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呼び出し

 夜明け前、竜の里にたどり着いた巫女様の行列は、門の前で一旦止まっていた。入門の手続き待ちだ。

 私達は、竜の里に着いたので巫女様達の列から離れ、別で休んでいる。巫女様達の手続きが終わるまで、順番待ちだ。

 本当は仮眠を摂りたかったのだが、手続きはそこまで長くはかからない筈だ。


 暫く門の近くで雑談をしながら待っていると、ムーちゃんを持った古川様がやってきた。

 ムーちゃんは、今は寝ているようだ。

 古川様は私達に、


「庄内様からの・・・言付け・・・です。

 皆様(みなさま)は・・・、門から入ったら・・・家に帰ってもいい・・・そうです。」


と話した。大月様が、


「事前の打ち合わせの通りにございますな。

 (あい)分かり申した。

 庄内様にはくれぐれも、宜しくお伝え下さい。」


と返事をする。古川様が私の前に来ると、


「またね、・・・ムーちゃん。」


と言って寝ているムーちゃんを差し出したので、ムーちゃんを受け取った。

 なんとなく、ムーちゃんが目を覚ました時に私達の長屋だったら、怒ったりはしないだろうかと少し心配になる。

 古川様は、そのまま会釈(えしゃく)をして元の列の方に戻っていく。

 私達も、礼をしつつ見送った。


 私達の里に入る手続きが終わると、門番さんから、


「大月よ。

 お前ら、何やらかした?

 竜帝城に上がるように伝言があったぞ。」


と言ってきた。大月様は、


小生(しょうせい)()にか?

 ・・・あぁ、恐らく、山上の件であろうな。」


と返すと、門番さんも、


「あぁ、踊りのがやらかしたという、(ぬし)の件か。

 あれは、確かにお叱りを受けても仕方はないな。

 厳重注意で済めばよいが・・・。」


と私を可哀想(かわいそう)な目で見てきた。

 私は、


「大月様、確かそこまで大きな(とが)にはならないと言っていませんでしたか?」


と確認すると、大月様は、


「恐らくはな・・・。」


と言葉を濁された。


 門に入った後の別れ(ぎわ)、大月様から、


「山上、少しいいか?」


と引き止められ、私は振り返って、


「何でしょうか?」


と聞くと、大月様は、


「山の主を狩った事の沙汰(さた)についてであるがな・・・。」


と切り出した。

 大月様はバツの悪そうな顔で、


「恐らくは、軽く済むと考えておる。

 だが、竜帝城に呼ばれたという事は、恐らく判断が割れておるのであろう。

 ・・・暫く牢屋(ろうや)()まいになるやも知れぬ。」


と言い(にく)そうに話した。

 私は思わず、


「牢ですか?」


と聞き返すと、大月様は、


「うむ。」


と相槌を打った。そして、


「しかし、だからといって逃げれば刑が重くなる。

 必ず来るのだぞ。」


と釘を刺された。更科さんが動揺しつつ、


「行かなかったら?」


と確認すると、大月様は、


「行かなかったらであるか・・・。

 主を狩るは、本来であれば重罪である。

 悪い方に(ころ)ばれば、最悪の事態もありうるやも知れぬ。」


と言ってきた。

 最悪の事態というのは、一族郎党(いちぞくろうどう)(みんな)死罪という事だろうか。

 私は怖くなり、


「そんな・・・。」


と思わず声が出る。大月様は、


「なに。

 来れば、どのような状況になろうとも申し開きの場もあろう。

 恐らくは、何とかなる筈である。」


(はげ)ましてくれた。更科さんは恐る恐る、


「えっと・・・。

 もし、そうならなかった場合は?」


と確認すると、大月様は目を()らし、


「最悪の場合であるか・・・。」


と言って少し考え、


「例えば主を狩ってよいか山上が確認した時、巫女様は許可はしておらぬと主張した場合であろうか。

 そうなれば、小生も口添えするつもりであるが、どうにもなるまい。」


(しず)んだ声で言った。佳央様が、


「でも、(はりつけ)とか鋸引(のこび)きって事もないでしょ?」


と真面目に質問する。

 背中にじわり、冷や汗が出てくる。

 大月様は、


「蒼竜ではないゆえ、はっきりとは言えぬ。

 だが、重罪ともなれば、それもありえよう。」


と難しい顔をした。私の頭の中を、山での出来事が走馬灯のように流れていく。

 更科さんがしっかりと私と腕を組み、


「・・・行けば、申し開きする場は貰えるのですね?」


と確認する。

 すると大月様は、


聴取(ちょうしゅ)する側とて、鬼ではない。

 どんな状況であれ、話を聞く場は設けられよう。

 その時、ありのままに話し、下手に脚色(きゃくしょく)するのではないぞ?

 墓穴(ぼけつ)()りかねぬゆえな。」


と答えた。私はまだ混乱していたが、


「はい。

 そのようにします。」


と言ってその場は分かれ、長屋に戻り仮眠する事にした。



 左右にゆすられ、徐々に意識が戻ってくる。

 誰かに、背負われている?

 私は寝惚(ねぼ)(まなこ)に落ちまいとしがみつき、頭を(はた)かれて怒鳴られた。


「和人!

 起きてそうそう、佳央様に何やってるの!」


 更科さんの声だ。

 私の周りに、怒気が二つ。

 目を開けると、佳央様から、


「寝てたんだから仕方ないけど、往来(おうらい)で何やってるの!」


と顔を赤らめて怒られた。

 下を見ると、落ちまいとしがみついた時、佳央様の胸をしっかり(つか)んでいるのが分かった。

 慌てて手を離すと、一瞬空が見え、逆さの街の風景が見え、ゴツンと鈍い音がした。

 頭に激痛が走る。

 私は思わず、


「あ痛!」


と声を出した。

 動揺して体勢を崩し、そのまま後ろにひっくり返るようにして地面で頭を打ってしまったようだ。

 佳央様は私を数歩引きずってから、()ぶっていた手を離して振り向き、


「バチが当たったんじゃない?」


と言ってきた。私は、


「申し訳けありません。」


と謝った。

 私は体を起し、頭を(さす)りながら再び、


(いた)た・・・。」

 

と声を出す。更科さんが、


「大丈夫?」


と眉間に(しわ)を寄せつつも手を差し出してきた。

 私はその手に(つか)まり立ち上がると、


「何で、こんな街中にいるんでしたっけ?」


と質問した。佳央様が、


「これから、竜帝城よ。

 起きないから、()()()してきたわ。」


と簡潔に説明する。私は、竜帝城に呼ばれていたのを思い出し、


「そうでした。

 すみません。

 寝坊してしまったようで・・・。」


と頭を()くと、更科さんが、


「私達が起しても、和人、全然起きないから(あせ)ったわ。

 着物とか着替えさせるの、大変だったんだから。」


と困った顔で言った。

 着替えさせてもらったと言う事は、ひょっとして今締めている(ふんどし)もだろうかという点が少々気になるが、聞いてはいけない気がする。

 私は、


「すみません。

 すっかり、寝入(ねい)ってしまったようで・・・。

 もう大丈夫です。」


と謝った。

 更科さんが、


「自分で歩ける?」


と聞いてきたので、私は、


「はい。」


と答え、着物の土を(はた)いてから歩き出した。


 暫く歩き、途中で大月様とも合流し、竜帝城の門まで移動する。

 以前来た時に立っていた、少し年を取った筋骨隆々の門番さんが立っていたので、


「こんにちは。」


挨拶(あいさつ)すると、門番さんも、


「うむ。」


(うなづ)いた後、小声で、


此度(こたび)は災難であったな。」


と言いながら、門の内側に通してくれた。

 門番さんも、事情を知っているらしい。

 私も、


「お気遣い、ありがとうございます。」


と返す。


 門を入ると、槍を持った竜人が二人、私達を待っていた。

 大月様が、


「これは、一旦、牢屋に入れるつもりであろうか・・・。」


と言って厳しい顔をする。

 私はどういう事だろうと思い、


「一旦と言うのは?」


と聞いたのだが、槍を持った竜人の一人から、


「私語は(つつ)むように。」


と怒られ、返事がもらえなかった。


 これは、どんどん悪い方に事態が進んでいるのではないだろうか。

 そんな事を考えていると、以前、赤竜帝と謁見(えっけん)した竜帝の()に通された。


 ここの間に通されたということは、赤竜帝が直々に出てくるのだろうか?

 赤竜帝であれば、話せば事情を分かってもらえるに違いない。

 私はそんな期待を抱きながら竜帝の間で暫く待っていると、三人の竜人が入ってきた。


 早速、皆で土下座をする。

 頭は、しっかり地面に付けておく。


 三人の竜人のうちの一人が、


「本日は足路、大儀である。」 


と話し始めた。この竜人が今回の進行役なのだろう。

 前回はここで、銅鑼(どら)が鳴り赤竜帝が出てきた。

 今回もそうなるのだろうと思ったのだが、違ったようだ。

 その竜人がそのまま話し続け、


「先ずは、此度(こたび)の巫女様達への対応、ご苦労であった。

 その道中、今迄(いままで)未着となっておった湖月の谷の迂回路(うかいろ)を開いた働きは、誠に天晴(あっぱれ)である。」


(ねぎら)いの言葉をかけてくれた。大月様が、


「お()めに預かり、恐悦至極(きょうえつしごく)にございます。」


と申し上げる。進行役の竜人は、


「うむ。」


(うなづ)いたのだが、その後、少し低い声に変わり、


「が、湖月の谷付近の山の主を倒した件、如何(いかん)ともし(がた)所業(しょぎょう)なり。

 審議のため、山上を3日、牢に留め置くゆえ、尋常(じんじょう)に捕まるがよい。」


と言った。先程部屋まで案内してくれた、槍の竜人が私の横に移動する。

 進行役の竜人が、


「山上、立ちませい。」


と強く言い、私を竜帝の間から退席させようとした。

 大月様が、


「少々、性急ではあらぬか?」


と一言物申(ものもう)した。だが、進行役の竜人は、


「この処置は、律令(りつりょう)(のっと)ってのこと。

 後は、巫女様や赤竜帝のみぞ知る事よ。」


一蹴(いっしゅう)した。

 佳央様が独り言のように、


「この場で、何か言っても、法律を(くつがえ)す権限を持つ人がいないという事ね。」


(つぶや)く。

 その通りであれば、この場に長居(ながい)した所で、結果は変わらない。

 私は腹を(くく)り、申し開きをする機会が与えられるまで静かにするしかないだろうと考え、渋々だが槍の竜人に従って竜帝の間から退席したのだった。


 新章開始早々、山上くんが捕まりました。

 次回から、数回、牢の中の話となります。


〜〜〜

 この話では、よく『普通』の事を『尋常(じんじょう)』と言う事があります。

 旧制学校の尋常小学校や尋常中学校は普通小学校、普通中学校の意味ですし、時代劇の「尋常に勝負」と言っているのも、普通に(逃げ隠れせず、(いさぎよ)く)勝負しろという意味になります。

 この尋常の語源ですが、実は尋も常も長さの単位で、尋が八尺(約180cm)、常がその二倍の十六尺(約360cm)なのだそうで、これが並の長さという事から、普通の意になり、転じて見苦しくないだとか立派であるさまとなったのだとか。

 ただ、おっさんとしては、普通だと言うからにはなにか比較対象があるのではないかと考えるのですが、いったいそれが何なのかネットで調べても出てこず謎なんですよね。

 ↑単に調べ方が悪いだけかも知れませんが・・・。(--;)


・尋常

 山口佳紀『暮らしのことば 語源辞典』講談社, 1998年, 352頁


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