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障害物を対処した

* 2019/08/17

 長さの表記を変更しました。

「予定よりも遅いからな。

 帰りは普通の登山道を使うぞ。」


と言って、田中先輩は薮道には入らず、普通の山道を歩いていた。

 山小屋があるくらいなので、この道は日に数人くらいは利用しているのだそうだ。

 さすがは登山道、今日も誰かが先に下山していたようで、上りの時と違って、蜘蛛の巣も少なかった。

 上りはあんなに大変そうだった更科さんも、今はムーちゃんを背中に乗せて降っていた。


 このまま下まで楽に降りられるのかと思っていたのだが、そこは山道。山の高いところでは、見晴らしはよいが、左右とも崖じゃないかと思えるような痩せ尾根があった。

 私は今、山小屋に納めた以上の狂熊の素材などで(かさ)んでしまった荷を背負って降っている。

 ここで滑ったら人生終了するなと思うと、ぞっとしたが、何故か更科さんは平気な様子で普通に歩いていた。高いところは怖くないのかもしれない。

 山腹でも、大きな岩や倒木が道を塞いでいるところが何ヶ所かあった。田中先輩は軽く、


「山上、この岩、邪魔だから殴ってくれ。」


と言った。私は、身体強化して岩を砕いてみろと言っているのだと理解して、


「こんなに大きな岩、砕けるものなのですか?」


と聞き返すと、田中先輩は、


「やってみれば判る。

 まずはやってみろ。」


と言っていた。何か理不尽さを感じながらも、田中先輩の前まで歩き、黄色い魔力を集めて拳で殴った。

 すると、大きな岩が真っ二つに割れた。田中先輩は、


「勢いが足りないな。

 もう一回な。」


と言って、催促した。私は荷を下ろして、黄色い魔力を先よりもたくさん集めていたところ、更科さんが、


「土魔法とかが使えると楽なのにね。」


と言った。私は、


「土魔法が使えると、どんなことが出きるのですか?」


と聞くと、更科さんは、


「鉱山なんかで岩盤を砕いたり、柔らかい砂地なんかに家を立てるときに、地面を固くしたりするのがわかりやすいかなぁ。

 でも、素手で叩き割るのも、なんか男らしくてかっこいいね。」


と解説してくれた後、叩き割ったのをかっこいいと言われて嬉しくなった。が、調子に乗ると良い事は無いので、良い手は無いかと考え、私は田中先輩に、


「土魔法のお手本を見せてもらってもよいでしょうか?」


と聞いてみた。すると田中先輩は、


「あぁ、見て真似しようってことか。

 まぁ、いいだろう。

 俺、土はあまり得意じゃないぞ?」


と前置きをした後、呪文の詠唱を始めた。


「土ノ中ニ眠ル(なまず)ヨ、我ニ力ヲ貸シタマエ。」


田中先輩が詠唱を進めると、上に向けていた手から徐々に茶色の魔力が出て球状になっていくのが判った。よく見ると、球状になっただけではなく、球の中で力が渦巻いているようだった。


「・・・粉砕(ふんさい)!」


と言って手を前にかざすと、その魔力の玉が二つに割れた一方の岩に吸い込まれていった。しばらくすると、岩にひびが入り、砂状になって崩れた。


「まぁ、こんな感じだな。

 行けそうか?」


と聞いてきたので、私は、


「試してみます。」


と言って、茶色い魔力を集めてみた。すると、地面から予想以上の茶色い魔力を引き出すことが出来た。

 私は、茶色い魔力に()()を加えてからもう一方の岩に投げた。すると田中先輩は慌てて、


「お前、何やってんだ!

 あれじゃ吹っ飛ぶぞ!」


と怒鳴りながら私の前に出て、


「我ノ壁トナレ炎壁!」


と怒鳴り声のまま、早口で詠唱をした。魔法の塊が岩に当たり、ドーンと爆発をしてすごい勢いで瓦礫が四方八方に飛び散った。私は飛んでくる岩に思わずしりもちをついたのだが、炎の壁が下からボワッとせり上がってきて飛んできた瓦礫を防いでくれた。田中先輩は、


「お前な、土魔法に風魔法混ぜてどうするんだよ。

 さしずめ、俺の土魔法が回転していたら、無理やり回したのかもしれんが、風魔法で動かすのは駄目だぞ。

 さっきのは、当たっても死にはしないだろうが、大怪我(けが)させる(たち)の悪い魔法だぞ。」


と言った。更科さんの方を見ると、私と同様、地面にへたり込んでいた。怪我がなさそうで安心した。

 続けて田中先輩は、


「あれは使いどころはいろいろとありそうだが、人相手には絶対に使うなよ!

 あと、魔物が相手だとしても、自分で防御できるようになるまでは使うなよ!」


と言ったのだが、更科さんの方を見たことに気を悪くしたらしく、


「お前、人の話、聞いてるのか?

 自分の女が気になるのもわからなくはないが、重要な話をしているんだ。

 ちゃんとこっち見ろ。」


と起こられてしまった。私は、


「すみません。

 でも、私が原因で(かおり)が怪我をしていないかと気が気ではなかったもので。」


と言い訳をすると、田中先輩は、


「まぁ、後味が悪いのは判るがな。」


と、少しだけ納得した感じで話した。私は、


「本当にすみません。


 ・・・似せたら出来るものと思い込んでいました。

 こんな時は、どのようにしたらよいでしょうか。」


と田中先輩に聞くと、


「まぁ、謝るしかないな。

 後は、小さく作ってどうなるか実験してから使うようにしろよ。

 規模が変わると性質が変わる魔法もあるが、ある程度は把握できるぞ?」


と言って助言をくれた。私は、田中先輩と更科さんに平謝りするしかなかった。


 しばらく降ると、今度は更科さんの身長と同じ5尺(150cm)くらいの幅で山道が崩れているところがあった。田中先輩は、


「山上、これも対処してみろ。」


と言って、課題を出してきた。魔法だけで解決するとまた間違いが起きるような気がしたので、適当な木を5~6寸(15cmちょっと)の幅になるように鉈で切って、蔦で縛った橋を作ってもう一方の方に渡した。足場が悪いので滑って落ちないかとも思ったのだが、割と安定していたので、すんなり渡ることが出来た。

 そこでふと、更科さんの背中のムーちゃんと目が合った気がした。そういえば、ムーちゃんと出会ったあたりで山に帰るか様子を見るという話をしていたのを思い出した。

 だが、今は登山道を歩いているが、()ったところは薮道(やぶみち)の方なので、既にこの話が頓挫している事に気がついた。

 私は、『しまった』と思ったが、気がつかなかったふりをして(ふもと)の登山口まで降りていったのだった。


不用意なクラスター攻撃は、自分にも飛んでくるので注意しましょう。(--;)


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