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どのような影響が考えられるか

 虎落笛(もがりぶえ)の音がヒューヒューと聞こえ始める。

 更科さんが小さく、


「風が出てきたみたいね。」


(つぶや)いた。

 私は、


「はい。

 それに、今朝から随分と冷えてきましたから、帰りは雪が降っているかも知れませんね。」


とそれに返事をする。更科さんが、


「そうね。」


(うなづ)いた。



 古川様が突然、


(そろ)っておるようじゃの。」


(しゃべ)り始める。古川様の話し方が普段の話し方から変わった。

 どうやら、今日も巫女様は、古川様に憑依して現れたようだ。

 巫女様と直接話しては駄目なので間に一人入るのだが、これはそれが(わずら)わしいからなのかもしれない。

 清川様が、


「はい。」


と返事を返す。

 そういば、更科さんは付き添いという話だった筈だ。

 呼ばれていないのに、この場にいても良いのか、心配になってきた。

 たが、考えてみれば古川様は、私達と一緒に更科さんもこの部屋に案内した。

 つまりは、問題ないのだろうと考え直す。


 古川様が、


「・・・では、黒山と山上。」


と私の名前を呼んだので、一気に意識が呼び戻される。

 古川様は、


「これから、黒竜の魂を移す時の説明を始める。

 とは言え、話す事は少ないのじゃがな。」


とにこやかに話した。私は、神社に呼ばれるくらいだから、てっきり長話になると思っていたので、話す事が少ないと言われ、拍子(ひょうし)()けした。

 清川様から、


「山上。

 しゃきっとせぬか。」


と注意される。表情(かお)に出ていたらしい。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝り、背筋を正した。

 だが、今度は古川様から、


「そう、固くならずとも良い。」

これでは、庄内では対応できぬ。

と言ってきた。私は、どちらなのだと文句をつけたくなったが、背筋(背筋)はそのままに


「分かりました。」


と返した。これならば、両方の顔が立つ筈だ。

 古川様は、


「うむ。」


(うなづ)くと、(しば)し私達を見つめ、


「今、改めて、二人の状態を見させてもらった。

 じゃが、障害となるようなものは、見当たらなんだ。」


と話した。私は、


「妖狐の影響は無いのですね?」


と聞くと、古川様は、


「無いようにする。」


と答え、


「この様子であれば、移すだけなら坂倉や庄内がやっても、一瞬で終わるじゃろう。」


と付け加えた。私は、


「では、すぐにやるのですか?」


と聞いたのだが、古川様は、


「そう、()くでない。

 日取りは、大安が吉と出ておるからの。」


と答えた。どうやら、先見でよい日取りを決めていたようだ。

 私は、


「承知いたしました。」


と返事をした。

 佳央様が、


「それで、結局誰が移すの?」


と担当を確認した。すると古川様は、


「妾じゃ。」


と答え、清川様がギョッとする。

 古川様は清川様に、


「この件、元々は庄内にさせようと考えておった。

 じゃが、先程の山上の質問からするに、どうやら、たちが悪い分岐に入ったようなのじゃ。」


と説明した。先程の質問というのは、妖狐の影響について聞いた質問のことだろう。

 清川様が、


「どのようにたちが悪いのですか?」


と聞くと、古川様は私をちらりと見て、


「先ほど、説明の途中だったのじゃがな、」


と言うと、


「坂倉や庄内がやっても、一瞬で終わるじゃろう。

 じゃがその後、黒竜がいなくなった事を良いことに、昼間から妖狐が山上にちょっかいをかけるようになるのじゃ。」


と説明をした。そして古川様は私に、


「心当たりは、あるじゃろう?」


と聞いてきた。先日の瞑想の時の事を思い出し、ご存知(ぞんじ)だったかと苦笑いで返す。

 古川様は、


「まぁ、良い。

 それで、そのちょっかいが限定的になるよう、一つ封を施す事となる。

 これが、少々特殊での。

 妾が直々(じきじき)に、対応する事にしたのじゃ。」


と説明を続けた。

 清川様が、


「そういう経緯(けいい)でしたか。

 しかし、ここで(おっしゃ)っても(よろ)しかったので?」


と確認した。恐らく、先見が変わる事を心配しているのだろう。

 古川様は、


「ここまでの話であれば、問題ない。」


と答えた。

 私は恐る恐る、


「巫女様が対応するのでしたら、ひょっとして、今日の他にも寄進がいるのでしょうか?」


と質問をすると、清川様の眉間に皺が寄った。

 だが古川様は気にする様子もなく、


「寄進というものは、気持ちが大切じゃ。

 例えば、今日、山上は手持ちが(ほとん)どないにも(かかわ)らず、団子を買って持ってきたじゃろう?

 毎回それでは困るが、要は、そう言うことじゃ。

 金だけ出せばよいと考える(やから)からは、根こそぎ貰うても良いと思うておるがの。」


と答えた。つまり、今回は見逃してくれるという事らしい。

 私は、


「ありがとうございます。」


と感謝を伝えた。佳央様が、


「それで、当日の注意点とかはある?」


と聞くと、古川様は、


「そうじゃな・・・。

 白装束を準備し、日が昇る前に(みそぎ)もしておくように。

 他、細かい話は清川に聞くが良い。」


と答えた。清川様が、


(うけたまわ)りました。」


と答える。古川様は、


「うむ。」


と頷いた。そして、


「では、山上がいろいろと心配しておるようじゃからの。

 話を聞くから、一つだけ言うてみよ。」


と話した。


──一つだけか。


 質問が一つとなると、何を聞くべきか困ってしまう。

 私が悩んでいると、更科さんから、


大雑把(おおざっぱ)に聞いてみたら?」


と耳打ちしてきた。私は小声で、


「大雑把にですか?」


と聞き返すと、更科さんは、


「『今後どうなるか』とかどう?」


と言ってきた。

 古川様が、


「相談はもう良いかの?」


催促(さいそく)してくる。

 私は(あせ)って、


「いえ、すぐにします。」


と返事をした。そして更科さんが言った通り、今後の事を大雑把に聞こうと思い、私は、


「黒竜の魂を渡した後、どのような影響が考えられますか?」


と質問をした。古川様は、


「なるほど、それで来たか。」


と言った。ひょっとすると、先見で私の質問が一つにならなかったのかも知れない。

 古川様は、


「一番顕著(けんちょ)なのは、レベルじゃろうな。」


と答えた。私が、


「レベルですか?」


と反復すると、古川様は、


「うむ。

 黒竜の魂を受け継ぐ事で貰った経験が、全部、佳央に渡るのじゃ。

 当然であろう。」


と説明した。私は、


「そうしますと・・・、どのようになりますかね?

 確か、最初の鑑定では、私は重さ魔法と赤魔法(火魔法)、後、緑魔法(風魔法)もあったと思います。

 これらの魔法が、全てなくなるという事ですかね?」


と聞くと、古川様は、


「そうとも言えぬ。

 受け継いだ後に()た経験は、消えぬからの。

 今回に限って言えば、引き算と考えてよかろう。」


と答えた。私が、


「そうしますと、どのくらい残るので?」


と確認した。だが、古川は、


「そこまでは知らぬ。

 妾も、山上の元を知らぬからの。

 ただ、かなり弱まるとは言え、山上が思うておるよりはましじゃろうな。」


と返事をした。私は意外に思い、


「そうなのですか?」


と聞くと、古川様は、


「黒竜の魂を渡した後も、記憶は残るのじゃ。

 当然じゃろうが。」


と答えた。私はなるほどと思い、


「そうなのですか。

 ならば、雷や(植物魔法)なんかも残るのですね?」


と念のために確認すると、古川様は、


「うむ。

 黒竜から受け継いだのでないのであれば、そのままとなる筈じゃ。」


と肯定した。

 私は、


「そうですか。

 ですが、重さ魔法が殆ど使えなくなるのは、辛いですね。」


(あご)に手を当てて話した。

 私の職業は、本来、歩荷(ぼっか)だ。

 今までは、重さ魔法のお陰で、背負子を支えたり軽くしたりと色々楽が出来た。

 だが、これからはそれらが思うように使えなくなるとなれば、間違いなく大変になるに違いない。


 佳央様が、


「使った時の感覚があるなら、すぐに上がるんじゃない?

 元のレベルまで行くかは、知らないけど。」


と前向きな意見を出してくれた。私が、


「そうなると良いのですが・・・。」


と返すと、古川様は、


「記憶が残ると言うたじゃろうが。」


(あき)れたように言ってきた。そして、


「じゃが、楽観的過ぎるよりはましかの。」


と思い直したようだ。

 私は、


(いず)れにしても、全部失くなるくらいの気持ちでいます。

 そうすれば、何がどれだけ残っても、感謝ですから。」


と言うと、佳央様から、


「言うだけなら、簡単よね。」


と一言。古川様も、


「そうじゃの。」


と同意した。そして、


「じゃが、出来ると思うておらねば、やれぬ事もあるからの。

 何事も、試してみる事が肝要(かんよう)

 まぁ、ここから先は、山上次第(しだい)じゃ。」


と付け加える。


 ひょっとしたら、黒竜の魂を渡した後に何か起こるのか?

 私は巫女様の発言から、そんな気がした。


 古川様が、


「話、・・・終わった?」


と聞いてきた。どうやら、巫女様との話はここまでのようだ。

 私は、


「他にも聞きたいことはありましたが、一つだけという話でしたので。」


と答えると、古川様は少し考え、


「そう言う話に、・・・なっていた・・・のね。」


と言った。古川様には、巫女様が憑依している間の記憶がないのだった。

 私は、


「いろいろと話を省いて、すみません。

 そういう事です。」


と自分の駄目さ加減に苦笑いをすると、古川様も、


「ずっと・・・目の前にいたから、・・・仕方がないわ・・・よ。」


と、こちらも苦笑いで返した。

 清川様が、


「これで、今日は終わりかの。」


と話すと、古川様も、


「はい。」


と答えた。そして、


「この後、・・・午後からお屋敷で・・・仮の巫女の修行に付き合うように・・・言われています。

 これから、・・・お屋敷に戻りましょう・・・か。」


と今後の古川様の日程を話した。

 佳央様が、


「なら、お昼はどうする?」


と聞くと、古川様は、


「そうね・・・。」


と言って考え始めた模様。清川様は、


「屋敷で良いじゃろう。

 但し、くれぐれも卵はなしでの。」


と言ったのだった。


 冒頭の虎落笛(もがりぶえ)は、強い風が吹いた時に棒があると出る音の事です。

 部屋の外に、竹垣がある想定となります。

 橋の欄干(らんかん)等の転落防止柵等で、カラカラという音とともに聞いたことがあるかも知れませんね。


 後、仕様(しよう)もない話ですが、巫女様が言っている『たちの悪い分岐に入った』というのは、『フラグが立った』という事の言い換えです。(^^;)


・笛

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