表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/680

森の主(ぬし)

 本日、短めです。

 暗く深い夜の森の中、私は【温度色判定】のスキルを頼りに天幕(テント)に帰ろうとしていた。

 遠くで(かす)かに、鳥のなく声がする。

 私は手に鹿肉、背中に鹿の皮や(つの)(つた)(しば)って背負(せお)っている。

 明日の朝、更科さんがお肉を見て喜ぶ顔を想像すると、(ほほ)が緩んでしまい、つい小走りになってしまう。


 が、急に森の雰囲気が変わった。


──なにか来る!


 私は確かにそう感じたのだが、特段に気配があるわけではなかった。

 どの方向を注意したらよいかすら、分からない。

 闇雲に周囲を見渡す。


 すると、一度別れたはずの古川様がこちらに歩いて来るのが見えた。

 私は、


「すみません。

 何かいるようなので、お気をつけください。」


と注意を(うなが)すと、古川様は、


「うむ。」


と言って、(おおぎ)を取り出し、ある一点を指して、


「そこ、姿を見せい。」


と言った。古川様は、未だに巫女様に憑依(ひょうい)されたままのようだ。

 古川様が指したところに、大きな狼が見えてくる。

 動いた気配もないので、今までは気配を殺していただけで、どうやらずっとそこにいたらしい。

 古川様は狼に、


「して、何用じゃ。」


と聞いた。


──狼が話せるわけがない。


 私はそう思ったのだが、念話だろうか。頭に直接、


<<そこノ人間デあろう。

  先日、我が息子ヲ狩ったのだ。

  どんな奴カ、見てやろうト(おも)たノダ。>>


と響いて来た。

 言葉が、たどたどしい。

 古川様が、


「そうであろう。

 が、仕掛けたはそちらと見えた。

 自業自得であろうが。」


と返した。大きな狼が、


<<そうハ言ウても、割り切レヌ。

  子ガおれバ分かる。>>


と鋭い目つきで訴えてくる。

 古川様は、


「森の(ぬし)を軽く狩る訳には行かぬ。

 が、向かってくると言うなら、話は別じゃぞ?」


と言って狼を軽く(にら)んだ。

 大きな狼は、


<<竜ニ用ハない。

  人間ガ死ねバ良イ。

  (かたき)なレバ。>>


と言ったかと思うと、突然、目の前に狼が映った。

 思わず斜め後ろに飛び退いたのだが、背中に鋭い衝撃を受けた。木にぶつかったのだ。

 結果的に、狼の狙いを外すことは出来たらしく、


「グッ!」


(ひと)()えした。古川様が、


「森の主、()めよ。

 これより先は、反撃も()せぬぞ!」


と言うと、大きな狼は、


<<もとヨリ覚悟(かくご)

  尋常(じんじょう)ニ。>>


と言ってきた。倒されたとしても構わないということらしい。

 私は古川様をちらっと見ると、古川様は眉間(みけん)(しわ)を寄せ、


「覚悟があるなら、やむをえまい。」


と言った。私は当然、古川様が倒してくれるのだろうと思ったのだが、古川様は、


「では、倒すが良いぞ。

 なに。

 数年は山の営みに問題は出るが、すぐに次の主が出てくるであろう。」


と軽く言った。竜にとっては数年もすぐのうちなのかもしれない。

 私は、


「山が荒れるのは避けたいのですが、何とかなりませんか?」


と聞くと、狼が、


<<それハ簡単ナ事。

  お前ガ死ねバ良イ。>>


と言ってきた。私は、


「私にだって妻はいます。

 簡単に死ねません。」


と返すと、大きな狼は、


<<これ以上、問答無用。>>


と言って、また忽然(こつぜん)と姿が消えたかと思うと、目の前に牙が見えた。


 重さ魔法で、下から上に跳ね上げる。

 狼の巨体が宙を舞う。


 身体強化の魔法を集め、右手の拳から肩、背中を経由し、腰、そして両足に()わせる。

 狼が空中で体を(ひね)り、着地と同時に姿が消える。


 私は、狼が二度、私の目の前に出てきたのを思い出し、思いきり拳を突き出した。


 ガツンと強烈(きょうれつ)衝撃(しょうげき)が右手を(おそ)った。

 後ろに弾き飛ばされそうな体を、足に這わせた身体強化の魔法で何とか踏ん張る。


 奥歯が(くだ)けてしまいそうなほどに、重みが加わる。

 肩も壊れそうなほどに、力が加わる。


 刹那だが、この間にも、追加で身体強化の魔法が集まる。

 が、そのまま押し負け、ゆっくりと狼が私に(おお)(かぶ)さってきた。


──死んだ!


 私はそう思ったのだが、覆いかぶさってきたはずの狼は牙を立てる事はなかった。


 古川様が、


「気絶しておるようだの。」


と静かに言った。私は、


「後は、逃げればよいだけですね。」


と言ったのだが、古川様から、


「何を言っておるのじゃ。

 狼じゃぞ?

 匂いくらい、辿(たど)るじゃろうが。

 ここで放置すれば、天幕(テント)まで追って来るであろうのう。

 森の主が失われるのは痛いが、ここで締めるのじゃ。」


と言った。私は、


「その判断をするために、ここまでずっと憑依したままだったのですか?」


と聞くと、古川様は、


「前にも言ったであろうが。」


と憑依している事実を指摘したことを(とが)めた後、


「まぁ、良い。

 そう言う事じゃ。

 早うせい。」


と言った。私は、


「分かりました。

 では、すみませんが、また解体の手伝いをお願いします。」


と言うと、


(わらわ)はここまでじゃ。

 後は、二人で何とかせい。」


と苦笑いした後、すぐに古川様が、


「・・・ここ・・・は?」

 

と言った。どうやら巫女様は、憑依を解いたらしい。


 私は重さ魔法で大きな狼の首の骨を折ってとどめをさし、この狼も解体した。

 体が大きい分、鹿の時よりも解体に時間がかかる。

 ただ、鹿と狼では鹿の方が美味しい。鹿肉も十分に持っているの。解体を始めてはみたものの、正直、狼の肉はもう要らない。むしろ、夜も遅いので解体なんかせずに、そのまま穴に埋めて帰りたいとさえ思った。

 だが、古川様は嬉しそうだったので、眠いので()めてしまいたいとは言い出せず、作業を続けた。

 鹿肉を切り出すと、古川様は、


「・・・お肉、・・・美味しそう。」


と嬉しそうに言った。

 私は、鹿肉もあるし、素材は全部もらえるのだから、お肉は全部渡してしまってもいいかなと思った。

 だが、持って帰らないと更科さんから、『どうして向こうは2種類なのに、こっちは鹿だけなの?』と言われそうな気がしたので、狼肉も少しだけ貰うことにした。残りのお肉は、全部古川様に渡す。

 こうして、今夜の長い狩が終わったのだった。


 今晩の成果は、鹿が3頭、狼が1頭だ。流石に、4頭分の素材は重さ魔法を使わないと持てないほど重い。

 背中の鹿の素材に狼の素材を積み上げ、(つた)(しば)る。

 天幕(テント)に戻れば、昨日狩った大角うさぎの素材が2羽分ある。

 私は、これら全部を竜の里まで持って帰るのかと思うと、ちょっと面倒だなと思った。


 天幕(テント)まで帰った頃には、夜半などとうに過ぎていた。

 そういえば、天幕(テント)を出た時は、ちょっと用をたすだけのつもりだった。

 私は、こんなに遅くなるつもりはなかったのになと思いながら寝袋に入ると、あっという間に眠ったのだった。


 作中で、山上くんが山の(ぬし)を倒してしまいました。

 (ぬし)と言えば子供の頃、親戚のお兄さんが大きな魚を釣って『この辺りの川の(ぬし)かもしれない』なんてことを話していたのを思い出します。

 それから暫くはそれに感化されて、おっさん、事ある毎に主、主と言っていた気がするなぁ・・・。(^^;)


・ぬし

 https://ja.wiktionary.org/w/index.php?title=%E3%81%AC%E3%81%97&oldid=1299996

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ