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神社を出発

*2022/03/21

 誤記の修正やルビの追加等をしました。

 白装束が、清川様の緑魔法(風魔法)で乾いた。

 だが、乾くまでのその間、ずっと体の熱を奪われ続けたその反動か、今は逆に体が熱くなっている。

 風邪の引き始めだろうか。

 心配なので、今日は早めに寝ることに決める。


 朝食の時間、他の(みんな)は、普通のご飯とお味噌汁、白菜のお漬物とかもじ卵という卵料理だ。

 だが、清川様と私だけは、お(かゆ)のみ。

 勿論(もちろん)強粥(こわがゆ)ではなく汁粥(しるがゆ)

 こんな朝食では、力が出ない。


 ちなみに、かもじ卵の見た目は、黒くて細い何か。

 これをひとくち食べた佳央様は、


「黒いけど、卵ね。」


眉間(みけん)(しわ)を寄せ、更科さんも、


「昆布の佃煮かと思ったわ。」


と言いながら、微妙な顔をして食べていた。



 朝食を食べた後は、清川様と一緒に神社に移動する。

 ここから行列を作って、お屋敷に向かうそうだ。


 神社の境内で、坂倉様、庄内様、清川様、古川様と私の5人で並んでいた。

 (みんな)、正装だ。

 今の私の服装は、紺のやたらと(そで)の広い着物に浅葱色(あさぎいろ)の袴で、尻尾(しっぽ)のついた変な(かぶ)り物も(かぶ)らされている。

 勿論(もちろん)、私はこのような着物を持っていよう筈もない。

 清川様が、これを着るようにと貸してくれたのだ。だが、借りた着物はしっかりと(のり)が利いていて、はっきり言って動きづらかった。


 私が、


「これで全員でしょうか。」


と聞くと、坂倉様が、


「いや、もう一人来る。

 今は、(まく)を取ってこさせておるのじゃ。

 (しば)し待て。」


と答えた。だが私は、ここにいる人達ぐらいしか面識がない。

 私は、


「どのような方が来るのですか?」


と聞くと、坂倉様は、


赤谷(せきや)じゃが、山上は初めてじゃったかの。」


と確認した。恐らく、道を作っていた頃に見かけた筈だろうとは思うのだが、どの人がそうなのか区別がつかない。

 私は首を(ひね)りながら、


(おそ)らくは。」


と返した。清川様が、


「私の少し下での。

 気の良いやつじゃ。

 仲ようするがよい。」


と話した。どうやら赤谷様は、清川様と歳が近いらしい。



 暫くして、棒に錦の垂れ幕が着いたものを2本抱え、黒光りのする変な履物(はきもの)を持った人が現れた。

 私と同じくらいの背で、鼻筋の通った別嬪(べっぴん)さんだ。

 その人が、


「お待たせして、申し訳ありません。」


(みんな)に頭を下げると、私に、


「山上さんですね。

 赤谷と申します。」


と落ち着いた声で挨拶をした。振る舞いにも、気品がある。

 私は少しドキドキしながら、


「はい。

 はじめまして。

 山上です。」


と挨拶を返した。

 赤谷様が私の目を見ながら、


「こちらをどうぞ。」


と2本のうちの1本の棒を私に差し出してきた。別嬪さんとしっかり目が合い、なんとなく照れくささを感じる。

 私は坂倉様の方を見て、


「これは?」


と聞くと、坂倉様が、


「清川。

 説明せなんだのか?」


眉間(みけん)に皺を寄せた。

 清川様はしまったという顔をして、


「忘れておりました。

 これから説明します。」


と慌てて言うと、私に、


「赤谷と山上には、それを持って我等を先導してもらう。

 道は主に大通りを通るが、全て赤谷が分かっておる。

 随時、指示を出すじゃろうから、言う事を聞くのじゃぞ。」


と簡単に説明した。私は名付けの時を思い出し、


「ひょっとして、足運びとかも決まっていますか?」


と聞いた所、清川様は、


「それはそうじゃ。」


と肯定し、


「知らぬのか?」


と確認してきた。

 私は、教えてもらった覚えがないのに、知らないのは当然だろうとは思ったが、


「申し訳ありません。

 分かりません。」


と返事をした。すると、清川様は、


「そうか。

 知らぬか。」


と一瞬だけ眉を(ひそ)めたのだが、


「ならば、これからやって(しん)ぜよう。

 よく見ておるのじゃぞ。」


と言った。私は、


「ありがとうございます。」


と感謝を伝えると、清川様は、


「うむ。」


(うなづ)いた。

 清川様が、


「では、やるぞ?」


と断ってから、


「先ずは右じゃ。」


と言いながら所作を始める。

 右足を1歩踏み出した後、左足を動かして右足に(そろ)える。

 そして、


「次は、左じゃ。」


と言いうと、今度は左足を踏み出した後、右足を動かして左足に揃えた。

 清川様は、


「これを繰り返していくのじゃ。

 よいか?」


と確認する。

 私は、


「こうですか?」


と言いながら真似てみたのだが、清川様は、


「足元が草履ではないか。

 赤谷から浅沓(あさぐつ)も受け取らぬか。」


と怒られた。赤谷様がさっと変な履物を差し出しながら、


「こちらです。」


と言って渡してくる。足元を見ると、他の人もこの変な履物を()いてた。

 私は、先に棒のと一緒に渡してくれれば良かったのにと思ったが、


「ありがとうございます。」


とお礼を言った。


 浅沓を()いてみる。

 足に、馴染まない。


 ひとまず数歩、歩いてみる。

 からりと音が鳴る。

 大変歩きにくい。


 この浅沓、鳴った音からして、全部木で出来ているようだ。

 後、草履と違って、全く曲がらない。


 私は清川様に、


「草履では駄目ですか?」


と聞いたのだが、坂倉様から、


「駄目に決まっておる。」


と一言。清川様からも、


「そういう事じゃ。

 後、この浅沓じゃがな。

 慣れぬと、抜けたり()けたりするのじゃ。

 今のうちに、しっかり歩いて慣らしておくのじゃぞ。」


と言ってきた。私は、


「いつ出発ですか?」


と聞くと、清川様は目を()らして、


「もうすぐじゃ。」


と答えた。庄内様が、


「気合で何とかするのじゃな。」


と根性論を言ってくる。私は、


「そんなご無体な・・・。」


と思わず漏らしてしまった。古川様が、


「重さ魔法で・・・、浅沓を持ち上げて・・・、歩くのは・・・どう?」


と聞いてきた。

 物は試しなので、やってみる。

 が、片方の足がせり上がってくる感覚がどうにも慣れない。

 私は、


「これは、ちょっと難しそうです。」


と返すと、古川様は、


「そうなの・・・ね。」


と残念そうに言った。だが、まだ何か考えてくれているようだ。

 私は、いい案が出てくることを期待した。


 兎に角、一刻も早く慣れるしか無い。

 そう考え、私は歩く練習を初めたのだが、すぐに坂倉様から、


「そろそろ、行くかの。」


と声が掛かった。私は、


「この履物が辛いのですが・・・。」


と訴えたのだが、坂倉様は、


「ゆっくり歩くが良い。

 転ばぬようにの。」


と取り合ってくれない。私は、


「すみませんが、草履になりませんか?」


ともう一度お願いしたのだが、坂倉様は、


「そういう訳にはゆかぬ。

 我慢せい。」


と却下された。清川様から、


「絶対に、転ぶでないぞ。」


と圧が掛かる。私は困って、


「その様に言われましても・・・。」


と返したのだが、坂倉様から、


「四の五の言うでない。

 行くぞ。」


(しか)られ、仕方なく列に並ぶ。

 そこで古川様から、


「重さ魔法で・・・、体の方を支えたら・・・どう?

 ()けないように・・・ね。」


と新しい案を提示した。だが、私は重さ魔法を自分に掛けるのは得意ではない。

 私は、


「折角考えていただいたのに、申し訳ありません。

 普段、私は背負子(しょいこ)を持ち上げて軽くしたりはするのですが、自分の体を持ち上げるのは苦手でして・・・。」


と苦笑いしながら謝ると、古川様は、


「なら、・・・棒の所を持ち上げてみたら・・・どう?」


ともう一つ案を出してきた。私は、その手があったかと思い、


「分かりました。

 早速、試してみます。」


と返して、棒を持ち上げ、それに(つか)まるようにして歩いてみた。

 先程とは違い、掴まる所がある分、随分と楽に歩ける。

 私は、


「ありがとうございます。

 これなら、なんとかなりそうです。」


と古川様にお礼を言った。坂倉様から、


「それは分かったから、もう始めぬか。」


と怒られる。赤谷様から、


「では、参りましょうか。」


とにこやかに言って歩き始めた。

 私も足運びに気をつけながら、急いで歩き始める。

 坂倉様から、


「二人、足を揃えぬか。」


と待た怒られた。私は慌てて、


「申し訳ありません。」


と言ったのだが、赤谷様から、


「私が合わせます。

 慣れていますので。」


と言ってくれた。私は、


「ありがとうございます。

 大変申し訳ありませんが、宜しくお願いします。」


と横を向きながらお礼を言った。

 その拍子に、体が傾き転びそうになる。

 重さ魔法で棒を(あやつ)り、なんとか体勢を立て直す。

 清川様から、


「気をつけるのじゃぞ。」


と心配さる。

 この浅沓、ちょっとした事でも、転びそうになる。

 私は、こんな調子でお屋敷まで無事に辿(たど)り着けるのだろうかと心配になったのだった。


 作中の強粥(こわがゆ)は、普通に炊いたご飯のことです。


 あと、かもじ卵というのは、黒く色付けした錦糸卵です。

 今回も万宝料理秘密箱 卵百珍からですが、このオリジナルレシピでは黒く色付けするのに鍋墨を使っていたようです。鍋墨は鍋や釜の底等に付着した黒いすすなので、あまり食べない方が良さそうです。

 人文学オープンデータ共同利用センターで紹介されている現代版のレシピでは、鍋墨の代わりにイカ墨を使っていました。これなら、食べても健康上の問題はなさそうですね。


 もう一つ、山上くんが言っている『紺のやたらと(そで)の広い着物』『浅葱色(あさぎいろ)の袴』『変な(かぶ)り物』『尻尾のついた変な履物』は、それぞれ紺色の(ほう)、浅葱奴袴、冠、浅沓(あさぐつ)となります。冠は烏帽子(えぼし)(かんざし)(えい)が付いたやつで、浅沓は作中の通り木で出来た(くつ)です。

 雛人形とか平安時代の御所勤めの人等を思い浮かべると良いかと思いますが、身分によっての着物の着分けとかはおっさんもよく分かっていないので適当です。(--;)


 最後、『洗いたての着物は、しっかりと(のり)が利いている。はっきり言って、動きづらい。』と書きましたが、最近は洗濯で糊を使わないのでここも説明を入れておきます。

 昔は洗い張り(あらいばり)などの洗濯する時、糊を使っていました。

 このため、糊が利いていると型崩れししにくく光沢も出るので、お洒落(しゃれ)できちんとしているように見えます。ですが、利きすぎると着物が固くなってしまい、普段よりも動き辛くなります。

 糊と言えば、古文の授業か何かで『唐衣 着つつなれにし つましあれば〜』(伊勢物語)というのを習った人もいると思います。おっさんも、この『着つつなれにし』の部分は、洗濯して糊が利いた状態から『着続けて柔らかくなった』と解釈すると聞いてなるほどなと思ったものです。

 遥か、四半世紀も前のお話ですが。。。(^^;)


・かもじ卵

 http://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/tamago-hyakuchin/recipe/003.html.ja

・袍

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%A2%8D&oldid=79516532

・日本の冠

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%86%A0&oldid=79532488

・神職

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%A5%9E%E8%81%B7&oldid=87312624

・洗張

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%B4%97%E5%BC%B5&oldid=84627707


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