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雨が降ったら

 私達は、庄内様に急かされて慌てて朝食を摂った後、昨日と同じく草原に道を作る作業を始めた。

 分担は昨日と同じで、私が重さ魔法で大きな草を引っこ抜き、大月様と更科さんが小さな草を抜く。その後、巫女様の乗った輿(こし)が通りやすいように、佳央様が重さ魔法で道を平らにしていく。


 昨日は最初の1刻(2時間)ほどで2町(200m)ほどの道が出来たものの、その後は疲れてしまって作業がはかどらなかった。そのせいで、1日かけて7町(700m)の道を作るのがやっとだった。

 私は大月様に、


「今日は最初から半刻(1時間)ごとに休みを入れて、昨日みたいに疲れすぎないようにしませんか?」


と提案した。すると大月様も、


「うむ。

 昨日、進みが悪かった分、今日取り戻したいと思うが常であろうが、急がば廻れとも言う。

 ここは、我慢(がまん)して作業を進めるが良いであろう。」


と同意してくれた。そして、


「なに。

 昨日、あれだけやったのだ。

 少しは慣れた(はず)ゆえ、進みも少しは良くなっておろう。」


と苦笑いした。私も同じく苦笑いしながら、


「はい。

 そう信じたいですね。」


(うなず)いて返した。

 横から佳央様が、


「そろそろ始めない?

 ほら。

 いつまで()っても終わらないわよ?」


と作業に掛かるように(うなが)してきた。

 私は、


「すみません。」


と言って佳央様に謝り、作業を始めた。



 単調な作業ではあるが、昨日よりも楽に抜けている気がする。

 暫くは草をどんどん抜いていったのだが、あまりに調子がいいものだから、それが逆に不安となった。

 このままの速さで作業をすると、昨日の二の舞になるのではないか。

 私は大月様に、


「すみません。

 また、昨日みたいに疲れ果てて作業が遅くなったりしたらいけません。

 もう少しだけ、ゆっくり作業をしませんか?」


と提案しながら振り返った。大月様や更科さんとの距離が思ったよりも開いている。

 私だけ、早く作業をしていたらしい。

 更科さんが、


「その方がいいわね。

 和人の所まで、全然追いつけてないし。」


と言った。私は、


草毟(くさむし)りも、手伝ったほうがいいですか?」


と聞いてみたのだが、大月様が、


「いや、空を見てみよ。」


と言って上を指した。

 私も空を見上げると、低い(くも)が出始めている。

 この感じだと、今日は午後のどこかで雨が降り出すかも知れない。

 私は、


「雲が出てきましたね。

 雨が降るかも知れないので、今のうちに進めるだけ、進めておこうということですか?」


と確認した。すると大月様は、


「うむ。

 この辺りで降り出しては、作業もままならぬゆえな。」


と言った。

 何故、この辺りと限定したのだろうか。

 私はどの疑問を口にしようとしたのだが、先に佳央様が、


「後ろには?」


と別の事を聞いた。きっと、巫女様たちにも相談したほうがいいという意味だろう。

 大月様が、


「そうであるな。

 少し、相談してくるゆえ、そのまま作業を続けておくようにな。」


と言って庄内様に確認を取りに行った。

 私は、雨が降り出した場合は作業を切り上げる事にするなら、天幕(テント)を張る事になるので、なるべく早く指示を出して欲しいなと思った。


 暫くそのまま作業をしていると、大月様が戻ってきた。

 佳央様が、


「どうだった?」


と聞くと、大月様は、


「午前中は、作業せよとの事だ。

 なんでも、巫女様が『午後から対策をしたのでよかろう』と仰ったそうだ。」


と説明した。更科さんが、


「雨くらいで『対策』と言うのは、少し大袈裟(おおげさ)ではありませんか?」


と聞くと、大月様は、


「この辺りでは、雨が降ればたまに出るのだ。」


と苦笑いをした。私は夏でもあるまいにと思いながら、


「何が出るのですか?」


と聞き返すと、大月様は、


大蚯蚓(おおみみず)である。」


忌々(いまいま)しそうに言った。

 私は、


「大きな蚯蚓ですか。

 蚯蚓なら、何となく弱そうですが・・・。

 そんなに厄介なのですか?」


と聞くと、大月様は、


「うむ。

 田畑にいるような大きさの蚯蚓ではないゆえな。」


と困った顔で言った。私は、


「どのくらいの大きさなのですか?」


と聞くと、大月様は、


「うむ。

 大きいもので、家の一()程である。」


と言った。私は、世の中、そんなに大きな蚯蚓がいるのかと驚き、


1間(1.8m)ですか。

 確かにに、大きいですね。」


と返しすと、大月様も、


「うむ。」


と同意して、


「大蚯蚓は、基本的に動物は襲わぬ。

 が、時折、運悪く食われる場合があるのだ。

 勿論、大蚯蚓からすれば、邪魔なものが口に入った状態となる。

 それゆえ、噛み砕いた後、食えぬと言うて吐き捨てられるのだがな。」


と説明してくれた。私は、


「そう言う事ですか。

 その動物は、災難ですね。」


と言って頷いた。

 しかし大月様は、


「ん?

 人も丸呑みされるぞ?

 なにせ、家、1軒なのだ。

 長さにすれば、概ね4間(7m)にもなろう。」


と言った。私は、


「4間?

 さっきは、1間と言っていませんでしたか?」


と言うと、更科さんが、


「長さの1間じゃなくて、家の1軒よ。

 ちゃんと聞かないとね。」


とにこにこしながら言われてしまった。

 家の間取り等で使う『一間』ではないらしい。

 私はやってしまったと思いながら、


「すみません。

 私の勘違いです。」


と笑って誤魔化しながら謝った。そして、


「それにしても。蚯蚓がそんなに大きくなるものなのですか?」


と聞いた。すると佳央様が、


「種類が違うのよ。

 畑にいるのと違って、魔獣の一種ね。」


と説明した。

 大月様が、


「うむ。

 だが、規模は違うが土を耕す効果はある。

 ゆえに、この辺りは腐葉土(ふようど)としては優れておるのだ。」


と言った。更科さんが、


「腐葉土って?」


と聞いたので、私は、


「要するに、森にある土で、作物を良く実らせます。」


と説明すると、大月様から、


「・・・まぁ、そのようなものである。」


と言われてしまった。正確には違うのかも知れない。私は農家の出なのに、ここを間違えていたのならちょっと恥ずかしい。

 佳央様が巫女様たちの方をチラッと見て、


「それはさておき、そろそろ手を動かさないと庄内様が来そうよ。」


と言った。大月様が、


「そうであるな。

 油を売っていないで、再開するとするか。

 山上は、そのままできるだけ先まで刈っていくようにな。」


と指示を出し、作業再開となった。

 今の所、私の方が先行している。

 大月様はそのままと言ったが、これまでよりも低い草も抜くように心がけて作業を再開した。


 それにしても、この辺りは大蚯蚓が出れば人も丸呑みされるかも知れないらしいので、確かに大月さまが話ていた通り、作業もままならないに違いない。

 私は、雨が降って、大蚯蚓が出ないといいなと思った願ったのだった。

 

 作中の大蚯蚓は、赤茶色の(から)のせいで遠くから見ると蚯蚓に見えるので大蚯蚓と呼ばれていますが、蚯蚓のような柔らかな皮膚と違い、昆虫のような硬い殻で覆われた外骨格を持つ別の生き物という想定です。口は円形状で、岩をも砕く鋭い歯がいくつも並び、左右から挟み込むことの出来る爪のようなも物も付いています。

 そういえば、雨の後、田んぼの近くでたまに手のひらサイズの大きな蚯蚓(みみず)を見かけることがありまあす。あれは、地面に雨水が浸透してアップアップするから、蚯蚓が地面に出てくるのだそうです。


 あと、作中で山上くんが腐葉土を『森の土』と説明したことに対して大月様がそのようなものと言っていました。

 これは腐葉土は落ち葉や落ち枝がバクテリアなどに分解されて土状になったもので、厳密には土ではないらしいという話に基づいています。


・ミミズ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%9F%E3%83%9F%E3%82%BA&oldid=81281388

・腐植土

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%85%90%E6%A4%8D%E5%9C%9F&oldid=81403198

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