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咲花村の飯屋にて

 今日は春高山に向かう。

 私は、一度平村に出てから春高山に向かうのかと思ったのだが、田中先輩は逆の方に歩き始めて、


「今日は咲花村(さくはなむら)経由で行くぞ。」


と言った。私は、


「私は葛町(かずらまち)から先には言ったことがないので、初めての道になります。

 すみませんが、地図か何かはありますか?」


と聞いてみた。すると、田中先輩は、


「体で覚えろ。

 こういうのは勘だ。勘。」


と言って、曖昧な事を言ってきたので戸惑った。すると更科さんが、


「私は咲花村(さくはなむら)の温泉街までは行ったことがありますが、そちらから登るのでしょうか?」


と行った。すると田中先輩は、


「そういえば、更科は商家の出身だったな。

 大杉町(おおすぎまち)か?」 


と聞いた。更科さんは、


「はい。

 大杉で反物を扱っている更科屋というところです。」


と答えた。すると、田中先輩は、


「藩の御用達(ごようたし)じゃなかったか?

 結構でかいな。」


と言うと、更科さんは、


「御用達と言っても三番手なので、藩との取引も少ないですし、逆に制限もあるので他のお店の方が儲かっていると思いますよ。」


と返した。私は、


「差し障りが無ければですが、制限というと、どんなものですか?」


と聞くと、更科さんは、


「周知の事実なので問題ないですよ。

 その、外国との取引が禁じられているんです。

 藩に収めた後、それに毒や呪いが仕込まれていたら大事(おおごと)ですし。」


と答えてくれた。私は、


「なるほど、取引が禁じられているので、外国から安価な商品を輸入して一般の人に売ることもできないのですね。」


と相槌を打った。

 そんな他愛ない話をしながら川を渡り、大杉町に着いた。

 すると、田中先輩が、


「今日の昼飯は咲花村で食うぞ。

 更科は実家に寄りたいだろうが、素通りするぞ。」


と言って休まず歩いた。私は大きな町は初めてだったのでキョロキョロしながら歩いたが、


和人(かずと)さん、私の実家はあの通りの向こう側になります。

 この通りからだとちょっと見えませんね。」


と言って恥ずかしそうにしていた。私は、更科さんの実家を探してキョロキョロしているのだと勘違いされたのだなと思ったが、都合がよかったのでそのまま、


「見えないのですか。

 (かおり)さんがどんなところで育ったのか興味があったので、残念です。」


と言って、耳を赤らめながらキョロキョロするのを我慢した。田中先輩にはバレていた様で、笑いをかみ殺していたようだった。きっと更科さんにもバレていたのだと思うが、きっと彼女のやさしさなのだろう。指摘されなかった。


 そうこしているうちに大杉町を抜け、咲花村への道には行った。

 そういえば、なぜ、更科さんが大杉町(おおすぎまち)ではなく、葛町(かずらまち)の冒険者組合に登録したのかと疑問に思ったが、きっと事情があるに違いないので、薮蛇にならないようにそのうち聞こうと先延ばしにした。


 咲花村についたのは、ちょうどお昼になったころだった。

 田中先輩は咲花にも行きつけの店があるようで、『飯所 やまびこ屋』という、昔からある雰囲気の店に入った。腰高障子(しょうじ)に穴は開いていないものの、油障子がしばらく替えられていないのがわかる。

 席につくと、田中先輩が店を切り盛りしていると思われるご老体のおばあさんに、


「ばぁさん、飯と弁当、3人前こしらえてくれ。」


と注文をした。すると、おばあさんは、


「あいよ。

 こっちの二人が先だからね。

 ちょいとお待ちよ。」


と言って、奥に入って行った。

 しばらくすると、お盆にご飯とみそ汁、大根やにんじん、タケノコが入った煮物に小松菜の漬物を先にいた二人に出した。おばあさんは、田中先輩に、


「もうちょっとお待ちよ。

 すぐ持ってきちゃるからね。」


と言って、また奥に戻って行った。私は、


「あの二人が注文してからすぐでしたね。」


と言うと、田中先輩は、


「あぁ。

 ここは他より早いからな。

 急いでいるときには重宝するんだ。」


とこれだけ話しただけなのに、おばあさんはもうお盆を持って出てきた。


「ほら、三人前な。

 弁当は食い終わるまでには準備するから、まっときな。」


と言って、また奥に入って行った。それからまだ半分も食べ終わらないころ、またおばあさんが出てきて、


「そら、弁当な。

 爆弾、六つ作ってきてやったからこれで足りるだろ?」


と言って竹で出来た弁当箱を3つ寄越した。爆弾というのは、黒い海苔で包まれた大きなおむすびで、具は不明だ。田中先輩は、


「充分だ。

 山上、払っとけよ。

 ばあさん、銀15つぶだったか?」


と言うと、おばあさんは、


「お前ら、弁当箱も出さずによく言うよ。

 銀2匁だ。」


と言った。すると、田中先輩は、


「おいおい、そんなに高いのか?

 老い先短いのに業突(ごうつ)くだなぁ。」


と言った。おばあさんは顔をしかめながら、


「なんだい?

 客の分際で文句あるのかい?

 お前は特別にもう1つぶ追加な。」


と、悪態をついた。田中先輩は、


「おう、分かった。

 どうせ払うのは山上だ。

 頼んだぞ?」


と言って、余分に1つぶ払うことになってしまった。すると、更科さんがバツの悪そうな顔をして、


()()()先輩が申し訳ありません。

 口が悪いのは性分なので、勘弁していただけないでしょうか。」


と謝った。田中先輩は眉を寄せたが、何も言わなかった。おばあさんは、


「ほんにひどい上司だねぇ・・・。

 はぁ、分かったよ。

 銀2匁な。」


と言って、余分に払わなくてもよくなった。私は、


「薫さん、ありがとう。」


とお礼を言うと、更科さんは頬を染めながら、


「お役に立てて何よりです。」


と言われて、なんかうれしくなってニコニコしながら、目を見て頷いた。

 おばあさんは、


「若いのはすぐこれだからねぇ。」


と言ってニヤニヤしたので、まだ食べている最中だったが、先に小粒で銀2匁を支払って照れ隠しをした。

 全員が食べ終わって店を出るとき、田中先輩は、


「また来るから、それまで生きてろよ。」


と挨拶をした。おばあさんは、


「うるさいね。

 お前等こそ、魔物に()られんじゃねぇぞ。」


と言って、見送りをしてくれた。

 こうして咲花村を後にし、春高山に向かったのだった。


見づらいと思いますが、この辺の地図になります。

┌─────────────┐

│山山山山谷山山△春高山谷山│

│谷山平村山谷山山山山谷山山│

│山川 ○山山谷山山谷山山山│

│山山川道山山川 川山山山山│

│山山 谷山 川川 咲花村 │

│ 山山山谷 川   ○道道│

│  山 道川   道   │

│  葛町○川  道    │

│    道橋道◎大杉町  │

│ 丘丘  川 道     │

└─────────────┘

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