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天狗草の群生地にて

 山頂を出発して四半刻(15分)といったところだろうか。

 天狗草(てんぐそう)の群生地にはすぐにたどり着いた。


 しばらくムーちゃんとキョロキョロしていた更科さんは、


和人(かずと)、これが天狗草かなぁ。」


と私に話しかけてきた。ひょっとしたら、更科さんは学校で習ったのかもしれない。私は、


「ごめんなさい。

 私は天狗草がどれか区別がつかなくて・・・。」


と、せっかく聞いてくれたのに答えられなくて残念に思いながら謝った。


「田中先輩、(かおり)さんが早速 天狗草のようなものを見つけたのだそうですが、合っているか見てもらってもいいですか?」


と聞いた。すると、


「あぁ、これな。

 カメムシ草だったか。

 料理には使うが、天狗草ではないな。

 天狗草は天狗の持つ葉の形に似ているのでついた名でな、こういう葉ではないんだ。」


と言って、間違いを指摘した。私は、カメムシ草というのも初めて聞いたので、


「田中先輩、どんな料理に使うのですか?」


と聞いたところ、


「今日は天狗草だろ。

 それはまた別の機会にな。」


と言って、面倒くさがって教えてもらえなかった。また更科さんが、


「これかなぁ。

 なんか(かえで)の葉っぽいよ?」


と聞いてきた。私は、


「天狗が持っている葉っぱは、八手(やつで)じゃなかったっけ。

 でも、何だか似ているよね。」


と返すと、更科さんは、


「そうなの?和人。

 私、ずっと楓の葉だと思ってたわ。」


と、笑ってごまかしていた。それを横から見ていた田中先輩は、


「更科、それな。

 当たりだ。」


と言った。私は八手の分かれるところは丸っぽいのでそういうのを探していたのだが、分かれるところが鋭角の楓っぽいのが正解と聞いて、何だかもやっとしたが、


「薫さん、流石冒険者ですね。

 私は違う草を探していましたよ。」


と苦笑いをしながら言った。


「それじゃぁ、どれが天狗草か分かったところで、1刻(2時間)のうちに100本摘んでみようか。

 ここは群生しているからな。

 そのくらいなら何とか見つかるだろう。」


と田中先輩がにこやかに言った。私はちょっと量が多いのではないかと思った。田中先輩は続けて、


「あと、更科は学校で習っただろうが、山上。

 草むしりじゃないから根っこは残しとけよ。」


と言って、採取するときのマナーを教えてくれた。私は、


「分かりました。

 ところで、こういうのも生えているのですが、これは何でしょうか。」


と言って、偶然目に入った八手を小さくしたような葉っぱの草を指差した。すると田中先輩は、


「あれは毒草だな。

 冒険者が罠に使うこともあるそうだが、取扱いが難しい強めの毒を持っているそうだから、あまり触るなよ。

 ただ、たまに少量採取する依頼が出ている場合もあるので、持って帰ってみるか?」


と言った。私は、


「では、せっかくなので持って帰ろうと思います。」


と返した。更科さんが、


「和人、実はこっちじゃないかって疑っている?」


と聞いてきたので、私は、


「きのこや山菜採りの名人でも、極稀にやらかすので、念のためかなぁ。」


と返した。すると、更科さんは小さな声で、


「負けず嫌いなのかなぁ。」


と言ってはにかんでいた。私は思わず、


「薫さんはなぜに、ニヤニヤしてるんですか?」


と聞くと、


「ん?

 和人のことが少し知れてうれしくて。」


と返って来たので、私は微妙な気持ちになりながらも、ちょっとだけ(うれ)しくなってしまった。田中先輩からは、


「お前ら、付き合いたてでいちゃつくのは仕方ないが、ちゃんと採れよ?」


と言って怒られたので、せっせと探して、100本目指して摘んでいった。




しばらくすると田中先輩が、


「おい、ちょっとこっちに来てここを見てみろ。

 何か分るか?」


と聞いてきた。私たちが先輩の指差したところを見ると、やや大きめの足跡があった。私は


「熊でしょうか。」


と返事をすると、更科さんが、


「これ、爪が六本ありますね。

 学校で、この辺で一番厄介な狂熊がそうだと聞いたような気がします。」


と不穏な事を言い出した。田中先輩は、


「一番かどうかはともかく、その通りだ。

 ちょうどいい機会だから、お前らで狩ってみろ。」


と気軽に言ってきた。私は、


「熊でさえ怖いのに、魔獣化した狂熊なんて、荷が重いです。」


と返した。すると更科さんが、


「和人、歩荷(ぼっか)なだけに?」


と言ってきたので、少しイラっときながら、


「薫さん、狙っていませんので。」


と返したところ、更科さんは、


「ごめんなさい。

 つい。」


と言って、笑いそうなのを抑えていた。田中先輩は、


「他にもあったからな。

 運が悪いと遭うかもしれないぞ?」


と嫌なことを言ってきた。なので、


「田中先輩、何か対処したいので、例えば攻撃魔法とか何か教えていただけませんか?」


と聞いてみたところ、


「そんな余裕はなさそうだぞ?」


と言って、森の方を指差した。更科さんは、


「田中先輩、何もいませんよ?」


と返した。ムーちゃんは何か感じたようで、少し警戒して後ずさりながら更科さんの後ろに隠れようとしていた。

 田中先輩は、


「ムーの奴は気づいたみたいだぞ、

 気配や魔力を探ってみろ。」


と言ってきた。私は目を凝らして森の方を見たところ、黄色っぽい魔力が立ち昇っているのが見えた。

 私はその黄色い魔力を集めて、


「田中先輩、こういうのが立ち昇っているのが見えました。」


と言うと、田中先輩は、


「お前、実は魔力鑑定に似た事が出きるんじゃないのか?

 それも、普通はありえない距離で。

 狂熊は確かに、身体強化の魔法で間違いないぞ。」


と言った。どうも、この黄色っぽい魔力は身体強化らしかった。なので、私は


「これは身体強化なのですね。」


と返すと、田中先輩は、


「?

 解らずに出きるのか・・・。

 まぁ、体にまとわせると、動きが早くなったりするんじゃないか?

 やってみろ。」


と言うので頑張って辛うじて腕の回りに黄色い魔力を這わせたところ、


「動きが早くなるといえば足だろ。

 まぁ、いい。

 背中も強化してみろ。

 支える筋肉が弱いと腕だけ強化しても役に立たないぞ?」


と田中先輩から言われたので、さらに黄色い魔力を集めて背中に這わせた。


「その大きめの石をつかんでみろ。」


と言われたので、近くの頭ほどの大きさのある石をつかんだ。足腰はずっしりと来たが、腕の方はまるで(まり)でも持つかのように軽々と持てたので驚いた。


「田中先輩、これ、すごいですよ。

 これをやれば重い荷物も軽々運べそうです。」


と感想を言った。が、田中先輩は、


「お前、普通な。

 やれと言われて『はい出来ました』って奴はほとんどいないぞ?

 山上、なんで歩荷なんかやってるんだ?」


と本当に分らないといった感じで言ってきた。私は、


「田中先輩は出来ないのですか?」


と聞くと、


「あぁ、そういえば俺も見た瞬間に理解したな。」


と言ったところ、更科さんが、


「二人共、天才なのですね。

 それこそ、どうして歩荷なんかしているんですか・・・。

 私のような一般冒険者には、新しい魔法を1日もかけずに覚えてしまうなんて、信じられません。」


と飽きれたように言っていたが、田中先輩は、


「更科、さすがに覚えると言うことは無いと思うぞ?

 今はまだ、この場で直感で作り上げているだけだろうからな。

 考えても見ろ。

 反復もしていないのに、次も同じようにできるとは限らないだろ?

 つまりは、そういう意味で、出来ただけで、まだ覚えたとは言わなからな。」


と言っていた。しかし、どうも更科さんには追い討ちの言葉だったようだ。何か凹んでいるようだった。

 私は、


「そろそろ、狂熊が森から出てきそうですね。」


と言って森を指差すと、大きな木の隙間からぬるりとでかい図体(ずうたい)の熊が出てきた。目が黄色く光って見える。更科さんは、


「あれが狂熊さんなのですね。

 初めて見ましたが、木の中程もありませんか!

 見た感じ、10尺(3m)じゃききませんよ?

 田中先輩、あれは私たちだけじゃ無理です。」


と言いいながら、私の影に隠れたのだった。


『カメムシ草』はパクチーのことです。

臭いが似ているので、そう呼ばれる事もあるのだとか。。。


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