私の魔法が変だった件
私たちは、咲花村を出てすぐに街道から外れ、山に向かう道を進んでいた。
しばらく歩いて、登山道に入る手前の広場のようになっているところで、田中先輩は一旦止まった。
そして、振り向いて更科さんと私を見た後、
「これから山に入るが、その前にお前たちに課題を出してやる。」
と言った。私は、
「どのようなものですか?」
と聞くと、田中先輩は、
「いやな、実際どのくらい魔力が使えるのかわからんから、簡単な試験だ。」
私は、課題と試験は違うのだがと思いながら、
「試験ですか。
今朝、少しだけ魔法を集める練習をしましたが、あれをどのくらい大きくできるかとか、そんな感じでしょうか?」
と聞いた。田中先輩は、
「集める?
あぁ、そういうことか。
山上、いきなり面白いことをやったな。」
と話した。すると、更科さんは私に、
「どんなことをしたのですか?」
と聞いてきたので、私は実際にやってみることにした。私は更科さんの方を向き、
「魔法の基礎訓練をしたのですよ。
例えば、風はこんな感じでやりました。」
と話しながら、腕を上に伸ばし、息を整えながら腕を下げつつ前に突き出し、手が伸びきったところで風をすくうようにイメージをしながら腕を引きつけた。すると、すくい取った所の空間に風の魔力が集まり、少しだけ空間を歪めた。
更科さんは、
「へぇ。
学校ではこんなやり方は教えていませんでしたよ。
面白そうなので試してみますね。」
と言って3回ほど挑戦したが、上手く行かなかった。田中先輩は、
「普通は見せられただけで、いきなりやれと言われても出来ないものだ。
もし違っていたらすまん。
更科は風魔法は使えたはずだよな?
とりあえず、風魔法を使う前のためを手のところでやる感じでやってみろ。」
と言ってアドバイスを送った。すると、更科さんも手のところに、すぐに霧散したものの少しだけ風の魔力を出すことが出来た。私は、
「なんとなく、薫さんがやっているのと、私がやっているのでは違うような気がするのですが、気のせいでしょうか?」
と田中先輩に質問した。すると田中先輩は、
「そりゃ、違うな。
お前がやっているのは、自分の周りや自分から漏れ出た魔力を手に集めて維持しているようだぞ。
それに対して更科がやっているのは、自分の中から魔力を出して、手のところで維持しているんだ。
つまりだ。
山上は、魔力制御が出来ていなくて魔力ダダ漏れのくせに、その漏れた力をかき集めることは出来る、ちぐはぐな感じということだな。
普通はな、更科のように魔力を手のひらから出して、逃げないように制御するんだ。」
と解説をしてくれた。私は、意図せず人のやらない事をやっていたのかと思い、田中先輩に、
「確か、以前に魔力制御を教えていなかったといった事を言っていましたが、そうすると、今朝からの流れからして、今日は魔力を逃げないように制御するのが課題ということでしょうか。」
と聞くと、田中先輩は、
「まぁ、そういうことだ。
ちなみに更科の課題は、ちゃんと遅れずについてくることだからな。
レベルが低いのに無茶な訓練をさせて疲れていたら、いざ魔物が出た時に対処できなくて死ぬかもしれんしな。」
と言った。私は、
「魔力を制御することと、魔力を抑制する事は違うように思われるのですが、これをすれば魔力の放出を抑えられるのでしょうか。」
と聞いたところ、田中先輩は、
「難しい理屈は知らんが、魔力の制御が出来れば自然と放出の制御も出きるようになるものだ。
まず、魔力は感じられるようだからな。
そうだな。
更科を見て、感想を言ってみろ。」
と質問が帰って来た。私は何も考えず更科さんを見て、ちょっとドキドキしながら
「面と向かうと直視できないくらい、眩しいです。」
と返した。更科さんを見ると照れてしまったようで、はにかむ仕草がまたかわいい。田中先輩はしょうもない奴という目で私を見ながら、
「違うだろ。
魔力が感じられるか聞いているのに、素でのろけるな。」
と言った。私は慌てて、
「すみません。
えっと、多分、微妙に見たことのない力が陽炎にも似た感じで出ているように思います。
あと、風の魔力もちょっとだけ混ざっているように感じます。」
と、自分が感じたことを話した。田中先輩は、
「そうだな。
更科、さっき風の魔力を出した要領で、今度は神聖の魔力を出してみろ。」
と指示した。更科さんはさっきと同じ要領で手に魔力を出して、
「田中先輩、これでよいでしょうか。」
と言った。田中先輩は、
「そうだな。
次は山上、出してみろ。」
と言ったので、私も試しにやってみた。田中先輩は少しギョッとしためで私を見た後、
「おまえ、それはなんというか、ずるいな。
確かに、山上の手には神聖の魔力があるが、更科どころか、まわりの木や草から少しずつ漏れ出ている魔力をかき集めているようだな・・・。」
と言って、何か考えているようだった。私は、
「私は魔力を出すのは出来ていないということですね。」
と少し落ち込みぎみに喋ると、田中先輩は、何か閃いた様子で、
「そうか、そういうことか!
解かったぞ、山上!
お前は、重さ魔法を使ってまわりの魔力をかき集めているんだ。
重さ魔法についてはまだ解らないことが多いと聞くが、こんな使い方があるというのは始めて見たぞ。」
とやや興奮気味に話した。私は、ふと田中先輩の保有魔法属性を思いだし、
「田中先輩も重さ魔法は使えましたよね?」
と聞くと、田中先輩は、
「まぁ、一応な。
でも、普通、魔法属性と合わない魔法を使うにはかなりの鍛錬が必要でな。
俺みたいに、面白半分にいろいろな魔法の基礎訓練をやっている奴は少数派なんだ。」
と答えた。そして、
「山上は重さが20を越えていたよな。
多分、魔法を使ったことが無いのに属性のレベルが高いせいで、結果的に独自魔法が出来てしまったのだろうな。
これは、一度横山さんに言って見てもらうといいだろう。」
と付け加えた。横で先輩の話を聞いて驚いていた更科さんが、
「和人さん、独自魔法なんて凄いです!
私も将来、独自魔法持ちになりたいけど、普通は10年以上研鑽を積んで一部の人だけが作れるだけだと聞いているのに、私もあやかりたいです!」
と興奮気味に話した。私は今まで魔法を使ったことが無かったので、何がどう凄いのかさっぱり解らず、
「私にはどのくらい凄いかは判りませんが、おそらく、レベルが上がる幸運に恵まれたおかげなのでしょうね。
本当に独自魔法かは、横山さんに見てもらった後判るということでしょうか?」
と言った。田中先輩は、
「そうだな。
まぁ、俺が見たことないくらいだ。
十中八九は独自魔法だろうな。」
と話した後、
「ただ、独自魔法が出来ようと、今日の課題は力を抑えることだ。
お前の言う所の、その陽炎みないなやつを小さくするイメージをしてみろ。」
と指示をした。私は、田中先輩が『力を制御する』だとか『力を抑える』など、課題の表現がぶれているのをいぶかしく感じていた。
ひとまず、もう一度更科さんを見たときのように自分の体がどうなっているのか確認してみた。すると、自分からも、陽炎みたいなものが更科さんよりも激しく出ているのが感じられた。
そこで、私は意識して小さくしようとしたが、上手くいかなかった。
「田中先輩、小さくなりません。
なにかコツはありませんか?」
と聞いた。すると、田中先輩は、空をちょっと見上げてから、
「しまった!
更科もいるし、魔力の抑制はまた今度な!
ちょっと急ぐぞ。
更科、きつかったら山上に助けてもらえよ!」
と言って話を変え、登山口の方に歩き始めた。
私は慌てて、下ろしていた背負子を急いで背負った。
そして、おそらく先輩は、咄嗟にコツを思いつかなかったのだろうなと思いながら、田中先輩と間に挟むかたちで進み始めた更科さんの後を追ったのだった。
魔力制御の習得を先送りにした結果のフラグ回収はそのうち行います。(^^;)