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竜の巫女様

 大月様が、


「ふむ。

 事情は分かった。

 が、小生も竜人である。

 入ってもよいか?」


と切り出した。

 門番が眉を(ひそ)めながら、


「他に、竜人が来るという話は聞いておらぬ。

 もし本当であれば、()()を見せられよ。」


と言ってきた。

 ()()とは何のことなのだろうか。

 私には、以前に竜人と証明できる物品に心当たりはなかったのだが、大月様は服の袖から、一つの赤みを帯びた玉を取り出し、門番さんに見えるようにした。

 大月様は、


「通行手形だ。

 これで良いか?」


と質問した。

 私には、全く見覚えのない玉だ。だが、どうやらあの玉が身分証にもなるらしい。

 門番さんはそれを見るや、真っ青な顔になりながら慌てて土下座をし、


「こっ!こっ!こっ!こっ!

 ・・・これは、失礼いたしました!

 竜人様であれば、通さぬということはありません。

 大変、申し訳ありませんでした。」


と謝った。

 大月様は、


「こちらが、その様に振る舞ったのだ。

 問題ない。

 (むし)ろ、驚かせて済まなかった。」


と言って、特に(しか)りつけるような事もなく、逆に謝りさえした。

 流石、大月様だ。

 門番さんは、緊張からか震えながら、


「いえっ!

 大変、恐縮にござりたてたて(たてまつ)りまする!」


と、使い慣れない(あや)しい丁寧語(ていねいご)で返事をした。

 大月様は、


大儀(たいぎ)

 少々、口が軽いようではあるが、基本は出来ておるように思う。

 これからも、(はげ)むように。」


と声をかけてから、村の中に入っていった。

 後ろを佳央様、私、更科さんの順に慌ててついて行く。



 村に入ると、人気(ひとけ)はほとんど無く、閑散(かんさん)としていた。

 だが、よく聞くと遠くから太鼓や鉦鼓(しょうこ)、微かに竜笛(りゅうてき)(しょう)の音も聞こえる。

 私は、


「お祭りですかね。

 それにしてはこの音色、荘厳(そうごん)と言うか神社で聞いた事が・・・、」


と言いかけたのだが、私の言葉に(かぶ)せて大月様が、


「よもや!」


と驚いたように声を出し、私達に、


「佳央、山上、奥方殿、これから作法について説明する。

 細かいものは色々とあるのだが、これから見るものは、見なかったことにするのが作法の(かなめ)である。」


と言ってきた。私は、


「どういう事ですか?」


と質問すると、佳央様が、


「竜の巫女様ですか?」


と質問を重ねた。大月様は、


「うむ。

 この雅楽(かぐら)である。

 村の祭りという事はあるまい。」


と答えた。この神楽は、竜の巫女様の関係者が演奏する特別のもという事だろうか。

 色々と分らない事があったのだが、とりあえず私は大月様に、


「見なかったことにすると言うのは、どの様に振る舞えばよいのですか?」


と、先程『要』と言っていた点について質問をした。

 すると、辺りが急に(りん)と張り詰めたような空気になったかと思うと、隣には誰もいないはずなのに耳元で、


「なに。

 (わらわ)の方から姿を消しておる。

 ()()()()()として過ごせば良い。」


と声がした。私は驚きのあまり、誰か尋ねようとしたのだが、急に大月様が私の前に来て、私の口を手で(ふさ)ぎ、


「ここには誰もおらぬ。

 何も聞こえぬ。

 よいな?」


と言ってきた。

 私の目には見えずとも、大月様には私に話しかけた人が見えているのかも知れない。

 もちろん、大月様の様子から誰の声かは想像がつくが。

 私は話を合わせ、


「何お話でしょうか?」


と聞くと、大月様も(うなず)いて、


「それでよい。」


と私の行動を肯定(こうてい)した。

 話の流れからすると、やはり先程聞こえた声は竜の巫女様のものだったようだ。

 佳央様が、


「巫女様は、神に近い身分よ。

 そのような方を普通の人は姿を見ることも、言葉を聞く事もできないの。

 佳織もいい?」


と言った。どうやら、佳央様は巫女様にまつわるお作法を知っているようだ。

 大月様や、ひょっとしたら佳央様も巫女様の姿が見えているようなので、私も魔法を見れば見えるのだろうかと考えたのだが、大月様から、


「見ようともするでないぞ?」


と先に(くぎ)()されてしまった。

 私は、


「はい。

 分かりました。」


と答えたのだが、また耳元で、


「連れない話よの。

 仕来(しきた)りじゃ。

 まぁ、またすぐに会う機会もあるじゃろう。

 黒竜の魂の乗る、(めずら)しき少年よ。」


と声がしたかと思うと、凛とした空気から普通の空気に戻った。

 恐らく、巫女様が去ったのだろう。

 私は大月様に、巫女様から『またすぐに会う機会がある』と言われたので、


「仮にお会いする事になったら、どのようにすればよいのでしょうか?」


と質問をした。すると、大月様は、


「ふむ。

 仮に、巫女様からお声掛かりがあった場合であるか。

 巫女様の(そば)には、必ずお付きの者がおるゆえ、その者と話せば良い。

 必要の応じて、言葉を伝えてくれよう。

 昔は、晴れ言葉しか許されなかったそうであるが、最近はそのような事も無いと聞く。

 が、出来れば晴れ言葉で話すがよかろう。」


と答えた。晴れ言葉は、お皿が割れたら、お皿が増えた、爺さんが亡くなれば、爺さんがめでたくなったと言いかえる面倒くさい話し方だ。

 私は、


「あまり忌み言葉は分かりませんが、努力します。」


と言うと、大月様も、


「うむ。」


と頷いた後、首を(ひね)り、やや早口で、


「晴れ言葉である。」


と言い直された。


 それから私達は暫く歩いて、雅楽を披露している村の広場の入り口に着いた。

 二礼、一拍、一礼して広場に入り、そのまま違う道に出る寸前、また振り返って二礼、一拍、一礼して広場を出る。

 更科さんや私は慌てて真似をしたのだが、恐らく大月様や佳央様にとっては常識で、私達に説明する必要性を感じなかったのだろう。

 正面に、一際大きなお屋敷が見えた。

 おそらく、あれが庄屋様のお屋敷だ。が、庄屋様のお屋敷と言っても、色々なのだろう。

 見知った平村の庄屋様のお屋敷は藁葺(わらぶき)だったが、こちらの庄屋様のお屋敷は瓦葺(かわらぶ)きだ。

 門の中が見えるのだが、門から玄関までの飛び石の(わき)には、八本の見たこともない錦の布がぶら下がった棒が立っていた。玄関の両脇は、色々な色の吹き流しで飾られている。

 私は、


「雨が降ったらどうするのでしょうか。」


と思わず聞くと、大月様は苦笑いしながら、


「いや、今はそこではなかろう。」


と返されてしまった。うっかり聞いてしまったが、私もその通りだと思う。

 大月様は門に立つと、


「竜の里の大月である。

 誰かおらぬか。」


と声をかけた。

 すると玄関から、白い着物と赤い(はかま)の装束を着た、二人の上品な感じのおば様が出てきた。

 その後ろには、見習いだろうか。

 二十歳くらいの白い着物と白い袴の女性が付き従っている。

 赤い袴のおば様の一人が、


「竜の里の者か。

 出迎えにしては、早いようであるが。」


と声をかけてきた。すると、大月様は、


「使いを出しておりましたか。

 ですが、小生()は出迎えではありませぬ。

 この村で起きていた、竜と村人のいざこざを解決しに参った次第(しだい)にて。」


と普段とは違う言葉遣いで返した。すると、赤い袴のおば様は、


「なるほど、それで合点がいったわ。

 村に着くなり、いきなり仲裁を頼まれての。

 巫女様も、まるで来ることが分かっていたようで困惑していらっしゃったのじゃ。」


と返してきた。大月様は、


「それは、悪いことをいたした。

 して、どの様な顛末(てんまつ)であったか聞きとう思うのだが、お話できる者はおるまいか。」


と聞くと、一方の赤い袴のおば様が、


「ならば、(わらわ)が話すとしよう。」


と答えた。そして、もう一方のおば様が、


「ならば、妾が少年を連れて行くとしよう。

 巫女様が会いたいとおっしゃられておる。

 来るが良い。」


と、私だけ、竜の巫女様に呼ばれてしまった。

 私は不安になって、


「一人だけでしょうか?」


と質問すると、おば様は私達を見て少し考えてから、


「なるほど。

 そこな黒竜の娘も、付いてまいれ。」


と返事をした。一人だけでは心許(こころもと)ないが、佳央様も一緒なら、作法も知っているので心強い。

 だが、前もって予防線を張っておこうと思った私は、


「その、私は無作法者でして。

 巫女様の前での仕来りが、よく分かっておりません。

 申し訳ありませんが、その辺り、大目に見ていただけると助かります。」


とお願いすると、後ろで控えていた付き人からクスクスと笑われてしまった。

 彼女たちにとって知っていて当たり前なことを私は知らない。恐らく彼女達からは、私が無知で愚かな者に見えるのだろう。確かにその通りなのだが、だからと言って笑う事も無いのではと思った。

 大月様が、


「指名であるか。

 ならば、仕方あるまい。

 山上、くれぐれも粗相(そそう)の無いようにな。

 それと佳央。

 くれぐれも機嫌を損ねぬよう。」


と言ってきた。佳央様は、


「損ねないわよ。」


と、ちょっとムスッとした後、


「ほら、和人!

 上がるわよ。」


と言って私の腕を引っ張ってから玄関に向かった。

 私は慌てて、


「大月様、佳織、また後で。」


とだけ声をかけ、佳央様を追って玄関に向かったのだった。


 巫女さんがようやく登場しましたが、本作での巫女さんについて説明しておきます。

 本作の中で巫女さんになるには、最低でも

 ・(数秒先でもいいので)未来予知が出来ること

 ・解呪

 ・浄化(祈祷)

 の3つのスキルを持っていて、どこでもいいので神社から巫女認定される事が必要になります。


 巫女認定された後は何処で何をしても問題はないので、子持ちの巫女さんもいれば、冒険者と兼業の巫女さんもいます。神社の側も、神社の格を(おとし)めるような事をしない限り、除名はしません。


 巫女としての収入は、神社を通して祈祷や解呪を行うことで得ています。

 神社の外での依頼を受けた場合は、出張料金の他、旅費や食費などの経費も出してもらえます。移動中、経費を使いすぎて手持ちが無くなった場合も、クライアントに請求するのが慣例になっています。

 ということで竜の巫女様も金欠につき、竜の里に連絡を取っていました。


〜〜〜

 今年は今日から年末年始休暇という人もいると思いますが、おっさんは28日は仕事です。

 年末年始は割とやることもあるので、全体的に短めになる予定です。

 もし、字数が多くなっていたら、現実逃避していると思っていただければと・・・。(^^;)

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