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置いてかれるばかりね

 翌日、道場で私は、ムーちゃんと一緒に修行をしていた。

 まずは解呪(かいじゅ)のための修行を行うという事で、午前中は瞑想(めいそう)1刻(2時間)と座学を1刻(2時間)ほど行った。


 瞑想は座っているだけでいいのだが、座学はそうはいかない。

 睡魔とはお友達にならないよう気をつけながら、一生懸命、清川様のお話を聞いた。

 清川様の説明では、解呪を行う上で重要なのは、呪いがどの様な方法でかけられているのか特定することなのだそうだ。なので、先ずは呪いというものがどうなのか説明してくれた。

 ところどころ記憶が怪しい所もあるが、清川様によれば、人間に有用なら(いわ)い、そうでないなら(のろ)いで、根本は同じなのだそうだ。なんでも、どちらも本来の有り様に別の有り様を加えるという点では同じらしい。その方法がいくつもあって(まぎ)らわしいのだとか。


 途中、ムーちゃんが清川様に話しかけ、議論が始まったのは衝撃的だった。

 あまりに色々と話しているようなので古川様に何を議論しているのか教えてもらったのだが、この『本来の有り様』というのは、()()()()から見てなのか、()()から見てなのか、どっちなのかという質問をムーちゃんがしたらしく、清川様も困ってしまったらしい。

 これを皮切りに、あれはどうだ、これはどうだとやり取りが始まったらしく、最終的には二人で満足して、午前中の座学が終了となった。

 私は、議論をするだけの知識もないので、清川様に放置されていた。

 古川様になにか分かりやすい例はないかと聞いたところ、


「そうね・・・。」


と考えてから、


「結婚では、・・・幸せになる呪いを・・・かけている。

 でも、・・・本人じゃなくて・・・家が・・・ね。

 だから、・・・この話は・・・他者から見てが・・・多い?」


と例を出した。『多い』ということは、どちらの視点でもかけられるという事なのだろう。

 私は、


「あぁ、外からは家が栄えているからと言って、本人が幸せとは限らないということですか。

 確かに、本人が不幸なら、ただの呪いですね。」


と返したのだが、古川様は、


「そう言う意味じゃ・・・ない・・・よ。

 でも、・・・そう見ることもできる・・・かな?」


と言うと、こっちはこっちでぶつぶつと独り言を言いながら考え込んでしまった。

 途中から講義にならず、そのまま午前中の修行が終わる。


 昼食の時、私は更科さんに、


「今日のムーちゃんは一味も二味も違いました。

 清川様にも、しっかり質問をしていて、本当に凄かったです。」


と言うと、更科さんから、


「それは凄いわね。」


とムーちゃんを()めた。そこまでは良かったのだが、


「で、和人は?」


と聞かれ、私は、


「ムーちゃんと清川様のやり取りはさっぱり分かりませんでした。」


と返すしかなかった。更科さんは、


「まぁ、ムーちゃんの言葉は、私達には分からないわよね。」


と勘違いしたようだ。古川様が、


「清川も・・・しどろもどろだった・・・時もあった・・・よ?

 私も・・・答えられそうにないのも・・・あったわ。」


と話に参加してきた。更科さんが、


「そんなに凄いの?」


と驚いた後、


「じゃぁ、和人も頑張らないと置いてかれるばかりね。」


と言われてしまった。

 私は、


「精進します。」


としか返せなかった。


 午後になっても、ムーちゃんの勢いは止まらない。

 瞑想はともかく、座学ではすっかり、清川様とムーちゃんの議論の場になっていた。

 私の巫女修行の筈が、さっぱり相手にしてもらっていない気がする。

 途中から、清川様は諦めて、古川様にこそこそと教えてもらった。


 午後の座学も終わり、ムーちゃんに負けているのが(くや)しかったので、古川様にお願いして、本を借りる事にした。体系的にまとまっているものは持ってきていないとの事で、いろいろと書き散らかしたような資料を貸してもらうことになった。


 夕食の時、古川様が、


「そう言えば明日、・・・し・・・田中さんの名付け・・・ね。」


と切り出した。私は、


「いよいよですか。」


と言うと、清川様が、


「うむ。

 月日の巡りも重要での。

 明日は、大安(たいあん)吉日(きちじつ)じゃ。

 まる一日かけて、解呪するのだそうじゃぞ。」


と教えてくれた。私は名付けと解呪が混ざっているが、どっちなんだろうと思いつつも、修行があるかどうかのほうが気になったので、


「では、明日の修行はお休みですか?」


と質問した。だが、清川様からは、


「ん?

 休むこともあるまい。」


と返ってきた。私は、


「お手伝いに行かなくてもよいのですか?」


と聞いたのだが、清川様は、


「向こうには、坂倉(さかくら)様と庄内(しょうない)様がおる。

 こちらも特に呼ばれておらぬし、不要なのじゃろう。」


と返した。

 私は清川様の行動はたまに穴があるので、


「念の為、確認したほうが良いのではありませんか?」


と聞くと、古川様から、


「大丈夫。

 ここに来る前に、・・・確認済み・・・よ。」


と言った。私は正直に、


「なら、安心ですね。」


と言うと、清川様は、


「それは、古川のほうが信用できると言っておるか?」


と言ってきた。私は清川様を怒らせかけていると思ったので、


「いえ、お二人で仰るのなら大丈夫という意図です。

 古川様がそう仰った場合は、清川様にお尋ねしたと思いますし。」


と返す。この返しなら、(かど)が立たない筈だ。

 清川様も、


「ふむ。

 ならば良いがの。」


と一応、納得してくれたようだ。

 だが、古川様がにこやかに、


「清川のご機嫌取りも・・・大変・・・ね?」


()らない事を言ってきた。私は再燃させたくなかったので、


「そのようなつもりは、全くありませんよ。」


と否定したのだが、更科さんが、


「和人、たまに変な気遣いするしね。」


と言ってきた。古川様が、


「ええ。

 たまに・・・ね?」


と同意する。清川様は眉を(ひそ)め、


「なるほど。

 つまり、今回も気を遣ったから逆でも聞いたと言ったということなのじゃな?」


と言ってきた。更科さんが、


「ええ。

 気を遣って、二人に聞くと言ったのだと思います。」


と返事をした。

 私は図星だったが、


「いえ、確認は大事ですから。

 それより古川様も、佳織も、わざと怒らせるような方向に持っていって遊ばないで下さい。

 寝耳に水な事を言われたら、どう答えたらいいか困ってしまうじゃありませんか。

 失礼な言い回しにならないか考えるのも、大変なのですからね。」


と苦情で返した。

 古川様が、


「私の、・・・姉としての(かん)が・・・違うって・・・。」


と言うと、更科さんも、


「私の妻としての勘も・・・。」


と言ってきた。私が、


「古川様は、私の姉では無いでしょう。」


(あき)れて指摘すると、古川様は、


「その指摘、・・・まだ・・・よ?」


と少し怒っているようだ。更科さんも、


「そうね。

 一回認めてから否定しないと、面白くないわよ?」


と突っ込みが入る。私は、


「何の話ですか。」


と呆れて返したのだが、更科さんから、


「まぁ、和人だしね。」


と言われ、古川様からも、


「ね。」


と言われた。

 何となく納得はいかないが、清川様の扱いの件が有耶無耶になってくれたので良しとすることにした。


 それよりも気になることがある。

 私は、


「二人は、いつからこんなに仲が良くなったのですか?」


と聞くと、更科さんは、


「今じゃないかなぁ。

 和人っていう、共通の話題があったし。」


と答えた。古川様も、


「歳も・・・そんなに・・・変わらないし・・・ね?」


と言った。私が思わず、


「何歳ですか!」


と突っ込みを入れたのだが、古川様は普通に、


「そこは、・・・女性に聞いちゃ駄目(だめ)・・・よ?」


と返されてしまった。そのとおりなので、反省。

 私は、


「申し訳ありませんでした。」


と謝った。


 夕食も終わり、佳央様の部屋に戻った私は、早速借りてきた本を読もうとした。

 が、私は簡単な字しか読めない。

 困ってしまい、恐る恐る更科さんに、


「この字、読んでもらってもいいでしょうか・・・。」


とお願いした。更科さんは、


「えっと、これは・・・呪詛(じゅそ)ね。」


と答えた。私は、


「呪詛と言うのは?」


と聞いたのだが、更科さんは、


「さぁ。

 (のろ)いっていう字があるくらいだから、呪いの何かじゃない?」


と返してきた。私は、


「呪いのなにかですか。

 確かに、解呪の勉強だからそうなのでしょうね。

 それで、この字は何と読むのですか?」


と別の字も聞いたのだが、今度は更科さんも、


「ちょっと読めないわね。

 佳央様は?」


と佳央様にも質問した。佳央様は、


「汚い字だけど・・・祈祷(きとう)ね。

 神様にお祈りすることよ。」


と簡単に説明してくれた。流石、佳央様。

 こんな調子で少しだけ読んだのだが、断片的な内容しか分からない。

 これで理解が進むのは、所謂(いわゆる)天才か、一度話を聞いたことのある人だけだろう。

 私は、どうやったらムーちゃんに追いつけるだろうかと心配しながら眠りについたのだった。


 日本で有名な呪いといえば、呪いの藁人形でおなじみの(うし)の刻参りでしょうか。

 夜な夜な白装束に一刃の下駄で五徳を逆さまにかぶり、そこにろうそくを3本刺して、呪いたい相手に模した藁人形を五寸釘でカーン、カーンと打ち付けるそうですが、この手順が確立したのが江戸時代なのだそうです。

 小学生の頃だったか、この話を聞いた後、日中でしたが神社でカーン、カーンと響く音がしてびっくりしたっけな。

 今思えば、単に間伐か何かの音だったのだとは思いますが。。。(^^;)


・丑の刻参り

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%B8%91%E3%81%AE%E5%88%BB%E5%8F%82%E3%82%8A&oldid=84338633

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