明日は直々(じきじき)に
この日、夕方が近くなった頃、あともう5〜6間程で街道まで道がつながるところまで来た。
私の体調はというと、残りわずかで嬉しくて間隔が麻痺している可能性もあるが、いつもよりも疲れも少ないように感じる。
どうやら、大月様が言った昨日の雷で少し力が上がったのではないかという説は正しいようだ。
私は元気に、
「もう一息ですね。」
と言って、せっせと重さ魔法で草抜きをした。
佳央様も、
「ええ。
でも、まだ少しだけど、作業が残ってるわ。
手は抜いちゃ駄目よ。」
と注意してきた。私は、
「勿論です。」
と言って、草を抜いていく。
草を抜き終わると、佳央様が重さ魔法で道の両端をしっかり支え、
「いいわよ。」
と声を掛けてくる。そこで、私はいつもどおり、
「分かりました。」
と返事をして、重さ魔法を使ってしっかり道を固めた。
もうすぐ日も暮れるだろうが、後、数回の作業で街道まで届くので、最後までやってしまう。
私は、
「これで最後です。」
と言って重さ魔法で道を固め、これでようやく街道まで道がつながった。
佳央様が、
「ようやくね。」
と笑顔で話したのだが、すぐに、
「じゃぁ、草を持って広場まで移動しないとね。」
と言った。私も、
「そうですね。」
と笑顔で返す。
更科さんもやってきて、
「やっと、つながったのね!」
と言って、私にぎゅっと抱きついてきた。
思わず、頭を撫で、
「はい。
ここまで長かったので、感無量です。」
と言うと、更科さんも、
「ええ、そうね。」
と言った。佳央様が、
「嬉しいのは分かるけど、そろそろ離れたら?」
と言ってきた。
私はもう少しくっついていたかったのだが、佳央様の前なので、
「そうですね。」
と苦笑いすると、更科さんも、
「すみません、
つい。」
と笑いながら離れた。
抜いた草を持って天幕まで移動していると、途中で大月様を見つけた。
大月様は草抜きをしたり、昨日の雨で流されたところを土魔法で補強、平らに均したりもしている。
私は、
「大月様、向こうは繋がりました。」
と報告をすると、大月様は、
「うむ。
では、明日仕上げをして通ってもらうとするか。」
と言った。大月様は、嬉しそうにはしていない。
確かに、まだ作業が終わったわけではない。
これが、責任を持って仕事をしている人の姿かと感心する。
大月様は、
「小生も、今日はこの辺りにして切り上げるとするか。」
と言って、私達と一緒に天幕のある広場まで戻った。
広場では、庄内様が待っていて、
「本日で、道はつながったかえ?」
と聞いてきた。大月様は一度頷き、
「はい。」
と答えたが、
「ですが、また新たに草が生えてきたりと、やるべき事がまだありまして・・・。」
と歯切れ悪く付け加えた。庄内様は、
「そうか。
そうじゃな・・・。
では、明日は直々に妾が見て回り、問題のあるところを指摘しようぞ。」
と言った。思わず緊張する。
だが、そんな私を見てか、庄内様は、
「なに。
先日の様子では、問題になりそうな所はなかった筈じゃ。
緊張せずとも良いぞ?」
と言ってきた。しかし大月様が、
「それが、先程も言った通り、新たに草が芽を出しておりまして。
他にも、昨晩の雨で一部路肩が崩れている所もあります。
ですので、まだ何箇所かで問題がありまして・・・。」
と説明した。すると庄内様は、
「そうなのじゃな。
では、午前中にそれらを解消するが良いぞ。
午後一番で妾が確認し、それから巫女様には出発していただくとしよう。」
と明日の予定を説明した。私は小声で、
「明日になったら、一斉に芽が出てくるという事はありませんかね。」
と更科さんに聞くと、更科さんは、
「どうかしらね。
もう秋だし、そこまでは出ないと思うわよ?」
と答えた。
確かに、その通りに違いないのだが、相手は草だ。油断できない。
しかし庄内様も、
「うむ。
もう随分と朝も涼しくなってきたのじゃ。
一晩で草が生い茂るような事もあるまいよ。」
と楽観的だ。
そもそも庄内様は、草むしりをした事がある風には見えない。
なんとなく、庄内様の意見に信憑性があるようには思えない。
だが、そう考えている事が私の表情に出ていたのだろうか。
庄内様から、
「いつも言うておるが、山上よ。
妾の言葉を疑うにせよ、もう少し顔に出ぬように気を付けぬか。」
と叱られてしまった。
庄内様は、扇子を一旦パチンと閉じてからまた広げて口元を隠し、
「まぁ、よい。」
と一言。それから庄内様は、
「明日、午後一番が無理そうなら、早めに言うが良いぞ。」
と付け加える。
大月様が、
「これは大変ありがたいお言葉、感謝いたします。」
とにこやかに言った。
なるほど、この一言があれば、午前中に何かあっても無理やり午後一に間に合わせる必要はない。
私も、有り難いと思った。
庄内様は、
「うむ。」
と一言残して、巫女様の天幕の方に戻っていった。
さて、こちらはこれから夕食を作らなければいけない。
更科さんと佳央様は、
「これから私達が作るからね。」
と言って、早速お米を炊いたり、お味噌汁の準備を始めた。
ふと見ると、私もすっかり忘れていたのだが、漬物の瓶の横に少し干からびた大根葉があるのに気がついた。
大根葉は、陰干しして保存するので、多少干からびていても問題ないはずだ。干した大根葉は、一旦、水で戻せば食べられる。これも同じに違いない。
私は、大月様に頼んで土魔法で瓶を作ってもらった。その中に干からびた大根葉を入れ、大月様に水を注いでもらう。
これで暫くすれば、食べられるようになるだろう。
概ね戻った所で、味噌汁を作っている更科さんの所まで、この瓶を持っていく。
私は、
「佳織、ちょっといいですか?」
と切り出した。更科さんは私が持ってきた瓶を見て、
「いいけど、それは?」
と聞いてきた。私は、
「はい。
さっき、大根葉を見つけまして。
これもお味噌汁の具にしてはどうかと。」
と言った。すると更科さんは、
「大根葉?
あれ、もうしなしなになってなかった?」
と聞いてきた。私は、
「はい。
ですので、水で戻しておきましたから、使ってみて下さい。」
と言って、更科さんに瓶を渡した。更科さんは、瓶を覗くと、
「これね。」
と言って、瓶から大根葉を中から取り出した。
更科さんは大根葉を見ながら眉間に皺を寄せ、
「なんか、葉っぱが黄色いけど大丈夫?」
と聞いてきた。確かに黄色くなってしまっているが、食べられないという事はない。
私は、
「大丈夫ですよ。
それに、ちょっと具が入るだけでも、味噌だけよりは見栄えも良くなりますし。」
と答えた。更科さんは、
「苦かったりしない?」
と聞いてきたので、私は、
「大根葉なので、多少は。
でも、気にならない程度ですよ?」
と答えた。更科さんは、
「そう?
なら、使ってみるわね。」
と言って、水で戻した大根葉を細かく刻んで、味噌汁の鍋に入れる。
私は、これで今夜の晩御飯は、いつもよりも豪勢になったなと思ったのだった。
作中、大根葉が出てきます。
一応、「秋まき」で、大きくなってきたので少し間引いたものが届いたという想定です。
江戸時代、色々な食材の本が出版されましたが大根も例外ではなく、大根一式料理秘密箱を始め、何冊も料理本が出版されています。
以前紹介した豆腐百珍もそうですが、江戸の昔から料理本は人気だったようです。
・ダイコン
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%B3&oldid=83154627
・国立国会図書館月報. 2021年 (1月) (717)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11595394/1
・大根一式料理秘密箱
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536547




