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初めての牢

 これから3日間、私は竜帝城の地下にある牢屋に閉じ込められる事となった。

 槍の竜人に連れられ、階段を降りて地下に連れていかれる。


 地下は、少しジメッとしている。

 光は行灯(あんどん)の小さな(あか)りのみ。


 階段を降りてすぐ正面には、地面から天井まで、5寸(約15cm)くらいのしっかりした木の棒が等間隔にいくつも立てられ、その中は詰め所となっているようだ。

 右側には、大きな向こうが見えるすかすかの木戸が設けられており、その内側にも別の竜人がいるのが見える。これが牢の入り口だろうか。


 詰め所から竜人が出てきて、槍の竜人と何やらやり取りをしている。

 すると、牢の内側にも詰め所があるようで、そこからもう一人、竜人が出てきた。

 内側の詰め所の竜人が、


「この者がそうか?」


と聞くと、槍の竜人が、


「うむ。」


(うなづ)く。


 外側の詰め所の竜人が鍵と(かんぬんき)を外し、扉が開く。

 外側の詰め所の竜人が、内側の詰め所の竜人に向かって、


「それでは。」


と声を掛ける。

 槍の竜人が、


「この者は、手前の揚屋(あげや)へ。」


と言うと、内側の詰め所の竜人が、


「うむ。」


と返事をし、私の身柄(みがら)が引き継がれる。

 槍の竜人に会釈をすると、槍の竜人は小声で、


「数日である。

 我慢せよ。」


と言ってくれた。

 私は、


「ありがとうございます。」


と言って返すと、一つ(うなづ)き、外側の詰め所の竜人に挨拶(あいさつ)をしてここを去っていった。

 次に牢屋の番をしていると思われる内側の詰め所の竜人に、


「よろしくお願いします。」


と挨拶すると、その竜人は、


「確か、踊りの山上であったか。

 此度(こたび)は、巫女様について行ったせいで、えらい目におうたらしいの。」


と話してきた。

 踊りのという二つ名で呼ぶのはいただけないが、割と気さくな感じだ。

 私は、


「巫女様のされることですから。」


と当たり障りのない返事をしておく。

 その竜人は、


「そうそう、拙者(せっしゃ)、ここで牢役人をしておる金石(かないし) 浄太郎(じょうたろう)と申す。

 短い間とはなろうが、何かあれば申すが良かろう。」


と言ってくれた。

 金石様に連れられ、牢の入り口の戸を入って直ぐ右側にある揚屋という所に案内される。

 金石様は、


「ここが山上の入る牢となる。

 人間が入ることなど想定しておらぬゆえ、不備も多かろうが我慢せよ。

 それと、話を聞く限り、踊りのを牢に入れるはどうかとは思うが、法であるし拙者の決められることではない。

 定められておる以上、仕方がないと(あきら)めよ。

 まぁ、()め所も正面ゆえ、せめて気軽に話しかけるがよかろう。」


と説明してくれた。

 人間ならどんな不備があるのか、不安が(よぎ)る。

 私の表情から察したのか、金石様が、


「そのような顔をするでない。

 山の主を倒したのは、事実なのであろう?」


(たしな)めてきた。

 私は、大月様が何か聞かれたら正直に話すようにと言われたのを思い出し、


「その点は、間違いありません。」


と答えた。金石様は、


「であれば、本来であればこの奥の大牢(たいろう)行きとなろう。

 今は、先の(いくさ)のが入っておるゆえ、向こうはいっぱいでな。

 新入りは6〜7人に1畳程しか居場所が与えられぬであろうから、夜も横にはなれまいよ。

 それからすれば、揚屋(あげや)で他の者もおらぬのであれば上々と考えよ。」


と言った。金石様が牢の鍵を開け、中に入るように(うなが)す。

 『先の戦の』というのは、(しずく)様の出身の竜の里との戦いを指しているのだろう。

 その時、私と戦った焔太(えんた)様達も入っているのだろうか?

 私はそんな事を考えながら、牢の中に入った。


 中に入ると、私は用を足せそうな所がない事に気がついた。

 一回一回、金石様を呼べばよいのだろうか?

 だが、それでは深夜に催してきた時に問題が出る。

 私は、


「すみません。

 その・・・、(かわや)はどのようにすればよいのでしょうか。」


と質問をした。すると金石様は、


「うむ。

 部屋の隅に樋箱(ひばこ)があるゆえ、そこに出すがよかろう。

 声をかければ捨てに行くゆえ、深夜でなければ呼ぶがよい。」


と説明した。

 牢の中を見回すと、茣蓙(ござ)の他に漆塗(うるしぬ)りの箱が置かれているのが目に入る。

 私は、


樋箱(ひばこ)と言うのは?」


と聞くと、金石様は、


「そこにあるであろう。

 あの漆塗りの箱がそうである。

 蓋を取って中に出し、使用後は蓋をすればよい。」


と説明してくれた。私は、


「あの様な高そうな箱に、宜しいのですか?」


と聞くと、金石様は、


「うむ。

 そもそも、牢とは言えここは竜帝城であるぞ。

 そうそう、粗末な物を置く訳があるまい。」


と説明した。

 私は、


「言われてみれば・・・、そうですね。」


と一応は納得する。

 だが、このような高級そうなものに出すというのは、何となく(はばか)られるというもの。

 私は、


「ですが、私としては、竹筒ではありませんが、そのようなもので十分なのですが・・・。」


と肩を(すく)めつつ説明した。

 金石様は、


「あぁ、完筒(かんづつ)か。

 あれでは、用が済まぬ時もあろう。」


とバツの悪そうな顔をして答えた。私も大きい方だと困ることに思い至り、


「それもそうですね。」


と返した。

 樋箱(ひばこ)の蓋を開けてみても、厠の匂いは一切(いっさい)ない。

 私は、本当にここに出してもよいのだろうかと悩んだのだった。


 金石様が、


「上では、巫女様が来たという事で、今宵(こよい)歓待(かんたい)の宴と聞く。

 本来であれば、踊りのも呼ばれていたであろうに、残念であったな。」


と言った。

 私はどうして呼ばれるのだろうかと不思議に思い、


「私がですか?」


と聞き返した。

 金石様は、


「うむ。

 巫女様を竜の里まで案内したのであろう?

 それに、間接的にとは言え、言葉も交わしたと聞いておる。

 であれば、呼ばれて当然ではないか。」


と説明した。

 私は、一応竜人格は頂いている。

 だが、無礼講でもない限り、前に一緒に飲む機会があった赤竜帝や不知火(しらぬい)様と声を(かわ)わすのも(はばか)られる身分だ。

 そのような者が、少し関わったと言うだけで呼ばれてもよいのだろうか?

 私には違和感しかなかったので、


「そう言うものなのでしょうか。

 私には、分不相応(ぶんふそうおう)に思いますが・・・。」


と返した。しかし、金石様は、


「見知った顔が多いほうが、客人も喜ぶというものだ。

 当然であろうが。」


と、当たり前のように言う。

 私は少し困って、


「私には、(いささ)敷居(しきい)が高く感じますが、竜人の皆様の感覚では、そうなのですね。」


と苦笑いして返した。

 金石様も感覚に違いがあることに気がついたようで、


「こちらは、そういう雰囲気である。」


とにこやかに笑った。



 地下牢という所は、あまり音がない。

 奥に大部屋があるそうなので、もっと声が聞こえてきそうなものだが、静まり返っている。

 暫くすると、階段から人が降りてくる音がした。

 そのまま、前を通過していく。


 何やら飯の匂いがするので、そう言う時間なのだろう。

 お腹が鳴る。

 余程、大きな音で鳴ったのか、隣の揚屋から女性だろうか。クスクスと笑い声が聞こえてくる。

 今日は朝食を食べていないので、昼食が出るのは有り難い。


 私はそう思ったのだが、その後、一向に飯が配られる気配がない。

 それでも待っていればそのうち来るのだろうと考えて黙っていたのだが、四半刻(30分)くらい経っても、匂いがしたのはあれっきり。

 私は、金石様に声を掛けるかどうするか迷ったのだが、またお腹が鳴ったので我慢できず、


「すみません、金石様。」


と声をかけた。金石様は、


「厠か?」


と言いながら、こちらに来た。

 私は、


「いえ、飯の時間はまだかと思いまして。」


と聞くと、金石様は、


「?

 ここの飯は、朝晩の二回であるぞ。

 そう言えば、説明しておらなんだか。」


と返事をした。私は、


「そうなのですか?

 でも先程、ここの前を何やらいい匂いがする物を持った人が通ったのですが・・・。」


と確認すると、金石様は、


「あぁ、あれか。」


と苦笑いをした。私は不思議に思うと、金石様は、


「あれは、身分の高い者だけである。

 同じ囚人でも、牢の中ではこちらから牢内役人を指名しておってな。

 その牢名主(ろうなぬし)を筆頭に、囚人自身で牢内の治安を管理しておるのだ。

 が、無償で働かせるわけにも行くまい?

 そこで、牢内役人には昼食が振る舞われておる。」


と説明した。

 私は、朝も昼も抜きかとがっかりすると、金石様から、


「今宵は上では宴と言うたであろう?

 そのおこぼれがまわってくるゆえ、今日の晩飯だけは期待するが良いぞ。」


と言った。私は、


「明日からは?」


と確認すると、金石様は、


「一汁一菜となる。

 まぁ、他の連中と(ちご)うて3日の辛抱(しんぼう)であるから、耐えるがよかろう。」


と言って、軽く手を振り、詰め所に戻っていったのだった。


 作中の樋箱(ひばこ)というのは、平安時代に貴族が使ったとされる『おまる』になります。

 伝馬町牢屋敷では揚屋には半間ほどの大きさの雪隠が設けられていたそうですので、それに(なら)うことも考えたのですが、牢役人との会話のきっかけのため、こちらに変更してあります。


 あと、江戸時代の牢屋内において、牢名主を筆頭に牢内役人が幕府から指名されていたという点は史実のようですが、牢内役員に昼食が正規で振る舞われるという事はなかったと思われます。(役人に手を回して昼食を食べていたという話もあるようですが、出典は不明)


 最初の方で出てきた「地面から天井まで、5寸(約15cm)くらいのしっかりした木の棒が等間隔にいくつも立てられ」と長ったらしく説明しているのは、格子壁の事です。

 また、「向こうが見えるすかすかの木戸」は格子戸の事です。

 例によって、山上くんが出身の村になかったので分からなかったという想定です。


 もう一つ、完筒(かんづつ)は江戸時代にも使われた携帯トイレで、東海道中膝栗毛でも登場しています。


 今回の後書きは、初めての牢の場面という事で説明が多くなりました。

 次回の後書きからは、通常に戻る・・・(はず)


・樋箱

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%A8%8B%E7%AE%B1&oldid=38457217

・揚屋 (牢獄)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%8F%9A%E5%B1%8B_(%E7%89%A2%E7%8D%84)&oldid=67990165

・伝馬町牢屋敷

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%BC%9D%E9%A6%AC%E7%94%BA%E7%89%A2%E5%B1%8B%E6%95%B7&oldid=81210199

・格子戸

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%A0%BC%E5%AD%90%E6%88%B8&oldid=83020356

・ポータブルトイレ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%AC&oldid=82774055

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