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他にも仕掛けがあるらしい

 その日、私は再計測も終わり、暇になったので気配を消す練習をしていた。

 なにせ、他にやることがない。

 腹もそんなに減らないというのに、こんなに晩飯が待ち遠しく感じたことは初めてだ。


 とりとめもなくそんな感じの事を考えていると、階段の方から見知った気配が二つ降りてくる事に気がついた。

 これは、赤竜帝と蒼竜様だ。

 金石様が、慌てて牢の入り口に出迎(でむか)えに行く。

 外側の詰め所の役人が慌てて牢の(じょう)を開け、(かんぬき)(はず)す。

 どこに行くのだろうかと思って見ていると、何となく蒼竜様と視線があった気がした。

 地面に頭を着け、土下座(どげざ)する。


 暫くすると、私の入っている揚屋(あげや)の前に二人がやってくる。

 蒼竜様が、格子壁(こうしかべ)越しに話しかけてきた。


「本日は、鑑定ご苦労であった。」


私は、


「恐れ入ります。」


と返事をする。蒼竜様は、


「うむ。

 分かっておるとは思うが、これから話す内容は他言無用にて。」


と言ってきた。そして、


「もう一つ、此度(こたび)公務(こうむ)である。

 直接は話さぬように。」


と付け足した。

 直接話すなと言っている対象は、赤竜帝に対してに違いない。

 私は分かっているだろうとは思ったが他言無用ならと思い、


「蒼竜様、隣の揚屋にも人が入っておりますが・・・。」


と確認した。すると、蒼竜様は印籠(いんろう)のようなものを出し、


「うむ。

 山上の懸念(けねん)(もっと)もなれど、そこは問題ない。

 この牢内では、この道具を使うことにて、周囲に音を漏らさぬようにする事が出来る仕掛けがある。」


と話した。私は、


「そのような重要な事を、お話になっても?」


と聞くと、蒼竜様は、


「それもまた尤もなれど、そこも気にせずとも良い。」


と言った。土下座しているので蒼竜様の顔は見えないが、声色(こわいろ)から苦笑いしていそうだ。

 いや、牢内は行灯(あんどん)の光だけなので、土下座していなかったとしても暗くて表情は見えそうにないか。

 そんな風に思い直していると、蒼竜様が、


「山上。

 では、風魔法を使ってみよ。」


と指示をした。私は念の為、


「宜しいので?」


と確認する。すると蒼竜様は、


「特に問題もあるまい。」


と言った。風魔法を集め、それを前に飛ばす。

 赤竜帝が、


「うむ。

 禁書庫の通りのようであるな。」


と言って(うなづ)く。

 私は『きんしょこ』が何なのか質問したかったのだが、蒼竜様から最初に釘を刺されたので、ぐっと我慢(がまん)する。

 蒼竜様は、


「続けましょうか?」


と質問をした。しかし赤竜帝は、


「いや、十分であろう。」


と返すと、


「ここからは、公務ではない。

 よいな?」


と話した。金石様は、


御意(ぎょい)。」


と同意したが、蒼竜様は、


「節度は(たも)つように。」


と言った。恐らく、私に言ったのだろうと思い、


心得(こころえ)ております。」


と返したのだが、赤竜帝も、


「まぁ。」


と返し、声がかぶってしまった。

 赤竜帝が、


「ふふっ。

 頭を下げておっては、どちらに言ったかも分からぬ事もあろう。

 頭を上げよ。」


と言った。私はそれに従い、1寸(約3cm)ほど頭を上げる。

 すると赤竜帝は、


「いや、公務ではないのだ。

 普通で構わぬ。」


と残念そうな声色で話した。私は、


「分かりました。」


と言って土下座を()め、蒼竜様に、


「公務ではないようですし、節度もほどほどという事でご容赦下さい。」


と先に謝っておいた。

 赤竜帝が、


「ほどほどであるか。」


と先ほどと違い、少し楽しそうだ。

 蒼竜様は、


「赤竜帝が(おっしゃ)るなら。」


と了解してくれた。私は気配で二人が何処にいるかは解るが、顔も見ずに話をするのも味気ないと思い、


「あと、すみません。

 ここは暗くて見えにくいのですが、温度で見ても宜しいでしょうか?」


と確認した。すると蒼竜様は、


「それは魔法ではないゆえ、問題あるまい。」


と答えた。私は、


「そうでしたか。

 それはやっても良かったのですね。」


と少し笑った後、


「それで、赤竜帝からはどの様なお話で?」


と確認する。

 蒼竜様が、やや眉間(みけん)(しわ)を寄せる。

 だが、赤竜帝は気にした風もなく、


「うむ。

 なぜ、山上が牢内で魔法が使えるのかが分かったのだ。」


と話し始めた。赤竜帝は、


「ここの地下牢なのだがな。

 ここは、里の開闢(かいびゃく)の当時から存在する。

 ゆえに、山上は、ここでも外と変わらず魔法を使うことが出来るという訳だ。」


と話した。私は、


「恐れながら申し上げますが、昔からある事と、魔法が使える事がどのように繋がるのでしょうか。」


と質問をした。すると今度は蒼竜様が、


「山上も、この里は黒竜帝が開闢したという話くらいは聞いた事はないか?

 里の歴史も、多少は大月から教わった筈である。」


と質問で返してきた。私は、


「はい。

 ですが、その前に以前連れて行っていただいたお寿司屋さんで聞いたのだったと思います。」


と答える。

 話を聞いて暫く時間が経っているが、流石に自分の力と関わっている話だ。

 そう簡単に忘れよう筈がない。

 蒼竜様は、


「寿司屋?」


と聞き返してきた。私は、


「初めて竜の里に来た時、赤竜帝や蒼竜様、田中先輩達と一緒に行ったお店です。」


と説明すると、赤竜帝の方が先に思い出したようで、


「あの時か。

 田中との飲み会ゆえ、よく覚えておる。」


と嬉しそうだ。

 私は、お寿司屋さんの(とこ)()()けられていた掛け軸(かけじく)の絵を思い出しながら、


「はい。

 あの時、この床の間のに描かれている竜の魂が脈々と継承され、私がそれを受け継いでいると聞いて恐れ多く思ったのは、今でも鮮明に思い出します。」


と感慨深く話すと、赤竜帝も、


「そうであったな。」


(うなづ)く。蒼竜様も、


「うむ。」


と頷いた後、


「ここの魔法を阻害(そがい)する仕組みも、当時のものとなる。

 が、普通、主の魔法まで(はじ)く設計にはすまい?」


と聞いてきた。私はよく分からなかったので、


「そのような物なのですか?」


と確認した。すると赤竜帝が、


「うむ。

 ゆえに今でもこの地下牢では、黒竜帝の魂を介した魔法は使えるという訳である。」


と説明した。私は、


「なるほど、そう言う事でしたか。」


と納得したが、ふと気になり、


「・・・ひょっとしてですが、他にも私しか使えない仕掛けがあったりするのでしょうか?」


と質問してみた。すると金石様に、


「城の警備に関わる問題である。

 その様な質問をするものでないわ!」


と怒られてしまった。私は、


「申し訳ありません。」


と謝ったのだが、赤竜帝は、


「いや、そのうちその仕掛けを動かしてもらおうと思っておった。

 ・・・蒼竜、やはりそう言うのは駄目か?」


と確認した。だが、蒼竜様は、


「駄目に決まっています。」


と厳しい顔つきではっきりと明言した。

 だが、赤竜帝の表情を見てか、


「・・・が、山上ですし問題ないかと。」


と折れたようだった。

 私は、


「では、機会があればよろしくお願いします。

 いや、どんな仕掛けがあるのか、口外出来ぬにせよ、今から楽しみです。」


と返すと、金石様から、


「身内にもであるからな?」


と釘を刺された。私はそれは出来るか心配になったが、


「それは、・・・勿論(もちろん)です。」


と返したのだった。金石様が、


「何故、今口ごもった?」


としてきしてきた。私は、


「佳央様は、そのうちこの力を継承することになりますし、佳央様とは話すのに佳織・・・」


と話した所で、金石様は知らないだろうと思い、


「私の妻に話さないとなると、無駄ないざこざも起きそうですので・・・。」


といい直しながら答えると、蒼竜様は、


「両方に話さねばよかろう。」


と言ってきた。私は、


「それはそうなのですが・・・。

 佳央様に力を継承した後、その話題になった場合は自信がありません。

 恐らく、話の途中で佳織が来てもそのまま話してしまいそうですので。」


懸念(けねん)を説明した。

 赤竜帝が、


「そうであっあ。

 すっかり忘れておったが、折角、里に巫女様がきているのだ。

 後で力の継承でも手配しておくか。」


と言った。蒼竜様が、


「それは、今、話さなくとも・・・。」


と少し困り顔をした後、


()(かく)、山上は口に戸を立てられぬようであるから、やはり仕掛けは試さぬ方が良かろう。

 赤竜帝も、そのつもりでお願いします。」


と困った顔で言った。

 赤竜帝は、


「・・・うむ。

 今は、話はこれだけである。

 では、またな。」


と言い、蒼竜様も、


「そのうち、また声も掛けに来よう。」


挨拶(あいさつ)をしたので、私も、


「では、また。」


と返した。


 三人がここを離れていく。

 そして、牢に静けさが戻ってくる。

 私はまた、気配を消す練習を再開したのだった。


 作中、蒼竜様が「口に戸を立てられぬ」と言っています。

 (ことわざ)では噂が広まるのは止められないという意味ですが、ここでは、話すのを我慢できないという意味で使っています。

 この「戸を立てる」というのは、古語で「戸を閉める」という意味となります。

 おっさんが中学生だった時、社会の先生が「小さい頃にばあさんが戸を立てると言っていて、最初は意味が分からなかった」という感じのことを言っていたのを覚えていますが、実家のある地方では、明治や大正生まれの人までは普通に使っていのだろうと思われます。

 こういった言葉がそのまま使われていたら方言〜言葉の遺存種(レリック)〜になったのだろうなと思うことがあります。


 あと、竜の里は黒竜帝が開いたというのは、「赤竜帝と寿司屋に行った」の時に出てきた話です。

 あの頃は、後書きで各々の心内(こころうち)を説明するのが、おっさんの中でブームだったんですよね。

 1年以上も経つので、随分と懐かしいです。(^^)

 この後も、何回か過去の振り返りのような話をする予定です。


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