表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/681

続きは午後じゃな

 清川様による、本日2度目の呪詛返(じゅそがえ)しが行われようとしている。

 先ほどと同じく、祝詞をあげて大麻(おおぬさ)をゆっくりと動かし始めた所で古川様が、


「その前に、・・・説明したらどう・・・かな?」


と言ってきた。清川様が所作を中断し、


「説明と言うと?」


と不機嫌に質問する。

 古川様が、


「私と呪いの間で、・・・分かってないから・・・ね。

 ちゃんとあれ、・・・見えてる?」


と清川様が呪詛返ししようとしている石を指で差す。

 私は、


「えっと・・・。」


と言いながら、呪いをじっくり見る。

 最初の時と同じく、紐の結び目ではないが文字通りの呪いの(いとぐち)が見える。

 更にじっと見ると、そこから何やら(ほつ)れた糸のようなものが出ていた。それを辿(たど)ると、古川様に行き当たる。

 私は、


「この細いやつですか?」


と聞くと、清川様が、


「なんじゃ。

 今迄(いままで)、見えておらなんだのか?」


(あき)れたように返してきた。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝ると、古川様は、


「頑張って見ないと、・・・見えないから・・・ね?

 大丈夫・・・よ?」


と優しく(はげ)ましてくれた。私は、


「すみません。

 ありがとうございます。」


と返すと、清川様が、


「うむ。

 では、早速やるぞ?」


と言って、今度こそ呪詛返しをするべく、大麻(おおぬさ)を体の正面に構え直した。

 清川様の目の前の石からは、今は薄っすらと細い糸のようなものも見えている。


 清川様が祝詞をあげ、大麻(おおぬさ)をゆっくりと動かす。大麻は石の上を通過し、そのまま紐に引っ掛かるまで動かし続ける。

 すると石から呪いが剥がれ、呪いが古川様の方に帰っていった。

 古川様は、飛んできた呪いに対して今回も白魔法で丸い盾を作り、呪いを防ぐ。


 私は、


「紐には、わざと引っ掛けているのですか?」


と聞くと、清川様は、


「まぁ、その様な感じじゃな。」


と答えた。

 清川様が、


「では、これを返してみよ。」


と、まだ解呪されていない石を指す。

 私は、


「はい。」


と言って三方の前に移動した。


 紐が出ているなら、引っ張れないかと考える。

 大麻を受け取る前に、石から出ている紐を手で引っぱってみようと(こころ)みる。

 だが、紐を(つか)もうとしても、すっと透き通ってしまった。何度か試したが、結果は同じ。

 清川様が、


「ん?

 何を遊んでおるのじゃ?」


と聞いて来た。

 私は、


「紐を引っぱって確認しようと思ったのですが、紐が手をすり抜けてしまいまして。」


と苦笑いしながら答える。

 清川様が、


「あぁ、なるほど。

 私にも憶えがあるぞ。

 確か、5つくらいの時じゃったかの。」


と懐かしそうに言われてしまった。さっきの私の行動は、5歳児並だという事らしい。

 なんとなく、バツが悪い。

 古川様が、


「私は確か、・・・7歳くらいだった・・・かな。

 きっと・・・(みんな)通る道・・・よ?」


と駄目押しをしてきた。おそらく、言った本人は私を気遣ってだと思うのだが、5歳が7歳になった所で、大して変わらない。

 私は、


稚拙(ちせつ)な考えで、申し訳ありません。」


と謝ったのだが、清川様は、


「ん?

 勘違いしておるようじゃから言うが、巫女の修行を初めてすぐの者のうち、2〜3割はやっておる。

 年齢は気にせずとも良いぞ?」


と私の勘違(かんちが)いを(ただ)した。

 私は、たまたまこの二人が呪詛返しを習った時期が早かっただけだと分かり、


「そう言うものなのですね。」


と返しはしたものの、それならそうと、初めから言って欲しいものだと思った。

 清川様が、


「そのように、不機嫌に言わずともよいではないか。」


と苦笑いした後、


「幸い、これでは何も起きぬからな。

 もう一度、同じ石で試してみよ。」


と指示をした。

 私は、


「分かりました。」


と言いながら大麻を受け取る。

 問題は、どうやって紐を引っ張るか。

 大麻で石を撫でつつ、とりあえず重さ魔法で()ぎ取ってみる。現在は、大幣が呪われた状態だ。

 確か、前に試したときは、大麻を振り上げた拍子に呪いが外れ、そのまま私の顔にベチャリと落ちてきた。

 今回は、さっきの清川様の動きを真似て、軽く横に()ぐように()るってみる。

 結果、呪いが薙いだ方に飛ぶ。


 大麻を体の正面に戻す時、大麻に紐が引っかかる。私は蜘蛛(くも)の巣の糸がかかったのを連想して、少し不快な気分になりながら手の返しで振り払ってから体の正面に戻す。

 すると、細い紐がスルスルと縮んでいき、古川様の方に戻っていった。

 古川様が丸い盾を作り、帰ってきた呪詛を防ぐ。


 私は、どうして呪詛返しが成功したのか理解していなかったのだが、


「出来たようです。」


と報告をする。

 清川様が、


「見れば分かる。

 じゃが、その方法は間違いじゃ。」


と言った。私は、


「どう違うのでしょうか?」


と質問すると、清川様は、


「そうじゃの・・・。

 昨日、古川が黴のように根を張ると言っていたのを憶えておるかの?」


と聞いてきたので、私は、


「はい。」


と答える。清川様は、


「うむ。」


と頷く。そして、


「山上は、重さ魔法で無理やり引き剥がしたであろう?

 そうすると、呪いの根のようなものが石に残るのじゃ。

 これではいかぬ。」


と理由を答えた。

 私はあれっと思い、


「そうでしたか。

 では、残った根はどの様に処理すればよいのでしょうか?」


と質問をする。

 清川様は、


「そうじゃな。

 まぁ、石であれば神聖魔法を被せたのでよいじゃろう。

 本体と違って、根は細い。

 それで十分消えるはずじゃ。」


と答えてくれた。私は、


「なるほど、そうすればいいのですね。」


と言ったのだが、清川様は、


「これが人の頭であれば、話は別じゃ。

 ゆえに、紐を引っ張って自分で戻ってもらわねば抜けきらぬのじゃ。

 もっとも、日数が()ちすぎておったら、根が絡まって抜けなくなるがの。」


と説明した。

 ふと、田中先輩の話しを思い出す。

 私は、


「田中先輩の場合も、やはり深く根が張ってしまっているのでしょうか?」


と疑問をぶつけると、清川様は、


「む。

 なるほど、そう来たか。

 考えるから少し待て。」


と言って目を瞑る。

 暫くして清川様は、


「結論から言えば、そのとおりじゃ。

 初日は知らなんだが、どうやら田中のそれは幼少の頃に掛けられたそうでな。

 切り離すは相当に難しいそうじゃ。

 坂倉様や庄内様でも、おそらくは無理じゃろうと言っておった。

 まだ、よくは分からぬが、場合によっては、動かせる(ひも)だけを動かして体裁(ていさい)だけでも整える形となるやもしれぬな。」


と答えた。私は、


「ここに来てから外に出掛けている様子もありませんでしたが、いつ聞いたのですか?」


と聞くと、清川様は、


「昨晩、念話でな。」


と答えた。私は、


「なるほど、そうでしたか。

 それで、他になにか聞けましたか?」


と質問したのだが、古川様から、


「その話は、・・・後で・・・ね?

 今は、・・・次の石を解呪・・・かな。」


と指示を出す。

 清川様が、


「そうであった。

 山上、次はこれじゃ。」


と言って、次の石を指さした。

 ふと思い、三方に乗った石を掴んで、古川様と逆の方に移動させる。


 ・・・何も起きない。


 仕方がないので、さっきの三方に石を戻した。


 清川様が、


「うむ。

 それも懐かしいの。」


と苦笑い。そしてまだ理解できていないことがバレたからか、


「まぁ、午前の実習はこのくらいにして、これから瞑想(めいそう)かの。

 続きは午後じゃな。」


と言って、呪詛返しの実習はここまでとなった。

 その後、瞑想が終わり、座学となる。

 私は、座学で呪詛返しの取っ掛かりが貰えると思ったのだが、残念ながらそんなに甘くはなかった。

 清川様は、


「座学では、最初に説明した解呪について改め行う。

 なに。

 基本形は、先日憶えたはずじゃからな。

 今の状態で話を聞けば、解り易い(はず)じゃ。」


と言って、前に教えてもらったよりも深く、解呪について説明をしてくれた。

 清川様がムーちゃんに捕まらないせいか、話が途切れる事も無く理解も進む。

 私は改めて、ムーちゃんが私の勉強の邪魔になっていたのだと確信したのだった。


 そういえば、作中に古川様が白魔法で丸い盾を作り、帰ってきた呪詛を防ぐ表現があります。

 江戸時代のころになると、刀を両手で持つ事から手で持つ盾は()れていますので、あれっと思ったか人もいるかと思いますが、この作品ではヨーロッパ風の国から冒険者の制度が伝わってきた時、装備一式も伝えられており、その中に手盾もあったという想定となります。

 なお、江戸時代と言うか、その前の戦国時代になるのかもしれませんが、日本では手盾の代わりに陣笠を手に持って刀や矢を()けるといった事はあったそうです。

 陣笠と言えば、陣中においては鍋の代わりに使われたのも有名です。

 味噌汁を作ったら、それが頭皮の匂い付きになったかどうかは謎ですが。(^^;)


・盾

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%9B%BE&oldid=83523742

・笠

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%AC%A0&oldid=82720917

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ