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事情を聞いた

 私達は朝食を食べた後、蒼竜様以外は庄屋様と合流し、菅野村まで戻った。

 蒼竜様は、まだ冒険者組合の残務があるのだそうで、後1週間ほどは大峰町から動けないだろうと言っていた。

 道中は庄屋様がいるので、普通よりもゆっくり歩く事になったのだが、お陰で更科さんも特にバテること無く菅野村まで辿(たど)り着くことが出来た。

 ただ、途中、私が何度も更科さんに大丈夫か確認したものだから、村に着く寸前に確認した時、更科さんではなく佳央様から、


「和人、ちょっと心配しすぎよ。」


(あき)れられてしまった。しかし、更科さんは【回復】の魔法は使ってもらったとは言え、一昨日刺されたばかりなのだから、何度も確認したくなるのは当然だと思う。


 村に入ってからは、先ず、庄屋様のお屋敷まで行った。

 ここで、古川様とはお分かれだ。

 私は古川様に、


「この度は、大変お世話になりました。

 お陰で、佳織もこのとおりです。」


と言うと、古川様も、


「なに。

 その分、金子(きんす)も貰ったのじゃ。

 お互い様であろう。」


と言った。現在、古川様は巫女様に憑依(ひょうい)されれいるようだ。

 私はうっかり、


「蒼竜様からも貰っていましたが、そんなに何に使うのですか?」


と聞くと、大月様や佳央様から、不味(まず)そうな顔をされてしまった。

 だが古川様は気にしなかったようで、


「まぁ、いろいろとの。」


と答えた後、


「ただ、あやつは気が利かぬからの。

 何も考えずに、竜金貨で寄越(よこ)してきおったわ。」


と渋い顔をした。『あやつ』というのは蒼竜様の事だろう。

 古川様は金子(きんす)の使いみちについて答えてくれなかったが、見当は付いている。それは、恐らくだが、庄屋様のお屋敷を借りている代金だ。だが、竜金貨は竜の里以外では一般に流通していない。なので、庄屋様は竜金貨でそのまま渡されても困ってしまうだろう。なので、私が狼を換金したお金も必要だったに違いない。

 私は、


「竜金貨ですか。

 一応、冒険者組合で換金は出来ますが手間ですしね。」


と同意した。すると古川様も、


「うむ。

 あんな状況だったゆえ、換金する場合では無かったからの。」


と言った。巫女様御一行は遠慮なんてしないのだろうと思っていたので、私は意外に感じた。が、それが顔に出ていたらしい。

 古川様から、


「空気ぐらい、読むわい!」


と苦笑いしながら軽く怒られた。

 古川様は、


「まぁ、こちらの用事は済んだ。

 そちらも、自分の仕事に行くがよかろう。」


と言って、屋敷の中に入っていった。

 それを見届けた大月様は、


「では、庄屋殿。

 漁民の所まで、案内を頼むぞ。」


と庄屋様に向き返って言った。庄屋様は、


「へい。

 こちらに付いて来て下さい。」


と少し声をひっくり返しながら言い、漁民の所まで案内してくれた。


 村の門を出て暫く行くと、以前、庄屋様の居場所を聞いた漁民の家が見えてきた。そして庄屋様はその家の前に立ち、


「本庄!

 いるか?

 本庄?

 本庄?」


と大きな声で家の中に呼びかけた。すると、家の中から、


「聞こえてんだ!

 すぐ行くから、黙れ!」


と聞いた事のある声がした。暫くすると、一昨日(おととい)話をした髭の(じい)さんが出てきた。

 あの髭の翁さんは本庄さんと言うらしい。

 出てきてそうそう、本庄さんは、


「なんだ、先日のお前ら・・・と庄屋様じゃねぇだか!

 これは、大変失礼いたしますだ!」


と言って頭を下げた。

 が、庄屋様はもっと驚き、慌てて、


「おめぇぇぇ!

 こちらのお方たちを、っどどどなただと思ってんだ?

 (わし)よりずっと、偉れぇんだぞ?」


怒鳴(どな)り気味に言った後、本庄さんの頭を(つか)んで下げさせ、


「こん馬鹿が、申し訳ありません。

 ご無礼があったなら、一緒に謝りますだ。

 どうか平に。」


と言って、庄屋様自身も同じく頭を下げた。

 大月様が、


「よい。

 話も進まぬゆえ、頭をあげよ。」


と言った。庄屋様は、


「恐れ入ります。

 場所は、如何すんだら(したら)いいですか?

 ・・・その、儂の家も今は貸しとりますが・・・。」


と確認した。庄屋様は動揺しているせいか、微妙に方言が出ているようだ。

 大月様は、


「小生は、どこであっても問題ない。

 差し支えないなら、そこでも良いぞ。」


と言って本庄さんの家を指した。本庄さんは、


「狭いし、汚いだで、それでも、よければ使ってくだせい。」


と言った。大月様は、


「うむ。

 では、使わせて頂くとしよう。

 火爪(ひづめ)もこちらに呼ぶゆえ暫し待たれよ。」


と言った。私は『(ひづめ)を呼ぶ』と聞こえたので不思議に思った。

 本庄さんが、


「中には家内もおんで、すぐ外さ出します。

 少々お待ちくだせえ。」


と言って、家に入っていった。

 更科さんが佳央様に小声で、


「すみません。

 火爪(ひづめ)様というのが、今回の問題の竜人様なのですか?」


と確認すると、佳央様は、


「ええ。

 火に爪と書くの。

 珍しい苗字(みょうじ)よね。」


と答えた。さっき、私は(ひづめ)だと思ったのだが、火爪(ひづめ)様の勘違いだったようだ。

 (しばら)く待っていると、本庄さんが家から出てきて、


「お見苦しくて申し訳ねぇが、お上がりくだせい。」


と言って、家の中に案内された。

 本庄産の家に入ると、漁民の家らしく何となく川魚の臭いがした。

 だが、土間には(あみ)(かい)、籠が置いてあり、農家には無いものがいくつか置いてある。だが、裏では田畑もやっているので、(くわ)も置いてある。

 草鞋(ぞうり)を脱いで、家に上がる。

 畳はなく、板間だ。

 中央には囲炉裏(いろり)があり、その周りには(わら)で編んだ座布団が並べてあった。

 私は、人の家に行った時は大体玄関に近い方に座っていたので、今回も入り口の近くに座ろうとしたのだが、大月様から、


「普通の客であるなら、それが正解であるが、今回は裁定の形を取る。

 ゆえに、二人は左側に座るが良い。」


と言って、入り口と逆側に座るように言われた。

 私は、


「分かりました。」


と答え、奥から佳央様、私、更科さんの順番に座った。

 暫くして火爪様が到着し、囲炉裏を挟んで向かいの席に座る。

 大月様は全員を見渡し、


「ふむ。

 では、(そろ)ったゆえ、始めるとするか。」


と言って、ひと呼吸し、


「本件は、既に巫女様が解決済みである。

 が、小生も呼ばれて竜の里からここまで来た身。

 顛末(てんまつ)を知る必要があるゆえ、すまぬが、両者の意見をもう一度聞かせてはくれまいか。」


と言って聞き取りを始めた。

 大月様は、


「先ずは、申立を行った漁民の代表から申せ。」


と指示をした。本庄さんは、


「元は、漁師仲間と最近、あまり魚が採れないと話してた時に、じいさまの代は、もっと奥に岩があったという話を始めたやつがおったのですだ。

 で、思い切って、そこの火爪様に掛け合っていただくよう、庄屋様に相談しただ。

 が、火爪様をお呼び立てするにも口実がいんだ。

 そんで、いつも世話になっているからと火爪様を呼んで、酒の席を開き、それとなく聞くことになったんだ。」


と話した。庄屋様も(うなず)いているので、そう言う事になったのだろう。

 私は、お酒が入って、話を大きくしてしまったのだろうかと予想を立てた。

 続けて本庄様は、


「で、(うたげ)の席で漁の目印にしている岩について、

 『昔、あれを火爪様が動かしたと聞いただ。

  流石は竜人様!

  竜和国一の力持ち!』

 と言って暗に動かしたか聞いただよ。

 そしたら、火爪様も、

 『おうよ。

  力持ちと言ったら竜人、竜人と言ったら力持ちよ。』

 と言っただ。

 それで、

 『どのくらい動かしただ?』

 と聞いたんだで。

 そうしたら、火爪様が、

 『4町(400m)、いや5町(500m)だったか。』

 と言っただ。

 そんで、約定さ持ち出して、

 『こん絵の大きいのをだか?』

 と聞いたんだ。

 そしたら、火爪様も、

 『間違いない。

  が、こお岩はこの岩だ。』

 ちゅうて言われただ。」


と話した。聞いていた話と随分違う気がする。

 大月様が、


「火爪は相違ないか?」


と確認した。すると火爪様は、


「あれはただの余興と思ってな。

 軽い気持ちで、話に乗ったのだが、話が大きくなってしまってな。

 約定に書いてある岩山を見れば、誰でも嘘だと分かるつもりだったのだ。

 それに、『さすが竜人様』と何度も褒められては、そう言う事にしておいたほうが夢を崩さぬとも思うてな。」


と頭を()いた。

 大月様は、


「ふむ。

 つまり、岩は動いておらぬということであるな。」


と言った。

 一方は、裏を取った上で、元の位置に戻して欲しいと訴えたつもりの漁民。

 一方は、村人が抱く夢というか強い竜人像を壊したくないと思った火爪様。

 結果、漁民が嘘の申立をした事になった。

 では、この責任は誰がとるのだろうか。

 私はその点が気になったので、


「はい。」


と言って、手を上げた。大月様が、


「山上、何だ?」


と聞いてきた。私は、


「不幸な行き違いがあったとは言え、竜の里まで訴えが登った以上、取り下げるにしても誰かが責任を取らされるのでしょうか?」


と質問をした。すると大月様は、


「うむ。

 この点は既に庄屋殿から聞いておる。

 竜人にあらぬ因縁をつけたということで、最初にじいさまの代にもっと奥に岩があったといい出した者が(はりつけ)となっておる。」


と言った。私はそれはあまりに理不尽だと思ったので、


「磔は重くありませんか?」


と聞くと、大月様は、


「これが庄屋に持ち込んだうちに解決していたなら、単に取り下げただけで事も済もう。

 が、既に藩を通して竜の里まで上がってしまっておるのだ。

 藩としては、何らかの形で誰かが取り下げの責任を()わざるを得まい。」


と残念そうに首を振った。

 私は、


「この件は、両方が落ち度を認めているも同然ではありませんか。

 竜の里側から、穏便に取り下げとは出来ないのでしょうか。」


と聞いた。すると大月様は、


「いいたいことは小生にも分かる。

 が、終わったことなのだ。」


と残念そうに言った。私は、


「では、権限がある人に話を通せばいいのですね。」


と言ったのだが、大月様は、


「既に昨日の昼、執行されたという話である。

 もう、この話は蒸し返すでない。」

 

と、悲しそうな顔をした。

 私は、


「そんな・・・。」


と言って口を閉ざしたのだが、大月様も、


「藩も、気を利かせたつもりであろう。

 みんな、良かれと思ってやった結果である。」


と言った。そして、


「仮に、藩に文句をつけようものなら、今度は藩の中で竜人の不興を買った(とが)で誰かが腹を切ることになる。

 ゆえに、何か聞かれても『大儀である』と答えるしか無いのが、また歯がゆいところである。」


と言ってため息をついた。

 大月様もやるせないのであろう。

 私は、

 が、亡くなってしまっては、何とかしてやろうにも、どうにも出来ぬ。


「知らなかったとは言え、出しゃばった事を聞きました。

 申し訳ありません。」


と謝ったのだった。

 その後は細かいやり取りがあった後、聞き取りも終了となった。

 聞き取りが終わった後は、昨日、佳央様が町で買ったというお饅頭(まんじゅう)を白湯と共に食べ、町の宿まで庄屋様を送り届けた。

 その日、昨日と同じ宿に泊まると、遅れて蒼竜様が合流した。

 私は蒼竜様に今日の出来事を話すと、蒼竜様は、


「本件もそうであるが、世の中、理不尽な事の多いことよ。

 ゆえに、見回り役としてあちこちをまわり、少しでも理不尽を減らしておる。

 が、いつまで経っても減らぬ。

 ままならぬものよ・・・。」


とため息混じりに話した。

 私も、そういう理不尽が減っていけばいいなと思ったのだった。


 江戸時代、調停はまず、家主から始まり、まとまらなければ庄屋様などの地方三役を経て、最後は奉行所へと徐々に大きな組織で行われたそうです。

 本作中でも、基本は同じ仕組みの想定です。

 しかし、今回は竜人が関与しているので、藩で勝手に取り下げると竜の里の監査で発覚した時に問題になるので、竜の里まで上げる事になったという設定になっています。


・地方三役

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%9C%B0%E6%96%B9%E4%B8%89%E5%BD%B9&oldid=79803156

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