実はムーちゃんの方が
昼食を食べた後、私は清川様、古川様と一緒に道場まで移動した。
何故か、ムーちゃんもいる。
大月様は、修行中、いても邪魔だろうからと帰っていった。
佳央様と更科さんは、佳央様の部屋で待っているらしい。
道場の上座には、板で渡した棚のようなものが作られていた。
その上には、三方に載せられた餅、酒、塩が並んでいる。
三方の穴は、よくある丸型だ。
清川様が棚の前に座り、
「山上はそこに。」
と、部屋の中央に座るように指示を出す。
言われたとおりに座ると、何故か、隣にムーちゃんも座った。
私は、
「何故、ムーちゃんが座っているのですか?」
と聞くと、古川様が、
「ムーちゃんも修行、・・・やりたいんじゃない・・・の?」
と言ったが、少し笑っている。本気で言っているわけではないのかもしれない。
清川様が、
「まぁ、良かろう。
ムーが聞いて解るかは知らぬが、これから心構えを説くゆえ、心して聞くように。」
と言った。
私が、
「分かりました。」
と返事をしたのだが、清川様は、
「返事はせずとも良い。」
と言われてしまった。
清川様の説明が始まる。
延々1刻、休み無し。
途中から睡魔と仲良くなりかけていると、清川様から、
「まぁ、こんなところじゃ。
分かったか?」
と言ってきた。どうやら終わったようだ。
私は、
「はい。
なんとか、寝ずに聞けました。」
と正直に言う。だが清川様から、
「面白うないのは知っておるが、あからさまじゃの。」
と苦笑いし、
「それと、聞いたかどうかは聞いておらぬ。
分かったかどうかを聞いておるのじゃ。」
と言われてしまった。確かに、聞くだけで終わりというものでもない。
私は、
「半分くらいでしょうか・・・。」
とまた正直に答えると、清川様から、
「では、もう少し話すかの。」
と言って、更に半刻ほど、追加で心構えについて聞かされた。
この間、ムーちゃんは昼寝を始めたようだ。
清川様が、
「分かったか?」
と聞いてきたので、私は、もう一度聞かされるのは御免だと思い、
「はい。
なんとか、分かりました。」
と返事をした。清川様が、
「ムーはどうじゃ?」
と聞くと、ムーちゃんはいつの間にか起きたようで、
「キュ〜ィッ!」
と不機嫌そうに返事をした。
古川様から、
「ムーちゃんの方が・・・出来がいい・・・ね。」
と苦笑いしてきた。
古川様がなぜそう思ったかは分からないが、そう言えば、半分くらいの竜人はムーちゃんと話が出来たはずだ。
意思の疎通さえ出来てしまえば、実はムーちゃんの方が私よりも出来がいいのではないか?
思わず、ため息をついてしまう。
その様子を見た古川様から、
「ほら、・・・向き不向きもあるから・・・ね?」
と慰められてしまった。
ムーちゃんと比較されているような気がする。
私は、
「ムーちゃんに追いつけるよう、精進いたします。」
と言うと、清川様が扇で口元を隠しながら、
「古川、遊び過ぎじゃ。」
と笑いを噛み殺しながら話した。
私は、
「どういう事でしょうか?」
と聞くと、ムーちゃんが、
「キュ、キュ、キュィ!
キュ〜ル、キッ。
キュィ!」
と何か言っているようだ。
清川様は、
「なるほど。
では、心構えくらいは解るとな。」
と問いかけると、ムーちゃんは当然と言わんばかりに、
「キュィ!」
と答えた。私は、
「ムーちゃんは、何と言っているのでしょうか。」
と質問したのだが、清川様は、
「うむ。
同じ事を何度も話しているだけじゃろうとな。
山上が分かっておらぬと申すから、別の言い方で説明をしたのだ。
当たり前の話しなのじゃがな。」
と返事をした。古川様が、
「天幕でも、・・・色々聞いてた・・・から。
坂倉様の講釈とか・・ね。」
と付け加える。
私は、
「つまり、ムーちゃんは既に巫女の修行を始めていたようなものという事でしょうか?」
と聞くと、古川様は、
「ええ。」
と返した。
私は、
「ムーちゃんを鑑定したら、どんな結果が出るのでしょうか。」
と思ったことをそのまま言ったのだが、清川様は、
「さての。
それよりも、白とは言え、むささびに負ける程度の知性と言われぬよう、精進するのじゃぞ。」
と言われてしまった。
私は、
「はい。
精進いたします。」
と返した。
その後、女中の人が呼びに来て、夕食となった。
紅野様、佳央様、清川様、古川様、私、更科さんの順に座る。
大月様は既に帰っているので席はない。ひょっとしたら、大月様は今頃、蒼竜様や田中先輩に今朝の借りを返すため、高めのお店に行って奢らされているのかもしれないが。
紅野様が、宴の挨拶をして式三献が始まる。
私はお門違いとは思ったが更科さんに、
「私の仮の巫女の修行が終わるまで、毎日これをやるのでしょうか?」
と小声で質問した。紅野様に話しを聞くのは、身分の関係も何となく憚られる。そもそも席も、清川様や古川様を挟んでいるので、この話をするわけには行かないだろう。
更科さんが、
「どうかしらね。
でも、流石に節目だけじゃないかしら。
毎夜では、少し大袈裟な気がするわ。」
と答える。私も納得したので、
「そうですよね。」
と返した。だがここのお屋敷は、庶民感覚ではありえないほどに広い。
私はひょっとしたらと思い、
「でも、こんな立派なお屋敷に住んでいるくらいですし・・・。」
と聞いてみた。更科さんは、
「流石に、それはそれ、これはこれじゃない?
月に使えるお金も限られると思うわよ?
夜な夜な贅を尽くすのは、難しいんじゃないかしら。」
と少し呆れたようだ。お酒が回ってきたので、三度に分けて飲み、更科さんに回す。
更科さんも、同じようにして盃を返す。
私の腹の虫がなく。
私は恥ずかしさを誤魔化そうというわけでもないが、更科さんに、
「このお雑煮も食べちゃいけないんですよね。」
と声をかけた。すると更科さんは、
「お腹、鳴っちゃってたわね。」
でも、見るだけで我慢よ。」
と少し笑いながら返してきた。
私は、
「失敗をそんなに笑わなくてもいいじゃありませんか。」
と言ってみたのだが、古川様から、
「大丈夫。
よくある事・・・よ?」
と言ってくれたが、ここで疑問形は止めて欲しいところだ。
二献目が回ってきたので、先ほどと同じく、三度に分けていただき、更科さんに回した。
更科さんが盃を返すと、私に、
「和人、もう少し控えたほうがいいわ。
空きっ腹に酒は毒よ?」
と注意してきたので、私は、
「仕方ないじゃありませんか。
お腹が空いているのに、回ってきた酒しか中に入れられないのですから。」
と文句で返した。更科さんは、
「そうだけど・・・。」
とまだ何か言いたげだ。
私は、そのもの言いたげな表情に負けて、
「・・・気をつけます。」
と返した。
暫くして、三献目が回ってくる。
今度は、普通にいただき、更科さんに回した。
盃を渡した時、更科さんが満足げで少し安心した。
更科さんがお酒をいただき、盃を返す。
こうして式三献が終わり、私達は別の部屋に移動したのだた。
今回は、単語の説明だけさせていただきます。
三方は、神様や身分の高い人に物を渡す時に使う、胴というか、足というかが高めの折敷に盆を載せた台の事です。正月の鏡餅を置く台といえば、ピンとくる方も多いかと思います。
この三方の穴ですが、3個あいていれば三方、4個あいていれば四方と呼ぶそうですが、穴の形は特に決まりがないそうです。
昔、誰かが作っているだろうと思って、兎の穴の形をした三方をwebで探したのですが見つからず。お月見用に1つと思ったのですが意外と見つからないものです。
・三方
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