰子を振り、六が出る。

 佳央様が、


「杉崎の次ね。」


と言うと、更科さんも、


「運が良かっただけよ。」


と笑顔で一言、佳央様はムスッと、


「次、和人の番よ。」


と言った。早速、骰子を振る。またしても、一。

 橋の絵が書いてある升目を指で押さえる。

 佳央様が、


「橋ね。」


と言った。更科さんが、


「まだ、大丈夫よ。」


と応援してくれた。

 更科さんが骰子を手に取り、


「えいっ!」


と振ると、五が出た。

 更科さんが、


(あ〜)がり!」


と言って、一番に咲花まで辿り着いた。

 佳央様が、


「私、1回休みのままなんだけど?」


と苦笑いをし、私も、


「初めてだから、こんなものですかね。」


と同じく苦笑いした。更科さんは、


偶々(たまたま)よ。

 偶々。」


と言ったのだが、佳央様から、


「でも、佳織。

 ご飯前にやった時も、大きな数ばかり出ていなかった?」


と指摘する。更科さんは、


偶然(ぐうぜん)よ。」


と言ったのだが、佳央様は、余り納得していないようだった。

 佳央様が、


「じゃぁ、次、やるわよ。」


と言い、更科さんも、


「ええ。」


と同意し、


「和人もね?」


と誘われた。私は、まだ時間があると思い、


「はい。」


と返事をしたのだが、この後、佳央様が最初に上がるまで、10回近く、付き合う事になったのだった。


 作中、(いつものように無理やり感、半端ないですが)道中双六(どうちゅうすごろく)が出てきます。

 この道中双六は、目的地までサイコロを振って移動する双六となりますが、元禄年間ころには遊ばれていたのだそうです。

 例えば、東海道中五十三次を題材にした双六なんかがあり、スタートの日本橋から順に京都までの街道の絵が、蚊取り線香状に並んだ道中双六などがありました。

 双六自体は、人生ゲームやら桃電といったように、名も形も変わっていますが今でも人気ですね。(^^)


 あと、豆腐の上にゆるく炊いたご飯が乗ったものは、埋豆腐と言います。

 お茶碗に、田楽味噌、小さく切った湯豆腐とその煮汁、ゆるく炊いたご飯を乗せた料理で、飯百珍伝から持ってきました。ただ、飯百珍伝は米を節約するための料理本なので、平時のお屋敷には似つかわしくありません。(^^;)


・すごろく

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%99%E3%81%94%E3%82%8D%E3%81%8F&oldid=88107705

・五拾三次新版道中双六

 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1310699/1

埋豆腐(うずみどうふ)

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=100249476&pos=25&lang=ja


 あと、今回の双六は以下のような感じで升目が並んでいました。

┏━━┯━━┯━━┯━━┓

┃  |  |泊 |  ┃

┃田 |田 |杉崎|川 ┃

┠──┏━━┷━━┓──┨

┃  ┃ 上がり ┃  ┃

┃田 ┃♨咲花温泉┃田 ┃

┠──╂──┯━━┛──┨

┃泊 ┃  |泊 |  ┃

┃大宮┃田 |大杉|田 ┃

┠──┗━━┿━━┿━━┫

┃  |  |  |  ┃

┃田 |橋 |畑 |王都┃

┗━━┷━━┷━━┷━━┛

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ