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空いている部屋を

 私達は、今朝(たず)ねたばかりの紅野様のお屋敷を、再び(おとず)れていた。

 現在は、座敷で紅野様が来るのを待っている。

 紅野様が部屋の外まで来たので、頭をしっかり下げての土下座だ。


 すっと障子が開き、紅野様が入ってくる。

 紅野様は上座に座ると、


「まずは、(おもて)を。」


と言う。

 大月様が代表して、


「恐れ入ります。」


と言って、私達の顔を上げさせ。

 今日二回目のせいか、若干簡略化しているようだ。

 紅野様は、


「して、日程の件はどうであった?」


と早速本題を聞く。

 芳しくない回答をしなければいけない大月様は、


「それが、明日からと申しておりまして・・・。」


と恐る恐る状況を説明する。

 紅野様は、


「ふむ・・・。」


と黙り込む。


──一時の静寂。


 紅野様は、


「将来、どちらかが巫女となられた時、あの里で長屋に泊まったなどと言われてはかなわぬ。

 明日から来るが良い。」


と了承してくれた。

 大月様が少しため息を漏らしてから、


有難(ありがた)き、幸せにて。」


とお礼を言う。紅野様は、


「仕方あるまい。」


と言った後、


「この後、山上は少し残るがよいぞ。」


と言われた。私は何かあるのだろうかと思いながら、


「分かりました。」


と答えると、佳央様も、


「じゃぁ、私もね。」


と一緒に残ってもらえる事になった。

 大月様は、


「では、小生(しょうせい)は巫女様達のいる神社まで、明日から来てもらってよい旨を伝えに行って参ります。」


と言い、お座敷を退去した。



 座敷から出た事を確認した紅野様は、手を敲いて下女を呼び、


「先程の申し付けだが、明日からと相なった。

 これが、山上だ。

 案内してやれ。」


と指示をする。そして佳央様に、


「本当はもう少し一緒にいたいのじゃが、これから仕事での。

 また夕餉(ゆうげ)にでもの。」


と伝えた。佳央様が、


「分かったわ。」


と返事をする。

 紅野様が名残惜しそうにこの場を離れ、下女の人が、


「では、こちらに。」


と案内してくれた。

 下女の人は、廊下をしずしずと歩くと、とある部屋の前で立ち止まった。

 そして淡々(たんたん)と、


「こちらが、山上様と奥方殿の泊まる部屋となります。」


と説明をしながら、障子を開けてた。

 8畳くらいだろうか。長屋よりも広い。

 私は、


「立派な部屋ですね。

 ありがとうございます。」


とお礼を言うと、下女の人は、


「いえ。」


と軽く返す。佳央様が、


「この奥が寝室(ねや)という訳ね。」


と付け加えた。私はこれにもう1部屋かと驚いたのだが、下女の人が、


「いえ、この部屋だけです。」


と否定した。佳央様が、


「狭くない?」


と聞いたのだが、下女は、


「はい。

 ですが、山上様はお客人とはなりますが、一般の竜人格ですので。」


と説明した。佳央様が、


「一般の・・・ね。」


と思う所があるようだ。佳央様は続けて、


「今回、巫女様のお付きのその更にお付きの人から、仮の巫女の修行を受けるのよ。

 正式ではないにせよ、それだけの力があると認められてるの。

 分かる?」


と不機嫌に文句を言った。下女の人が戸惑っている。

 佳央様は、


「そう言えばさっきから、和人のこと見下してるみたいね。

 ちょっと、(あなど)り過ぎなんじゃない?」


と付け加える。私は言い過ぎだろうと、


「佳央様、それはちょっと・・・。」


()めに入る。下女の人は、


「申し訳ありません。」


と謝った。佳央様は、


「一般にしても変よ。

 あなた達と一緒の大きさの部屋じゃない。」


と指摘した。私は部屋の割当をこの下女の人がしたのでないなら、これ以上文句を言うのも筋違いだろうと思い、


「佳央様、部屋を指示したのは、この方なのでしょうか・・・。」


と聞くと、佳央様は、


「違うでしょうね。

 だから、今すぐ文句を言われたと伝えてきて。」


と指示を出した。私は、この下女さんが不憫(ふびん)だと思ったので、


「申し訳ありません。

 私はこの部屋でも十分だと思うのですが、佳央様がこう言っています。

 板挟みで申し訳ありませんが、お願いできますか?」


と伝えると、下女の人は意外そうな顔をして、


「分かりました。

 伝えてまいります。」


と言って、この場を立ち去った。

 私は佳央様に、


「間に立っていると分かっている人に、何もあの様な言い方をしなくても良いのではありませんか?」


と文句を付けると、佳央様は、


「こういう時、表情はどうだったかと聞かれるのよ。

 それで、もし分けなさそうに言っていたと伝えるのと、かなり怒っていたと伝えるのでは、対応も変わるでしょ?

 だから、こういう時は少し大げさに怒ったほうがいいのよ。」


と理由を説明した。()(かな)っているような適っていないような、微妙な話だなと思った。


 暫くすると、先程の下女の人が戻ってきた。

 佳央様が、


「で?」


と、またしても高圧な態度で質問する。すると下女の人は、


「この部屋で良いのだそうです。」


と告げた。佳央様が怒気(どき)()らしながら、


「どうして?」


と聞くと、下女の人は、


「その・・・、どのみち夜は佳央様の部屋にお泊りになるので、部屋は形だけと・・・。」


と申し訳なさそうに話した。

 佳央様は、


「それで・・・。」


と納得したようだが、まだ何か言いたそうだ。

 私は、何を考えているのだろうかと思い、聞こうとしたのだが、先に下女の人が、


「赤竜帝のお申し付けで、どのみち同じ部屋で寝ることになるとも、仰っていまして・・・。」


と付け加える。私は、


「佳央様の部屋は広いのですか?」


と聞くと、佳央様は、


「私の部屋は、狭いから駄目ね。」


と言った。私は、小さい頃の与えられたせいで、ずっと狭いままなのだろうと思い、


「なら、仕方ありませんね。」


と納得したのだが、下女の人が、


「いえ、部屋の大きさはこの倍です。」


と言った。私は不思議に思い、


「では、問題なさそうですが・・・。」


と疑問を投げると、下女の人は、


「佳央様のお部屋は、あれは触るな、これも触るなで、ここ数年、誰も入っておりません。

 最後に入った者も、佳央様は宙に浮いて寝ているに違いないと・・・。」


と説明した。足の踏み場もないくらい、物が散乱しているという事なのだろう。

 あまり言われたくなかったのだろう。佳央様の目が死んでいる。

 私は、


「一緒にお片付けをしましょうか?」


と聞いたのだが、佳央様は、


「自分で片付けてくるわ。

 和人は、他の部屋の説明を受けてて。

 終わったら、この部屋ね。」


と言って、フラフラとこの場を離れていった。


 下女の人から、残りの部屋を説明してもらう。

 清川様と古川様はそれぞれ個室で16畳の居間と、寝屋(ねや)として続きの8畳間を使ってもらう予定とのこと。巫女様の関係者ということで、最上級のおもてなしが必要なのだそうだ。

 その他、道場のような所に案内された。ここで修行をしてもらうつもりなのだとか。

 ただし、こちらは清川様の意見を聞いて決めたわけではない。変更する場合もあるそうだ。

 その他、(かわや)なども案内してもらった。

 厠は離れになっているのだが、隣に井戸と柳の木が・・・。

 もう冬も近いし、出ないことを祈る事にした。


 一通り屋敷の案内をしてもらった後、私達に割り当てられた部屋に戻ってくる。


 暫くすると、佳央様も戻ってきた。

 私は、


「片付きましたか?」


と聞いたのだが、佳央様は、


「そこまで、酷くはなかったからね?」


(とぼ)けつつ、


「それじゃ、私の部屋に案内するね。」


と言って歩き出した。

 佳央様の部屋まで移動する。

 中は、(ちり)1つ落ちていない。特に臭いもない。

 (かび)(くさ)さもないが、畳のい草の香りもない。

 女性が使いそうな化粧箱すらもないが、こちらは押入れに仕舞えるので、無い場合もあるだろう。

 私は、


「何もありませんね。」


と聞くと、佳央様は、


「ええ。

 ちゃんと仕舞ってあるから。」


と答える。

 私は佳央様のスキルを思い出し、


「亜空間にねじ込んだのですか?」


と聞くと、佳央様は一瞬眉を寄せ、


「ねじ込むだなんて、人聞きの悪い。

 元々、こんなものよ。

 (ほこり)が溜まってたから、掃除したに過ぎないわ。」


と言った。私は本当かなと思ったのだが、


「そうでしたか。」


とこれ以上は詮索しなかった。

 佳央様が、


「じゃ、帰るわよ。」


と言って、お屋敷の部屋の確認も済んだので、長屋に帰ることとなった。


 長屋に帰った後は、更科さんに今日の出来事を話しながら、夕食を食べた。

 寝る前、私は紅野様が『夕餉にでも』と言っていたのを思い出した。ひょっとしたら明日、文句を言われるかもしれない。

 だが、いまさら終わったことを考えても仕方がない。

 私はそれを思い出さなかったことにして、久しぶりの長屋の部屋三人、川の字になって寝たのだった。


 作中、山上くんは井戸と柳の木を見て、幽霊を連想しています。

 夜間、風で揺れる柳の枝を髪か何かと見間違えたのだろうという話ですが、柳を見間違えたのなら、下に足がないのも納得というものです。

 なお、本作は怪談物ではありませんので、何も出ません。(^^;)


・シダレヤナギ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B7%E3%83%80%E3%83%AC%E3%83%A4%E3%83%8A%E3%82%AE&oldid=83273787

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