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ムーちゃんと出逢った

 更科さんは白いムササビの回復が一段落した後、しばらく(のど)の下あたりを撫でていた。

 田中先輩が、


「そろそろ出発するぞ。

 山上、気配を消すことを意識しろよ。

 まだまだ足音も大きいし、気配も全然だったぞ。」


と言うと、更科さんは白いムササビを森の方に置いて、


「ムーちゃん、またね。」


と言って山に放した。早速、名前をつけているあたり、女の子らしいなと思って、私はほのぼのとした気分になった。ムーチャンも、


「キュール、キッキッ。」


と返えしてから去って行ったが、意思疎通が出来ているかは謎だなと思った。田中先輩は、


「『またね』って、見分けがつくのかよ。」


と突っ込んでいたが、更科さんは、


「向こう(きず)のある子なんてあまりいないから、多分判ると思います。」


とやや不機嫌そうに答えていた。私も相槌のつもりで、


「私も分かる気がします。

 でも、野性の動物が懐くのは余程のことだと思うので、また会うことは無いかもしれませんが。」


と言った。すると、更科さんは、


和人(かずと)・・・。

 一言多い。」


と寂しそうな顔をして言われてしまったので、私は、


「ごめんなさい。

 今のは言わなくてもよかったね・・・。」


と返した。すると、田中先輩に、


「そういうのは下山(げざん)してからやってくれ。

 まずは、早く荷物をまとめろ。」


と怒られてしまった。

 更科さんと私は慌てて荷物をまとめて、田中先輩について山道を進んだ。



 私は、今日の登山演習の終着点が、春高山の山頂なのか、山小屋なのか、聞くのを忘れていたことを思い出した。


「田中先輩、今朝、後藤先輩が山小屋を往復といっていたのですが、野宿なのですか?」


と聞いた。すると、


「ああ。

 山小屋に荷物を届けた後、野宿して、朝方に天狗草(てんぐそう)を採るということで間違いないぞ。」


と答えた。私は、今回は後藤先輩も田中先輩も正しいことを言っていたのかと思いながら、


(かおり)さんは女の子なので、山小屋の方がよいのではないでしょうか?」


と聞くと、


「馬鹿かお前。

 普通の宿じゃないんだぞ?

 若い女が山小屋なんかに一人で泊まっていたら、無事で済む訳がないだろうが。

 まぁ、そういう()()なら別だが。」


と怒られた。私は、


「いや、田中先輩!

 私に寝取られて喜ぶとか、そんな趣味はありません!

 それに、そんなことになったら、薫さんの親に(おもて)(さら)せないじゃないですか。

 洒落(しゃれ)になりませんよ。」


と大きな声を出してしまった。すると田中先輩は、


「あぁ、今ので動物が逃げたな。

 気配をでかくしてどうするんだ。

 多少動揺しても、気配は大きくしたらダメだぞ。」


とニヤニヤしながら怒られた。どうも、田中先輩は、わざと私が動揺しそうな言葉を選んでいたらしい。ただ、更科さんは少し振り返って、汗も垂れ疲れは見えるものの、それとは別の少し影のあるような顔つきで、


「和人、怒ってくれてありがと。」


と言ってから、少し首を振って、


「今日はずっと一緒だね。」


と言った。すると、田中先輩は、


「何を言っているんだ?

 夜は三人で交代で見張りをするんだぞ?

 いちゃつく暇があるならちゃんと寝ろよ?」


と釘を刺された。田中先輩も私も特に息切れは起こしていないが、更科さんが心配になったので、水筒を渡そうとしながら、


「そこは見て見ぬふりをしていただけると助かります。

 薫さん、これでも飲んで、もう一踏ん張り、頑張りましょう。」


と声をかけた。すると、田中先輩から、


「お前、鶏並みの頭か?

 5尺以内、立入禁止と言ったよな。

 何で守れない?」


と少しドスの聞いた声で注意された。私は、


「すみません。

 でも、薫さんが心配でつい・・・。」


と返した。すると、田中先輩は、


「あぁ、そういえば結婚できる(やつ)は大体、そういう気配りするな。

 でも、そういう事を息をするかのようにできる奴がいるから、世の中の女どもがつけあがるんだぞ。

 更科も自分の水筒を持っているんだから、自分のを飲め。」


と私を軽く睨みつけてから、さっきより少し早足で登り始めた。更科さんは、


「はい。」


とだけ、疲れた声で返事をして、自分の水筒から水を飲んで歩いていた。

 私は、できることなら更科さんをおぶってしまいたい気分だったが、魔力制御ができないと更科さんに触れただけで田中先輩に怒られるので、何とかして魔法を抑える方法を探りながら進んだ。


 しばらく試行錯誤していると、田中先輩が、


「お、山小屋が見えてきたな。

 山上、魔力制御、できてきたんじゃないか?

 気配の方は全然だが。」


と話しかけてきた。私は、


「先輩、更科さんを担いでいいですか?

 かなり限界を越えているように見えます。」


と聞くと、


「ダメだな。

 またたくさん漏れ始めたぞ?

 維持できないと意味ないだろ。」


と言った。更科さんは、


「私は、もう少しなら大丈夫です。」


と言って、山小屋までなんとか歩ききっていた。

 山小屋に荷物を納品した後、やや大きめの箱が一つと薪が一束残った。私は田中先輩に、


「一箱残っているのですがこれは何ですか?」


と聞いたところ、先輩は、


「これは天幕(テント)と飯だ。

 着いたらすぐに調理するぞ。」


と返してきた。私は、


「今日はどの(あた)りで休むのですか?」


と聞くと、


「山頂だ。

 もう、四半刻もかからん。

 遅くなると設営が大変だからな。」


と言った。更科さんは少し喜んだ顔をしていた。私は、


「分かりました。

 ようやく山頂につくのですね。」


と言うと、田中先輩は、


「本当はもっと薮の中を歩き回るつもりだったが、更科が思ったよりも体力が無かったからな。

 後半はほとんどまっすぐ来たんだが、山上は楽勝だったみたいだな。」


と往路の感想を言った。すると、更科さんが一言、


「すみません。」


と落ち込んだ感じで言った。私は、


「レベルのせいなので気にしないでください。

 帰りは魔力制御を頑張って、おぶって帰られるようにします。」


と決意表明をした。


 しばらく休んで、更科さんの元気がすこし戻ってきたころ、山小屋から、


「おっ、捕まえろ!

 ムササビがこんな近くにいるぞ!

 見たことのない毛並みだぞ!

 あの皮はきっと高く売れるぞ!」


と聞こえてきた。私は何だろうと思ってそっちの方に行くと、見覚えのある向こう疵のある白いムササビが冒険者らしき人たちと対面していた。私はとっさに、


「ムーちゃん、こっち来な!」


と言うと、白いムササビが私の方にやってきた。私はうれしくなって手を広げたところ、私の手をすり抜け、後ろの更科さんのところに行ってしまった。私は少し寂しさを感じながらも、冒険者の人に、


「すみません、うちで飼っている子です。」


と言うと、冒険者らしき人たちは、残念そうな顔をして、


「飼ってんなら紐か何かで縛っとけ!」


と捨て台詞を吐いて山小屋に入って行った。田中先輩は、


「本当に判るとはな。

 それにしても、こいつ、あそこからずっとついてきたという事だな。

 山上よりよっぽど気配を遮断しているぞ。

 っと、そろそろ山頂に行くか。」


と苦笑しながら言った。私は、野生動物と比較されてもなと思った。

 同行者に何故かついてきたムーちゃんも加え、一行は春高山の山頂に向かった。

 春高山の山頂に到着したのは、既に太陽は大きく傾いており、あと半時ほどで夜がくる時間になっていた。


次回、山頂でバーベキュー予定です。

ニーク、ニーク、ニーク、、、


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