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【書籍化】辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する【コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
新婚編

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第三十一話 疑惑①

 サリーシャとパトリックの奇妙な行動を目にした翌日、セシリオはパトリックの部屋へと向かった。


 昨日、サリーシャは明らかにおかしかった。

 セシリオと再会して花が綻ぶかのような笑みを浮かべたかと思えば、距離を保つように逃げる。

 あなたには関係ないとこちらを拒絶するような言動をとったかと思えば、寝た振りをしたセシリオにすがるようにぴったりと寄り添ってきた。

 そして、サリーシャは朝までセシリオにくっつき、離れることはなかった。


 はっきり言えば、なにをしたいのかがさっぱりわからない。


 パトリックはセシリオの突然の訪問に驚いてはいたが、歓迎するように笑顔を見せた。


「叔父上、どうされましたか?」


 人懐っこい笑みを浮かべる穏やかな雰囲気は、父親のジョエルによく似ている。


「ああ。昨日のことなのだが、あれはなにをしていたのか教えてくれないか?」

「昨日? ああ、池でのことですね。サリーシャ様の落とし物を取っていました」

「サリーシャの?」

「はい」


 パトリックは笑顔で頷く。

 パトリックがいうには、サリーシャがラウルに望遠鏡を貸したところ、転んだラウルが池にそれを落としてしまい、サリーシャはそれを自力で取ろうとしていたという。


「座りこんでなにかしていると思って行ってみたら、裸足になってスカートをたくしあげていたので驚きました。僕がもう少し遅かったら、本当に水に入ってたんじゃないかな」


 パトリックはそのときのことを思い出したのか、少し顔を赤らめて苦笑いする。

 望遠鏡とは、セシリオの贈ったあの望遠鏡のことだろう。セシリオはなぜサリーシャがあの場にいた理由を知られたくないような態度をとったのか悟ったが、同時に少し寂しくも感じた。


 ──パトリックには頼って、俺には頼ってくれないのか……。


 そんなことを思ったが、パトリックはなにも悪くない。セシリオはパトリックに礼をいった。


「そうか、それは助かった。夫として礼を言おう」

「いえ、構いません。誰かが困っていたら、助けるのは当然でしょう」


 セシリオは目の前に座るパトリックを改めて見つめた。

 この一年で背は高く伸び、すでに平均的な男性の身長と同じくらいはある。年齢的に、まだまだ伸びるだろう。顔つきは柔らかさを残しながらも凛々しくなった。そして、今の発言。


「パトリックは大人になったな」

「そうですか? ありがとうございます」


 嬉しそうにはにかむ姿には、まだ少年のあどけなさが残っている。

 パトリックは部屋の隅に置かれた愛用の剣にチラリと視線を送ると、残念そうに眉尻を下げた。


「叔父上にはまた剣と銃撃を習いたかったのですが、なかなかタイミングが合わないですね」

「まだ足が完全に本調子でないなら、無理はするな。剣は無理だが、銃を構えるくらいなら平気かな。──アハマスに最近、短時間で装填できて湿気にも強い最新型の銃をたくさん配備した。護衛で同行した銃騎士が持っているから、後で紹介しよう」

「新しい銃を? ありがとうございます。それがあればあの賊のことも捕らえられたかもしれないのに、残念だな。本当に、だいぶ馬が疲れているように見えたのです。あと少しで捕まえられそうだったのに……」


 そのときのことを思い出したのか、パトリックは悔しそうに唇を噛んだ。



***



 パトリックと世間話を終えて部屋に戻ろうとしたセシリオは、部屋の前でドアをノックしようとしているレニーナに気付いた。レニーナは片手に紙のカードを乗せたトレーを持っている。


「レニーナ、どうした?」

「あら、セシリオ様」


 レニーナはセシリオに話しかけられて驚いたように目をみはると、ドアをノックするために上げかけていた片手を下ろした。


「あの……、サリーシャ様に用がありますの」

「サリーシャに? どうかしたのか?」


レニーナは言うべきかを迷うような表情を見せたが、静かに自分を見つめるセシリオを見返して「実は……」と事情を話し始めた。


「サリーシャが? 五枚も? 間違いじゃないか?」


 セシリオはレニーナから事情を聞き、俄かには信じられずに眉根を寄せた。サリーシャに作成を任せた分の席札が、五枚も間違っていたというのだ。


「サリーシャ様、これまでも注文ミスなどが続いていらして。前回、メラニー様からきつく怒られていらしたから、先ほどわたくしが念のため確認したのです。そうしたらまた間違っていたから……。メラニー様が気付く前に書き直した方がいいと思うわ」

「注文ミス……」

 

 そういえば、サリーシャから最後に届いた手紙でも注文ミスをしてしまったと落ち込んでいる内容が書かれていた。


 セシリオはレニーナが手に持つトレーの上のカードを手に取った。丁寧な文字で招待客の名前が綴られている。それを順番に見ていたセシリオは、ふと手を止めた。


「これは全てサリーシャが?」

「いいえ。わたくしとローラ様と三人で手分けしました」

「そうか」


 セシリオは持っていたカードをじっと見つめる。

 脇に避けてある五枚が間違っているというカードだろう。

 パッと見てすぐに違和感を感じた。

 名前の綴りが間違っているのはもちろんだが、それ以前に……。


「これはサリーシャから預かったあと、レニーナの部屋に置いておいたのか?」

「? いいえ、応接室よ」

「応接室……誰でも入れるのか?」

「いいえ。鍵をかけているわ。今、社交パーティのために準備しているものは、伝票類も含めて全てそこに置いているから。もちろん、サリーシャ様はスペアキーを渡されているから入れるわよ」


 レニーナはなぜそんなことを聞くのかと言いたげにセシリオを見返したが、セシリオはそれには答えることなく話を続けた。


「なるほどな。──サリーシャには俺から言っておく。書き直す必要があるのはこの五枚か?」

「ええ、そうよ」

「わかった。預かっておく。そのカードだが、応接室ではなくて直接姉上に届けておいてくれ。サリーシャが間違えた分は後から俺が届ける」

「え? いいの? サリーシャ様がまたメラニー様に怒られるかも……」

「大丈夫だ。頼んだ。サリーシャを心配してくれてありがとう」 


 セシリオの意図が掴めないようでレニーナは戸惑ったような表情を浮かべた。しかし、最後はおずおずとトレーを手に廊下を去ってゆく。


 セシリオはその後ろ姿を見送ったあと、もう一度手のひらのカードをじっと見つめた。


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