表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
321/681

新たな作物になるか?

 庄内様が禁酒を言い渡されていたにもかかわらず、『亜空間』から口の中に直接酒を出して飲んでいたことが発覚しての一騒(ひとさわ)ぎが落ち着く。

 中居さんが外から声をかけ、最後の品を運んでくる。

 お皿には、拍子木(ひょうしぎ)ではないが、四角い角柱(かくちゅう)状に切りそろえられた見たことのない黄色い物体。

 私は更科さんに、


「佳織、これが何か知っていますか?」


と聞くと、更科さんは、


「ええ。

 芋羊羹(いもようかん)ね。

 甘藷(かんしょ)()して裏ごしした後に、形を整えるそうよ。」


と説明してくれた。私は『かんしょ』も分らなかったので、


「『かんしょ』と言うのは?」


と聞くと、更科さんは、


「ええっと・・・。

 南の方で取れるお芋だったかしら・・・。」


と記憶に曖昧なようだ。横山さんが、


「そうね。

 確か、水はけの良い所で育ててた筈よ。」


肯定(こうてい)する。私は、


「里芋は水がたっぷないと育たないのに、不思議な芋ですね。

 そもそも、種類が違うのでしょうか?

 それと、この芋は温かいところじゃないと、育たないのでしょうか?」


と質問したのだが、横山さんは、


「さあ。

 農業の専門家じゃないから、ちょっと分からないわね。」


と知らないようだった。私は、


「そうですか。

 村で水が引けない所でも育ってくれるなら、新たな作物として使えるかもと思ったのですが・・・。」


と残念に思いながら話しをする。

 他に知見のある人はいないかと思い、蒼竜様に顔を向けてみる。

 蒼竜様は、


「どうした?」


と普通に聞いてきた。私は知っているのかも知れないと思い、


「『かんじょ』というものについて聞きたいのですが、ご存知ですか?」


と聞いてみた。蒼竜様は、


「芋か。」


と答えた。私は、


「はい。

 なんでもこの『かんじょ』は水が少なくても育つそうなのですが、この辺りでも育つものなのかと思いまして。」


と尋ねてみる。すると蒼竜様は、


「育つぞ。

 里でも、少量だが作っておるからな。」


と答えた。南が産地と言っていたのに、ここでも育つのか。

 私はそう思うと、


「作っているのですか?」


と聞かずにはいられない。蒼竜様は、


「うむ。

 里には、いろいろな作物を育てる研究をしている所があってな。

 そこで交配を繰り返しては、よりよい物に品種改良をしておる。」


と説明してくれた。私は、


「そんな所があるのですか。

 もし可能でしたら、そこに行ってみたいのですが。」


とお願いすると、蒼竜様は、


「それは良いが、今は時間もあるまい。

 仮の修行が終わった後であれば、連れて行っても良いぞ。」


と返事をする。私は、


「ついでに、種芋もあると嬉しいのですが。」


とお願いしたのだが、蒼竜様は、


「それは、分らぬな。

 そもそも、どのくらい育てておるかも分らぬ。

 まぁ、行った時に聞いてみる事だ。」


流石(さすが)に約束はしてもらえなかった。

 私は、


「分かりました。

 ただ、事前に伝えておいてもらえないでしょうか?」


とお願いすると、蒼竜様は、


「まぁ、伝えるだけならよいか。」


(うなづ)いた。雫様が、


「この芋、確か、酒にもなるんやろ?」


と蒼竜様に質問すると、何故(なぜ)か庄内様が、


「うむ。

 芋焼酎と言うそうじゃ。

 (くせ)はきついが、慣れれば絶品じゃと聞く。」


と答えた。坂倉様が、


「あれは、確かに癖が(ひど)いの。

 妾も飲んだが、どうも(かおり)がの・・・。」


眉間(みけん)(しわ)が寄る。

 古川様が、


「そうか?

 確かに独特ではあるが、(かす)かに果物を思わせる香りも混ざっておって、面白かったがの。

 口当たりも良かったと思うたが。」


と不思議そうに話す。

 酒談義なら、田中先輩だろうと思い、


「田中先輩は、飲んだことはあるのですか?」


と聞くと、田中先輩は、


「まぁな。

 あれは、酔いたい時にはいい酒だな。

 割って飲んでるやつもいたがな。」


と話はするものの、あまり乗り気ではない。私は、


「何かあったのですか?」


と聞くと、田中先輩は、


「いやなに。

 あれは酒精(しゅせい)がきついだろ?

 だから、あれだ。

 ・・・女と別れた後に飲む事が多くてな。

 どうも、いい思い出がない。」


と苦笑いした。横山さんも同席しているし、これ以上聞かないほうが良さそうだ。

 そう思い、私は短く、


「そうだったのですか。

 すみません。」


と軽く謝っておく。

 私は次の話題に変えようと思ったのだが、先に古川様が、


「まぁ、そう言う酒もあるじゃろうがな。

 今日は祝いの席。

 しんみりしたのは、なしじゃ。」


(おおぎ)で周りを(あお)ぐ。

 恐らく、場の雰囲気を変えようという意図なのだろう。

 庄内様が、


「それで、芋焼酎の美味しい飲み方とかはあるのですか?」


と質問すると、古川様は、


「そうじゃな。

 そのまま飲むだけが、芋焼酎ではない。

 水で割るもよし。

 湯で割るもよし。

 水で割って、馴染ませてから(かん)にするのもよしじゃ。

 梅を入れるのも定番かの。」


と話した。庄内様は、


「なるほど、今度飲む機会があれば、全部試してみます。」


と言ったのだが、古川様は、


「そもそもそちは、禁酒じゃろうが。

 何を寝惚(ねぼ)けた事を抜かしておるのじゃ。」


(あき)れた口調で言う。

 庄内様は、


「そうは言うとも、今後、断れない酒の席もありましょう。

 南方に行けば、出てくるものが芋焼酎やも知れますまい?」


と説得を試みているようだ。古川様は、


「どうじゃろうか。

 そもそも、南方から呼ばれる機会もないからの。」


と反論する。庄内様は、


「確かに、今は南方から呼ばれる機会はほとんどありませぬ。

 ですが、無いならそちらに宣伝するまで。

 さすれば、呼ばれる事もありましょう。」


と真面目に答える。古川様は、


「まぁ、行くにしても遠いからの。

 宣伝はせずとも良いぞ。」


と感情が入っていない。

 庄内様は、


「巫女様が行きたくないのでしたら、仕方ありませぬな。」


と言った後、慌てて、


「・・・古川様じゃったな。」


と言い直した。これはいよいよ()いが回ったのかもしれない。

 まだ『様』が残っているが、突っ込んではいけないのだろう。

 古川様は、


「これじゃから、酒の入った庄内は安心できぬのじゃ。」


と困った笑いを浮かべた。

 それから、暫く楽しくお酒を飲んでいた筈なのだが、・・・この日はこの辺りで記憶が無くなったのだった。


 作中、芋羊羹(いもようかん)が出てきますが、江戸時代として時代考証するとNGとなります。

 この芋羊羹、まるで昔から有るような顔をしていますが、実は今の形になったのは明治に入ってからなのだそうです。

 あと、芋羊羹の材料として上がっている甘藷(かんしょ)は、薩摩芋(さつまいも)のことです。


芋羊羹(いもようかん)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%8A%8B%E7%BE%8A%E7%BE%B9&oldid=85059692

・サツマイモ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%84%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%A2&oldid=85523232


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ