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【書籍化】辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する【コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
新婚編

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第十九話 プランシェ伯爵家

 アハマスを出発した二日後の午前中、サリーシャは無事にプランシェ伯爵邸へと到着した。


 初めて訪れるプランシェ伯爵邸は三階建ての木造のお屋敷で、タイタリアでよく見かける貴族の屋敷と似た構造だった。屋敷全体を庭園がぐるりと囲んでおり、目隠しを兼ねた高い木々がはえている。緑豊かな清々しい空間のなかにそびえたつ真っ白な建物は落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 そして、庭の木々には小鳥だけでなく、リスなどの小動物が素早く移動している微笑ましい光景が見られた。


 到着した日、プランシェ伯爵夫妻であるジョエルとメラニーはサリーシャのことをとても歓迎してくれて、その日の晩餐は豪華な料理が用意されていた。

 サリーシャが晩餐室を訪れると、そこにはジョエルとメラニーの他に三人の子どもと一人の若い女性がいた。


「サリーシャ様、こちらが我が家の子ども達よ。大きい方から、パトリック、ローラ、ラウルよ。それに、彼女はレニーナ、ジョエルの一番下の妹なの。あなた達、ご挨拶を」


 メラニーがテーブルに向かって腰掛ける子ども達と若い女性に声をかける。


「ラウルです。よろしく」


 まず最初に立ち上がった末っ子のラウルは、澄まし顔でサリーシャの前に立つと片手をとり、軽くキスをした。小さな紳士のなんとも可愛らしい姿に、サリーシャは頬を綻ばせた。


「サリーシャですわ。よろしく、ラウル様」


 ラウルはジョエルとメラニーの次男で、今八歳だという。サリーシャがにっこりと微笑むと、上手く挨拶が出来たと満足げにはにかんでいた。


 次に立ち上がったのは長女のローラだ。


「ローラですわ。よろしくお願いします」


 ローラはスカートを摘まむと、優雅にお辞儀をする。まだ少女のあどけなさを残しながらも、しっかりとした淑女の礼をする様は厳格な淑女教育を受けていることを(うかが)わせる。年齢は十ニ歳だと紹介された。メラニー譲りの焦げ茶色の髪に、ジョエル譲りの茶色い瞳。お顔は父親に似たようで、ふっくらとしたピンク色の頬と大きな瞳が可愛らしい女の子だった。


 続いて嫡男のパトリックが立ち上がってサリーシャの手をとろうとしたとき、その体がよろけそうになったのを見て、サリーシャは咄嗟にパトリックを支えた。


「あ……、済まなかった」


 パトリックはすぐに体勢を戻すと、照れたように笑う。そして、おずおずとサリーシャの手をとり、キスをした。


「パトリックだ。支えてくれてありがとう。先日骨折したせいで、まだ本調子じゃないんだ」


 そう言いながら、頬を赤らめたパトリックは左足を(さす)った。


 ──確か、王都で行われたフィリップ殿下の結婚式の際にジョエル様とメラニー様が遅れてきた原因は、パトリック様が大怪我したせいだってセシリオ様が言っていたわよね……


 サリーシャはフィリップ殿下の結婚式の帰りに馬車でセシリオから聞いたことを思い出していた。


「落馬したとお聞きしましたわ。もう大丈夫なのですか?」

「ああ、もう大丈夫なのだが、長期間歩かなかったからすっかりと筋肉が落ちてしまって。今、リハビリ中だ。お恥ずかしい限りなのだが、少々無理をして馬から落ちてしまった」


 パトリックは両手を天に向けて肩を竦めると、ペロリと舌を出しておどけたように笑う。


 しっかりと立ち上がると背はサリーシャよりもだいぶ高い。長身の家系であるアハマス家出身の母親、メラニーに似たのだろう。

 十六歳という年齢に見合った少年らしさと大人の男性らしさが混在しており、初対面の叔母であるサリーシャの前で挨拶に失敗してしまい、バツが悪そうに耳を赤くしていた。


 最後に立ち上がったのは、ジョエルの妹のレニーナだ。


「はじめまして、サリーシャ様」

「はじめまして、レニーナ様」


 美しい所作でお辞儀をされたので、サリーシャも丁寧にお辞儀を返す。レニーナはジョエルと同じ艶やかな黒髪を美しく結い上げた、魅惑的な女性だった。ぱっちりとした瞳は少し釣り気味だが、丸顔なので全体が柔らかい雰囲気になっている。一番上の兄のジョエルとは十五も歳が離れており、まだ二十二歳だと言っていた。

 その茶色い瞳が一瞬サリーシャを値踏みするように眇められたような気がして、サリーシャはレニーナを見返した。しかし、次の瞬間にはレニーナは穏やかに微笑んでいた。


「レニーナ様はあまり王都の舞踏会に参加なさらないのですか?」


 サリーシャは自分とほぼ同年代の伯爵令嬢であるレニーナに、王都での舞踏会で一度も会った記憶がないことを不思議に思った。この年代の伯爵令嬢であれば、殆ど全員がフィリップ殿下の婚約者となるために足繁く王都の舞踏会に通っていたからだ。

 それを聞いたレニーナは、顔をしかめると片手をひらひらと振って見せた。


「二十歳過ぎた頃からは、一度も。だって、早く結婚しろ、今日は良い人はいたのかと、毎回毎回お兄様が煩いんですもの」

「可愛い妹に良縁を望むのは当然だろう? 今年こそ嫁ぎ先を決めてもらうからな」

「まあ、勝手に決めては嫌ですわ」

「釣書を何度も持ってきてお前の意見を聞いているだろう? このままでは本当に行き遅れになってしまう」


 少し責めるような口調に、レニーナは口を尖らせて肩を竦めて見せる。

 サリーシャは二人のやり取りを見守りながら、どうやらレニーナにはさほど結婚願望がなく、早く結婚させたいジョエルと日々戦っているようだと理解した。


 全員との挨拶が終わるとメラニーが皆を座らせて、サリーシャに向き合った。


「社交パーティーの準備はレニーナとローラも一緒に手伝って貰うつもりよ。サリーシャ様もそのおつもりで」

「はい、わかりました。よろしくお願いします」


 サリーシャは笑顔で頷くと、メラニーも満足げに頷いた。


「さあ、では食事にしようか。新しいアハマス夫人を歓迎して」


 ジョエルの合図で食事が次々に運ばれる。

 プランシェ伯爵家の面々が皆いい人そうでよかったと、サリーシャは胸の内でホッと安堵の息を吐いた。

 


 

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