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副組合長の野辺山さん

評価していたしていただいた方、有難うございました。

この場を借りて御礼申し上げます。


* 2019/08/03

 長さの単位を変更しました。

 その他、微修正。

 今日は平村(たいらむら)から集荷場のある葛町(かずらまち)への帰路だ。

 まだ歩荷になりたてで慣れない私は、昨日よりも軽い二尺三寸(約70cm)ほどの荷が乗った背負子(しょいこ)(かつ)いで降ることになっていた。


 春先は、村で作られた工芸品を町で売る。少しでも手元に現金を残すため、直接町まで売りに出る人もいるのだが、町まで出かけても直接買い取り交渉ができる店を知る者は少ないので、村の店で買い取ってもらい、町で売ってもらう人が多かった。

 しかし、中には名人と言われる人達がいる。今回背負(しょ)って降りる荷物はまさに彼らの作品で、名人が町の人から乞われて作った一品物がほとんどとなる。このため、量の割に値がはる物が多い。


 出発前の打ち合わせでも、田中先輩が


「工芸品はそんなに重くはないが、結構値がはる物が多いんだ。

 普段から谷の辺りは足場が悪いが、昨日の晩、小雨が降っていた。

 おそらく小川の辺りは増水して石が滑りやすくなっているから気をつけて運べよ。」


と、今日の注意点を挙げていた。私は、


「工芸品はどのくらいの値が付くんですか?」


と聞いた所、先輩は涼しい顔で


「おまえ、村の出身だろう。。。まぁ、他の人の稼ぎなんか知らんか。

 お前の背負っている荷でも、安いもので1貫文くらいのはずだぞ。」


と答えた。私は本当に注意しないと、落っことしたら最後、給料が全部無くなるなと思いぞっとした。


 私たちは日が昇り始めたころに、町に向けて出発した。

 平坦な道ではともかく、背負子を背負って降っている時は何かを話す余裕は一切無かった。

 ただ黙々と足元を見て、どこに足を置けば滑らないか、先輩の足取りを追って歩いていく。

 先輩が歩いた道は、もっと簡単な足の置き場があるように見えても、暫く歩けば納得するところが多かった。例えば、隣に比べて急な足場を降っているようでいても、緩やかに降る足場の先には、より急な足場が控えていたりする。休憩中、先輩に聞いたのだが、上下に大きく足を上げ下げすると疲れやすいので、できるだけ均一に足を上げ下げする道を選んでいるそうだ。


 そうこうしているうちに、昨日、先輩が黒竜を倒した谷の道に差し掛かった。


「お~い。そこの道は誰かが壊してしまったので、、、って、おい。

 お前、この道壊した張本人だよな。」


見知らぬ人が先輩に声をかけた。すると先輩は、


「いや、飛竜が出てな、ちょいと退治したんだよ。」


とその人に返事を返した。すると、


「どこの世界に黒竜を飛竜と同列に扱う奴がいるんだ。

 あぁ、お前にとってはどっちも格下ってことか。。。

 そう言うの、生半可にレベルの高い冒険者が聞いたら怒るから止めてくれよ?」


と返した。私は先輩に、


「この方は?」


と聞いた所、


「冒険者組合の野辺山(のべやま)だ。

 昔、ちょっと世話になってな。」


と答えてくれた。すると野辺山さんは、


「どちらかというと世話された側だと思うが。。。まぁいい。

 今は葛町の冒険者組合で副組合長をしている。

 お前は田中の後輩か?」


と聞いてきた。私は素朴になんで偉い人がいるのだろうと思い緊張しながら、


「はい。

 田中先輩の後輩で、歩荷の山上と申します。

 この度はこんな山の中までどのようなご用件で?」


と返した。野辺山さんは、


「谷の道が丸くえぐれていて、見たこともない大きな魔物の死体のようなものが残っているという報告を受けて、調査に来たんだ。

 そしたら黒竜が死んでいてな。

 この辺で田中以外にこんな芸当をできる奴はいないので、首に縄を付けてでも引っ張り出して尋問しようと思っていた所だ。」


と言った。先輩はそしらぬ顔で、


「他にもいるんじゃないか?」


と言っていたが、野辺山さんの他にも何人か調査に着ていたのだが、全員が


「そんなわけあるか!」


と目で訴えていた。どうやらバレているっぽいので、私は、


「王都を襲った黒竜だそうです。

 昔、先輩を含めた一行が黒竜の卵を採ってきたのだそうですが、その恨みを晴らすために一人一人探し出しては始末していたそうで、たまたま今回は先輩の番だったようです。」


と話した。すると先輩は裏切り者を見るような目で、


「おまえ、俺が倒したのは秘密だと言ったよな!」


と言ったので、私はあえて、


「先輩が倒したとは言っていません。

 黒竜に頼まれたことを話しただけですよ。

 みんなの顔を立てるにはこんな言い回ししかできなかったんです。

 すみません。」


と話した。私は、秘密をバラしただなんて人聞きの悪いと思った。

 先輩は、


「屁理屈をこねるな。

 まぁ、どのみちバレていたようだし仕方ないか。

 おまえ、明日書類だよな。

 それが終わったら一緒に冒険者組合に出頭な。」


そう言って、先輩はため息を付いた。

 野辺山さんは、


「よろしく頼む。

 金一封が出るから期待しろよ。

 しかし、こんな人材がポーターで終わらざるをえなかっただなんて、世の中間違っているよな。」


と言っていた。


 その後は何事もなく、町までたどり着くことができた。

 集積場について荷物を配ったり、他の町に行くように馬車便に渡したりしてこの日の仕事は終わった。

 明日は初めて冒険者組合に行く事になっている。冒険者と言えば荒くれ者なので、嫌な予感がしていた。

 ただ、歩荷の仕事で疲れていた私は、布団に入ると夢も見ないほど深い眠りについたのだった。


通貨単位は江戸時代を参考にはしましたが、重さを計ったり端数も分かりにくかったりでそのまま使い辛かったので、いろいろいじりました。

結果、

 金1両=銀50匁=銀500分=銭5000文

でいこうと考えています。これとは別に、

 銀1貫=銀1000匁

 銭1貫文=銭1000文

 銭1文=鐚4文銭

の単位があります。

蕎麦が一杯16文(二八そばつまり2×8で16文)と言いますので、物価の違いはありますが、1文が20円くらいの感覚になります。

鐚銭というのは文字がすり潰れて辛うじて読めるような銭です。

作中の1貫文はだいたい2万円くらいになりますので、荷が全部さばければそれなりの値段になります。


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