魔法が出る気配がない
* 2022/02/14
サブタイトルを変更。
仮のままだった。。。(^^;)
午後の修行が終わり、清川様と私は座敷に向かって無言で廊下を歩いていた。
庭に剥き出しの廊下は、雨は凌げるのだが、風や外気は直に来る。
いつまでも無言というのも、辛いものがある。
私は、分りやすい話題として先程の修行について話すことにした。
「やはり、駄目でしたね。」
すると清川様は、
「やはりとはなんじゃ。
やはりとは。
最初から諦めておっては、出るものも出ぬわ。」
と呆れたように返してくる。
私は沈黙から開放され、少し安心しながら、
「そうは申しましても・・・。
条件が判らない事には、暗中模索ではありませんか。」
と言うと、清川様は、
「闇雲に探すのでは上手くいかないと言いたいのじゃろ?
じゃが、気持ちは大切じゃ。」
と説明した。だが、気持ちでどうにもならない事はいくらでもある。
私は、
「気持ちですか・・・。」
と言うと、清川様は、
「そうは言うても、原因は妖狐じゃろうが。
恐らくは、肝心の穴が妖狐に塞き止められておるに違いないからの。」
と苦笑いをした。完全に、妖狐が原因と決めて掛かっているようだ。
私は、
「まだ、妖狐の仕業と決まったわけではありませんよ?」
と主張したのだが、清川様は、
「じゃから、あまり妖狐の肩を持つでないと言うておるじゃろうが。
山上は、狐憑きとの境界線におるようなものなのじゃ。
そのような言動を繰り返せば、狐憑きとして捕まっても知らぬからの?」
と、また叱られてしまった。
座敷の前に着いたので立ち止まり、
「そのように申しましても、決めつけるのは早計です。
単に、私の出来が悪いだけかも知れませんし。」
と反論すると、清川様から、
「まだ、言うか。」
と呆れられてしまった。
障子を開け、座敷の中に入る。
入ってすぐ、更科さんから、
「何かあったの?」
と聞かれた。どうやら、座敷の外での会話が聞こえていたようだ。
私は話してもよい範囲はどこまでかと考えながら、
「はい。
実は、私は妖狐が憑いた事で、他の魔法も使えるようになったらしいのです。
ですが、いくら試してみても、一向に魔法が出る気配がありません。
それで、何が原因で使えないのかという話になりまして・・・。」
と苦笑いしながら答えた。だが、佳央様と更科さんが、不思議そうに私を見てきた。
恐らく、説明不足だからなのだろう。
そう考えた私は、
「ほら。
私は黒竜の魂が憑いて、重さ魔法が使える様になったではありませんか。
あれと同じで、今度は妖狐も憑いたのです。
妖狐が使う魔法が新たに魔法が使えるようになっても、不思議ではないと思いませんか?」
と、もう一歩踏み込んだ説明をした。すると佳央様が、
「そうね。
でも、それなら使えなくてもしょうがないんじゃない?」
と言ってきた。私は、
「いえ、使える筈なのです。」
と主張したのだが、佳央様も更科さんも、やはり不思議そうな顔をした。
佳央様が、
「使える筈って、想像じゃないの?」
と質問をする。
勿論、この話は妖狐から聞いたので、想像というわけではない。
だからと言って、瞑想中、夢でもないのに妖狐と話をしたとバレるわけにもいかない。 私は困ってしまい、
「何と伝えたら良いのでしょうか・・・。」
と言いながら座布団に座った。
佳央様から、
「明日、巫女様にでも聞いてみる?」
と提案してきた。
私は、
「怒られないなら、そうするのですが・・・。」
と言葉を濁す。巫女様相手に魔法の指導をしてくれというのは、流石に憚りを感じるからだ。
清川様からも、
「そのような事、聞けば怒られるに決まっておるじゃろうが。」
と同意見のようだ。私は、
「やはり、そうですよね。」
と苦笑いで返した。
だが、佳央様はそうは考えていなかったらしく、
「でも、妖狐絡みじゃない。」
と当たり前のように指摘した。
更科さんから、
「でも、聞いたら金子って言われない?」
と一言。清川様も、
「うむ。
妖狐が絡むのであれば、言われぬやも知れぬ。
じゃが、そもそも山上の問題の可能性もあるのじゃ。
その時には、恐らく、相談したという事で金子を取られるじゃろうな。」
と条件付きだが同意した。
更科さんが、
「やっぱりそうよね。」
と苦笑いした。
そういえば、清川様は先程まで妖狐のせいだと断言していた。
なのに、今度は私の方に問題がある可能性を指摘した。
と言う事は、実は私に気を使って、魔法が出せないのは妖狐のせいだと言っていたのかも知れない。
妖狐には悪いが、私はちょっぴり、清川様の優しさを感じたのだった。
障子が開き、下女の人が膳を運んでくる。
お膳には、里芋や牛蒡と肉の入った煮物、蕪と人参の膾、大根葉のお漬物、吸い物、白飯が並んでいる。
吸い物には、白くてふわふわした物が浮いている。
清川様は何かを感じたのか、
「よもや、この白いのは・・・。」
と言ったのだが、下女の人はニッコリと笑うだけ。
二人の様子から、これが卵料理だという事が覗える。
清川様は、
「お昼にも、卵が出ておったじゃろう。
今日は、あれだけではないのか?」
と聞くと、下女の人は、
「お昼も出たのですね。
お勝手に申しておきます。」
と頭を下げた。
清川様が、
「そち、確かお昼も運んできとったじゃろう。」
と指摘すると、下女の人は、
「申し訳ありません。
忘れておりましたが、摺った山芋に鶉の卵が落としてありました。」
と返事をした。清川様が、
「うむ。
今度から、日に一度までで頼むのじゃ。」
と注文を付けると、下女の人は、
「お勝手に伝えておきます。」
と返事をして下がっていった。
夕食が終わると、更科さんから、
「それで妖狐、大丈夫なの?」
と聞いてきた。私が、
「大丈夫とは?」
と聞き返すと、更科さんは、
「座敷の外から、清川様が狐憑きとして捕まっても知らないって言っているのが聞こえたのよ。」
と質問をした理由を話した。私が捕まると聞けば、更科さんが心配するのは当然だろう。
私は更科さんを安心させようと思い、
「大丈夫ですよ。
今の問題は、黒竜帝に預けていますし。」
と現状を説明した。佳央様から、
「黒竜帝?」
と突っ込みが入る。
今、妖狐や黒竜帝とは、夢でしか話をしてはいけない事になっている。
私は慌てて辻褄を取ろうと、
「実は、今日、瞑想の時間にうたた寝しまして・・・。」
と言い訳を始めた。だが今度は清川様から、
「暫し待て。」
と話を止め、
「今、『うたた寝』と言うたか?」
と確認が入った。辻褄を取るためには、肯定するしか無い。
私は、
「申し訳ありません。」
と謝ると、清川様から、
「そういう態度で瞑想しておったか。
そのような事では、意味がないじゃろうが。」
と叱られてしまった。私は、
「いえ、確かに普通は駄目だと思います。
ですが、どのような条件で魔法が使えるのか、妖狐に直接聞いた方が早いではありませんか。
なので、今回は特別です。」
と言い訳を正当化するための言い訳を重ねる。
清川様から、
「昼間はそのような事、申しておらなんだが?」
と強い目線とともに指摘した。私は、
「いえ、・・・怒られると思いましたもので・・・。」
と誤魔化した。
清川様が、
「それはそうじゃ。
・・・待てよ。
そう言えば瞑想の時、突然『分かりました』と言い出しておったの。
それは、寝ておったからか。」
と合点がいった様子。続けて、
「廊下でも、『やはり』と申しておったの。
あれは、黒竜の預かりになったのじゃから、出来なんでも当然という意味か。」
ともう一言。清川様から、
「山上よ。
分かっておったなら、ちゃんと話をせぬか。」
と怒られ。私は、
「申し訳ありませんでした。」
と謝って、なんとかこの場を凌いだのだった。
作中の山鯨は、「どうせ飲んで誰も聞いておらぬじゃろう」の後書きの通り猪の事です。
表向きは肉食は忌まれていたのと、当時、鯨は海にいたので魚の括りとなっており、食感も似ていた事から、猪を山鯨と呼んでいたそうです。
「獣に襲われた」の後書きでも登場した『ももんじ屋』で取扱いがありました。
もう一つ、吸い物に浮いていた白くてふわふわしたものは、淡雪卵となります。
こちらも、卵百珍からとなります。
・鯨肉
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%AF%A8%E8%82%89&oldid=86691088
・ももんじ屋
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%82%E3%82%82%E3%82%93%E3%81%98%E5%B1%8B&oldid=85451508
・淡雪卵
http://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/tamago-hyakuchin/recipe/031.html.ja




