あともう少し
朝食を食べ終えた私達は、食事の後片付けと昼食の準備をした後、昨日、作業を中断した所まで移動すべく、広場から道に出ようとしていた。
空を見上げ、深呼吸する。
いつも見上げる空なのに、雨雲が見えないと思うと、それだけで嬉しさを感じる。
だが地面に目を戻した時、ある問題に気がついた。
昨日の雨のせいで、折角平に均した道が泥濘んでいるのだ。
私は、
「このまま歩くと、足跡が残りませんかね?」
と質問した。
足跡が付いたら、そこをもう一度均さなければいけなくなる。
すると、大月様も同じ様に考えていたようで、
「うむ。
道の横を歩くしかあるまい。
畑も、道のすぐ横に作物が植わっている訳でもない。
・・・少々汚れるが、そこを歩かせてもらう事にいたそう。」
と少し歯切れが悪く返した。
大月様は続けて、
「とは言え、ある程度、道は作り直すしかあるまい。
最初に整えた辺りは、新しい草の芽が生えてきておるゆえな。」
と付け加えて苦笑いした。
今までは余り気にしていなかったが、言われてみれば、ぽつりぽつりと道に緑の草が生え始めている。
私は、
「今迄、それほど目立っていなかったように思うのですが・・・。」
と言うと、更科さんが、
「ええ。
でも、今迄もポツポツ生えてたのよ?
草を運んだ戻りの時に見かけたら、なるべく抜くようにしてたの。
だけど、そろそろ限界ね。
雨で、草が勢い付いちゃったんだと思うわ。」
と困り顔だ。私も、
「確かに。
草は雨の後、一斉に出てきますからね。」
と言って苦笑いで返すと、大月様が、
「まぁ、考えても仕方あるまい。
一旦向こうまで道をつなげて、それから草を抜き、平にするしかあるまい。」
と言って、今まで通り、畦の草を抜いて道を均す作業をする事となった。
お昼近くになり、風も少しは暖かくなってくる。
畦のぬかるみは、土をぎゅっと押し固めると水気も一緒に土の下に押し込めてしまえるようだ。お陰で、今までよりも綺麗に固まってくれる。
小さい頃やった、土遊びを思い出す。
そういえば、水を撒いて湿られた後の土のほうが、よく固まってくれた。
私は、これなら問題ないなと思いながら作業を進めていった。
街道に、咲花村方向から二人連れの商人らしい人が歩いてきた。
彼らは私達をチラッと見たようだったが、特に気にする様子もなく、そのまま湖月村の方に歩いていく。
あの街道まで道がつながれば、作業は終わりだ。
私は、
「ようやく、人がしっかり見える様になってきましたね。」
と言うと、佳央様は、
「ええ。
でも、だからといって、草むしりが雑になっていいわけじゃないわよ?」
と言ってきた。
見ると、いつもよりも小さな草が残っている。
私は、
「申し訳ありません。」
と言ってやり直すと、佳央様は、
「終わりが見えれば、油断もするものよ。
この作業だけに言える話じゃないから、しっかり覚えておきなさいね。」
と言った。少し説教臭く感じる。
私は、
「そうですね。
気合を入れていきましょうか。」
と言って、いつものように重さ魔法を使い草を抜いていく。
だが、佳央様から、
「和人、あまり力を入れたら、バテるわよ?」
と注意されてしまった。私は、
「いつもと同じ筈なのですが・・・。」
と答えたのだが、佳央様は、
「そう?
でも今日は朝から、いつもよりも力が入っていたわよ?
さっきは、更に力が入ったみたいね。」
と指摘されてしまった。
どうやら、終わりが近いと思い嬉しくなって、無意識のうちに力が入ってしまったようだ。
私は、
「そんなつもりもありませんでしたが、もしそうならバテないように気を付けます。」
と言って、力を抑える事を意識しながら草むしりや道を均す作業に勤しんだ。
暫くして休憩時間に入る。
佳央様は、
「今日は、このまま作業をやっても、街道までつながらなさそうね。」
と言った。私は、
「そうなのですか?
でも、後少しですよ?」
と言ったのだが、佳央様は、
「ええ。
でも、和人、多分途中でバテると思うわ。
注意しても、普段より力を使っているみたいだし。」
と理由を説明した。
私には、そんなつもりはない。なのに、足を引っ張ると言われては文句の一つも付けたくなる。
私は、
「いえ、そんな事はありません。
途中、確かに街道を歩く人が見えて力が這入ってしまいました。
でも、その後はいつもよりも、力を抑えてやっているくらいです。」
と反論した。だが佳央様は眉を顰めて、
「いえ、間違いないわ。」
と言い返してきた。そして、
「この道、いつもよりもしっかり固まってると思わない?
これが証拠よ。」
と反駁した。
私は地面を触ると、確かにいつもよりも表面が滑らかに仕上がっているように感じる。
私にはそんなつもりはなかったので、
「あれ?
確かに・・・。」
と認めるしかなかった。
大月様も地面を撫で、
「なるほど。」
と言って少し考え、
「或いは、昨日の雷で少し力が上がったということはあるまいか。」
と言ってきた。すると更科さんがなにか思い至ったようで、
「・・・あれかしら。
和人、雷に撃たれて、そうとう怖かったみたいよね。」
と言った。私は思い出したくもなかったが、
「はい。
あの時は、周り一面真っ白になって、私はもう死んだのだと思ったくらいです。」
と肩を竦めると、意図せず涙が出てきた。
更科さんが私の側に来て抱き寄せ、頭を撫でながら、
「怖かったのね。
もう、雷は落ちないから、大丈夫よ。」
と優しく言った。私は申し訳なくて、
「すみません。」
とお礼を言うと、更科さんは、
「大丈夫よ。」
と答え、皆に、
「ほらっ、私が死にかけた後だけど。
匂いに敏感になった時、臨死体験で力が上がるって話が出たでしょ?
和人も、ちょっと力が上がったんじゃないかなぁ。」
と真面目な顔で言った。すると佳央様も思い出したようで、
「確かに、臨死体験をした後、強くなる者がいるって言ってたわね。」
と言うと、大月様が、
「うむ。
だが、稀な話ゆえ、奥方殿に続き、山上もとなると、ちと頻度が高すぎるようにも思うのだがな。」
と首を捻った。私は、
「いずれにせよ、今のまま作業をしていって途中でバテれば、私の気持ちの制御が出来ていなかったということですし、最後まで道を作り切ることが出来れば、力が上がっていたということなのだと思います。
私は、後者のような気がしていますが、暫くは様子見でお願いします。」
と纏めた。
大月様は、
「相分かった。
では、そのようにな。」
と了承した。佳央様も、
「ええ。」
と頷いたが、
「でも、無理は禁物よ。」
と付け加えた。佳央様は、まだ半信半疑なのかも知れない。
私は、
「はい。
分かっていますよ。」
と返した所で、大月様は、
「うむ。
では、そろそろ作業に戻るとするか。」
と言って、私達は休憩を終了し、また作業に戻ったのだった。
作中、山上くんが『草は雨の後、一斉に出てきますからね』と言っています。
植物は土の温度や水分、種の種類によっては光や酸素などが適切であれば発芽しますが、草も例外ではないので、雨が降って条件を満たせば発芽が始まるというわけです。
おっさんは、今は草抜きしなくていい賃貸なので問題ないのですが、昔、草抜きが必要な所に住んでいた時は、草が生えてくるとげんなりしたものです。
食べられる植物の芽が出てくる分には、ワクワクしたのですがね。(^^;)
〜〜〜
今日から、おっさんもGWのお休みに入りました。
来月6日、7日も休めれば11連休になるのですが、残念ながらその日は仕事の予定です。
もっとも、今年もコロナ禍で遠くに外出という訳にもいきませんので、ちょうどよいのかも知れませんが。。。
早くワクチンが出回って、落ち着いて欲しいものです。(~~;)
最後、一応、GW中は毎日更新の予定なので普段よりも字数が減ると思いますが宜しくお願いします。
・発芽
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