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ようやく畑まで

 翌朝、私が朝食を作っていると、またしても、起こす前に私の所までやってきた。

 少し、怒っているように見える。

 昨晩、古川様と一緒だったので、また『(にお)い』を感じ取ったからに違いない。

 更科さんは、(あん)(じょう)


(にお)う。」


とジト目で言われてしまった。

 どうやら、狐の方の(にお)いが気になったらしい。

 私は、昨晩あった事を全部話したのだが、


「じゃぁ、証拠のお肉を出して。

 蛇じゃないやつよ?」


と言われ、私はまだ下処理をしていなかったので出す気はのなかったのだが、渋々、狐肉を取り出した。

 更科さんは、


「これ!

 この(にお)い!

 ちょっと、(くさ)ってないわよね?」


と言ってきた。私も(くさ)いと思っていたので、


「はい。

 解体した時から、嫌な臭いが出ているのですよ。

 でも、向こうの巫女様達だけ別のお肉があったら、怒りますよね?

 だから、一応(もら)ってきました。」


と説明した。更科さんは、


「こんな臭い肉・・・、と言っても、近くに行かないと分からないわね。

 ごめんなさい。

 多分、怒ったと思うわ。」


と正直に言って謝った。私は、


「いえ、大したことでもないし、謝らなくてもいいですよ。」


と頭を()でた。すると佳央様が起きてきたようで、


「これ、妖狐(ようこ)?」


と聞いてきた。私は、


「はい。

 でも、ちょっと臭いが(ひど)くて持て余していまして。」


と答えたのだが、佳央様は、


「やっぱり。

 私、結構、妖狐の肉、好きなのよ。

 ほら、魔力もいっぱい乗ってるじゃない?」


と言ってきた。私は、(たで)食う虫も好き好きという事か、はたまた竜人と人間の味覚の違いからだろうと思い、


「それでしたら、私も更科さんも食べませんので、全部食べちゃって下さい。」


と言った。が、佳央様が好きだと聞いてだろうか。更科さんは、


「ちょっと、和人。

 勝手に私の分まで渡さないでよね。

 一口だけ食べてみて、美味しかったら私も食べるわよ。」


と言われてしまった。

 確かに、臭いだけで食べず嫌いするのは良くない。それに、後で笑い話になるなら、一緒に食べておいたほうが良いだろう。そう考えた私は、


「じゃぁ、私も一口だけ貰いますね。」


と言って、更科さんに付き合うことにしたのだが、更科さんから、


「少ししか貰ってこなかったんでしょ?

 和人は無理しなくても良いわよ。」


と言ってきた。私は更科さんがへそを曲げそうになっていると思い、


「そうではなくて、美味しいにせよ、不味いにせよ、佳織とどんな味だったか共有したくてですね。」


と説明した。すると、更科さんは少し耳を赤くして、


「そうなんだ。」


と言いながら私に頭を()り付けてきた。思わず、頭を()でる。

 佳央様からは、


「そう言うのは、他所(よそ)でやりなさいよ。」


と注意を受けてしまった。

 これでも、出合った頃に比べれて甘い以外の事も多くなってきているのだけど・・・などと思いつつも、手が勝手に撫でてしまうのだから、仕方がない。

 私は、


「すみません。」


と苦笑いして謝ったのだが、佳央様から、


「変な顔。

 苦笑いしたいんでしょ?

 出来てないわよ?」


とまた呆れられてしまった。どうやら、またしても上手く表情が作れていなかったらしい。

 後ろから大月様が、


「まぁ、これが山上だ。

 仕方あるまい。」


と声を掛けてきた。大月様も、自分で起きてきたようだ。私は、


「御飯が炊けましたので。」


と言って、慌てて飯盒(はんごう)を火から外してひっくり返し、蒸らしに入った。


 狐肉は、ここでたっぷりの水でお昼まで煮れば臭みも抜けるかと思ったのだが、佳央様から、


「それじゃ、折角(せっかく)魔力が乗ってるのに、なくなっちゃうじゃない。

 そのまま、串で焼いて!」


と怒られてしまった。

 これはいよいよ、臭みで食べられないのではないかと思ったが、佳央様は、


「この癖が良いのよ。」


と喜んで食べていた。

 更科さんと私は、あまりの不味さに狐肉を食べたことを後悔したが。



 朝食が終わった後、私達は道を作る作業に取り掛かった。

 半刻(1時間)が過ぎ、1回めの休憩に入った時、庄内様がやってきた。

 私達は何事だろうと思ったのだが、大月様が代表して、


「何か、問題が起きたのですか?」


と聞いた。すると庄内様は、


「うむ。

 これから、あの山の頂上がある方角に向けて作業をするように。

 巫女様が言うに、畑の太い畦道(あぜみち)につながるそうじゃ。」


と言ってきた。大月様が、


「分かりました。」


と答えた。私は、


「ようやく、畑の(あぜ)に出るのですか。

 では、これで作業も終わりということですね。」


と思わず笑顔で言うと、佳央様が、


「そうね。

 昨晩、ちょっと見た限りでは、あと半日といったところかしら。」


と言った。私は、


「もう、あと半日ですか。」


と言ったのだが、佳央様は、


「畑の畦道とつながるのは良いけど、今作っている道よりも狭いのよね。

 でも、勝手に畑を(つぶ)(わけ)には行かないじゃない?

 どうするのかしらね。」


と心配事を告げた。

 私は、


「畦が使えないのですか?」


と思わず聞くと、庄内様も心配になったようで、


「そうなのかえ?

 じゃが、巫女様はそのようには言って居らなんだのじゃが。」


と想定外のようだった。佳央様が、


「ちょっと飛んで、様子を見てきたら?

 近くなんだし。」


と言ったのだが、庄内様は、


「それには及ばん。」


とだけ言い残して、巫女様の列の方に戻っていった。恐らく、竜化するには装飾品を外したり服を脱いだりと時間がかかるから、見に行かなかったのだろう。

 一先ず、言われた方に向きを変えて草を抜いていく。

 佳央様が、


「もうちょっと右かな。」


と言った。私は佳央様に、


「ひょっとして、この先どうなっているか分かるのですか?」


と聞くと、佳央様は、


「そのくらいは、気配でね。」


と言った。更科さんが、


「流石、本物の竜人ね。」


と言ったので、私も対抗しようと頑張って気配を探ってみたが、よく分からなかった。

 私は、


「そうですね。

 私では、さっぱり分かりませんでした。」


と笑うと、大月様は、


「竜人が、(みんな)分かるという訳ではない。

 佳央は特別、周囲を探るのが上手(うま)いゆえな。

 平均的な竜人では、この距離では分からぬ。」


と言った。わざわざ言うという事は、きっと、大月様も分らないに違いない。

 佳央様は、


「まぁ、得意不得意はあるわね。」


(うなず)きながら言った。



 お昼を食べ、半刻(1時間)ほど作業したころ、草の向こうについに畑が見えてきた。

 私はここ数日の作業がようやく終わりを迎えると思うと、走り回りたいほど嬉しかったのだが、


「もう一息です。」


と落ち着いている風で後ろに向かって話した。が、明らかい早口で、自分でもニヤついた顔を抑えられないのが分かった。

 更科さんが嬉しそうに、


「それじゃ、あと一息ね。

 和人、急いでやっつけちゃいましょうよ。」


と言ってきた。私も、


「そうですね。

 手を止めていたら終わるものも終わりませんしね。」


と言って、どんどん草を抜いていった。

 ようやく、畦まで道が通じる。

 私は、


「よしっ!」


 と思わず、声を出してしまった。

 畑を見ると、既に冬野菜が作付けされている。


 確かに畦は少し狭いが、作物が高いわけでもない。

 横に付いて歩くのをやめれば、巫女様の乗った輿(こし)も通れないこともないだろう。

 後ろを振り向くと、最後、夢中だったので抜き方がかなり荒くなってしまったのに気がついた。

 私は、


「すみません、手伝います。」


と言って、細かな物も含めて重さ魔法で綺麗に草抜きをした。

 最後、佳央様が畦の所まで歩きやすいように、道を(なら)した。

 大月様が庄内様の所まで行き、何やら話をし始めた。


 また畦を見ると、ここも草が多い。

 私は、


「ここの草抜きもやれ、といった事を指示しているのでしょうか。」


と問いかけると、佳央様が、


「そうでしょうね。

 それに、この道じゃ通りにくいから、道を広げととか言われてるんじゃない?」


と返した。大月様が身振り手振りを交えて、何か説明しているようにも見える。

 更科さんがぼそっと、


「道を広げるなら、地主との交渉もしないといけないのかしら。」


と言った。

 そんな交渉が始まったら、どれだけ時間がかかるか分らない。

 私は、


「それならそれで、大月様が交渉を終わらせるまで、一度竜の里にでも戻りましょうか。」


と言ったのだが、佳央様は、


「どうかしら。

 一緒に行くように言われて、そんな時間もないかもよ?」


と少し意地悪そうな顔で言ってきた。私は、


「そうならないと良いのですが。」


と苦笑いした。

 いずれにせよ、道はあるのだ。

 巫女様達は贅沢は言わず、そのまま畦を通る事になればいいのになと思ったのだった。


 (あぜ)は水田と水田の境界線の盛り土を指して、特に人が通れる幅のものは畦道と呼びます。

 この畦、稲作が伝わった弥生時代からあるそうです。

 ちなみに、作中、水田ではなく畑ですが『畦』と呼んでいます。これは、田んぼだろうが畑だろうが、耕作地の境界はみんな畦と呼ぶ地域もあると聞いたのと、おっさんの感覚で、畑道(はたけみち)だとカントリー◯ードではありませんが、なんとなく海外の風景のイメージが出てくるので、畦のほうがそれっぽいと思ったからとなります。ひとまず、作中ではそういうものということでお願いします。(^^;)

 


・畦

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%95%A6&oldid=79352109


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