更科さんと合流
* 2019/01/01
誤記を修正しました。
私の冒険者登録が終わってしばらくすると、更科さんが冒険者組合にやってきた。
更科さんは、山吹色の半着によもぎ色のもんぺ袴で山でも動きやすそうな格好だ。頭にはもんぺと合わせたようで、よもぎ色の頭巾をかぶっている。手には柄の先端にヘ音記号を模したような変わった形の錫杖のようなものを持っていた。ただ、背中には女の子には不釣り合いな大きさの厚手の布製の背嚢を背負っていて、すぐに疲れないか心配になった。田中先輩も背嚢が気になった様子で、
「おまえ、その荷物。
一泊するだけなのに多すぎだ!
少し減らせ!」
と言って注意した。すると更科さんは、
「ごめんなさい。
でも、どうしても削れないものばかりで・・・。」
とシュンとしたので、私は慌てて、
「今回は私の歩荷の修行の一環なので、私が背負いますよ。
時間もなかったので、持っていくものの選別をする時間もなかったでしょうし。」
と言ってフォローした。田中先輩は、
「おい、そうやって甘やかすのはやめろよ。
そういうことを言う奴がいるから、女がつけあがるんだ。
今は良くても、そのうちあれだ。
どうなっても知らんぞ?」
と軽く嫌そうな顔をした。私は更科さんの顔をチラッと確認してから、
「次は薫さんもきちんと整理すると思いますので、今回はいいじゃないですか。
それに荷物を運ぶのは私ですし、何とかなりますよ。」
と言った。すると、沼田さんが、
「偉いわね、山上くん。
何気に優良物件よね。
更科さんと結婚していなかったら、私が貰いたいくらいだわ。」
と、話に入ってきた。更科さんは頬を染めながら、
「沼田さん、私たちはまだ結婚していませんよ。
でも、今度親に紹介するので、変な色目は使わないでくださいね?」
と釘を刺した。何気に、更科さんの沼田さんを見る目が鋭かった気がした。
沼田さんは、
「それは分かっているわよって、ちょっと待って。
今、親に紹介するって言いったの?」
と、後半、焦って言った。私も更科さんと同様に頬が染まるのを感じながら、
「はい。
お互いの両親に紹介することになっています。」
と返した。沼田さんは、
「ちょとと、あなたたち。
まだ知り合って1週間も経っていないわよね?
どういうこと?
ねぇ。
私は未だにお付き合いとかないわよ?」
と、舌が回らない感じで言って、ちょっと涙目になっているように見えた。田中先輩は、
「そういえば、狭い町なのに男と歩いているところを見かけたことがないな。
どうだ、山瀬とか。
それなりに釣り合いは取れると思うが。」
とお節介な感じで話したところ、沼田さんは、
「私もいいと思いますが、山瀬先輩には、美雪さんって彼女さんがいるのよ。
よく、『和也に』って言って手作り弁当を持ってきているのよ。」
とムッとした感じで話した。田中先輩は少しにやけながら、
「なんだ、山瀬のやつ、彼女がいたのか。
すまん、聞いていなかった。」
と謝った後、里見さんをチラ見して、
「じゃぁ、あれだ年下だが里見とかどうだ?」
と、言った。田中先輩は里見さんをからかい始めたようだ。里見さんをみていると沼田さんの方をチラッと見て、まんざらでもなさそうな表情をしていたが、沼田さんは、
「@%’#Q!
ないわね。」
と素っ気なく返した。里見さんの方はがっかりしているようだ。田中先輩が、
「そうか?
悪くないんじゃないか?」
と聞いた。私は里見さんを不憫に思いながも、時間ももったいないので更科さんの荷物を自分の背負子に載せはじめた。ちらっと里見さんの方を見ると、また何か期待したような表情になったが、沼田さんは、
「無理ね。
仕事もイマイチだし、第一、年下よ?
駄目じゃない。」
と、話にならない感じだった。里見さんはすとんと椅子に座った。田中先輩は、
「誰にだって初めてはある。
里見が20になった時、新たに入った新人はきっと頼りになると思うことだろうよ。
そういうのは、割と時間が解決するものだ。
それに、男性と女性では、女性の方が平均寿命は長いだろ?
男を看取るよりも同じくらいに逝った方がいいんじゃないか?」
と言った。里見さんはまだ復帰していない様子だった。沼田さんは、
「ま、あ、そう言われると将来性があるなら年下もありね。
でも、里見くんは弱そうだし、タイプじゃないのよね。」
とトドメをさした。里見さんは、
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか。」
と、涙目になっていた。沼田さんが慌てて、
「ちょっと、田中さんが変な話するからですよ。
後で責任取ってくださいね?」
と言ったので、田中先輩は、
「男に責任取れって、あれか。
最近流行りの男色系の薄い本の影響か?」
と返した。私はどういう脈絡なのか判らなかったが、沼田さんは顔を赤くしながら、
「ちょっと、そういう返しはひどいです。
というか、名誉毀損ですよ?」
と言った。私は荷物を積み終わったので、田中先輩はまだ何か言おうとしているようだったが、
「先輩、荷が積めたのでそろそろ行きませんか?」
と声をかけた。沼田さんは仕事の顔に素早く切り替えて、
「あぁ、そういえば、採取の依頼を受けるのだったわね。
この書類に名前と登録番号だけ書いてもらえればいいから。
あ、山上くんはさっきもらった仮登録番号ね。」
と書類を渡してきた。
まずは、先輩が名前と番号を書いて、その後で、私と更科さんもその下に名前と番号を書いていった。私はもちろん、仮登録番号だ。
沼田さんは名前を確認して、
「これで薬草採取の依頼を受理しました。
皆さん、気をつけて行ってくださいね。」
と送り出してくれた。
私たちが冒険者組合を出る時、気になって里見さんの方を見ると、沼田さんが何か言った後にようやく復帰していた。沼田さんが何を話したかは聞こえなかったが、里見さんの顔が喜んだ感じじゃなかったので、飴の言葉をもらったというわけでも無いようだった。
こうして、ようやく更科さんと私は、先輩の後について山に向かい始めたのだった。
なぜに女の子の荷物は多いのでしょうかね。(^^;)
あと、更科さんの頭巾は水戸○門の黄○さまがかぶっている頭巾の色違いです。