今日から春高山と言われた
先日、舌先に口内炎ができて喋ると涙が。。。(>_<)
スキルシートを書いた日の翌朝、掃除をしていると後藤先輩が出勤してきた。
私はいつも通り、
「後藤先輩、おはようございます。」
と挨拶をした。すると、後藤先輩が、
「おう、山上、おはよう。
今日から登山演習だったな。
春高山は結構大変だと思うが頑張れよ。」
と言った。私は、
「登山演習というのは何でしょうか?」
と聞くと、後藤先輩は、
「あぁ、田中さん、また伝え忘れたのか。」
とつぶやいた。後藤先輩は、少し思い出すようにしてから、
「聞いていなかったのか。
今日から1泊2日で春高山の山小屋まで、ちょっとした荷物を背負って往復してもらうのさ。
例年、今の季節は山の天辺あたりに天狗草という薬草が出てくるので、採取して冒険者組合で売っているのさ。
売上の半分は会社がピンハネだが、定期的に給料が入ることを考えれば、それなりにお得なので頑張って採ってこいよ。
ちなみに、田中さんが付き添ってくれるので魔物の心配はしなくていいぞ。」
と、これからの予定を教えてくれた。私は後藤先輩に、
「ありがとうございます。
もう少し、田中先輩も後藤先輩のようにしっかりしていると良いのですが・・・。」
と話すと、後藤先輩も、
「あれで後輩指導なのだから困ったものだよな。」
と返してきた。
しばらくこのようなとりとめの無い会話をしていると、田中先輩が出社してきた。
私は、
「田中先輩、おはようございます。
今日から登山演習と聞いたのですが、教えてくれないなんて酷いじゃないですか。
何か準備するものはありますか?」
と聞いた所、田中先輩は、
「山上は特別メニューだからいいんだ。
今日はまず、冒険者組合に登録して春高山の薬草採取の依頼を受けてもらう。
ついでだから、もしまだ一人だったら更科も誘ってやれ。
まぁ、登山逢引だな。」
と言った。
すると、更科さんが集荷場に入ってきた。
「お邪魔します。
山上さんはいらっしゃいますか?」
と、更科さんが私を呼んだので、私は田中先輩が話を通しているものと思い込んで、
「更科さん、おはようございます。
今日はよろしくお願いします。」
と話しかけた。更科さんは何故『よろしく』なのかが解らなかったようで、
「今日、何か約束をしていましたっけ?」
と聞いてきた。私は、
「今日、登山演習で薬草採取の依頼を受けるのですが、田中先輩が更科さんも誘えと言っていたので、てっきり聞いているものと思っていました。」
と苦笑いをしながら告白した。そして、
「もし、今日と明日、他の誰かと依頼を受ける予定がなければ、私と一緒に薬草採取をしていただけませんか?」
と、更科さんを誘った。すると更科さんは、
「女の子にはいろいろと準備があるものだけど、そこは気を遣ってもらえないのでしょうか。
そういえば、昨日も、私は会いたくて我慢できなくて山上さんに会いに行ったけど、山上さんからは一度も私に『会いたい』って言ってもらったことはありませんよね・・・。
昨日もすぐに帰っちゃったし、私と付き合うと言ったのに、その場の勢いだけだったのでしょうか?」
と、少しムッとした感じで言ってきた。後藤先輩は、田中先輩に『修羅場か?若くていいねぇ。』と小声で言っていたが、私はそれどころではなかったので、少し血の気が引きながら、
「そんなことはありません。
女の子の扱いになれていないだけですし・・・、その・・・、ご両親にお会いしてから正式に付き合いたいと思っています。」
としどろもどろに言うと、突然、ばたばたと足音がして、戸が引かれた。
普段はこの部屋に入らない千代ばあさんが、急にやってきたのだ。
「あんたね、うちの息子どもは、あんたの年の頃は毎日親の目を盗んででも女の子にちょっかいをかけに行ってたもんさ。
品行方正なのも大概にしないと、まとまるもんもまとまなくなっちまうよう?
それでもいいんかい?」
と怒鳴り込んできた。私は、
「fうぇ?ごめんなさい!
えっと、紹介します。
こちらが私の薫です。」
と、反射的に言ってしまい、赤面した。更科さんも突然名前で呼ばれたからか見る見る赤くなった。更科さんは小声で
「それは、反則です。」
とつぶやいた。千代ばあさんは、
「それそれ!
ちゃんと名前で呼んでやりなよ。
あと、ちゃんと次に会う約束はしときな!
まぁ、たまに寝所に忍ぶん仲ならいらんかろうがな?」
と、概ね納得した顔をして、
「仲人は要るだろ?
そんときゃやっちゃるから、声かけな?」
と言って、納得顔をしていた。そして、
「邪魔したねぇ。」
と手をふりながら、いそいそと部屋を出て行った。
私は流れを変えるために、まだ違和感のある名前呼びで、
「薫さん、その、一緒に薬草採取、お願いで来ますか?
1泊2日なので、荷物も多いと思いますが、巳の刻までに冒険者組合で落ち合えればと思います。」
と言うと、更科さんは、
「お泊まりはまだ早いというか・・・。
その、、、汗臭い女の子だと思われるのも嫌だし・・・。」
と挙動不審ぎみに返してきた。すると、田中先輩が、
「何を期待しているか知らんが、夜は山頂で野宿だからな。
三人で交代で寝ずの番だ。
甘いことなんてやっている余裕はないぞ?」
と言った。私は山小屋じゃなかったのかと思った。更科さんは顔を赤らめて、
「何もないのもちょっと・・・。」
と言いながら、一度顔をそらしてから私と向き合い、
「分かったわ。
その代わり、帰ったら両親に紹介させてね。
そしたらいっぱい会ってくれるのよね?」
と少し顔をうつむき気味になりつつも、目は私の顔を覗き込むように話した。私は、
「えっと、その、分かりました。
薫さんも、薫さんの両親が許してくれたら、私の両親に会ってもらっていいかな?
うちの次兄がろくなことしないだろうし、布団もないので実家に泊めるのは難しいので二人で軒先で野宿になるかもだけど。。。」
と途中からだんだんとテンションが下がりながらお伺いを立てるように話した。すると、更科さんは意外にも少し笑いながら、
「ふふっ、軒先で野宿も楽しそうね。」
と言った後、小声で湯気を出しながら、
「まぁ、両親に認めてもらった後なら、同じお布団でもいいけど・・・。」
と付け加えていた。私もそれを聞いて同じく湯気を出しながら、でも、聞こえなかったふりをして、
「それじゃぁ、今日はよろしくお願いします。
私は、簡単に準備をした後、冒険者組合で登録したりいろいろあるので先に行っています。」
と告げた。田中先輩は、
「一緒に採取と言うのは冗談で言ったつもりだったんだがなぁ。。。」
と苦笑いしながら、山に登るための道具の説明などを始めたのだった。
今まで山上さんは
1日目(先勝):葛町から平村に荷物を運ぶ
2日目(友引):平村から葛町に荷物を運ぶ
3日目(先負):書類整理の日
4日目(仏滅):葛町から平村に荷物を運ぶ
5日目(大安):平村から葛町に荷物を運ぶ
6日目(赤口):休暇
というシフトで働いていましたが、今度から4日目と5日目が登山演習になります。