単調な作業
*2022/02/23
誤記の修正やルビの追加等をしました。
私は、黙々とお札の木を紙で包む作業を続けていた。
私が作った数は、半刻ほどでようやく10個。古川様は、14個。
古川様は、澱みなくどんどんと作業を行っている。
だが、私が来た時、坂倉様はまだ百くらいあると言っていた。つまり、まだこの4倍も作らないといけない。
そう考えると、私は気が重くなった。
単調な作業が続く。
急ぐと折り目がズレそうになるので、慎重に作業を行う。
だが、半刻も作業をすれば、だんだんと集中力が無くなるというもの。
体が、むずむずしてくる。
みんなが黙々と作業をする中、私は限界を感じ、
「すみません。
顔を洗って、気合を入れたいのですが、井戸はどちらにあるのでしょうか。」
と質問をした。古川様が、
「厠?」
と聞いてきた。私は、
「いえ、井戸です。」
と訂正する。だが、清川様から、
「来る前に、用を足したと言っておったではないか。
年寄りでもあるまいに。」
と言われてしまった。私は、
「ですから、厠ではなく、井戸で顔を洗いたいのです。
先程から同じ作業で、落ち着きが無くなってきましたので。
冷たい水で顔を洗って、気合を入れ直したいのですよ。」
と説明をした。
古川様は、
「そう・・・なの?」
と聞いてくる。私は古川様に返事をしようと思ったのだが、その前に坂倉様が、
「年端もいかぬ者ほど、長い時間、じっとしておられぬというもの。
清川よ。
案内してやれ。」
と言ってきた。子供扱いされたようで、少しムッとなる。
だが、説明しても言い訳と捉えられるだけと考え、私は、
「ありがとうございます。
助かります。」
とお礼を言った。
清川様が立ち上がり、
「では参るぞ。」
と言って歩き出す。私は慌てて、清川様に続いた。
清川様が襖を開けて外に出る。私もそれに続いて外に出る。一度振り返って、中に一礼、襖を閉めた。
清川様から、
「厠はこっちじゃ。」
と言って歩き始めた。私は『まだ厠と言うか』と思い、
「すみません。
本当に、井戸に行きたいのですが・・・。」
ともう一度お願いすると、清川様から、
「井戸へ行く途中に、厠があるのじゃ。
それに、次に本当に厠に行きとうなった時、また案内するは面倒じゃろうが。」
と説明された。私は、
「なるほど、そう言う事でしたか。
では、お願いします。」
と言って、清川様に付いて行った。
厠と井戸の場所を教えてもらう。
私は井戸で顔を洗うと、
「お待たせしました。」
と清川様に言った。だが、よく考えると、清川様に待ってもらう理由もなかった気がしてきた。
私はそのまま、
「しかし、清川様。
先に戻られても良かったのでは?」
と聞くと、清川様から、
「逃げられても困るからの。
見張っておったのじゃ。」
と答えた。私は、
「逃げませんよ。」
と少し語気を強めに返し、
「これでさっぱりしましたので、また暫くは作業ができそうです。
早く戻りましょうか。」
と言うと、清川様も、
「そうじゃの。」
と同意した。
またさっきの部屋に戻って、作業を再開する。
古川様は相変わらずで、作業が丁寧で早い。
私は、急いで作業しても紙の端がズレたり浮いたりするので、ゆっくり丁寧に作業をしていった。
1刻後、古川様が、
「頑張った・・・ね。
これで、・・・終わり・・・よ。」
と言った。次に包むべき板は、確かになくなっている。
だが、紙の方はまだ少し残っていたので、私は、
「でも、まだ・・・。」
と紙を指差したのだが、古川様は、
「あれは、・・・失敗した時の予備・・・よ。」
と言った。そう言えば、私は最初の頃、いくつも失敗をした。
失敗するのを織り込んだ上で、材料を手配してあったのだろう。逆にそうでないと、一つも失敗できなくなってしまう。
私は、
「なるほど、それもそうですね。」
と返した。坂倉様が、
「では、参るかの。
清川、古川、札を持て。」
と言って立ち上がった。
二人が出来上がったお札を三方に乗せ、持ち上げる。
そして、全員で本殿に移動した。
本殿の中は、まだ日が高いというのに、薄暗くなっていた。
足元を箱に入った灯りで照らしているのだが、ほとんど光がなく、あまり役に立っていない。
仕方がないのでスキルを使い、周囲の温度を見ながら歩く。
正面の上座には、一段高い所がある。私達は持って来たお札を、別の大きな三方に三角の山の形に積み上げた。
そして、その四方に壺を置き、そこに笹のようなものを刺して、細い七五三縄を結んで囲む。
作業が一通り終わると、下座の方に皆で座った。
坂倉様が、
「山上は、祈祷を見るのは初めてか?」
と聞いてきた。私は、祈祷というのと名付けは同じものという理解だったので、
「いいえ、赤竜帝にやってもらいました。」
と答え、
「それで、今日は誰を祈祷するので?」
と質問をした。だが坂倉様は、
「誰とは?」
と聞き返してくる。私も、
「祈祷ですよね?」
と聞き返すと、坂倉様は、
「そうじゃ。」
と答えた。庄内様が、
「言葉に相違があるのではないか?
山上よ。
祈祷とはどのような物か言うてみよ。」
と確認が入る。
私は、
「祈祷というのは、竜人様達の言うところの名付けではないのですか?」
と聞くと、清川様は、
「そうではない。
清めたり、札に効力を与えたりする儀式じゃ。
今回であれば、この木札じゃな。
紫魔法を掛け、これを付けた所が壊れにくくなるようにする。
そうすると、雨漏りがしにくくなったり、建物が頑丈になったりするのじゃ。」
と答えた。清川様は、首を傾げながら、
「まだ、説明しておらなんだか?」
と質問をする。私は、若干の違和感はあったが、雨漏りがしにくくなるという話に聞き覚えがあったので、
「そう言えば、教わったような気がします。」
と答えた。
清川様は、
「一度聞いただけでは覚えきれぬは、判らぬでもない。
まぁ、精進せよ。」
とあまり追求する事はなかった。
雑談しているうちに、存在感のある気配が近づいてくる。
周りの人達が、一斉に話すのを止め、床までしっかりと頭を付けて土下座する。
特に指示されたわけではないが、私も周りに合わせて土下座した。
誰かが上座に座る。
上座から、
「今日は、山上もおったか。
直接逢うは、二度目じゃったかの。」
と声がした。私が取次を待っていると、庄内様から、
「巫女様がお聞きじゃ。
話すが良い。」
と言ってきた。私は、
「直接話して良いので?」
と庄内様に質問すると、庄内様は、
「なるほど、山上は直接話せる身分ではなかったか。
取り次ぐゆえ、話すが良い。」
と答えた。私は、
「宜しくお願いします。」
と言ってから、巫女様の声は聞こえていたのだが、直接巫女様を見たり、声を聞きしてはいけないと言われていたのを思い出し、
「それで、巫女様は何と仰せで?」
と確認した。庄内様は、
「面倒じゃが、仕方あるまい。
巫女様は、2度目かと聞いておる。」
と取り次いでくれた。私は、
「『はい』とお伝え下さい。」
と庄内様に話しをする。庄内様が巫女様に、
「2度目であっておるそうです。」
と伝える。すると巫女様ではなく古川様が、
「山上も、いちいち面倒な仕来りを守りおってからに。
直接話せば良いものを。
これなら、文句もなかろう。」
と話し始めた。巫女様は、古川様に憑依したようだ。
私は、
「すみません。
以前、直接見たり言葉を聞いてはならないと言われていたもので・・・。」
と謝ると、古川様は、
「本来は、このように喋るのも仕来りに反するのじゃぞ?
が、まぁ、今日はこれで良い。」
と苦笑いしているようだ。私は、
「申し訳ありません。」
と謝った。
古川様は、
「よい。」
と許すと、
「これから、この札を祈祷するが、今日は特別に、頭を上げることを許す。
しっかりと、見て学んで帰るが良いぞ。」
と話した。私が、
「ありがとうございます。」
とお礼を言うと、古川様は、
「うむ。
ついでに、飯も食べて帰るが良いじゃろう。
今日は、大したものは出ぬがの。」
と夕食のお誘いを受けた。私は、
「はい。
どのようなものが出てくるか、楽しみです。」
と返事をしたのだが、古川様は、
「期待するでない。」
と苦笑いしているかの声で返した。
巫女様が、
「では、始めるぞ。」
と声を掛ける。どうやら、憑依を解いたようだ。
巫女様が、祝詞を読み上げ始める。
それに合わせ、庄内様と坂倉様がお札に向かって大麻を動かす。
スキルで魔法を見ると、その動きに合わせてお札に呪いが掛かっていくのが見えた。
私は、なるほどこうやってお札は作られていくのかと感心したのだった。
作中、「足元を箱に入った灯りで照らしている」という表現がありますが、こちらは陰灯となります。
陰灯というのは、浄暗の中、神事を執り行う時に使う行灯のようなものです。作中にあるように箱に入っているので、持ち運びが出来、箱の前面から仄かに光が出るようになっています。これを使って、足元などを照らすそうです。
・灯籠
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本年も、これで終わりとなります。
拙い書きっぷりで恐縮ですが、来年も引き続き読んでいただけると幸いです。




