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ムーちゃんが高価だった件

* 2019/01/01

 誤記を修正しました。

 他、影響ない範囲で言い回しを微修正しました。


 翌日、羊の刻(14時)のころ、私は田中先輩と葛町(かずらまち)の冒険者組合に出向いた。

 私は、


「里見さん、こんにちは。」


と受付に座っていた里見さんに声を掛けた。里見さんも、


「山上さん、こんにちは。」


と挨拶を返してきた。続けて、


「確か、春高山で天狗草の採取だったの思いますが、首尾は如何(いかが)でしたか?」


と、昨日の成果を確認してきた。沢山の冒険者がいるというのに、一人一人、どの依頼を受けたか覚えているのだろうなと思った私は、目を丸くしながら、


「一応採取はしましたが、途中で狂熊が割り込んできまして、あまり採れませんでした。

 それにしても、一昨日ちょっとお話しただけなのに、よく覚えておられるものですね。」


と返した。すると、


「それは先ず、先生のご紹介でしたし、一昨日はいろいろとありましたからね。

 それに、新人冒険者が初めて出かける仕事なのに、気にならないわけがありません。」


理由(わけ)を話してくれた。私は確かにいろいろあったなと思い返していると、里見さんがこちらを見ながら、


「成果の報告は報奨金を誤魔化されないように、(そろ)って聞くのが慣例ですが、更科さんは本日は来ていないのですか?」


と聞いてきた。すると、田中先輩が、


「昨日いろいろあってな。

 一応、羊の刻(14時)にここで待ち合わせということにはなっているんだが、おそらく来られないと思うぞ。」


と言った。が、その時、聞き覚えのある女性二人の声が近づいてきた。

 田中先輩は急に()()()を作って、


「おや、横山さんじゃありませんか。

 更科も、昨日の今日だが大丈夫か?」


と声を掛けた。すると横山さんが、


「聞いたわよ?

 山上くんが独自魔法らしい魔法を()み出したそうじゃない。

 早速鑑定させてくれないかしら?」


と私の方を繁々(しげしげ)と見ながら言った。田中先輩は無視された形だが、横山さんがここに来た理由は納得したようで、


「なるほど、そういうことでしたか。

 冒険者組合からの依頼ですか?」


と横山さんに聞くと、横山さんは、


「いえ、私の本業の研究のためよ。

 更科さんの話からすると、おもしろそうなスキルも身につけていそうだし、いろいろと興味をそそるのよ。」


と返事をした。私は、『興味がそそる』という単語に嫌な予感を感じ、


程々(ほどほど)にお願いします。」


と返した後、更科さんに、


「こんにちは。

 今日は依頼達成の報告を一緒にやりましょうね。」


と言った。すると、田中先輩が、


「心配の方が先だろ?」


と突っ込んだのだが、横山さんが、


「何言っているの。

 心配はしているに決まっているでしょう?

 私も断片的にしか聞いていないけど、ああいう根の深いのは時間がかかるでしょ?

 今、ここで話をして、ぶり返してもしょうがないわよ?」


と、弁護してくれた。私は更科さんの声を聞いていないのを不安に感じながら、


「薫さん、先ずは、こっちに来てもらっていいかな。」


と声を掛けると、


「うん。」


と言って、私の近くにゆっくりと来た。私は、やはり昨日の件が消化できていないのだろうなと思いながら、


「里見さん、これで全員です。

 こちらが採ってきたものです。」


と言って、山頂で採ってきた薬草を出した。


「こちらは天狗草ですね。

 あと、これが八枯草(やつがれそう)ですか。

 すみません。

 今は八枯草の依頼がありませんので、買い取り対象にはなりません。

 この草の毒は強い割には土に埋めると半日で分解されるので、井戸から離れたところに埋めてきてもらっても良いですか?」


と言われた。八手を小さくしたような葉っぱの方は、山頂で先輩が言っていたとおり毒草で、八枯草と言うらしかった。隣で更科さんが、少し笑っているようだったので、捨てる手間が増えたとはいえ、持って帰ったかいがあったのかなと思った。私は、


「はい。

 済みません、お手数をお掛けして。」


と言うと、里見さんは、


「新人の方にはよくある話ですので。」


と返ってきた。すると、後ろから沼田さんがやってきて、


「おや、八枯草ね。

 ついさっき、大食鼠(たいしょくねずみ)の討伐依頼が出たのだけど、特製の鼠団子の材料になるから買い取っておいて。」


と言って里見さんに書類を渡した。里見さんは私に、


「おや、山上さん、運がいいですね。

 大食鼠と言うのは、2~3年に一度、梅雨が始まる前に繁殖して畑の作物を根こそぎ食べ尽くす厄介な魔獣なのですが、この鼠退治に毒餌(どくえ)の鼠団子を作るんですよ。」


と説明してくれた。次に、里見さんは沼田さんに向かって、


「すみません、沼田先輩。

 こちらの取扱いは慣れていないので、できればお願いしたいのですが。」


と処理の応援を頼んだ。すると、


「新人に『頼れる先輩』と見られたいのでしょう?

 後で半分私がやるから、残りを真似てやってみなさい。」


と返した。沼田さんこそ、頼れる先輩という感じがする。里見さんは、


「はい、分かりました。

 沼田先輩、よろしくお願いします。」


と言ってから私たちに、


「それでは山上さん、こちらの天狗草の書類に(はん)をお願いします。」


と言って、書類を渡した後、別の書類を沼田さんから受け取っていた。田中先輩、私、更科さんの順に判を押した後、その書類を里見さんに渡した。里見さんは書類を確認した後、


「はい、大丈夫です。

 次は、八枯草の書類をお願いします。

 皆さん、魔力が使えますので、このペンで番号の記入をお願いします。

 その後で、三枚目のここに判を押せば依頼達成になりますので、よろしくお願いします。

 山上さんはまだ仮登録のままですので、仮番号で大丈夫です。」


と言って、別の書類と例の文鎮(ぶんちん)のような金属棒を渡された。その書類に三人の番号をそれぞれ記入し、判を押した。


「これで良いでしょうか。」


と里見さんに書類を返すと、書類に記載された番号と判を確認して、


「更科さんは三枚目の文字がかすれていますが・・・、まぁ、なんとか読めますので問題ありません。

 これで八枯草の処理も終了です。

 報酬は、天狗草は銀5(もんめ)、八枯草が銀7匁で合計12匁になります。」


と言った。田中先輩は、


「後な。

 これ、山上が狩ったんだが、買い取ってくれないか?」


と言って、私が持ってきた箱を机の上に置いた。里見さんが箱を開けると熊と目があったらしく、


「ひょいっ!”$#

 ・・・失礼しました。

 狂熊ですね。

 これは、一応常時依頼なので買い取り対象ですが、私では品質鑑定ができませんので、申し訳ありませんが、来週また来ていただけないでしょうか。

 その時に査定結果と買い取り金を準備しておきますので、よろしくお願いします。」


と言って、手ぬぐいで額の冷や汗を拭った。その後、狂熊の書類を作ったのだが、この時は、田中先輩が、


「俺は後ろで見ていただけだから、二人でもらっておけ。」


と言ったので、更科さんと私だけで書類を作った。里見さんは、


「先生もいたなら、もらうのが筋ですよ?」


と言ったのだが、田中先輩は、


「いやな。

 山上と狂熊の力の差が分かっていたからな。

 後ろから面白がってたきつけただけで、本当に、威嚇(いかく)すらしていないんだ。

 大先輩になるのに、それはさすがに貰えんだろ?」


と言って、説得していた。

 里見さんが箱に札を付けて奥にしまうと、今度は更科さんが(かばん)を机においた。


「すみません。

 あと、この子を登録したいんですけど、大丈夫でしょうか。」


と言った。里見さんが鞄を開けると、寝息を立てているムーちゃんが入っていた。


「魔獣登録ですね。

 それにしても、白いムササビですか。

 おそらく、さっきの狂熊よりも高く売れると思いますが、登録でよいですか?」


と聞いてきた。更科さんは、


「そうなのですか?

 でも、気性もおとなしいし、頭も良さそうだし、魔獣登録でお願いします。」


と言った。私は、ふと思い出して、


「白いムササビは飼いたい人が多そうですよね。」


と聞くと、里見さんは、


「はい。

 でも、それ以上に白い魔獣を子供の頃に食べると頭が良くなると言われていますので、我が子に食べさせようと買い求める商家さんが多いのですよ。」


と言った。更科さんは慌てて、


「ムーちゃんは絶対に売りませんよ。」


と言って否定した。すると、田中先輩が意地悪を思いついたらしく、


「山上と作った子供に食べさせないとだからな?」


と言うと、私は、


「そんな迷信でムーちゃんを食べさせたりはしませんよ。」


と言い返した。しかし更科さんは少し上目遣いで、


「先っちょだけとか駄目かな?」


とかわいく言ってきた。私は、


「駄目に決まっています。」


と少し怒り気味にきっぱりと言った。すると、更科さんは、少し慌てながら、


「冗談よ、冗談。

 和人、ちょっと目が怖いよ?」


と言われてしまった。里見さんが、ゴホンと咳払いをした後、


「すみません。

 次に、飼い主として認められているか確認したいのですが、良いですか?」


と聞いた。魔獣登録するとき、魔物が逃げ出すのはよくあるのだそうだ。

 私はムーちゃんを起こすと、


「薫のところに行って?」


と言ったところ、ちゃんとムーちゃんは更科さんのところに行った。

 その後、更科さんが、


「次は和人の所ね。」


と私を指差すと、ムーちゃんは私の肩に駆け登ってきた。ムーちゃんが駆け登るとき、ちょっと爪が立って痛かった。里見さんは、


「これは驚きですね。

 まるで人間の言葉を解しているようです。

 これだけ頭がいいと、食べれば頭が良くなると言われるのも納得ですよ。」


と素で言ってきたので、私が、


「駄目ですよ。」


と言うと、沼田さんも、


「里見君、そういう事は思っていても口に出しちゃ駄目よ。」


と里見さんを(しか)っていた。更科さんもムッとしている。

 私が苦笑いしていると、横山さんが、


「これで冒険者組合での用事は終わりかしら?」


と聞いてきた。私は、


「はい。」


と返事をした後、


「次は鑑定でしたっけ?

 また、どこかの部屋でやるのでしょうか?」


と質問した。すると、どうも私たちがムーちゃんの登録を行っている間に田中先輩と横山さんで話をしていたらしく、


「そうね。

 さっき、田中さんから聞いた話も総合すると、やっぱりじかに見てみたいのよね。

 少し外に出て、河原の方にでも行きましょうか?」


と返事をしてきた。

 私は、鑑定は部屋の中だろうと思っていたので、そんな広いところに連れ出して何をする気だろうかと不安になったのだった。


里見さん:これだけ頭がいいと、食べれば頭が良くなると言われるのも納得ですよ。

山上くん:駄目ですよ。

沼田さん:里見君、そういう事は思っていても口に出しちゃ駄目よ。

更科さん:(頭がいいのを食べたら頭がよくなら、みんな頭のいい人を食べさせてるわよ。

      馬鹿なこと言わないで欲しいわね!)


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