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一人で平村を往復した

先週、土日続けて40回も閲覧があったようで、大変有難うございました。


* 2019/09/10

 誤記を修正しました。

 意味が通らないところを少し修正しました。


 私は、初めて一人で歩荷の仕事をすることや、葛町(かずらまち)の集荷場をいつもよりも遅い時間に出発したことから、少し焦っていた。

 町から山の麓まで、いつもだとのんびり歩くのだが、平らなうちに時間を稼ごうと、早足で歩いていた。

 いつもの山道に差し掛かる手前でペースを落として、普段どおりのペースに戻して息を整えた。


 少し止まって深呼吸し、静に気合を入れ直して山道を見る。

 両脇に(わらび)が生え始めているのが見えた。

 もう、そんな季節かと思いながら山道を上り始めた。

 まだまだ緑の天井は色が濃さを増しておらず、木漏れ日が光っている。

 木々の葉が擦れる音がザワー、ザワーと駆け抜けていく。

 少し風はあるが天気が崩れるほどではない。


 道の脇を見ると、切り株には苔が生えている。

 切り倒されたのは去年なのだろうか。


 今日はやけに蜘蛛の巣が多い。

 早朝なので今日はまだこの道を誰も通っていないのだろう。

 そう言えば、普段は田中先輩が先に歩いてくれていた。先に歩いて蜘蛛の巣を払ってくれていたのだろう。

 一人で歩くと、田中先輩がやっていたいろいろなことに気がつく。


 蜘蛛の巣に嫌気がさしながら登っていくと、森が割れ、見晴らしがいい所にたどり着く。

 ここからは葛町やそのまわりの田畑が見える。

 いつもならここでおやつを食べるのだが、今日は出発が遅かったのでいつも昼飯の場所まで一気に登ろうと思い、少し歩く速度を緩め、景色を見て呼吸を整えてからまたいつもの速さで上り始めた。


 黙々と登っていたのだが、もう少しで昼飯という所で急にクラッときた。

 息が乱れないように歩いてきたし、たまに歩みを緩めて休憩もいれていたはずなのに。

 しばらくすると意識が朦朧とし始めてきた。

 私は、二日酔いの症状とも違うが、昨日の酒が何が影響したのだろうかと思い、一旦がっつり休むことにした。


 しばらく待っても回復しない。

 体調は当分、戻りそうにない。

 思考が悪い方に向かい焦ったが、ふと、おやつを食べると回復するという話を思いだした。

 そういえば今日はおやつを食べてなかったので、水筒の水を飲み、おやつを食べた。

 すると、四半刻(30分)くらいしで驚くほど回復した。

 いつもおやつを食べていたのは、平村に速くつきすぎても有り難味がなくなるので時間つぶしをしていたのだろうという程度に思っていたのだが、どうやら一気に登ると体力がなくなるので途中で補給していたのだろうということに思い至り、これも無駄のない動きだったのだなと感心した。


 しばらくだましだまし登っていつも昼食を食べている所につくと、明らかに半刻(1時間)遅かった。

 しまったと思いつつも、また体力が無くなっては困るので、昼ご飯をしっかり食べることにした。

 今日のお弁当は、おにぎり4個と沢庵(たくわん)だ。具には、梅干しやふきのとうの味噌漬けのような塩っ辛い傷みにくいものを入れている。

 じっとしていると、虫がたくさん飛んでくるので、よもぎを燃やした。

 それでも虫にたかられるので、虫を払いながら昼食のおにぎりを食べた。

 私は近くの沢で顔を洗ってから、背負子を背負い、山道を歩き始めた。


 気持ち速めに歩いたが、途中、申の刻あたりでおやつを食べ、無事に平村にたどり着いた。

 村についた時間は、いつもよりも四半刻(30分)遅れていたが、特に苦情とかはなかった。


 その後、実家に帰った後は、今日、初めて一人で歩荷をしたことなどを一兄(いちにい)や他の兄弟たちに話した。一兄は、


(わい)は実家の田畑(でんぱた)を継ぐしかなかったから、お前が(うらや)ましいよ。

 家のしがらみがなければ、俺も町に働きに出たかったぞ。」


と言いながら、私の話を楽しそうに聞いてくれた。次兄(つぎにい)は、


「おまえ、それ、今日死にかけたんじゃないのか?

 儂はそういうのは好かんぞ?」


と顔をしかめながら言って、心配してくれた。


 翌朝、私は平村で荷を受け取り、いつも通り休憩をはさみながら下山した。

 葛町の集荷場につくと、遅れて田中先輩が入ってきた。

 私は、田中先輩が一人で平村まで行かせておいて、たった今、集荷場に出勤してきたのかと少し思ったのだが、田中先輩から山の匂いがしたので、何か(りょう)にでも行っていたのかと考え直した。

 先輩は、


「一人での歩荷、ごくろうさん。

 往路はへばってダメだったが、復路は普通に降ってこれたな。

 少々危なっかしいが、今のお前なら、まぁ、60点でぎりぎり及第点というところだな。」


と言った。田中先輩はどうやら私の後をずっとつけていて、私が一人で歩荷ができるか見ていた様だった。私は、


「ひょっとして、スキルシートに書く内容なのですか?」


と聞いた所、田中先輩は、


「お、鋭いな。

 まぁ、会社の査定の一環でな。

 普通の新人と違ってレベルが上がったので、一人でやれるか試験をしていたわけだ。

 『一人で歩荷の仕事がこなせる』という項目があるが、『ハ』の『普通にできる』か、『ロ』の『補助があればできる』のこの辺だろうな。

 ちなみに、普通の新人は『イ』の『できない』を選ぶ所だ。」


と話した。

 私は、試験ならそう言ってくれれば良かったのにと思ったのだった。


山上さんが途中で体調を崩したのは、ハンガーノック(別名ガス欠)が原因です。

山に行くときは、羊羹やなんちゃらinゼリーではありませんが、気軽にカロリーの取れるものを持って行くと良いそうです。


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