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早速

 紅野様のお屋敷に着いた後、清川様と古川様が籠から降りた。

 私は蒼竜様と田中先輩に、


「お疲れ様でした。」


と声を掛けると、蒼竜様は、


「うむ。」


と返事をし、田中先輩も、


「おう。」


と返してくれた。

 大月様が、


「では、お部屋まで案内します。」


と言って、玄関の方に向かう。

 大月様は、部屋の場所を知っているのだろうか?

 そんな心配をしたのだが、屋敷の玄関には下女の人が立っていて、


「こちらに。」


と大月様、清川様、古川様の順に屋敷の中に入れた。

 籠の人たちが、


「そろそろ帰るぞ。」


と声をかけると、蒼竜様が、


「暫し待て。

 伝言があるゆえ。」


と待つようにお願いした。

 田中先輩が、


「伝言か。

 よし。

 じゃぁ、大月に楽しみにしてるからなと伝えておいてくれ。」


と言うと、蒼竜様も、


「うむ。

 (きゅう)で、しかもこのような要件だ。

 こちらも、さぞやもてなしてくれるのだろうなと脅していたとな。」


と少し不機嫌そうに言った。

 私は、


「分かりました。

 では、その様に伝えておきます。」


というと、二人は頷き、籠を担いで本職と一緒にこの場から立ち去った。

 佳央様が、


「じゃぁ、私達も運ぶわよ。」


と言って、玄関とは違う方に向かって歩き出す。

 私は、


「何処に行くのですか?」


と聞いたのだが、佳央様は、


「長持なんて、表から入れるのも変じゃない?」


と返事が帰ってきた。なるほど、庄屋様のお屋敷でも、こういった物は玄関から運び入れてはいなかった筈だ。

 裏口に着いたので、そこからお屋敷に入る。

 佳央様が、


「こっちよ。」


と言って、清川様と古川様の部屋がある所まで案内してくれた。

 部屋の中に気配がないので、部屋の外で待っていると、少しして下女の人が清川様と古川様、大月様を連れてきた。

 先ずは、清川様が部屋に入る。

 私は、


「どちらに置けばよいでしょうか?」


と聞くと、清川様は、


「普通は納戸(なんど)であろうが、仕方あるまい。

 その部屋の隅にでもの。」


と指示をした。長持をそこに置く。

 続いて、古川様の部屋に行く。


 私は清川さまに質問したときと同じように、


「どちらに置けばよいでしょうか?」


と聞くと、古川様は、


寝室(ねや)の・・・、ここに。」


と言って、奥の部屋に置くように指示した。

 言われたとおり、寝屋に入ってそこ置く。

 長持の置き場ひとつでも、個性は出るものだ。


 荷物がなくなり、何となく肩を回すと、佳央様から、


「これでひと区切りね。」


と言ってきた。私も同感だったので、


「はい。」


と答えたのだが、古川様から、


「山上は、・・・これから・・・よ?」


と言われてしまった。私は、


「これからと言いますと?」


(たず)ねると、古川様は、


「どうかな。

 でも、・・・たぶん早速。

 清川・・・が、・・・どう思ってるか次第・・・よ?」


と答えた。どうやら、清川さまが早速仮の巫女の修行を始めると言いたいようだ。私は、


「冗談ですよね?」


と確認したのだが、古川様は、


「ええ。」


と笑いながら答えたのだが、


「でも、・・・せっかちだから・・・ね?」


と付け加える。

 私は、本当はよく分かっていなかったが、


「確かに、すぐに始めそうですね。」


と話を合わせて苦笑いで返した。

 一旦、更科さんの待っている部屋まで移動する。


 私が部屋に入ると、更科さんが、


「おかえりなさい。

 思ったよりも遅かったわね。」


と声をかけてきた。

 私は、


「はい。

 大月様が、籠を呼び忘れていまして。

 籠がなかなか捕まらなかったそうで、半刻(1時間)くらい待たされてしまいました。」


と答えた。更科さんが、


「籠ね・・・。」


と微妙な返事をする。どう返事をしていいか、困っているのだろう。

 私は、


「はい。

 あまりに見つからないので、籠屋から籠だけ借りて、蒼竜様と田中先輩に担がせていましたよ。」


と言うと、更科さんは、


「蒼竜様に、そんな事させたの?」


と驚きの表情。私は、


「はい。

 背に腹は変えられなかったようで。」


と苦笑いする。

 佳央様が、


「それはいいけど、今日、これから本当に始めるのかしらね。」


といい出した。私も疑問に思っていたので、


「流石に、あれは古川様の冗談なのではありませんか?」


と返したのだが、佳央様は、


「ならいいけど。」


とニヤリと笑った。

 ムーちゃんが、


「キュィ!」


と鳴き、更科さんが、


「あぁ。

 そう言えば、そろそろお昼ね。」


と言った。私は驚いて、


「佳織も、ムーちゃんの言葉が分かるようになったのですか?」


と質問した。だが、更科さんは、


「いえ。

 佳央様じゃないんだし。」


と返事をする。佳央様が、


「他の竜人も、半々くらいで分かると思うわよ。」


と指摘した。私は、


「そうなのですか?」


と聞くと、佳央様は、


「念話の一種だからね。」


と理由を説明した。私は、


「ひょっとして、私も念話を習得したら分かるようになるのですか?」


と聞いてみたが、佳央様は、


「それは、試してみないと分からないわね。」


と返した。私は、


「そうなのですか・・・。」


と残念に思った。


 下女の人が来て、


「お昼ですので、皆様、お集まり下さい。」


と言って、昼食の準備が出来たことを教えてくれる。

 私は、


「それでは、お昼でも食べに行きましょうか。」


と呼びかけると、佳央様が、


「そうね。」


と言い、更科さんも、


「行きましょうか。」


と答えた。

 女中の人に、座敷まで案内してもらう。


 座敷の中に入ると、既に座布団が置かれていた。

 私は、


「今日は、どの様な順になるのでしょうか?」


と聞くと、佳央様は、


「・・・そっか。

 私が、代理で上座かも。」


と答えた。佳央様も困っている。

 下女の人が、


「佳央様は、暫く離れておりましたが、家の者となります。

 お察しの通り、今、主様はいらっしゃいませんので、佳央様に上座に座っていただくこととなります。」


と説明した。佳央様は、


「やっぱり・・・。」


とあまり乗り気ではない様子。

 私は、


「そうしますと、佳央様、清川様、古川様、大月様、私、佳織の順で宜しいでしょうか?」


と聞いた。下女の人が、


「蒼竜様と(しっ)・・・田中様はいらっしゃらないのですか?」


と確認をする。私は、


「あの二人なら、玄関で帰っていきましたよ?」


と返すと、下女の人は大月様に、


「すでに帰えられたとの事ですが、二膳は不要ということで宜しいですか?」


と確認をする。大月様は、


「いや、昼食で手を打つという事になったのだが・・・。」


と困惑気味だ。おそらく大月様は、ここでの昼食を当て込んで、美味(うま)いものでもと言っていたのだろうか。だが、二人とも帰ってしまったので、別に奢る必要が出来てしまったのかもしれない。

 私は、


「大月様。

 二人が帰る時、伝言をお願いされまして。」


と言うと、大月様は、


「なに?」


と驚いた。

 私は、


「田中先輩は、『楽しみにしている』と伝えてくれと。

 あと、蒼竜様も、『上等なお(もてな)しをしをしてくれるのだろうから楽しみだ』と言っておりました。」


と話した。大月様は、


「それで、そのまま返したのか?」


と聞いて来たので、私は困り顔で、


「返すも何も、昼食の件など何も聞いておりませんので。」


と返事をした。

 大月様は、


「確かに、そうなのだが・・・。」


と困惑気味だ。大月様は、


「それで、二人はどの様な表情で言っておったか?」


と確認する。私は、


「不機嫌そうでしたよ。」


と一言返すと、大月様は、


「高い店に連れて行くしかないか・・・。」


項垂(うなだ)れた。

 下女の人が、


「それでは結局、二人は帰られたのですね。

 二枚、下げても宜しいでしょうか?」


と確認する。大月様は、


「仕方・・・あるまい。

 下げてもらっても構わぬ。」


と告げた。

 下女の人は、


「分かりました。

 では、そのように手配いたします。」


と言って、他の下女に座布団を二枚片付けるよう、指示を出す。

 下女の人は、


「それでは、清川様と古川様を呼んでまいります。

 (しば)し、お待ち下さい。」


と言って、この場を後にした。


 清川様と古川様が、下女の人に連れられてやってくる。

 清川様は、


昼餉(ひるげ)じゃそうじゃの。

 そうそう、山上はこれが終わったら、道場であったか。

 来るが良いぞ。」


と言ってきた。

 古川様が言った通り、早速修行を始めようとしているのだろうか。

 更科さんが、


「そう言えば巫女になる条件に、先見(さきみ)、解呪、祈祷が出来ることがあるんだって。

 古川様も、先見で知ったのかしらね。」


と言った。私は、


「先見ですか。

 修行したら、私も出来るようになるのでしょうかね。」


と聞くと、古川様から、


「私はまだ、・・・先見は使えない・・・よ?

 先見じゃなくて、・・・性格を知ってた・・・だけ。

 何でもスキルは・・・違うから・・・ね?」


と言われてしまった。私は、


「そうですね。」


と相槌を打つと、古川様は、


「覚えても乱用は・・・駄目・・・よ?」


とついでに釘も刺されたのだった。


 山上くんが伝言で少し言い回しを変えているのは、伝言をそのまま覚えられなかったからです。


 

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