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振り出し

 今はまだ、未の刻(14時)くらい。

 私達は、佳央様を先頭にぞろぞろと連れ立って道場に移動した。


 道場の床に、おかしこまりをする。

 佳央様が下女の人に、


「この辺りの呪い、書き出せそう?」


と質問をすると、下女の人は、


「先日、井戸の蓋の件を調べた時に(まと)めてございます。

 もう(しばら)く、お待ち下さい。」


と答えた。佳央様が、


「そう。」


と一言だけ返事をする。

 次に私を見ると、


「和人。

 次は、魔法を集める条件ね。」


と言ってきた。私は、


「呪いを集めたら、また騒ぎが大きくなりませんか?」


と疑問をそのまま口にする。

 だが、佳央様は、


「そうね。

 だから、他のを集めて。」


と言ってきた。『他の』というのは、魔法以外の魔法ということなのだろう。

 私は、


「具体的には、何が良いのでしょうか?」


と聞いてみたのだが、佳央様は、


「部屋の中だから、赤魔法(火魔法)以外なら何でも。

 そうね・・・。

 例えば緑魔法(風魔法)なんてどう?」


と答えた。私は、


「緑ですね。

 分かりました。」


と言って、魔法の練習の時と同じく深呼吸しながら両手を頭の上にあげる。次に、息を吐きながら手をぐるっと回しつつ降ろしていく。手が胸のあたりまできたら、今度は前に突き出す。そして、その両手の間に緑魔法(風魔法)を集める。

 魔法で見ると、両手の間にぼんやりとした緑の玉が見える。

 佳央様が、


「緑は駄目ね。

 次、黃色魔法(身体強化)はどう?」


と言ってきた。恐らく、風の流れなんて部屋のどこにでもあるから、参考にならなかったのだろう。

 私は、


「分かりました。」


と返事をして、緑魔法(風魔法)を集めるのを()める。

 また同じ所作をして、黃色魔法(身体強化)を集め始める。

 両手の間に、鼈甲飴(べっこうあめ)ではないが透き通った黄色い玉が出来上がる。

 私が、


如何(いかが)でしょうか?」


と確認すると、佳央様は、


「そうね。

 和人の視界の中から、集めているようにも見えるわね。」


と言った。私は、


「それなら、井戸の件は私は無実ということですか?」


と確認する。佳央様は、


多分(たぶん)ね。」


と肯定した。私は、


「だそうですよ?」


と古川様に言ってみる。古川様は、


「私・・・、断定は出来ないけどって・・・言ったよ?」


と返してきた。私は、少し、むかっとしたが、


「確かに、そうですね。」


と気持ちを(おさ)える。

 佳央様から、


「和人。

 もう疑いが晴れた気でいるみたいだけど、まだ確定じゃないからね。」


と釘を刺されてしまった。どうやら、まだ無罪と言うには気が早いらしい。

 私は、


「結局、呪いを集めないことには解らないということですか?」


と確認する。佳央様は、


「そう言うことよ。」


(うなづ)いた。


 ここで、下女の人達が道場にやってきた。

 下女の一人が、


「佳央様、こちらがこの辺りに掛けられた呪いの目録です。」


と言いながら、佳央様に長そうな巻物を手渡した。

 佳央様は、


「ご苦労。」


と下女の人達を(ねぎら)った後、


「じゃぁ、早速、確認ね。」


と巻物を広げた。

 更科さんが、


「道場、戸板、屋根瓦(やねがわら)、柱・・・。

 なんか、建物一式ね。」


と最初の方を読んで、感想を言う。

 清川様が、


「基本は、補強したり雨水が染み込まぬようにするのじゃ。

 そうすれば、長持ちさせられるからの。」


と説明をした。

 私が、


「瓦は元々、水は染み込まないと思うのですが・・・。」


と突っ込みを入れると、清川様は、


「揚げ足を取ろうとするでない。」


と一言文句を言ってから、


「確か、冬、瓦は寒いと割れるのじゃがな、これを掛けておけば割れにくくなるそうじゃぞ。

 私も(くわ)しゅうはないが、瓦に染み込んだ雨水が(こお)るからじゃと聞いておる。」


と説明をした。私は、


「瓦に染み込むのですか?」


と驚いて聞き返したのだが、清川様から、


「じゃから、私は詳しゅうないと言ったじゃろうが。

 聞き(かじ)っただけじゃから、本当に染み込むかは知らぬ。」


と言われてしまった。私は、


「そうですか。

 ですが、なんとなく怪しい情報ですね。」


と言うと、清川様は、


「実際、これで割れる瓦の数が減っておるそうじゃ。

 実績がある以上、そうなのじゃろう。」


と面倒臭そうに言われてしまった。


 下女の人が、


「戸板、屋根瓦は異常ありませんが、1本、柱の呪いが解けておりました。」


と報告が入る。修行で呪いを集めた時の、真正面の柱だ

 私はその事を報告しようと思ったのだが、先に佳央様が、


「次。

 2回やってるから、他にも有るはずよ。」


と指示を出した。

 更科さんが、


「神棚、棚板(たないた)宮形(みやがた)、鏡、榊立(さかきた)て、折敷(おりしき)、土器、瓶子(へいし)水玉(みずたま)

 これも呪っちゃうんだ・・・。」


と読みながら苦笑いする。

 清川様が、


「陶器はどうしても、欠けたり割れたりするからの。

 呪いで、補強しておるのじゃ。」


と説明してくれた。

 下女の人が、


「鏡以外、解けております。」


と報告した。これも呪いを集めた場所に立てば、斜め向かいに見える。

 佳央様が、


「ひとまずこれで、和人は井戸の犯人ではなさそうね。」


と納得したようだ。

 清川様が、


「では、これらに呪いを掛け直すとするかの。」


と苦笑いしながら柱に向かう。

 佳央様が、


「宜しく頼むわ。」


と言った後、


「まさか、金子なんて言わないわよね?」


と釘を挿す。清川様は、


「これも、修行で起きた事じゃからの。

 今回は、仕方あるまい。」


とまたしても苦笑いする。

 更科さんが、


「あれ、このお皿の下に書いてある『鋏焼(はさみやき)』って、あれよね。」


と以外そうな顔をして話した。佳央様が、


「多分そうじゃない?」


と言う。私は何のことか分らず、


「『はさみやき』と言いますと?」


と聞くと、更科さんが、


「お皿とかの、量産品の産地よ。

 くらわんか碗とか有名ね。」


と教えてくれた。そして、


「でも、この産地のは安物なの。

 ここは高級品しか無いと思ってたから、目に着いちゃって。」


と話題にした理由を言う。

 佳央様が、


「多分、形だか色合いだかが気に入ったんじゃない?

 どのお皿がそうかは知らないけど。」


と言うと、更科さんが、


「なるほど、産地や値段よりも、気に入ったかどうかね。

 言われてみれば、本来はそうよね。」


と納得したようだ。

 佳央様も、


「たまに、暮れに値段だけの大皿を(おく)ってくる人がいるでしょ?

 あれ、結構、迷惑なのよね。」


と話す。私の実家には、暮れだからと言ってお皿なんて贈ってくるところはない。

 だが、更科さんには心当たりが有ったようで、


「そうね。

 使えもしない、大きな(つぼ)なんかも困るわよね。

 目上の方からだと、捨てるに捨てられなくて蔵に仕舞(しま)うんだけど、蔵に入れるのも大変なのよね。」


と苦笑いした。下女の人達も頷いているので、似たようなことがあるのだろう。

 佳央様が、


「それはいいとして、結局、井戸の蓋の件はこれで振り出しね。

 だけど、きっと真犯人はいる(はず)よ。」


語気(ごき)を強める。清川様も、


「うむ。

 来て直ぐに見た時は、まだしっかりしておったからの。

 勝手に解けたという事も無いはずじゃ。」


と同意する。

 古川様が私に、


「疑う形になって・・・ご免なさい・・・ね。」


と謝ってきた。私はまだ少しイラッとしていたが、


「いえ、構いませんよ。

 疑わしかったのは確かですし。」


と返事をしておく。だが、古川様は、


「だけど・・・。」


と煮えきらない。

 私は困ってしまったが、ふと蒼竜様とニコラ様、後は田中先輩の()り取りを思い出し、


「それでは、一つ貸しという事で。」


と言った。古川様は、


「でも・・・。」


と言ったのだが、清川様が、


「古川よ。

 別に山上も大事ないのじゃ。

 それでよかろう。」


(さと)すように言う。こんなに悩まれては、私も心配になってくる。

 古川様は顔の表情からあまり納得がいった感じではいようだったが、


「分かりました。」


と返事をした。


 それにしても、結局、誰が犯人だったのだろうか。

 今のところ、犯人に繋がる手がかりはなくなった。元の木阿弥(もくあみ)というやつだ。


 佳央様は、


「これ以上考えても、仕方なさそうね。

 (みんな)やる事もあるだろうし、ひとまず解散ね。」


と言って、この場はお開きとなったのだった。


 異世界ということで名前を変えていますが、作中の『鋏焼』は現実世界の『波佐見焼』のことです。『くらわんか碗』は『くらわんか碗』、そのままです。

 波佐見焼は、江戸時代の大衆向け陶磁器の一大産地で、江戸後期のころ、日本一の磁器生産量だったそうです。

 ちなみにおっさんが使っている急須(きゅうす)も、波佐見焼だったりしますが、これは最近買った新品です。これは、どうでもいいですね。(^^;)


 あと、作中で『元の木阿弥』と出てきていますが、こちらの世界でも木阿弥さんが影武者をする似た話がったという事でお願いします。(^^;)



・波佐見焼

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%B3%A2%E4%BD%90%E8%A6%8B%E7%84%BC&oldid=83669439

・くらわんか碗

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%8F%E3%82%89%E3%82%8F%E3%82%93%E3%81%8B%E7%A2%97&oldid=80359720

・波佐見町

 https://www.town.hasami.lg.jp/machi/index.html

 町政情報→町の紹介→波佐見焼

・圓證寺

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%9C%93%E8%AD%89%E5%AF%BA&oldid=83569570

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