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007 脱出

 けたたましい破壊音が魔王達の揃う部屋に響き渡る。

「やっときたね」

 巨大な槍のような氷塊が、天井を突き破り落ちてくる。それは、ちょうどエフィ達と魔王達を遮る壁になる。

「我の城が…」

 城主であるミアは、倒壊する城を見て唖然としていた。

 しかし、他の者達は氷塊の破壊をしようと、攻撃を仕掛ける。

 特に、赤龍リリアーナ。

「こんな物で、私を止められると思うな!」

 限定的に竜に戻ったリリアーナがブレスを放つ。

「流石に、やるね」

 氷塊はみるみる溶けていく。リリアーナ達が来るのも時間の問題だ。

 エフィ達も脱出を試みるが、魔王の部下達に足止めされていた。

 それでも、エフィはそこまで慌てはしなかった。

「セラフィナ、やれ!」

「了解だよ」

 エフィは城の倒壊によって回復した通信を行う。

 セラフィナは、氷塊の中に仕込んでおいた種子を発芽させる。

 それは、一気に成長していき、巨大な樹海が部屋を埋め尽くす。

「くそ、木だと!」

 強力な木がリリアーナ達に絡みつく。木を破壊して進もうとするが、簡単には進めない。

「一気に抜けるぞ、ホワイトブレス!」

「百騎千槍!」

 エフィが冷気を吐き動きを鈍らせる。

 ノエルは、聖剣の能力を発動し、一振りで数百の斬撃を喰らわせる。

「くっ、流石に幹部クラスは強いな」

「速い…」

 始祖の竜に匹敵する力を持つエフィでも、魔王の幹部クラスが相手では無傷では抜けられない。それでも、止まることなく進む。

 一方、ノエルは聖騎士のでもトップクラスの力を持っていた。元々の才能に加えて、ウリエルによる薬漬けの効果も出ていた。魔王の幹部クラスでも、対等に戦うことができる。

 エフィ達が部屋抜けると、リョウマが氷塊を溶かす。溶けた水を見事に操り、エフィ達が城の外に出れるように流れを作る。2人はウォータースライダーのように流されて、敵と一緒に外へ弾き出される。

「よし、上手くいった」

「これでエフィ様は飛べるんだよ。でも、油断しないで、援護だよ」

「任せときな」

 エフィは竜になり、ノエルを背に乗せる。

「しっかり掴まって!飛ぶよ!」

「分かった」

 エフィは上空に逃れようとする。空に逃げてしまえば、竜であるエフィに追いつける者はほぼいない。

 しかし、そう簡単にはいかなかった。

 城の一角に姿を現した者達が止めにかかる。

「させんぞ!」

「甘いな」

 長い金髪の女性、森の王ミアが木をさらに高く伸ばす。

 黒髮の青年、七大悪魔サマエルが、範囲制限魔法を発動する。それは竜を人の姿に変えるものだった。

「嘘だろ!」

「ヤバい」

 エフィが人に戻り、2人は地上に落ちる。


「おい、セラフィナ。2人が落ちたぞ」

「あれは、範囲制限魔法だよ。森の中という範囲に設定することで、かなりの範囲で効果を発揮しているんだよ」

「じゃあ、森を抜けなくちゃいけねえのか。でも、かなり長いぞ」

「それ以外には、どうしようもないんだよ。私が行っても飛べなくなるだけなんだよ。だから、2人が森を抜けるまで援護だよ」

「了解だ」

 リョウマは、見える範囲の敵に巨大な氷の槍を落とす。かなりの質量と硬さを持つ氷の槍は、次々と敵を潰していく。

 セラフィナは、種子を蒔いて、発芽させて敵の妨害をする。弱い敵ならば木の浸食で殺し、強者が相手でもバリケードになる。

「一方的にやれるのはいいな」

「そうだね…ヤバい!伏せる!」

 飛んでいたセラフィナが、急に高度を下げる。リョウマの頭上を何かが掠めた。

「うおっ、なんじゃこりゃ」

 気づかない内に、リョウマ達の近くに、巨大な化け物がいた。いくつもの虫を合わせたキメラのような化け物。

 リョウマの頭上を掠めたのは、カマキリの鎌のような部位だった。

「気を抜いちゃいけないんだよ、リョウマ。頭が飛ぶところだったんだよ」

「いや、そもそも、速すぎて見えない…」

「もう、仕方ないな。あいつは、邪神だよ。七大悪魔パズズが産み出したんだよ。とにかく、あいつを止めるから協力して欲しいんだよ」

「分かった、いくぞ」

 リョウマとセラフィナは、同時に邪神に向かって魔法を発動した。

 2人の魔法は、邪神の元で結合する。

 セラフィナの種子が、リョウマの魔量豊富な水を吸い込み、物凄い成長速度と力を得る。

 産まれた木は邪神を飲み込む。虫の羽ような部位で飛んでいた邪神は、飛行能力を失い、地上に落ちていった。

「倒すのは難しいけど、落とすくらいなら、楽なもんなんだよ」

「俺にかかれば、こんなもんだ。さて、早くエフィ達の援護に戻るぞ」




 エフィとノエルは、己の持つ身体能力をフルに使い、森の中を疾走していた。

「遅い!僕に掴まって!」

「分かりました」

 聖騎士トップクラスの身体能力を持つノエルでも、竜の身体能力を持つエフィとは雲泥の差があった。

 ノエルはおんぶするような形で、エフィに掴まる。荷物になった上、振り落とされるわけにはいかないので、必死にしがみつく。

「ぐあ!」

 走るエフィの近くに、魔法が落ちる。

「まだ、当ててくるやつがいるのか…」

 敵は諦めずに、エフィ達を追ってきていた。かなりの数の魔法が飛ばしてくる。

 ほとんどは避けるが、敵にも実力は多くて油断はできない。

 特に、鳥の翼を持つ、魔王クレールが厄介だった。上空から放つ、クレールが開発した爆発式遠距離砲台魔法はかなりの距離でも力を発揮してきた。

 それでも、エフィは敵をだんだんと突き放していった。

 一番の懸念であった赤龍リリアーナは、セラフィナ達が積極的に抑え込んでくれている。速度でエフィに追いつける者は、ほぼいないだろう。

「もう少しで森を抜けるよ!」

「はい…っ?何か…来ます」

 ノエルは聖騎士特有の感性でそれを感知する。

「何か?」

「目の前です!」

 エフィが足を止めると、鼻先を巨大な鎌がかすめる。

「これは…」

「霊体です」

 現れたのは、巨大な鎌を持った、黒い衣装を着た男だった。

「どういう速さだ…」

「いえ。霊体は条件さえ揃えば、空間移動が可能です」

 ノエルなどの聖騎士は、神の国ラムスの基本戦力であると同時に、悪魔や死霊の専門家でもあった。

「魔王ホレスだ。すまないが死んでくれ」

 落ち着いた、静かな口調で語りかけてきた。

「魔王如きが僕に…」

「意地をはるな。お前は竜になれず、かなり能力を制限されているだろう」

「くそっ」

「処刑人である俺が、静かに送ってやろう」

 静かな殺気がエフィの首を撫でる。

「そう簡単にはいかないよ」

「いえ、ここは私が」

 ノエルがエフィの前に出る。

「聖騎士かな?舐められたものだな」

「そんなつもりはありませんが…いきます。"百騎千槍"」

 聖騎士の剣が持つ能力が発動し、数百、数千の刃がホレスを襲う。

「くっ!速い!」

 ホレスは鎌を上手く使い防御をするが、まるで追いつかない。

「このまま、やられはしない。"ソウル・ハント"」

 ホレスの鎌が大きく膨れ上がり、ノエルを襲う。魂を直接切ることのできる必殺の一撃。発動するのに、タイムラグのない、不意打ちのような一撃だった。

 しかし…ノエルは見極めて回避する。

「なんという速さだ」

「私も伊達にウリエルの実験だったわけではありません。あの方は、自分クラスの実力者を求めていたために、私を捨てました。しかし、確実に能力は上がっていた。魔王如きが楽々倒せる存在ではありませんよ」

 ノエルはいっそう攻め立てる。

 ホレスは、ノエルのあまりの速さに、能力を発動する隙が作れない。巨大な鎌を超高速で振り回すが、対応に遅れがでる。ジリジリと削られていった。

「くそっ、舐めていた。堂々と現れるべきではなかった」

「その通りです。もう逃さない」

 ホレスはある程度、接近戦の強さを持っていたために油断をしていた。闇に紛れて、攻撃を仕掛け続けていれば、ノエル相手なら勝てただろう。

「意外とやるじゃないか、ノエル。さて、終わりだ」

 ホレスの後ろに回り込んだエフィが、魔力を纏わせて背中を蹴り飛ばす。

 ノエルは、バランスを崩したホレスをズタズタに切り裂く。

「ぐはっ!もう無理だ」

 ホレスは霞のように消えた。

「もう、私達と戦う力は残っていないでしょう」

「そのようだね。他の敵も迫っている。早く森を出よう」

 二人は森の脱出に成功し、飛んで逃げて行った。






「くそ!くそ!くそ!くそ!くそーーーーー!」

「リリアーナよ、落ち着け。美しい顔が台無しだぞ」

 憤怒に顔を歪め、地団駄を踏むリリアーナをサマエルがなだめる。

「サマエル…あなたが竜化を制限しなければ、私が仕留めていたのに」

「何を言っている。俺が竜化を制限しなければ、すぐに逃げられていたぞ。お前はあの木に動きを止められていただろう」

「あんなもの私が本気を出せば、すぐに消し炭にできたわよ」

「ふん、どうだかな」

 リリアーナはサマエルの態度を見て、これ以上言っても無駄だと感じて標的を変える。

「ルカナス、あなたは本当にどういうつもりよ。戦おうともしなかったじゃない」

 リリアーナの次の標的は、"青龍ルカナス"。青い髪を持つ、長身の若い男。

「私が、なぜ黒龍様の娘である、エフィ様を殺さなくではならないんだ?」

「はあ?あの子は魔王連合の敵であるシエラの仲間よ。消すべきでしょ」

「お前がどういうつもりで、魔王連合に身を置いているのかは知らないが、私は竜達のためだ」

「何を言っているのあなた…」

「黒龍様の方針である不干渉主義は、素晴らしいものだ。だが、これから続けるためには、ある程度は他と協力することが必要なのだ。協定を結ぶためにな」

「いつから竜達は、そんなに腑抜けてしまったのかしら」

「お前はいつまでも学ばないな。先の大戦のことを忘れたのか」

「ふん。まあ、そうね。でも、今は神も真の魔王も滅びたのよ。竜がこの大陸を支配していないのが不思議なくらいだわ」

「だが、光の王と闇の王は健在だ。調子に乗るべきではない」

「調子に乗ってるのは、あのクソガキよ。あの歳であの力…早めに潰すべきだわ」

「愚かな。黒龍様の怒りを買えば、どうなるかくらい、お前でもわかるだろうに」

「人を馬鹿みたいに言わないでよ」

「その通りだろう」

「はあ⁈」

「まあまあ、落ち着け、お二人さん」

 一触触発の空気になりつつあった赤龍と青龍を、サマエルが抑える。

「君たちが争ってもしょうがないだろ。それより、最大の標的の居場所が見つかったぞ」

「どういうことよ?」

「魔王ホレスがあの2人の魂から、情報を手に入れたんだ。次の標的は、シエラハウスだ。明日、襲撃をするぞ」


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