モテても将来性が無いと結婚できないらしい
今、丸膳という小料理屋の青龍の間で野辺山さん、横山さん、田中先輩、そして冒険者組合で知り合った、というか、もう逆ナンと言っていい感じで知り合った更科さんとの飲み会が始まった所だ。
普通、私のような若輩者は目上の人に注いでまわるのが礼儀なのだろうが、冒険者の人は手酌で飲む方が好きな人が多いようで、野辺山さんは手酌で飲んでいる。横山さんには田中先輩がお酌をしに行ったので、私は更科さんのところにお膳を寄せて話しかけた。
「更科さんは、お酒は飲んだことがありますか?」
すると、更科さんは、
「いえ、飲んだことはありません。
学生の身で飲むこともありませんし。」
と答えた。私は、14歳から家で親にすすめられるままに飲んでいたので、他の家もそういうものだと思っていたが、どうも、彼女はそう言う価値観ではないようだったので、先に飲めるか聞いて良かったと思った。私は、少し苦笑いの表情を作りながら、
「そうでしたか。
私など、農家の出なもので、14に親にすすめられて飲み始めましたよ。
最初のうちはたくさん飲むと大変な事になるので、初めてでしたら舐めるように少しずつ確かめるのが良いかもしれません。」
と少しお酒をすすめてみた。すると、更科さんと私の話を横山さんが聞いていたようで、
「それがいいわね。
で、一口飲んだら冒険者用ではなくて、山上くんに惚れてもらうための自己紹介をなさい。」
と言ってきた。更科さんは慌てた様子で、
「ふぇ?
ええと、う~っ、その、、、」
と言って固まってしまった。私は横山さんに、
「更科さんが困っています。
あまり無茶を言わないで下さい。
ところで気になっていたのですが、ここに来る前に『魔法制御を教え忘れていた』というのはどういうことなのでしょうか?」
と聞いた。すると横山さんは、
「あれね。
基本的に魔法師は格上レベルの魔法師に惚れる傾向があるのよ。
山上くんは重さがレベル23、火が12、風が10くらいだったかしら。
更科さんが5でたぶん、敏感なのね。
だから、魔力制御せずに垂れ流してる山上くんに当てられたのよ。」
と答えた。加えて田中先輩が、
「普通、冒険者だと獣や魔物に気付かれないように、音や気配、魔力の放射を抑える術を身につけるし、聞いた話だが研究職の人も、先輩という魔物に目をつけられないように魔力の放射を抑ているそうだぞ。
ほら、出る杭は打たれるというが、打たれないように上手く付き合う・・・処世術というやつだ。」
と言った。横山さんは、
「それじゃぁまるで研究者はみんな、後輩いじめのネタを探しているいじめっ子集団みたいじゃないのよ。
いや、まぁ、いるけどね。
でもそんなに、、、う~ん、いやでも少数派よ?」
と言って、微妙な表情をした。そこで田中先輩が、
「いや、俺も若い頃、魔力制御が中途半端だったころは年上の女性にいじめられたものさ。」
と言った。横山さんは、
「あら、男性にとって素敵な環境ということではなくて?」
と刺のある言い回しをしてきたので、田中先輩は、
「もう無理なのに無理やりされて、むしろ地獄だったな。
だから素人に癒しを求めたものさ。」
と話した。横山さんは、
「でも、ずいぶんモテたということよね?」
と聞くと、田中先輩は、
「いい線までは行くんだけどな。
ポーター以外に転職できないと聞くと、将来性が無いと言ってみんな分かれちゃうんだよ。
おかげで未だに独り身さ。」
と、寂しそうな表情を作っていた。ここで更科さんは、
「私は山上さんを見た瞬間に『この人とずっと一緒にいたい!』と思ったのですが、魔力放射というのが原因だったということは、私は勘違いしているということなのでしょうか。」
と横山さんに聞いた。すると横山さんは、
「『一緒にいたい』と思ったのなら、魔力制御が原因とは違うと思うわよ?
一応、権威の人が言うには、魔力の放射を受けたり、当たりの所に直接流されたりすると、子孫を残そうとしちゃうのよ。
なので、山上くんの浮気対策としてちゃんと無意識で魔力制御できるようになってもらわないと、更科さんは気が気じゃないかもだけどね。」
と答えた。私は一緒にいたいのもやりたいのも紙一重ではと思いながら聞いていたが、最後、ヤバい話をふられたので全力で、
「浮気なんてやりません。
第一、こんな綺麗な人滅多にいないのに、浮気する気になんてなれそうもありません。」
と否定した。すると野辺山さんが、
「だめだな、こいつ。
ちゃんと手綱を持っていないと浮気するぞ?
しっかり尻に敷いとけよ。」
と指摘した。私は慌てて、
「そんなことはしません。」
と言うと、野辺山さんは、
「だってお前、『綺麗な人』と言っただろ?
これは浮気をする典型なんだよ。
なにせ綺麗なら誰とでもやるって事だろ?」
と言葉尻を捕えてきた。私は、これ以上言っても年の功で言い負かされてしまうだろうけれども、更科さんからの印象が悪くなるのは避けたかったので、どうしたらいいものかと途方に暮れた。が、更科さんは、
「山上さん、『綺麗な人』から『かけがえのない人』にしてみせますので、不束者ですがよろしくお願いします。」
と言って、少し色が戻ってきていた耳をまた赤くしながら援護してくれた。そこで私も、多少アルコールの力も借りつつ、
「こちらこそ、幸せになれるようにお互い成長できればと思っていますので、末永くお願いします。」
と、秒速で赤くなって行くのを感じながら話した。田中先輩は、たくさんお酒を飲んだせいか、ついにいい声を忘れて、
「結婚したら幸せになったという話と、不幸になったという話は半々ぐらい聞くが、まぁ、焦らず決めてくれ。
相談ぐらいは乗ってやる。」
と言った。一応、私たちのことを応援すると言っている様だった。
お祝いだと言って、油肝の酒やそれ以外にもいくつか珍しい酒を飲ませていただいた。
こうして、今日の飲み会は盛り上がったのだった。
山上くんが「表情を作っていた」と表現しているということは、他の登場人物も気付いている可能性が高いという事です。




