002 初クエスト
俺の前に現れた金髪美少女は、まさかの7歳だった。
「ねえ、ちょっと、聞いてんの?」
(いやいや、7歳はアウトだわ。いや、そもそも、なんでエロ方面に話がいくんだよ。パーティーを組むだけだろ)
「ねえ!」
「ああ…ごめん、ごめん。取りあえず、話をしようか。そこのテーブルに行かない?」
ギルドに併設されている酒場のテーブルを指す。
「ええ、いいわよ」
お互いに向き合う形で座る。
「俺の名前は、龍馬だ。よろしく」
「私は、シエラよ。よろしくね」
シエラの方から手を出してきたので、俺も手を出して握手をした。
(柔らかい手だな。って、変態か俺は…)
「えーと、シエラちゃん」
「シエラでいいわよ、リョウマ」
(おお、グイグイ来るな。いや、子供ならこんなもんかな?)
「じゃあ、シエラ。なんで、俺と組もうと思ったんだ?」
俺の登録の結果は大したことなさそうなのに、なんで組もう思ったのか分からなかった。
シエラは超絶美少女なので、逆の立場なら見た目で組もうと思うかもしれない。しかし、俺は男だし、特別にイケメンというわけでもない。
(水の魔法を使える奴が欲しいのかな。いや、他は誰も欲しがってなかったしな)
「魔力量を測ったら、エラー起きてたでしょ」
「ああ、そうだな」
「あれね、魔力量が高すぎて、測れなかったのよ」
「えっ、マジかよ」
「ええ。水晶を見てれば、すぐに分かったわ。最近の受付嬢は、コンピュータに頼ってばっかりだから、分からなかったのよ」
(あいつ…クレーム言ったやればよかった)
「じゃあ、魔力量が高いから、俺と組もうと思ったのか」
「ええ、そうよ」
(まあ、この美少女にすぐに声をかけられたし、良しとするか)
「よし。じゃあ、組もうか。とりあえず、お試しってとこかな?」
「まあ、そうね。私は何度も、他の人とのパーティーを辞めてるし」
「ええっ!」
「私を失望させないでね」
(マジかよ。やっぱり、世の中は簡単にはいかねえな)
「じゃあ、まずは、いくつかクエストに行きましょうよ。魔王討伐なんてどう?」
軽い口調でとんでもないことを言ってきた。リョウマは顔を引きつらせる。
「はあ?魔王を?」
(魔王なんて、最終決戦みたいなので倒すんじゃねえのかよ)
「嫌なの?じゃあ、七大悪魔なんてどう?」
「何それ?魔王とどっちが強いの?」
「魔王もピンキリだけど、普通は七大悪魔じゃないかしら」
「なんでそんな、ヤバいのばっかりやろうとするんだよ…ていうか、魔王っていっぱいいるの?」
「はあ?当たり前じゃない。十二魔王ってのがいるでしょ」
(ヤバいな。まだまだ知らないことばっかりだな…)
「十二魔王ってのはね、かつて滅んだ"真の魔王"の力の一部を手に入れた者たちのことよ。そいつらの種族は様々で、大抵は種族の王をやっているわ」
「へーえ、そうなんだ」
(そう言われても、いまいちピンとこないな)
「何も知らないのね、あなた。魔王達が集まる"魔王連合"はローレン大陸の三大勢力でしょ」
「三大勢力?」
「魔王連合、竜王連合、七大悪魔がローレン大陸の三大勢力よ。なんで、そんなことも知らないの?」
「いやー、そう言われてもな…」
(酒場の店主にいろいろと聞いたけど、冒険者についてだけだったからな。この世界の常識は、まだまだ分からないんだよな)
リョウマが苦い顔をしていると、シエラは大きな溜息をついた。
「もう、仕方ないわね。今度、時間があったらいろいろと教えてあげるわ」
「助かるわ、ありがと。それと、最初のクエストは簡単なのがいいんだけど」
「例えば、どんなのがいいの?」
「えーと、ゴブリン退治とかかな」
リョウマは自分の浅い知識で、簡単そうなモンスターを上げてみた。
「ゴブリンねー…ああ、ちょうどいいのがあったわ。ある村の近くにゴブリンが住処を作ったらしくて、退治の依頼が来てたわね」
「ああ、それ行こうぜ」
(ふう、楽そうで良かった)
「ちょうど近くで、エルフとの領土問題が起こっている都市があって、戦争中らしいから、それも解決してきましょう」
(戦争!怖っ!)
リョウマは、再び顔を引きつらせた。
リョウマは、シエラに教わりながら準備を整えて、ゴブリン退治を依頼してきた村に向かった。
シエラは転移魔法が使えるようで、魔法登録してある村の近くまで転移して、そこから歩いて行くことにした。
「あなた、お金もないのね。ロクな装備も買えなかったじゃない」
リョウマは2万を使い切って、短剣、基本的なポーションなど、それを入れる小さなポーチをギルドで買った。
「まあね。しかし、シエラの着てるのはいい服だな。髪も金髪で、カールしてて素敵だし。お嬢様って感じだな」
シエラの着ている服は、素人目に見ても明らかに高給な服だ。まして、この世界は、まだ生活水準が低いはずなのに、これほどの服を着ているのだ。
一体、何者なのだろう。
「お嬢様かどうかは分からないけど、お金に苦労したことはないわね。あと、髪は癖毛なだけよ。手入れが少し面倒ね」
「へー、そうなんだ」
(金に苦労したことがないなんて、羨ましい話だな。まあ、俺なんかより、苦労してる奴なんていくらでもいるんだろうけど)
そんな話をしながら歩いていると、依頼をしてきた村が見えてきた。
「おお、まさに異世界の田舎の村って感じだな」
村の周りは木の柵で囲まれていて、木造の小さな家が建ち並び、舗装されてない道路があり、そこを歩く村人も手作り感のある服を着ていた。
「何よ、異世界って…えーと、村長は何処かしら」
依頼者である村長を探しながら村に近づいていくと、それっぽい人物が向こうから話しかけてきた。
少し身なりのいい服を着た、白い髭を生やした老人だった。
「私がこの村の村長の、グゼルです。村娘がゴブリンに攫われているです。一刻も早く助けだしてください」
「ええ、任せなさい」
(シエラが明らかに子供であることには、疑問を持たないのかな?まあ、自立の早い世界みたいだし、異種族もいるしな)
村長の家で簡単な説明を受けると、早速ゴブリンのいる洞窟に向かうことにした。
村の近くの森にある小さな山にあるらしい。
案内された通りに、森へ入る。
「洞窟の外の森の中でも、ゴブリンは普段から活動していると思うわ。あなたは弱すぎるし、私も服が汚れると困るから霊装を纏いましょう」
「霊装?」
「聖騎士の霊装よ。"神の国ラムス"にいる聖騎士は、"聖騎士の聖剣"を持っているの。その聖剣は、霊装とも呼ばれていて、聖剣の所持者は鎧を纏うことができるわ」
「よく分からないが、要するに鎧を纏うわけだな」
「ええ、まあ、そうよ。私は、聖騎士の聖剣を2本持っているから、あなたと私の分はあるわ。じゃあ、早速」
リョウマとシエラの体が光ると、限定的な鎧に覆われる。
「鎧が薄すぎないか。スカスカだぜ。これじゃ、斬られちまうよ」
「大丈夫。見た目はそうだけど、全身が防御されてるから。ゴブリン相手なら、この程度で十分よ」
「えーと、つまり、本気で霊装をだせば、見た目は、全身鎧になって、防御力も最大になるのか」
「ええ、そういうことよ」
(やっぱり、異世界だと便利な物もあるんだな)
「ちなみにシエラは何本、剣を持ってるんだ?」
「聖騎士の聖剣は、第零霊装(絶対領域)と第七霊装(空間断絶)の2本。勇者の聖剣は、"二本目の剣"の1本。あと、父から貰った"神器オートクレール"ね」
「えーと、じゃあ、4本も持ってんのかよ。1本くれよ」
「いやよ、みんな性質が違うんだから。そんなことより、ゴブリンがいたわよ」
「えっ!」
木の陰に隠れて見にくいが、確かにそれらしい買い物が見えた。緑色の体で、耳の長い小さな鬼。簡易的な斧を持っていた。
「うおお…あれがゴブリン」
「ゴブリンを見て、感激する奴なんて初めて見たわ…」
そんなことを言われても、初めて異世界らしい生き物を見たのだ。感激しても仕方ない。
「じゃあ、練習よ。あのゴブリン達を短剣だけで倒してきて」
「ええっ!魔法は使っちゃダメなのか?」
「ゴブリンくらい倒せる体術もなくて、冒険者が務まるわけないでしょ」
「はあー、怖いなー」
短剣を取り出して、ゴブリンの見えた方に向かっていった。
そこには、10匹ほどのゴブリンがいた。
「げっ!多い!」
とりあえず、1匹のゴブリンの心臓部に、短剣を突き立てた。
「よし、刺さった」
刺されたゴブリンは、血を吐いて死んだ。
しかし、2匹目にいく前に、他のゴブリンに袋叩きにされた。
「うわっ!助けてくれ!」
「馬鹿ね。霊装があるんだから、効かないわよ」
確かに、鎧で覆われていない部分斬られているのに、傷もできず、痛みもなかった。
それが分かると、リョウマはゴブリンを順々に殺していった。
「5分もかかってるわよ。本当に情けないわね」
「だって、意外とすばしっこいんだもん」
「今度、基本的な体術を教えてあげるわ。次は魔法の練習よ」
「また、練習かよ…」
「当たり前でしょ!」
その後もシエラにネチネチと文句を言われながら、ゴブリンがいるという洞窟に向かった。
言われた通り、小さな山に人が通れるくらいの穴が空いていた。
「ここね」
「へー、こういう所に住んでるのか…」
「まあ、大抵はそうだけど、ゴブリンは何処にでも住んでるわよ」
「そうなんだ…」
「さて、行くわよ」
中は真っ暗だったが、シエラが手に光る剣を持っていた。
「それは、なんて名前の剣なんだ?」
「神器オートクレールよ。切れ味も凄いけど、魔法を増幅させる杖のような役割もできるの。今は火の魔法を纏わせて、明るくしてるわ」
「へーぇ。俺も魔法が使えるんだから、杖が欲しいなー」
「まあ、確かに、杖があれば魔法も増幅できるし、扱いやすくもなるわ。でも、まず、あなたは杖なしで練習してからにしなさい」
「えー、なんで?」
「杖がない時に、戦えないなんてことになったら困るからよ。いつでも、備えておかないと」
「そんなもんかねー」
「あっ、来たわね」
「えっ?」
洞窟を進んでいると、見えなかった横の道からゴブリンが雪崩れ込んできた。
「うわっ!」
「数は、16匹ってとこかしら」
シエラは、神器オートクレールをゴブリン達に向かって振る。そこから、炎を斬撃が飛び出し、10匹ほどを纏めて切り裂いた。
「すげ〜!」
「ほいっと」
シエラが剣を2回振ると、そこには燃えかすしか残らなかった。
「すごいな、シエラ!」
「あのねー…私は最高ランクの冒険者なのよ。こんなのに、手こずるわけがないでしょ」
最高ランクの冒険者というのが、どれだけすごいのか分からないが、とにかくシエラが強いのは分かった」
(やっぱり、命令口調で俺にいろいろ言うだけあるわ)
更に進んで行くと、大きく開けた所があった。
そこには、松明もあり、50ほどのゴブリンがいた。
その中には、いい武器を持った巨大なゴブリンや、呪術師ようなゴブリンも何匹かいた。
「んっ?あれが攫われた村娘か?」
「そのようね。傷は少ないみたいだけど、この人数を相手にしてたら疲弊するわよね」
そこには、子供にお見せできないような光景があった。
紐で繋がれてた2人の村娘は、現在進行形で犯されていた。
「さて、助けましょうかね」
シエラは、剣の先を犯しているゴブリンに向ける。
「"火の矢"!」
剣の先から火の矢が飛んでいき、ゴブリンの頭部を打ち抜き殺した。村娘とゴブリンの体が離れる。
「これで、とりあえずはいいわね。さあ、あなたの練習をやるわよ」
「はーい、分かりました」
「まずは水刃ね。こうやって、こうやるのよ」
シエラは剣から水を出し、水を刃物のような形状にしてゴブリンに向けて放った。6匹のゴブリンが、まとめて切り裂かれて死んだ。
「なるほど、こうか!」
ちょうど自分の方にゴブリン達が襲ってきたので、水刃を作ってまとめて切り裂いた。
「うん、上出来ね。水だけは魔力操作も完璧かもね」
「おお、マジか」
「さて、次は水弾ね。でも、その前に襲って来られると面倒だから、凍らせましょう。得意でしょ、やってみて」
「おお、任せとけ」
リョウマは、水を霧状にばら撒き、ゴブリン達を凍らせていった。氷結魔法は使えないが、自分で生成した水なら自由自在だ。
ゴブリン達は凍りつき、体の大きなゴブリンですら身動き一つ取れない。
「まっ、こんなもんよ」
「流石ね。さて、どんどん教えていくわよ」
凍らせたゴブリン達を使って、いろいろな水の扱いかたをシエラに学んだ。
自分の攻撃のバリエーションが増えていくのが楽しくて、あっという間にゴブリン達は全滅した。
「まあ、こんなとこかしら」
「うおお、超楽しかった」
「そう、良かったわね。でも、あの子達のことすっかり忘れてわね」
「あっ、そうだった…」
ゴブリンに拐われた村娘の2人は、未だにぐったりと倒れていた。
「ある程度綺麗にしておきましょう」
シエラは神聖魔法で傷を癒して、身を清めた。
村娘達は、元気になって起き上がる。
「これで肉体的には問題ないでしょ。心の傷?ってのは消えないかもしれないけど。さあ、これを羽織って」
シエラは布を取り出して、2人に投げる。
「ありがとうございました」
「この恩は、一生忘れません」
「いいわよ、気にしないで。さあ、村に帰りましょう」
感激する村娘に、シエラが優しい笑顔で応える。
(こういうことには、慣れてるんだな)
彼女達を村に返し、リョウマの初クエストは終わった。