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この道幅では無理なので

 昼食も食べ終えた私達は、これから峡谷の残りの道を歩くために荷物を片付けていた。

 更科さんが、


「さっきは、ムーちゃんが大変だったね。」


と話しかけてきた。私は、


「さっきだけじゃなくて、ずっと足元をチョロチョロしていて大変でしたよ?」


と返したのだが、更科さんは、


「そうだけど、特に、さっきの水が走っていた所よ。」


と言ってきた。私は、


「あそこですか。

 あれは、本当に落ちるかと思いました。」


と苦笑いしながら答えた。すると佳央様も、


「あれは、私もヒヤッてしたわよ。

 落ちて、大怪我でもしたら大変だし。

 なのにムーちゃん、よりにもよって、荷物の一番端まで行っちゃったでしょ?」


と苦笑いしていた。すると大月様が、


「確かに。

 あれを(こら)えるとは、流石に本職であるな。

 いや、誠に天晴(あっぱれ)。」


()めた。私も何とか()えきった心境を思い出し、


「私も、あれは流石に、落ちるかと思いました。

 本当は水に濡れたくないのに、ムーちゃんが乗ったじゃありませんか。

 荷物は谷の側に倒れようとするし、もう本当にあれは勘弁です。」


と笑いながら話した。だが、私もあんな怖い思いは御免(ごめん)なので、


「ムーちゃん、今度から、あれは無しにして下さいね。

 重さ魔法で何とか耐えましたが、連続でずっと魔法を使っていたので、本当に危なかったですから。」


とお願いをした。するとムーちゃんは、


「キュゥー・・・。」


と鳴いたので、しょんぼりしているようだった。

 私は、


「足元でチョロチョロするのもですよ?

 踏んでしまいそうで、ヒヤヒヤものでしたからね?」


とお願いをすると、反省するかと思いしや、逆に可愛く、


「キュ〜、キュッ!☆」


と言われ、何となくイラッとした。

 だが、更科さんは、


「もう、ムーちゃんったら可愛いんだから。」


と言って、嬉しそうにムーちゃんの頭を()でた。

 大月様が、


「よしっ!

 そろそろ出発するか。」


と言ったので、私は残りの荷物を急いで片付け、一番上の荷物に油紙をかけて背負子(しょいこ)(しば)りつけ、準備を整えた。

 さて、ここからまたあの細い道を行かなければいけない。

 私は、背負子を背負うと、


「準備が出来ました。」


と言って、大月様に声をかけた。

 大月様は残りの二人の様子も見て、


「ふむ。

 では、行くか。

 この先も道幅は狭いゆえ、努々(ゆめゆめ)、気を抜かぬようにな。」


と言って、また狭くなった崖の道を進み始めた。


 今度はさっきまでよりは幅が広いのだが、それでもだいたい4〜5寸(15cm)と言ったところだろうか。ただ、休憩前の道にも、若干広い箇所があったので、この幅も今だけかも知れないが。


 しばらく崖を横に進んでいたのだが、案の定、幅が狭まる所が何箇所かあった。

 そして今度は、また更に難しい所が待ち構えていた。


 崖がほぼ垂直に切り立っていたのだ。

 今までも崖には違いなかったが、普通、崖とは言っても多少の勾配はあるものだ。

 なのに、ここから先、この勾配が殆どないのだ。


 普通、荷物を背負った時、真っ直ぐに立つと荷物の重さで後ろに引っ張られる。

 そのままでは後ろに(ころ)んでしまうので、少し体を前に倒して調節しながら歩くのが普通だ。

 背負子に重い荷物を(しば)った場合は、背負子の先が頭の真上に来るぐらい、前傾姿勢になる。

 だが今回、歩いている道は崖に沿って出来た、大変幅の狭い道だ。前に向いて歩けるほどの幅もない。

 仕方なく、崖に張り付いて横ばいに進んでいるのだが、この崖が急なせいで、十分に前傾姿勢にはなれなかった。

 そこで、重さ魔法の出番だ。

 魔法で荷物を軽くすることで、崖に張り付けば後ろに転ばずに済むようにしている。

 だが、今回はその勾配が殆ど無いので、ほとんど立って進まないといけないのだ。

 荷物の重さをほとんど消さない限り、後ろに引っ張られ、転んで崖底に転落してしまう。


 更科さんから、


「ここ、怖いわね。

 和人、大丈夫?」


と声がかかった。

 ここまでは重さ魔法を強くして荷物を軽くしながら、何とか崖に張り付いていたのだが、もういい加減限界に感じた。

 私は、


「この角度はちょっと難しです。

 ・・・と言うか、少しの風でも、落ちてしまいそうです。」


と説明した。すると更科さんも、


「私も、何か(つか)むところがないと落ちそうよ。

 誰か、(ひも)でも張ってくれたらいいのにね。」


と文句を言った。私も、


「本当ですよね。」


と言って同意した。

 佳央様が、


「和人、荷物を上に持ち上げてるみたいだけど、重さ魔法なら、斜めに持ち上げることも出来るのよ?

 そうしたら、少しは楽になるんじゃない?」


と言ってきた。私は『斜めに持ち上げる』という意味が分からなかったので、


「どういう意味ですか?」


と聞くと、佳央様は、


「ほら、崖の方に誰かが引っ張ってくれている感じよ。

 分かる?」


と言ってきた。私は試しに、持ち上げる感覚から、前に誰かがいて引っ張ってもらう感覚になるように、重さ魔法を調整した。すると、さっきの後ろに引っ張られる感じが少し弱まった。

 こう、重さはさっきよりも感じるのだが、荷物が私に近づいているような感じなのだ。

 これなら行けると思い、


「佳央様、ありがとうございます。

 これなら、何とかなりそうです。」


とお礼を言った。すると佳央様は、


「そもそも和人のレベルなら、このくらいの荷物は浮かせられるはずなんだけどね。

 ちゃんと練習しないと駄目よ?

 今みたいに、いざという時に使えないから。」


と、練度の低さを指摘されてしまった。

 棚ぼたでレベルだけ上がった身としては、耳が痛い。

 私は、


「そうなのですか?

 でも、荷物が持ち上がるくらいまで使い(こな)せたら、空も飛べそうですよね。」


と冗談交じりに答えると、佳央様から、


「竜だって、魔法で空を飛んでるのよ?

 和人も、そのくらいは出来なきゃね。」


と言ってきた。佳央様からすれば、私は竜人格なので、竜にできることは私も出来て当たり前という感覚なのかも知れない。

 私は、


「いえ、私は竜じゃなくて、人間ですから。」


と答えたのだが、佳央様は、


「重さ魔法が使えるなら、どっちも一緒よ。」


と答えた。更科さんが、


「あれ?

 じゃぁ、ひょっとして、佳央ちゃん・・・佳央様、人の姿でも飛べたりするの?」


と聞いてきた。すると佳央様は、


「当然。」


と答えた。私は、


「ひょっとして、大月様もですか?」


と聞くと、大月様は、


「小生は、そこまで器用ではないゆえ、練習すれば飛べるであろうが、竜化せねば難しいな。」


と答えた。すると佳央様は、歯切れは悪いものの、


「・・・えっと。

 でも、まぁ、練習すれば竜人なら誰だって出来るのよ。」


と答えた。だが、私は、


「いえ、そもそも私は人間ですから。」


と苦笑いしたのだが、それがきっかけで重さ魔法がゆるくなり、荷物が峡谷の方に引っ張られて落ちそうになった。

 私は慌てて、重さ魔法を強くして壁に張り付いて、


「今、ちょっと危なかったです。」


と背中に冷や汗を感じながら言うと、佳央様から、


「何してるのよ。」


と笑われてしまった。


 佳央様の助言のおかげで切り立った壁も超え、(しばら)く進むと、何やら知らぬ人の声が聞こえてきた。そして大月様から、


「向かいから、人が来た。

 この道ではすれ違えぬゆえ、さっきの広い所まで戻ってはくれぬか。」


と言ってきた。私は、


「向こうの人に、戻るようには言えないのですか?」


と聞くと、向こうの人にも聞こえていたようで、大きな声で、


「すまん。

 儂は湖月村の黒川 太郎っちゅう(もん)だ。

 急ぎで薬草が必要でな。

 すまんが、来るまでに、道幅が広い所があっただろ?

 そこまで、戻っては貰えんだろか。」


と言ってきた。薬草ということは、家に病人でもいるのだろう。

 それも、こんな命がけの道を使っているのだ。生死を分けるに違いない。

 私は、


「分かりました。

 すぐに引き返します。」


と言って、折角進んだ道を、さっきの幅の広い所まで戻ったのだった。

 そこでなんとか黒川さんとすれ違うと、黒川さんは、


「こんな大荷物なのに、すまんかったな。

 今は、何も持たんが、後で村まで来てくれたら、反物を一つやるから勘弁してくれ。」


と言ってペコリと頭を下げると、黒川さんは休む間もなく、また崖の道を湖月村の方に進み始めた。

 私達は気を取り直して、また峡谷の道を進み始めたのだった。


 おっさん、わりと最近まで絶対にとか決してという意味の『努々(ゆめゆめ)』を『夢々』と書くと勘違いしておりまして。。。お恥ずかしい限りです。(^^;)


努々(ゆめゆめ)

 https://ja.wiktionary.org/w/index.php?title=%E3%82%86%E3%82%81%E3%82%86%E3%82%81&oldid=1300795


最後ですが、ブックマークが一つ増えており、ありがとうございました。

稚作ですみませんが、よろしくお願いします。

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