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角うさぎに襲われた

 私たちは登山道に入ると、しばらくして薮の中に入った。

 三人は、田中先輩、更科さん、私の順番で登っている。

 先頭では、田中先輩が静かに鉈で枝を払っていた。更科さんは、最初のうちは、たまに私の方を振り返って手を振ったりしていたが、四半刻もしないうちに汗をだらだらと流れ出しており、余裕がなくなったようだ。

 登山道から外れた薮道は、斜面がきついのと少し急ぎぎみで登っているせいもあって、結構足に負荷がかかっているのを感じた。


 私は田中先輩に、


「先輩、結構キツいので水分補給をしませんか?」


と聞くと、


「そんなもの、歩きながらやれ。」


と怒られた。私は、更科さんの汗が滴れ過ぎていると思ったので、自分の水筒を更科さんに差し出して、


「少し、口に含んで下さい。

 少しは楽になるかもしれません。」


と言って渡した。更科さんは、少し嬉しそうな顔をしながらも、


「まだ、大丈夫です。

 自分のために取って置いて下さい。」


と遠慮した様子だったので、


「途中で谷を通るので、遠慮は不要ですよ。」


と返事をした。更科さんは、また少し赤い顔で


和人(かずと)さんは、私が口をつけて嫌でなければ、喜んでいただきます。」


と返した。水筒は、竹の筒に栓をしただけのものなので、私が口にしたところと同じ場所で更科さんも口にすることに思い至った。私は、


「あの、気配りができていなくてすみません。

 私は大丈夫ですよ。

 (かおり)さんが気にしないなら、飲んでください。」


と言った。更科さんは私から水筒を受け取ると、水を口に含んでいるようだった。

 田中先輩が後ろを振り返ったとき、何か不味いものを見たという感じで、


「更科、ほどほどにな。」


とだけ言った。私は何のことかよく判らなかったが、更科さんは慌てた様子で、私の方に顔を向け、水筒を返しながら、


「ありがとうございました。」


と、何故か少し涙目になりながらお礼を言ってきたので、


「どういたしまして。」


と返して、水筒を受け取った。その後、更科さんがなぜ涙目になったのか、田中先輩が見た物は何だったのかが大変気になるところではあったが、あまり突っ込むと危険な予感がしたので、あえて何も聞かずに登った。


 しばらく登ったところで、谷が見えた。

 田中先輩は、


「そろそろおやつにするか。」


と言って、谷まで歩くと、ちょうどいい大きさの岩に腰を下ろした。

 私は背負子を下ろして上の方に載せていた荷の中からおやつを取り出して手頃な岩に座った。

 すると、田中先輩が、


「更科、おまえ、結構、山上の魔力に当てられてきたんじゃないのか?

 大丈夫か?」


と聞いていた。更科さんは、


「これが魔力に当てられる感覚なのですね。

 私も、普段はやらないようなことをしてしまった自覚はあります。」


と返事をしていた。私は、『魔力に当てられると子孫を作ろうとする』と言っていたのを思い出して、


「薫さん、申し訳ないけれども、まだ結婚していないので、せめて薫さんのご両親に挨拶するまでは子供は我慢してもらっていいですか?」


と聞いたところ、更科さんはポカンとしながら少し考えて、それから急に耳まで赤くして、


「多分、和人への気持ちが抑えられないのは魔力に当てられたせいもあるとは思うけど、私も嫌じゃないし、まだ、和人の側に居たいだけだから心配しなくても大丈夫よ。」


と答えた。私は、更科さんへの質問と回答の内容が一致していないし意味もよく判らないなと思ったが、


「わかった。

 側にいるから安心して下さい。」


と返した。すると田中先輩は、


「近くに行くと、余計に魔力に当てられるだろうが。

 おまえ、魔力制御が出来るまで、更科の5尺以内は立入禁止な。」


と言われた。5尺というと、更科さんの身長くらいだろうか。普通に間隔を保って歩いていれば問題なさそうだが、水筒を渡したときに手が触れかけたのがいけなかったのだろうかと思った。


「判りました。

 では、魔力制御が出来るまで更科さんに触れないように気をつけます。」


と、少し距離をごまかして言ったところ、更科さんが、


「そんなの嫌です!

 もっと近くで和人と一緒にいたいです!」


と、大きな声を出した。すると、これがきっかけになって、森の方から小さな鳴き声が聞こえた。かと思うと、それに反応した何かがざっと音を立てて動き始めたようだった。森から白い小動物が飛び出してきて、私たちの方に向かって来ると、直前でさっと別の向きに方向転換した。しかし、後ろから追いかけてきた動物も動きを読んでいたらしく、さっとその小動物を抑え込んだ。そこで動きが止まったので、襲ってきた動物が角うさぎだと判った。

 私は次に自分達が襲われると思ったので、素早く素手で角うさぎの角を掴み、(なた)で首を落とした。更科さんは小さく悲鳴をあげていたが、私は構わず、その角うさぎを逆さにして近くの木にぶら下げ、血抜きをした。

 小動物は怪我をしている様子だったが、更科さんが神聖魔法を使って回復させていた。

 田中先輩は、


「おまえ、それムササビの魔獣体だぞ。

 回復させてどうするんだ。」


と言った。この小動物は、ムササビの魔獣体らしい。よく見ると顔に向こう(きず)のような怪我があるものの、白くて毛がもふっとしている珍しい個体だ。更科さんは、


「この子、震えていて可哀想じゃないですか。」


と少しビクビクしながら言った。白いムササビも震えている。田中先輩は、


「おい、更科はダメだ。

 山上、これも血抜きしろ。」


と私に言った。私は更科さんが上目遣いで


「肉にするの?」


と聞いてきたので、抗えずに、


「3人なら角うさぎ1匹で十分お腹いっぱいになるし、逃しても良いのではないでしょうか。」


と答えた。すると田中先輩は、


「あぁ、そうか。

 山上は歩荷だから討伐報酬とか関係なかったな。」


と眉を寄せながら話した後、


「更科は冒険者なんだから、ちゃんと絞められるようになろうな。」


と言って苦笑いしていた。更科さんは、


「こういう可愛い系はちょっと・・・。

 その、ごっついのなら頑張ります。」


と言って、誤魔化していた。

 心なしか、白いムササビもほっとしたように見えた。


田中先輩が何を見たのか・・・。(←引っ張るようなネタではありませんが...(--;))

白いムササビはモフキャラ候補なので、しばらく登場する予定です。


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