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畳(たたみ)が少し綺麗になっていた

 宿の着いた後、部屋に入ると何か違和感を感じた。

 更科さんが、


「あれっ?

 すえた(にお)いがしないわね。」


と私に言った。私はそう言われるとそうだと思ったが、その他にも違いがあるのではないかと思った。

 ただ、その違いは微々たるものなのか、よく分からなかった。

 横山さんが、


「そうなのよ。

 実は、さっき宿の番頭さんに(ことわ)って、ゴンちゃんが(たたみ)を洗ったのよ。

 庭で水洗いした時、水があっという間に真っ黒になったのには驚いたわね。」


と答えてくれた。すると雫様が、


「そや。

 昨日の(ばん)、あんな黒ずんだ所に寝た(ねとった)思うと(おもぅたら)、気持ち悪く(わるぅ)なるくらいやったで。」


と付け加えた。私はこの話を聞いて、昨日よりも畳の色が明るかったから違和感を感じたのだと納得した。

 更科さんが、


「前に話だけ聞いた時には、洗うだけで表替(おもてが)えの半額なんて勿体無(もったいな)いと思ったけど、これなら納得ね。」


と言った。私は、


「それだけ長い年月、この畳は放置されていたのでしょうね。」


と言うと、更科さんも、


「そうね。

 だから、やっぱり商売になるかは微妙なのよね。」


と言った。私は、


「それは?」


と不思議に思ったので聞くと、更科さんは、


「そうね・・・。

 こんなに汚くなるまで放置するなんて、なかなかないでしょ?

 なのに、畳を洗う依頼が毎年300件くらい来ないと商売上がったりだなんて、とても商売できないじゃない。」


と答えた。私は、


「えっと・・・、これだけ放置する家は滅多に無いから、ほとんどお客さんになりそうな家もないのにということでしょうか・・・。

 そうすると、家が1万(けん)くらいなと成り立たなさそうですね。」


と納得した。しかし、更科さんは、


「1万軒でも難しいんじゃないかしらね。」


と苦笑いした。私は、


「だったら、王都ぐらい大きければ成り立たちますか?」


と聞くと、田中先輩が、


「王都でも、掃除やらも組み合わせて『何でも屋』みたいにしないと難しいだろうな。」


と言った。すると横山さんが、


「もう、王都では掃除の業者はいるわね。

 でも、そういう所に頼む人はお金を持っているから、畳ごと替えちゃうわよ?」


と言った。雫様が、


「なるほどな。

 それじゃ、これで商売はできん言うことか。。

 まぁ、予想はしとったけどな。」


と笑っていた。私は、商売する相手がお金のない人からお金持ちに()げ替ったりと、前提の話が違うのでモヤっとしたが、この話もどうせここで終わりだろうからと思い、特には突っ込みはしなかった。


 ここで番頭さんが、


「ごめんください。」


と断ってから(ふすま)を開け、


昨日(さくじつ)は外でお食事でしたが、本日(ほんじつ)の晩御飯はどうなさいますか?」


と聞いてきた。蒼竜様が、


「本日も拙者が適当な店に連れて行くゆえ、無くても良いぞ。」


と言った。すると田中先輩が、


「それじゃ、素泊まりで良かったじゃないか。

 もう、食事付きで頼んだぞ?」


と文句を言った。蒼竜様は、


「なら、田中はそっちで食べるがよかろう。

 が、雫は連れて行くからな?」


と言った。すると横山さんが、


「何?

 二人だけで美味しいものを食べるの?

 いいわね。」


(うらや)ましそうに言ったが、田中先輩は、


「それは野暮だろ。」


と続きを(さえぎ)った。私は番頭さんに、


「晩御飯には、どのようなものが出るのですか?」


と確認した。すると番頭さんは、


「今日は、御飯と楡木茸(たもぎたけ)の味噌汁、鹿肉の香草煮込みと後は沢庵(たくあん)です。」


と言った。私は『香草煮込み』というのがどんなものか興味が()いた。

 田中先輩が、


「それで酒はどこのだ?」


と聞くと、番頭さんから、


「別料金ですが、大丈夫ですか?」


と返されてがっかりしていた。私が、


「十分ご馳走(ちそう)じゃないですか。」


と言うと、田中先輩は、


「俺は、晩酌がないと落ち着かなくてな。」


と返した。横山さんが、


「私もあった方がいいわね。」


と言って、お酒を飲みたいようだった。

 更科さんは、


「私はお肉があるなら、特に文句はないけどどうする?」


と聞いてきた。私は、


「煮込み料理は手が込みますが、安宿(ここ)で出すとなるとお肉の量が少ないかもしれませんよ?」


と言いった。しかし、番頭さんは、


「心配されなくても大丈夫だと思いますよ。

 なにせ、本宿は竜人向けです。

 竜人には少なくても、人間には普通かやや多いのではないでしょうかね。」


と返した。私は、


「確かにそれなら安心ですね。」


と言ったのだが、田中先輩は、


「いやいや。

 酒が無いんじゃな。」


と不服そうに言った後、


「追加でどのくらいだ?」


と聞いた。すると、番頭さんは少し考えてから、


「そうですね。

 尻尾切りですし、ここはちょっと勉強させてもらって、1(ごう)で銀5(もんめ)でいかがでしょうか?」


と返した。蒼竜様が、


「竜の里の物価は、人間の町からすれば10倍くらい高いゆえ、まぁ、酒屋で買うなら妥当なところであろうな。」


と言った。私は、


「すみません、番頭さん。

 こういう聞き方も悪いのですが、安酒(やすざけ)だったり、古い酒という事はありませんか?」


と聞いてみた。すると番頭さんは、


「そこは問題ありません。

 なにせ、()(ばら)らしで皆さんよくお飲みになりますから。」


と苦笑いした。この宿は、家から閉め出された旦那(だんな)方の避難場所になっているそうだから、そういう事もあるのかもしれない。

 私は、


「余計な心配をしてすみません。」


と返すと、番頭さんは、


「いえいえ。

 でも、普段飲まれないようなお酒もちゃんと入れ替えていますから大丈夫ですよ。

 ただ、品質維持の問題から上乗せはしていますが・・・。」


と付け加えた。ちょっと興味が湧いたので、私は


「品質の問題での上乗せと言うのは?」


と聞いてみた。すると、番頭さんは困った顔をしながら、


「それは・・・。

 まぁ、(ふう)を開けてから時間が経つと、どうしても酒精や香りが抜けてしまいます。

 なので、まだお酒が残っていても品質維持するためには新しいお酒を仕入れないといけません。

 入れ替えた分のお酒は売れなかったわけですから、そのままだと損をするじゃないですか?

 なので、その売れなかった分を上乗せするわけです。」


と説明した。私はなるほどと思ったが、更科さんから、


「あまり、お店の内情を探るような質問は駄目よ?」


と注意されてしまった。私もそうだなと思ったので、


「すみません。

 私も配慮が足りませんでした。」


と謝った。番頭さんは、


「まぁ、こういうやり口はどこでもやっていることですから。」


と愛想笑いをしながら答えた。


 その後、雫様が蒼竜様と出かけていった。


 残った私達は、酉の刻(18時)になって食堂になっている部屋に移動した。

 お膳には、先程番頭さんが話していたとおり御飯と味噌汁、沢庵に鹿の香草煮が出てきた。

 香草煮は、鹿肉を使っているにしては野性味が抑えられていて、程よい弾力と香草の(さわ)やかな風味が美味しかった。お酒は高かったので、田中先輩は3合で切り上げて不満そうにしていたが、それを除けばみんな満足していた。

 それでも田中先輩は私に、


「まぁ、一杯くらい飲んでおけ。

 なかなか美味かったからな。」


と言ってきたので、私も一口だけお酒を頂くことが出来た。

 しっかりとした味わいで、鹿肉によく合う美味しいお酒だった。


 しかし、それから四半刻(30分)()たずに事件は起きた。

 これから銭湯に出かけようという話になったころに、私はお腹が痛くなってしまったのだ。

 私は脂汗を流しながら、


「どうも、調子に乗って食べすぎたようです。」


と言いって(かわや)に駆け込んだ。そこで私は下痢をしたのだが、出るものが出た後もなかなかお腹の痛みが治まらず、結局1刻(2時間)ほど(かわや)の住人と化してしまった。

 私が部屋に戻ると、更科さんが、


「あの後、横山さんと田中先輩も『お腹の調子が悪い』と言って(かわや)に行ったわよ?

 和人、大丈夫だった?」


と心配そうに聞いてきた。私は、


「まだ、ちょっとお腹が痛みます。

 佳織こそ、大丈夫ですか?」


と聞いたのだが、更科さんは、


「私は平気だったみたい。

 でも、三人も腹痛になったなんて変よね。」


と言った。私は番頭さんに相談してみると、原因を調べてくれた。

 暫くすると、番頭さんは、


「申し訳ありません。

 人間が食べると事に、もう少し留意するべきでした。」


(あやま)ってきた。私は、


「どういうことですか?」


と事情を聞くと、番頭さんは、


「どうも、食べ合わせが悪かったようでして。

 竜人は特に問題もありませんが、人間が食べるとお腹を壊すようなのです。」


と話した。

 もう少し詳しく話を聞いたところ、どうも、鹿肉の匂い消しに浸かった香草の成分と酒の成分が合わさると人間が消化出来ないものになるのだそうだ。

 これなら、お酒を飲んでいなかった更科さんはなんともなかったのだが、更科さん以外は全員下痢になった説明もつく。説明が終わった後も田中先輩たちはまだ戻ってこないので、沢山お酒を飲んでいた分、長くかかるのかもしれない。

 私は、


「普段、人間が泊まることもないでしょうから、仕方ないんじゃありませんかね。」


と言ったのだが、番頭さんは、


「そうは言いましても、食中毒を出したとなれば、今後暫く食事を提供できなくなってしまいます。

 ・・・その、不躾で申し訳ありませんが、今回の件、なかったことに出来ませんか?

 宿代はいただきませんので。」


と申し訳なさそうに提案してきた。私は勝手に決めるわけにも行かないので、


「すみません。

 今回、田中先輩が宿代を出してくれましたので、お金の相談も田中先輩にしてもらってもいいですか?」


と返した。隣で更科さんも首を縦に振っているので、同意してくれているようだ。


 それにしても今回の件、改めて竜人と人間では作りが違うのだなと思い知らされた。

 後から番頭さんに梅干しを(もら)って食べると、ようやく私のお腹も落ち着きを取り戻した。

 田中先輩や横山さんも、梅干しを食べるとお腹の痛みが引いたようだ。

 こうしてこの日は、寝る前にお腹の痛みは引いたものの、最悪な締めくくりで終わったのだった。


 銀5(もんめ)は現代の価値でだいたい1万円ですので、かなり高額です。


 今回は、後半で食べ合わせネタをやってみました。

 香草+酒で腹痛ということにしましたが、この『食べ合わせ』は結構ガセネタがあるようです。

 例えば、(うなぎ)と梅干し、ドリアンと酒は昔から伝わっているのに医学的根拠がないそうです。

 ただ、スイカとビールのように本当に急性アルコール中毒を引き起こす可能性があるものもあるそうなので、気をつけたいものです。(と言っても、おっさんは日本酒派なのでビールは飲みませんが。。。)


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