葛町の飯屋で偶然更科さんと会った
今日、七夕だったので山上くんと更科さんの話を書きたくなって連投しました。
でも、七夕のお話ではありません。(^^;)
* 2019/08/17
時刻の表記を変更しまいた。
* 2019/09/11
誤記を修正しまいた。
スキルシートを書いた後、今日は集荷場で解散となったので、私は一人で飯屋に晩ご飯を食べに入った。
私は四人用の机の二人がけの木の椅子に腰をかけて、店員に塩鯖定食を頼んで、今日の出来事を思い出していた。
そういえば、先輩が申三つ時ころに
「とうとう、入らずに帰ったか。」
と言っていたのを思い出した。あの時、私は業務報告を書くために辞書を引くので手一杯だったので、軽く頷くだけで流したが、誰が来ていたのだろうと思っていたところ、急に視界が遮られ、手で目隠しをされた。
私は驚いて、変な声で
「ふべっ”$%&#!」
と鳴いて、条件反射的に立ち上がろうとしたのだが、行儀悪く椅子の足に私の足を絡めていたせいで、ちゃんと立てずに椅子から転げ落ちてしまった。
「ひゃっっっ、ごめんなさい!
和人さん!
こんなに驚くとは思わなくて。」
と、聞き覚えのある声がした。周りは、一瞬キョトンとした感じで振り返った後、ほとんどの人が爆笑したり、笑いをかみ殺していた。私は手をつきながら見上げると、そこには眉を寄せた更科さんがいた。
私は、格好悪いところを見られたなと思いながら、椅子に座りなおし、
「こ、こんばんは。
これから御飯ですか?」
と聞くと、更科さんは、耳まで真っ赤になりながら
「はい。
ご一緒しても、いいですか?」
と答えた。私は、しどろもどろになりながら、
「もちろんです。
更科さんは隣町と言っていましたが、帰るのが夜遅くなりますが大丈夫ですか?」
と聞いた。すると更科さんは、
「大丈夫じゃないけど、大丈夫です。
今日は宿もとりましたし。」
と話した。私は、大丈夫なのか、大丈夫じゃないのか、どちらなのだろうかとか、隣町なのになぜ宿を取ったのだろうと不思議に思ったが、更科さんが所属している冒険者組合は葛町なので、早朝から出発する用事でもあるのだろうかと思い直して確認した。
「そうでしたか。
明日、早いのですか?」
すると、更科さんは、
「はい。
多分、日の昇る前に起きる予定です。」
と言ってニコニコしながら私を見た後、店員さんに声をかけた。
「すみません。
私にも塩鯖定食を下さい。」
私は更科さんに、
「私も同じ塩鯖定食を頼んだのですよ。
気が合いますね。」
とちょっと嬉しくなりながら話した。すると、更科さんは、
「偶然ですね。
あの塩っけは、たまに食べたくなりますよね。」
と、言いながら私の左隣に座った。私はそれだけでも近くてドキドキした。横を向くと、更科さんのはにかんだ顔が見えた。ちょっと視線を下ろすとゆったり着た半着の合わせの隙間から、裏襟やその先が見えそうだが、行灯の明かりでは暗くて見えなかった。
私は、耳まで赤くなりながら、
「そうですね。
あの塩気は長持ちさせるためだそうですが、実は、わりと最近まで、鯖は塩っ辛い状態で海を泳いでいるのだと思っていたのですよ。
お恥ずかしい限りです。」
と返した。すると更科さんは、
「私も、小さいころですが、秋刀魚は畑で取れるものだと思っていたころがありました。
今思うと、糠さんまの糠が土に見えたことが原因なのですが、そういう勘違いってありますよね。」
と、笑いながら言っていた。私はさんまが何か分らなかった。私の知る海の魚は塩鯖、鰯の丸干し、鯵の開き、鮫の干物くらいである。私は、
「すみません。
糠に漬けるものといえば、大根や茄子、胡瓜なんかを思い出すのですが、話の流れからして、『さんま』というのはお魚なのでしょうか?」
と聞いた。すると更科さんは、
「はい。
細長い魚で、秋になると水揚げされます。
塩をした秋刀魚は塩鯖よりも食べやすくて美味しいですよ。」
と答えた。私は、
「それは美味しそうですね。
塩さんまは大杉で食べられるのでしょうか。」
と聞いたところ、更科さんは、
「私が秋刀魚の塩焼きをいただいたのは、王都ですが、一応、大杉でも出しているお店はあると聞いたことがあります。
でも、氷の魔法を使って運搬するのでかなり高いそうですよ。」
と話した。私は、王都は海の港町なので、いろいろな海産物があると聞いたことがある。
「更科さんは王都にも言ったことがあるのですね。
私は平村と葛町だけなので羨ましいです。
いつか一緒に王都でさんまを食べたいですね。」
と誘うと、更科さんは、
「ぜひ。
その頃には子供も連れていきたいですね。」
と二つ返事で答えたが、子供と聞いて、動揺してしまった。私は
「子供ですか?
えっと、、もう、欲しいということですか?」
と聞くと、更科さんは、
「はい!
大好きな人の子供はすぐにでも欲しいものですよ?」
と返した。そこでちょっとヤバさを感じた。私は、
「横山さんが『魔力放射で子供が欲しくなる』と言っていました。
ひょっとしたら、当てられているのかもしれませんよ。」
と聞くと、更科さんは、
「私が山上さんを好きなことは確定なので、ただちょっと魔力放射が後押しをしているだけだと思うの。
だから・・・」
と話しながら私の膝に手をついたところで、店員さんが少しイラッとした表情で、
「塩鯖定食二丁、上がりました。
とっととお召し上がり下さい。」
と丁寧な言葉?で割り込んできた。私は残念半分、でもほっとしながら、
「更科さん、あせらなくても大丈夫ですよ。
まずはご飯をいただきましょう。」
と言ってご飯を食べた。
さすがにご飯を食べながらは迫ってこなかったので油断していたのだが、店の外に出ると、更科さんは体をギュッと密着させて、
「また、会ってもいい?」
と聞いてきた。私は、明かりがあればきっと耳まで朱に染まっているだろうと思いながら、
「はい。」
と答えた。更科さんは、
「いっぱい、会ってもいい?」
と甘えてきたので、私は中が脈打っているんじゃないかというくらいドキドキしながら、
「もちろん。」
と言って頭を撫でた。更科さんは、
「元気になってるね。」
と言ってきたので、私は沈黙するしか無かった。
少しの間の後、話題を変えるために、
「もっとギュッとされていたいけど、明日も朝早いのなら宿まで送るよ?」
と提案すると、
「うん。」
と言って、嬉しそうに言った。
宿まで腕を組んで、というよりもべったりと腕を包み込むように両手で抱えられながら歩いた。
「今日、ここに泊まっているの。」
そう言った更科さんに、私は、
「そうなのですね。
では、おやすみなさい。」
と言って、いちど更科さんの腕を解いて今度は私の方からギュッと抱きしめた後、一度離れ、手を振って分かれた。
宿から漏れる明かりのせいか、別れ際に見えた更科さんの表情が寂しそうに見えた。
私もついさっきまで腕にあった感触がなくなって寂しさを感じたが、明日も早いので振り返るのを思いとどまってそのまま帰った。
帰った後、布団に入ってからも寂しかったので、なんとなく更科さんの名前を呼ぶ練習をしてから寝たのだった。
山上くん、寝る前に素振りしてからということでしょうか。