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再計測

 翌日の朝・・・なのだろうか?

 私は目を覚ましたものの、朝まで寝たのか自信が持てなかった。

 (ろう)揚屋(あげや)の中、光は行灯(あんどん)のみ。

 今が朝だという証拠が見つからない。

 だが、二度寝する気分にもなれなかったので、特に目的もなかったが起きる事にした。


 さて、これから何をしようか。

 昨日、私は魔法の練習をして怒られた。

 他に、出来ることと言えば、気配を消す練習ぐらいだろうか。


 という事で、早速気配を消す練習を始める。

 だが、じっとしていても、その場で隠れる訓練にしかならない。

 音を立てないように気を付けながら、気配が漏れないように静かに揚屋の中を歩く。

 暫くすると(もよお)してきたので、樋箱の中に用を足し、また練習を再開する。


 そうやってウロウロしながら気配を消す練習をしていると、金石様がやってきた。

 金石様は、


「どうした?

 こんな朝早くから。」


と聞いてきた。私は、


「その・・・、手持ち無沙汰(ぶさた)なもので。」


と返すと、金石様は、


「もう少し、座って落ち着けぬのか。

 詰め所から気になって、気になって。」


と言われてしまった。

 私は気配を消しているつもりだったが、どうやら上手く行っていないようだ。

 思わず、苦笑いをする。

 そして、最初の日に紙と筆を頼んだのを思い出し、


「確か、金石様には紙と筆を頼んでおりました。

 それがありましたら、少しは静かに出来ると思います。」


と返した。金石様はポンと(ひざ)を叩くと、


「そうであった。

 いや、すっかり忘れておった。

 夕餉(ゆうげ)の時にでも一緒に届けるゆえ、(しば)し待たれよ。」


と小さく笑って返した。

 隣の揚屋から、雫様の妹が、


「あんた達、何時(なんどき)だと思ってんだい?」


と小声で怒られた。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝ると、金石様も、


「すまぬ、すまぬ。」


と言って謝った。雫様の妹は、


「頼むよ?」


と不機嫌そうに言うと、すぐにまた寝たようだ。

 金石様が詰め所に戻っていく。

 仕方がないので、私はじっとしながら、気配を消す練習を再開した。


 それから少しして、金石様が階段の方に向かう。

 恐らく、朝食を取りに行ったのだろう。

 そう思うと、急にお腹が空いてくる。

 お腹の音が鳴る。

 隣の揚屋(あげや)から、


「こんな時間から、お腹を鳴らしてるんじゃないよ!」


と怒られてしまった。

 私は、


「すみません。」


と謝った。

 だが、腹が鳴るのは()められないので、黙って見逃して欲しい所だ。


 暫くすると、金石様が朝食を持って戻ってきた。

 案の定、朝食を取りに行ったようで、いつもの麦飯と味噌汁のいい(にお)いが(ただよ)う。

 金石様が、


「朝食である。」


と言って(ぼん)を置き、次の揚屋に行く。


 いつもの麦飯の他に、(かぶ)の葉と油揚げの味噌汁、香の物は牛蒡(ごぼう)粕漬(かすづ)けだ。

 牛蒡の粕漬けは、酒粕の柔らかな風味と牛蒡の歯ごたえがお見事。

 流石、竜帝城だ。

 私は朝食を堪能すると、盆を下げる時にそっと樋箱(ひばこ)の始末もお願いした。


 朝食からどのくらい時間が経ったかも分からないが、蒼竜様、金石様と、あともう一人、見知らぬ竜人がやってきた。見知らぬ竜人は、大きめの(かばん)を持っている。

 蒼竜様は、


「山上、昨日話した鑑定を行う。

 中に入るぞ。」


と言った。

 どうやら、これから私のステータスを測り直すようだ。

 あの見知らぬ竜人は、鑑定が出来るのだろう。

 何となく私は、


「はい。

 汚い所で申し訳ありませんが、お入り下さい。」


と言って迎え入れた。

 (みんな)、苦笑いだ。

 蒼竜様が代表して、・・・という訳でもないのだろうが、


「それでは、揚屋(ここ)(ぬし)みたいではないか。」


と苦笑いした理由を話す。

 私も、


「それはそうなのですが・・・。」


と返すと、見知らぬ竜人が、


「すみません。」


と言って、蒼竜様に声を掛ける。

 蒼竜様は、


「うむ。

 では、頼む。」


と言うと、見知らぬ竜人は自己紹介もせず(かばん)を開け、中から何やら道具を取り出し始めた。

 取り出された道具は、(ほとん)どが初めて見るものばかりだ。

 鑑定に使う道具なのだろうが、以前、横山さんが使っていた道具とも、ニコラ様が使っていた魔道具(?)とも違う。韮崎さんが言っていた、王立研究所の最新型というやつなのだろうか。

 私は、


「確か、冒険者組合では、鑑定は銀1(もんめ)でした。

 やはり、後で1匁取られるのでしょうか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「ん?」


と一瞬、何を聞かれたか分からなかったようだが、


「あぁ、いや。

 これは詳細な鑑定となるゆえ、もっと(たこ)うなる。

 が、この鑑定はこちらの都合ゆえ、山上は払う必要はない。」


と答えた。私は一瞬ヒヤリとしたが、(ただ)なら有り難い。

 私は、


「詳細な鑑定ですか。

 それはどのような結果が書かれているのか、楽しみです。」


と感想を言ったのだが、蒼竜様が、


「いや、この結果はこちらで資料とする物であって、山上に見せる事はない。

 もし、もう一度計り直したいのであれば、牢から出た後、冒険者組合で見てもらうのだな。」


と説明した。どうやら、私が早とちりしたようだ。

 私は、只で鑑定の結果が貰える訳ではないと知り、


「そうでしたか。

 それは残念です。」


と返した。

 鑑定をするために、道具ごしに私を(のぞ)き始めた竜人が、何度も首を(ひね)る。

 蒼竜様が、


如何(いかが)したか?」


と聞くと、鑑定の竜人が、


「いえ、これなのですが・・・。」


と言って、さっきまで鑑定の竜人が(のぞ)いていた道具を、蒼竜様に渡した。

 蒼竜様がその道具を覗き、


「なるほど。

 山上は、魔力集積副魔法という珍しい物が使えるゆえな。」


と言いながら、鑑定の竜人に説明していく。

 道具を返してもらった鑑定の竜人が、又、私を覗き、


「なるほど、なるほど。」


と言いながら、道具を次々と換えつつ私を覗いていく。

 だが、鑑定の竜人は、


「ん?

 いや、しかし・・・。」


とまた詰まった。いくつかの道具を交互に換えながら、私を覗いては首を傾げる。

 蒼竜様が、


「今度はどうした?」


と聞くと、鑑定の竜人は、


「どう見ても、重さ魔法で着火や冷却が出来る事を示唆(しさ)しておりまして・・・。」


と不思議そうに考えている。

 私の使う着火は独自魔法に当たるそうなので、疑問に思うのも(しか)りだろうと思い、


「はい。

 黒い魔法(重さ魔法)で着火が出来るので間違いありません。」


と答えると、鑑定の竜人は、


「そのような事が可能なのか?」


(いぶか)しげに聞いて来た。なので私は、


「以前、風魔法で着火を実現したという話も聞いています。

 なんでも、・・・」


と説明しようとした所、蒼竜様が、私の話にかぶせ、


「山上、そこまでだ。」


と言ってきた。私は、何で()めたのか不思議に思ったが、蒼竜様は、


「その話を何処で聞いたの知らぬが、これは他言無用である。」


と怒られてしまった。私は、


「すみません。

 つい・・・。」


と苦笑いすると、鑑定の竜人は、


「何れにせよ、そういった私が知らない方法もあるという事なのだな。

 人間にしては、面白いことをやっておるではないか。」


と楽しそうに笑って、計測結果を紙に書き出していた。

 蒼竜様は、


「いずれにせよ、ここで測ったものは口外にせぬようにな。」


と言うと、鑑定の竜人は、


「それは、心得ています。

 六字(ろくじ)とはならないにしても、それなりの罰はあるでしょうから。」


と少し大げさに言うと、蒼竜様に(にら)まれて、黙って私の鑑定を続けたのだった。


 最後、ちょっと強引な感じがありましたが、ここで出てきた『六字』というのは死ぬという意味です。

 この『六字』というのは、『六字名号』の(かしら)2文字となり、『六字名号』というのは『南無阿弥陀仏』の事を指します。そして、この『南無阿弥陀仏』はご臨終の際に(とな)えるので、お亡くなりになったことを指すようになったという事のようです。

 ちなみに女性は、『六字』の事を『お(ろく)』と言ったとか。

 そう言えば、「夜、森に入ったら」の後書きで『お陀仏(だぶつ)』を説明した時にも、似た理由でお亡くなりになることを指すようになったと説明したと思います。

 江戸時代の頃は死を隠す隠語が結構たくさんあったようですが、今よりも死が身近だったということの現れなのでしょうかね。


 あと、山上くんの【着火】の話は「保有魔法属性なしの件」の時に書いて1年も経っているので、ここで簡単に説明すると、重さ魔法で空気を圧縮し、(ボイル=シャルルの法則で)温度を上げて点火するという原理の魔法となります。

 この時、雫様が風魔法で空気を圧縮して【着火】が出来ると聞いたという話をしたのですが、その場に蒼竜様がいなかったので、蒼竜様は山上くんに誰が教えたかを知りませんでした。


・名号

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%90%8D%E5%8F%B7&oldid=75128219

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