レベルは魂への負荷で上がるらしい
今朝は少し遅めに起きて、書類を書いていた。
一年目の課題ということで、歩荷の感想や往路、復路での注意点、まわりを見て気がついた点なんかを書いて言った。
私はひらがなしか読めないので、五十音表を見ながら一字一句書いて行った。
田中先輩にチェックしてもらった。
「ここの“る”が鏡文字になっているぞ。
あと、“わたしわ”は“わ”ではなくて“は”な」
といろいろと注意された。
“はたしは"と修正して持っていったら、かわいそうな人を見る目で見られた。
そういうのはやさしく訂正してほしいものだ。
午前中が終わるころ、書類を作りおえた。先輩が言うには30点だが新人なら辛うじて合格かなと言ってくれた。ちなみにどうなれば100点になるか聞いた所、
「報告書は誤字脱字せずに漢字もきっちり使って、過不足無く要旨がしっかり伝わる文章かなぁ。」
と言っていた。先は長そうである。
昼過ぎになったので沢庵をお茶請けにしてお茶を飲んだ後、葛町冒険者組合に出かけた。
「来たか。」
組合の奥の席に座っていた野辺山がそう言いながらやってきた。
すると田中先輩が、
「どうせ黒竜の報告で鑑定を受けなきゃいけないんだろ?
一応後輩も連れてきたぞ。鑑定所は開いているか?」
と言って、職員に確認してから私を鑑定所に引っ張って行った。
鑑定所に入ったとき、私は立派な机や椅子、天井からぶら下がっている始めてみる照明機器、棚に並んでいる道具などをきょろきょろと見ていた。真ん中の机には先輩と同じくらいの年齢のご婦人も座っていた。やや膨れ気味ではあるが、眼鏡がキリッと凛々しい。おそらくは彼女が鑑定をしてくれるのだろう。
野辺山は、
「これから彼女に鑑定をしてもらう。
横山と言う結構高位の鑑定魔法使いだ。
普段はここにはいないのだが、隣町から来てもらった。」
と話した。まずは先輩から鑑定を受けた。まず横山さんの前に座る。
すると、横山さんは鑑定用の機器を手に取り、魔法と併用しながらステータスの確認を行った。
横山さんは
「あぁ、こんな人いるんですね。
職業がポーターに固定されてしまっている人は初めて見ました。」
と言ってしまい、いきなり先輩に
「個人情報を。。。失言でした。」
と平謝りしていた。田中先輩は
「ここにいる人はみんな知っていますからお気になさらずに。」
と紳士面をして少しいい声を出して話した。田中先輩はこういう人が好みなのかもしれない。横山さんは、苦笑いしながらお礼を言って、今日の要点を話した。
「まず、黒竜討伐は間違いありません。
でも、その割に経験値はあまり上がっていない様ですね。
おそらく、それほど魂に負荷がかかっていなかったのでしょう。
黒竜相手にどういう体験をしたらこんなことになるんですか。」
私は“魂の負荷"が何かよく分からなかったので、横山さんに素直に聞いてみた。すると横山さんは、
「冒険者じゃないと気にしないものね。
魂の負荷と言うのは、例えばそうね。黒竜と対峙したとき、恐怖を感じなかった?」
と聞いてきた。私が頷くと、横山さんは
「こういう生命に危険を感じるような状況になるとね、生きるために魂が成長するのよ。
これが“魂の負荷”と言われているの。」
と答えた。私は分かったような分からないような中途半端な気持ちだったが、
「なんとなく分かった気がします。」
と答えておいた。横山さんが資料を見ながら、
「次は山上君ね。」
と言った。あの資料は私の事がかかれているのだろうかとか、どうやって組合は個人情報を入手したのだろうかということが気になりながら、横山さんの前に座った。
「君は随分と魂に負荷がかかった様ね。
経験値はと。
かなりたくさん貰ったみたいね。普通の冒険者が殴りたくなるレベルで。」
と話した。横山さんによると、この世界では魔物を倒すとその魂が分解されて倒した人に割り振られるのだそうだ。一節に女神様が一つ一つの戦いを見ていて、貢献度に応じて経験値を割り振ってくれるらしい。この時、“魂の負荷”が低いと低倍率で、“負荷”が高いと高倍率で経験値が割り振られるのだそうだ。そして、田中先輩によると、私が死なないように黒竜がブレスの威力を調整したが、それが勝敗の明暗を分けたので、貢献度として認められたのではないかという事だった。
横山さんが言うには、まだ魂の融合が終わっていないので何とも言えないが、強い力を持った魔物の魂を吸収するとそれに沿って身体も強化されるので、おそらく角兎がぶつかったくらいではビクともしない、中堅冒険者並の強さになるのではないかとの事だった。
私は、
「では、田中先輩はどのくらい強いのですか?」
と横山さんに聞いたところ、
「おそらく超級冒険者の上の方ではないかしら。
こんな自分よりも強いポーターなんて、帰ってきてもポーターにおんぶに抱っこだったんだろうと揶揄されそうだし雇いたくないわね。」
とはっきりと言ってしまった。先輩は
「まぁ、それで仕事が来なくなってな。
そのせいで、2年ちょっと前だったか、仕方なく職を探したんだ。
他の職種は全然だったけれど、歩荷がポーターの一種ということでなんとか就職できた時には喜んだものさ。」
と疲れたような顔をして話した。横山さんは、またやってしまったと言って先輩に謝っていた。あと、野辺山さんは、先輩が歩荷になったのはもう3年半も前の話だと言っていた。先輩、ボケるには早いです。
この日は賞金を受け取って解散となった。
私はへばり込んでいただけだったのだが、経験値をたくさん貰っている点から貢献度が高かったのだろうということで、まさかの銀1貫という大金を貰った。分け前をたくさん奪ったように思えて恐る恐る振り返りながら先輩の顔を見ると、特に思う所もないような顔をしていた。ちなみに主に野辺山さんが、事後処理はあるものの放置された素材のおかげで冒険者組合としても臨時収入があったと喜んでいた。
今日は、書類の書き方は以前課題ではあるが、思わぬ臨時収入も入り、充実した一日として終えることができた。
この世界では朝と晩の一日2食が一般的で、普通、昼はお茶を飲む程度です。