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三度に分けて

 ご飯と奥に置いてあるおかずを食べていると、更科さんから、


「和人、向付はお酒が出てきてからよ。」


と不味そうな顔で注意された。私は、


「そうなのですか?」


と聞くと、更科さんは、


「うん。」


と言った後、大月様の方をちらっと見て、


「・・・えっと、まだ習ってなかったのね。」


と言った。私は、


「そうかもしれません。

 全く覚えがありませんし。」


と返事をすると、更科さんは、


「やっぱり、そうなのね。」


と言って、何かを少し考え、


「一先ず、気になるのはご飯かしらね。

 今日は、最後は一口残すのよ?」


と説明した。私は不思議に思い、


「それはどういうわけで?」


と聞くと、更科さんは、


「最後に湯漬けで締めるんだけどね?

 その時のために一口分、残しておくの。」


と教えてくれた。私は、


「あまり量もないので、お()わりしたいと思っていたのですが。」


と言ったのだが、更科さんは、


「一杯目はお代わりするんだけどね?

 後はあまりしないほうがいいの。

 できれば、我慢して。」


とすまなさそうに言った。ここで大月様も私達の会話に気がついたようで、


「そう言えば、伝えていなかったな。」


と苦笑いした。私は、


「いえ、佳織が教えてくれましたから。

 ところで、他にはありませんか?」


と聞くと、大月様は、


「どうであったか。」


と苦笑いした。古川様が、


「所作が・・・染み付いているから・・・、説明が難しい・・・という・・・事?」


と尋ねると、大月様は、


「うむ。

 まさに、その通りにて。」


と、気まずそうに言った。

 更科さんが、


「じゃぁ、気がついたら教えるね?

 ひとまず、ご飯とお味噌汁の蓋は、ひとくち食べたら戻すのよ。」


と教えてくれたので、私は改めて、


「佳織、ありがとう。

 助かります。」


とお礼を言って蓋を閉じた。


 田中先輩に、


「ところですみません。

 先程、入り口の所での話ですが、以前、こちらに来た時の話を教えていただいてもいいでしょうか?」


と聞いたのだが、田中先輩から、


「それは、酒を飲みながら話してやろう。」


と言って、さっさと膳の上の料理を食べてしまった。

 さっき更科さんが教えてくれた向付はお酒が出てからという作法は、田中先輩は聞いていなかったようだ。

 赤竜帝の方を見ると、少し笑っている。

 横山さんが、


「ゴンちゃん、早食いね。」


と言うと、蒼竜様が、


「冒険者の暮らしが長いからであろう。」


といつものことだと言わんばかりだ。

 田中先輩は、


「まぁ、食事をやっている間は、警戒が薄くなるからな。」


と理由を説明した。

 横山さんが『早食い』と言っているのは、向付を先に食べてしまった事を指摘しての事に違いない。

 だが、田中先輩は気付かずに『早食い』という言葉を、そのままの意味で受け取ったようだ。


「依頼によっては、酒すら飲ませてもらえない事もあるぞ?

 そういう依頼の後は、街に帰ったら鱈腹(たらふく)飲むんだ。」


と当然のように説明をする。蒼竜様が、


「田中は、そうでなくても飲むではないか。」


と言うと、田中先輩は、


「ああ。

 新人の頃、先輩を前にいつ飲み始めたらいいか分からなくてな。

 その癖、割り勘だろ?

 何度か続いたら、今日も飲み負けるんじゃないかって気になってな。

 それが原因か、いつの頃からか、なるべく沢山飲まないと落ち着かなくなったんだ。」


と苦笑いしながら話す。

 すると清川様が、


「この様な場でなるべく多く飲もうとするは、稼ぎの少ない期間が長かった者に多いかの。

 が、そち。

 聞くに先の(いくさ)でも活躍したと聞いておる。

 それほどの腕前(うでまえ)であれば、稼ぎが少ないという事もあるまい?」


と聞くと、蒼竜様が、


「なるほど。

 確かに、一理(いちり)ございます。

 田中も、あまり稼げてはいない時期が長かった筈です。」


と話した。

 田中先輩も、


「まぁ、そうだな。」


(しぶ)そうな顔を作って答える。

 赤竜帝が、


「もうそろそろ、巫女様の準備が整うという話だったか。

 上手く行けば、ポーターの呪縛から開放されるぞ。」


と言うと、田中先輩は、


「そんな風に、今迄(いままで)も何度か言われたからな。

 まぁ、期待せずに待つことにするぞ。」


と気にも止めない風で返事した。清川様が、


「田中よ、巫女様に無礼であろうが。

 出来るに決まっておろう。」


と苦言を(てい)したのだが、田中先輩は、


「出来ると言って失敗したやつを、何人も見てきたからな。」


と苦笑いで返した。清川様は、


「なるほど。

 だが、気の持ちようというのもあるのじゃぞ。

 出来ぬと思うておれば、出来ることまで出来ぬという事もあろう。」


と言うと、少し思案顔をして、


「今回は巫女様が直々(じきじき)に更新なさるそうじゃ。

 失敗はない。

 安心せい。」


と断定した。紅野様が驚いた顔で、


「直接ですか?」


と聞き返すと、清川様は、


「そうじゃ。

 なんでも、今回はなかなか手強いゆえ遊びはなしじゃと聞いておる。」


と言った。古川様が、


「清川様・・・、それは・・・。」


と何か言いたげだ。

 私は、


「また、清川様が?」


とかまを掛けると、清川様は、


「またとは何じゃ。

 確かに、巫女様からはっきり出来るとは聞いておらぬが、巫女様じゃぞ?

 未来を見て、出来ぬなら断るに違いあるまい。」


と説明した。私は、


「なるほど、それもそうですね。」


と納得したのだった。


 全員の汁物の蓋が閉じられた所で、盃とお銚子(ちょうし)が乗った盆が出てきた。

 大月様が、


「山上。

 本来は主催した者が酒を()いで回るのだが、やってみよ。」


と言った。私は、


「分かりました。

 ところでこの盃、どうすればいいのですか?」


と聞くと、大月様は、


「うむ。

 盃を渡して、三度に分けて注ぐが良いぞ。」


と教えてくれた。

 私は早速、お酒を注いで回ろうと、膳から箸先が出るように箸を置く。

 更科さんが、


「こういうのは出来てるから、不思議なのよね。」


と中途半端に作法が出来る私を見て(つぶや)いた。私は、


「小さい頃、庄屋様のお屋敷に上がる時に、この辺りは教わりましたから。」


と説明する。古川様が、


「子供は、・・・お酒は・・・飲まないから。」


と補足した。更科さんが、


「でも、向付に手を付けちゃってるわよ?」


と言うと、古川様が、


多分(たぶん)、・・・子供が覚えられないから。

 ・・・何処(どこ)かで、・・・省略?・・・したんじゃ・・・。」


と推測を話した。私は、


「そう言われると、そんな気がしてきました。

 一緒に呼ばれた子の中に、奥付に手を付けていない子がいた気がしますし、庄屋様も利発(りはつ)な子だと()めていた気がします。」


と同意する。

 田中先輩から、


「山上。」


と呼ばれて振り向くと、田中先輩が盃を見ていた。

 私は、


「すみません。

 すぐに。」


と言って、席順に盃を渡しては三度に分けて盃にお酒を注いで回ったのだった。


 実際には色々と作法があるようですが、沢山食べる竜人とそぐわないので、色々と変えてあります。

 更科さんは、実家で作法の勉強も習っているので、実家でやるかは別として、うろ覚えではありますが、ある程度は食事の作法も出来る想定です。

 ちなみに江戸時代、娘が三人いると身代が(つぶ)れると言われていたそうです。

 なんでも、いいとこのお嬢様は、嫁に出るまではお茶やお華を始めとした習い事をさせて教養を身につけさせたそうです。そしていざ嫁ぎ先が決まれば、嫁入り道具も沢山持たされていました。このため、娘を育てるためには、半端なくお金がかかったのだそうです。

 これが二人目、三人目と増えていくと、目も当てられない。3人目からは()めますというわけにも行かず、支出がおかしなことになったのだとか。

 ただ、この話をどこで見かけたのか不明ですので、おっさんが勘違いしていたらゴメンナサイ。(--;)


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